【コラム】日本とスペインそれぞれの美徳。渦中の監督たちが教えてくれたリスペクトの形
PHOTO BY軍記ひろし
敗者に配慮するスペインの美徳
一方のルイス・ベルナット監督はスペイン・テニス界のキングであるラファエル・ナダルを例にしてスペイン人の美徳を説明してくれた。
「彼は全仏オープンで12回優勝しています。そのうちの11回は地面に倒れこみながら喜びを爆発させましたが、1度だけ、優勝したにも関わらず喜びませんでした。その試合はナダルが3セットを取って(1セットも落とさずに)勝っています。相手はその試合でうまくプレーできませんでした。そういう選手へのリスペクトからです」
つまりは「最後までベストを尽くすことが美徳」とされている日本と「敗者への配慮が美徳」とされているスペインの文化の違いと言える。
日本では点差や勝敗などに関係なく、試合終了のホイッスルがなるまでお互いに全力で戦うことが称賛される。もっと言えば、手を抜いてプレーすること自体が相手への侮辱行為と考えられている。しかしスペインではまず相手を思いやることが大前提であり、大差となるなど“すでに勝敗が決している”状況ではプレーを流す。日本の野球で言えば、大差の状況で盗塁をしない、送りバントをしないなど暗黙の了解と言われる部分に似ている。
どちらも形は違うが、相手をリスペクトしているからこその行為であることは間違いない。ところが日本の文化、スペインの文化に置き換えると、その後の行動は違ってくるというわけだ。だからこそお互いが、お互いの良さを理解しなければいけない。
ルイス・ベルナット監督は、スペインにおける考え方を示してくれた。敗者への配慮もリスペクトの形であると教えてくれた。しかし「スペインではこうだから、これからそうしなさいというのであれば、日本にも日本の美徳がある」という伊藤監督の言葉もルイス・ベルナット監督には理解してもらいたい。
今回はお互いに文化を知るよい機会となった。伊藤監督が「この件で軋轢を生みたくはないです。次の対戦で変なばちばち感が出ることは望んでいませんし、むしろ彼らとはいつもいいゲームができていますから」というように、遺恨を残すことなく次回の対戦を迎えてもらいたい。それこそがお互いへのリスペクトとなるはずだ。
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