更新日時:2021.06.04
「フットサル界の太田雄貴になりたい」。今季限りの引退を表明した星翔太の覚悟とは。
PHOTO BY高橋学
6月1日、星翔太が今シーズン限りでの現役引退を表明した。名古屋オーシャンズでは第一線でプレーし、日本代表では9月のワールドカップを目指す選手が、シーズン開幕前に異例の発表をしたこともあり、フットサル界に衝撃が走った。
2009シーズン、同年3月の全日本選手権で日本一となり、鳴り物入りでFリーグ入りした“狂犬”は、バルドラール浦安で計8シーズン、スペインとカタールで2シーズン、名古屋オーシャンズで3シーズンを過ごしてきた。日本代表としても、現在のメンバーで唯一2012年のW杯出場経験があり、リーダーとして先頭を走ってきた選手だ。
引退の理由は、「やりたいことが決まった」。
その真意は何か。なぜこのタイミングでの発表なのか。そして、ラストイヤーにどんな決意で臨むのか。引退発表直後に語った、星翔太の胸中とは。
フットサル界にお金を運び、回せるようにしたい
──改めて、引退を決めた理由を教えてください。
シンプルに引退後にやりたいことが決まったので「タイミングが来たな」という感じですね。
引退後はFリーグやクラブのマネジメントをしたいと思っています。
そのためにフットサル界にお金を運び、回せるようにしていきたいです。
──選手としてまだまだやれるという思いもあるのでは?
精神的には充実していますが、それだけで世界で戦えるということはありません。自身が国を背負って戦えるレベルなのかというと、確実に落ちてきていると思いますし、退くべきだと思っています。
次の世代へ“恩送り”をしたいと考えたときに、残された時間が少ないなとも思いました。今のうちに引退したほうが確実にできることが多いと思います。その気持ちが熱いうちに行動したい、自分ができる形で貢献して、Fリーグをこれまでとは違った形で盛り上げていきたいと考えました。
──今年がW杯イヤーであることもタイミングですか?
昨年、W杯の延期が決まったあたりからおぼろげに考え始めました。本来であれば、昨年で日本代表を終えているはずでした。そのタイミングであれば、もしかしたら違う選択をしたかもしれないですが、大会が1年延期したことで、スムーズにやめようと思えました。
最近は、体のケアに割く時間が長くなりました。名古屋を離れて、違うクラブでその時間をつくる環境を手に入れられるかと考えると簡単ではありません。選手を続けるからには中途半端にはやりたくないですね。
──選手としてやりきったという気持ちも?
どうでしょう。まだまだ成長したいですし、選手でいるうちは、やりきったと感じることはないかもしれません。それこそ、選手でいる以上は、50歳まで続けてもそう思わないかもしれないですね。
ですから、最初にお伝えしたように、シンプルに次にやりたいことが見つかったという気持ちが勝ったということですね。
──では、なぜシーズン前に発表したのでしょうか?
明確に終わりを決めることが重要だと思いました。残り何試合と決まると、その時間をより濃密にできる気がしています。
ファン・サポーターの方々に「星翔太は、今年で最後です」と伝えることで、ラストシーズンを一緒に楽しみたいんです。その感情を共有したいから、事前に発表しようと思いました。
会場に行くことを迷っている人には、足を運ぶきっかけにしてもらいたいですし、会場ではなくても、ABEMAで試合を見るきっかけにもなればいいと思っています。シーズン前に発表したことで、Fリーグを見る人が増えたらうれしいですね。
ただ一番重要なのは、これまで応援してくださった人に感謝を示すことだなと思っています。
──それと、意思表明のようでもあります。
それが、このタイミングで発表したもう一つの理由です。
僕は、フットサル界に貢献したいので、そのために動く必要があります。Fリーグを知ってもらい、選手を知ってもらい、次の世代の選手が、明確にプロとして活動できるかどうか。もちろん「プロ」が必ずしも正解かはわからないですが、目に見える指標にはなります。だからこそ、そうした環境をつくるために、どう発展させるのかというプロジェクトを決める必要がある。その意思表明です。
こうして発表することでFリーグを盛り上げる仲間をつくりたい。そう考えたときに、興味をもってくれた人に僕の本気のプレーを見てもらえることは価値があると考えました。
──本当に、シーズン前の異例の発表でした。
退路を断ちたかったですからね。仮にW杯がさらに1年延期になっても、僕はもうやりません。その覚悟をもって決断したので、その覚悟も見てもらいたい。最後まで、競争に身を投じて終わりたいです。
最後のテーマは「狂犬」。本能に従ってプレーする
──では「やりたいことが決まった」とは?
Fリーグのチェアマンになりたいと思っています。
もう少しイメージしやすい表現をすると、フットサル界の太田雄貴になりたい。
日本代表として国際大会で活躍して、北京五輪や、ロンドン五輪、世界選手権でメダルを獲得した後、2016年に引退し、今では日本フェンシング協会の会長、国際フェンシング連盟の副会長を務めています。
僕自身がフットサル界で彼のようなリーダーを目指したいと思っています。
──指導者の道ではなく、マネジメント領域の選択です。
もちろん、指導者にも興味はありました。ただ、木暮(賢一郎)さんや(高橋)健介さん、(小宮山)友祐さんなど、日本代表を経て第一線で指導されている人を見てきて、生半可な覚悟では飛び込めないなと思っています。指導者は素晴らしい先輩方がいるので、僕は違う道を進み、先頭に立って発信できる人間になりたいと思っています。
──Fリーグの初代チェアマンになるには、どんなステップを踏む?
こればかりはいろいろな経験を積まないといけません。それに、やりますと言ってなれるものではない。十分な後ろ盾、スポンサーも必要ですし、Fリーグ実行委員に認めてもらえる実績を残さないといけません。何をもって認めてもらえるのか、そこまでに何年必要なのかを測らないといけないです。
ただ、こうしたビジョンを形にするには、少なくとも5〜10年を見て計画を立てる必要があります。単純計算ですが、この先65歳までだと考えたときに、3つしか大きなプロジェクトを仕掛けることができませんよね?
35歳という今の年齢を考えたら、すぐに始めないと思い描く形にできないと感じているので、選手に区切りをつける必要がありました。
──ものすごい覚悟と情熱を感じます。
今の日本代表には、若い選手もたくさん来ています。(石田)健太郎や(伊藤)圭汰もそうだし、さらに下には(毛利)元亮とかもいる。彼らのエネルギーをすごく感じています。それに元亮は僕に似ているなと思います。次を託せる人間が出てきました。
自分が上の世代の人たちにしてもらったこと、受け継いだバトンを次の世代につなげていきたいですし、もっと良い環境を整えるために、自分はピッチの外から支えていこうと。若い選手にとって、何かを考えるきっかけになったらいいなとも思います。
──今シーズン見てほしいところは?
「狂犬」に戻ります(笑)。今シーズンはエゴを出していきます。僕はもともと王道じゃないし、「陰」と「陽」なら確実に「陰」のほう。どちらかと言えばヒールだし、ファンが多いわけではないですけど、それでも10年以上もFリーグでやらせてもらえたキャリアは、誇りたいです。
だからと言って、最後にきれいにまとめようなんて思わないし、最後まで自分の欲求を出すことが大事だと思っています。関東リーグ時代からなぜ「狂犬」と呼ばれていたか思い出すシーズンにしたいです。
最近は、自分に矢印を向けられるようになり、狂犬な自分さえも俯瞰してしまっていました。だから、その俯瞰して自分を客観的に見ることをやめようと思っています。後先を考えないで、一つひとつのプレーにすべてを懸けてみたいです。
「狂犬」というのは、相手に噛み付くとか、ラフプレーをするということではなく、とにかく本能に従うということですね。その意味で、ゴールに向かう姿勢、ゴール数を追い求めていきます。
──W杯への意気込みは?
まだわかりません。僕は特別な立場ではないし、選ばれたときに初めて言葉にしようと思います。もちろん、これまで日本代表が目指すべきところに向かって準備してきましたし、貢献するつもりはあります。でも、やはり先のことは見ていません。積み重ねた先にどんな結果があるかということですね。今できることにフォーカスします。
──引退発表をして、どんな心境ですか?
カウントダウンが始まったなと思います。だからこそ、無駄なことに時間を割きたくないです。たとえば、相手の挑発やレフェリングなど、外的要因はどうでもいいと思っています。
今はコロナ禍であらゆる変化がありますが、それさえも楽しんで、目の前だけ見て突き進んでいきます。僕の覚悟をぜひ、会場やABEMAで見届けてもらえたらうれしいです。
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