なぜ、24歳で “フットサルから離れる”決断をしたのか。大薗諒が語った本音と、新たな目標。
PHOTO BY軍記ひろし
春木啓佑の言葉から見つけた新しい目標
すみだでの2年目は、開幕からトップ昇格を勝ち取り、周囲の期待も多かった。結果的には、リーグ戦で27試合に出場。主力といえるポジションを手にしたと言える。しかし、ゴール数は「9」にとどまり、複数得点は一度だけ。得点力を求められる選手として満足のいくものではなかった。3年目の2019/2020シーズンは、ピヴォのライバルとして、デネルと上福元俊哉が新加入。チーム内の競争に打ち勝てないまま序列が下がり、バッファローズに戻ることになった。
トップとは無縁のシーズンは、やはり葛藤の連続だった。「やめよう」という考えはなかったが、「もう1シーズン、バッファローズでプレーを続けようとは考えていなかった」。関東リーグ2部で戦うチームは2位でフィニッシュして、1部昇格をつかむことができず、全日本選手権も東京都予選で敗退。2019年内に早々とシーズンを終えてしまい、考える時間ができた。
選択肢は、トップチーム昇格か移籍の二択。もちろん、昇格は自分では選べない。
「(出場機会を求めて)移籍するにも、無理をして遠くに行って、今の生活を変えてでもFリーグで戦う決断ができなかった。そもそも、そこで悩んでいる時点でハンパだと思った。フットサルに本当に懸けている人なら、どこに行ってでもプレーをすると即答できるはず。実際、自分がサテライトからフウガに移籍したときも『やりたい!』と思えていたから。でも今は、外に出てFリーガーとしてプレーする自信がなかった。成功するイメージが持てなかった」
すみだにきたときは明確に「W杯出場」つまり「日本代表」を目指していた。でも、今はそうではなかったのかもしれない。いつのまにか目標がブレていることに気がついた。
「フウガでは、評価されない時期もあったし、ケガもあったし、バッファローズへの降格もあった。いろいろなことが起きたけれど、きっと中途半端な気持ちがあったからだと思う。もう1年バッファローズで続けることも考えたけど、このメンタリティのままでは選手としての成長はない。どこかで訪れるタイミングまでズルズルやるくらいなら、やめるなら今だなと」
もう一度、そこから這い上がろうという気持ちはないのか。例えばすみだには、27歳でバッファローズからトップチームの背番号「3」をつかんだ春木啓佑のような選手もいる。「ゾノならまだやれるんじゃないか」。これはライターとしてではなく、友人として、問いかけた。
「春木くんは、本当にすごいよ。バッファローズで戦っていた1年間をみてきたけど、この舞台であれだけ自分を追い込めるんだ、って感じた。でも、それができるから這い上がれるんだと思う。春木くんに相談したら、すごくいろんな視点でアドバイスしてくれた。『続けたら続けたで得るものがあるし、やめたらやめたでこういう道があると気づくことができる』って。感情的な話ではなくて、すごく実になる考え方を示してくれた」
春木とのやりとりを通して、大薗はすでに、次の目標を見つけ始めていた。
「今はまだ、フットサルだけで食べていけない現状がある。だったら自分は、選手がフットサルに集中できる環境を作れるような社会人になりたい。人事権を持つ立場や、雇う側になって、選手に合わせた条件で雇用できれば、パフォーマンスを求めながら金銭的な課題もクリアできる。そうやって、安心してフットサルを続けられる環境を用意できるようにしたい」
現在は、すみだのスポンサー企業に勤務しているが、選手の気持ちを知っているからこそ、選手に寄り添いながら、新しい立場で選手やチームを支えていくことを目指していくのだと。
「自分が働く会社の社名がトップチームのユニフォームに入っているんだけど、それを背負って戦うことにすごく誇りを感じていた。選手がそういう想いでプレーしていくことは、きっと、会社の人もうれしいと思う。選手が自分の会社を背負って戦うことは価値のあることだと感じてきたし、そうやってピッチに立てる選手が増えたらお互いにいいんじゃないかなって」
例えばJリーガーのようなプロ環境ではなくても、競技に専念できる環境は、フットサル選手の多くが求めている。それに、何かを背負って戦うことは、選手自身のパフォーマンスにもプラスに働くものである。自分が感じてきたことを、今度は、ピッチ外で追い求める。
「今は違う道で成功してやろうという気持ちしかない」
開幕戦でハットトリックを決めたあのインパクトのように──。新しい道へと進み始めた大薗を筆者は、友人の一人として、そしてフットサルライターとして、応援したい。
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