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最後の瞬間もいつも通りに。「自分を誇りに思う」日本最高の男・西谷良介を象徴する1本のラストパス|俺たちの全日本

PHOTO BY高橋学

シューズを脱ぎたくないなぁって……

西谷の現役ラストプレーはPKだった。試合後、涙あり、笑顔ありという感傷的な取材エリアで、「最後、PKだけど点を決められてよかった」と、西谷は笑った。誰もがきっと、目に焼き付けたピッチで迎えた最後の瞬間だ。

壮絶な試合はPK戦へと突入し、そこでも名古屋は追い込まれていた。先行の名古屋は、1人目のアンドレシートが決めたものの、アルトゥールが止められ、ダルランも外してしまう。湘南は3人がそろって成功。あとがなくなっていた。4人目に吉川智貴が決め、篠田に代わってGKを託されていた田淵広史が、湘南の4人目、高橋広大のシュートを防いでみせた。

PKスコア2-3で迎えた5人目。外したら試合終了という場面で、西谷にキッカーが巡ってきた。

「4人目に(吉川)智貴がつないでくれて、田淵(広史)が止めて。バトンがつながっていく感じ。ここで止めたくない。自分も後につなぐために絶対決めないといけない。そこまでプレッシャーをかけてはいなかったですけど、いつも通りです。ここにきて蹴り方を変えるとか、変な駆け引きをするとか、自分がブレることはしなかった」

蹴る直前、ピッチ内は両チームの選手が言い争いになり、ヒートアップする一幕があったものの、西谷はその輪に加わることなく、再開される瞬間を待ちながら、自分の出番に集中していた。

「あそこに巻き込まれると自分のPKを蹴る感覚が少しズレそうな気がしたので。自分のペースで。フィウーザも蹴る前に圧力をかけてきたので。自分の積み重ねてきた蹴り方、空気、感覚を大事にして蹴ることに集中しました。今までやってきたことを信じて蹴りました。その感覚を大事にできた自分を誇りに思います」

正確無比なキックでゴールに突き刺して、きっちり次へとつないでみせた。西谷は本当に技術を大切にしてきた選手だ。右足でも左足でも同じように蹴れること。次のプレーを意識した場所にボールを止めること。可能な限りダイレクトプレーを目指すこと。

サッカーからフットサルに転向して、海外挑戦するわけでもなく、日本で技術を磨き続けた。とりわけ「基礎技術」「個人戦術」を磨き上げ、日本代表の中心選手となり、時には天才とも呼ばれ、日本のトップへと上り詰めた。

西谷のプレーでいくつも思い浮かぶシーンはあるが、最も多くの人を熱狂させたのはワールドカップかもしれない。2021年9月、グループステージを突破し、ラウンド16のブラジル戦で決めた左足のゴールは、本当に鮮烈だった。これがブルーノ・ガルシア監督の率いたブルーノ・ジャパン最後のゴールであり、西谷としても日本代表で決めた最後のゴールとなった。

このエピソードは何度も伝えられているが、その左足のゴールを目撃したフットサルの本場スペインのファンに「素晴らしいスルドだ」と賞賛されたという。「スルド」とはスペイン語で「左利き」を意味する。西谷は右利きなのに、だ。

全日本選手権で敗退後、アルトゥールも「パッシャン(西谷の愛称)はあと10年、世界でやれる」と真剣な表情で話した。

「みんなそう言ってくれるんですけどね。本当にそういう選手たちと一緒にやれたことで、自分の足りないところや、ストロングポイントをより磨き上げられた。そんな彼らと一緒にできた時間をもう味わえないのかと思うと寂しい気持ちでいっぱいなんですけど。今日とか昨日も、もっと出たいなとか、自分の欲も正直あったし、出られない悔しさ、こうやれるのにって、ふつふつとした感情があるにはあったんですけど、そういう気持ちがないとここまでやれなかったと思います。言葉にできないですけど、いろんな感情を味わえた全日本選手権でした」

西谷は、今大会をそう振り返った。本当に、終わりの時が来てしまった。

「最後なんだな……って。実感もないですけど」

そう言って、声を詰まらせる。

「さっき、シューズを脱ぐ時に『脱ぎたくないなぁ……脱いじゃうと終わっちゃう』って」

最後は取材するメディア陣も名残惜しくなり、いつまでもその場にとどまりたかったが、その時は訪れてしまう。「西谷さん、本当に素晴らしいプレーをありがとうございました」と、最後に絞り出すようにお礼を伝えた。

「また会いましょう!」

そう告げて、彼はその場を後にした。天才と呼ばれた男。フットサルの教科書と呼ばれた男。日本人最高の選手と呼ばれた男。そのプレーは、いつまでも語り継がれるだろう。西谷良介の次のステージでの活躍を、心から応援したい。

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