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作成日時:2022.01.12
更新日時:2022.01.12

湘南の要塞・フィウーザが見せた、世界基準のハイブリッドセーブ

PHOTO BY高橋学

Fリーグディビジョン1の2021-2022シーズンもいよいよフィナーレが近づいてきた。名古屋オーシャンズが5年連続14回目の優勝をほぼ確実なものとしたが、今季のトピックとして欠かせないのが湘南ベルマーレの健闘だ。コロナ禍で各チームの消化試合数にバラつきがある中ではあったが、一時は首位を快走。初優勝の期待感を抱かせるには十分な戦いぶりだった。

No.10ロドリゴが圧倒的な活躍で攻撃を牽引した一方で、“湘南の要塞”ことNo.87フィウーザの好守も、1試合平均2.00失点(第21節終了時点でリーグ2位)というチームの堅守を支えた。来日6年目の今季は特に安定したパフォーマンスを披露し、ゴレイロとして更なる進化を印象付けたシーズンとなった。

今回はABEMA Fリーグ中継で実況も務めるGK(ゴールキーパー)ライターの筆者が、第21節対シュライカー大阪戦の最終盤で見せたフィウーザのビッグセーブを分析する。

同点で迎えた最終盤。絶体絶命のピンチで飛び出した渾身のビッグセーブ

1月8日に行われたF1第21節湘南対大阪戦。3-3の同点で迎えた第2ピリオド残り1分15秒。今季好調、すっかり大阪の主軸となったNo.11清水寛治がゴール前左45°で時計回りに反転して相手と入れ替わり、左足を振り抜く。ターンからシュートまでが早く、放たれたボールもゴレイロの泣き所である肩口に飛んでいた。

『清水寛治の逆転ゴールゥ!!』

筆者もそう伝えようと身構えた次の瞬間。守護神の左腕がボールを捕らえた。軌道が変化したボールはゴールポストの僅かに外を通過。渾身のビッグセーブに、フィウーザも思わず自らの左腕にキスを送った。ABEMAの放送席で後ろに仰け反りながらその模様を伝え、同時に思った。「あ、これフィウーザのシーズンベストセーブかもしれない」と。

そう感じたのにはそれなりの根拠がある。まず、試合終盤の「チームの勝点を増やす」セーブだったこと。そして内容的に見ても、ただ単に「反応が速い」とか「身体能力が高い」だけでは済まされない、様々な要素が詰まったセーブだったからだ。

■フィウーザのビッグセーブはこちら(ABEMAビデオ)

シュートの瞬間に「止まる」ことの重要性

このセーブを振り返るにあたりまず初めに伝えたいのは、大阪・清水寛治の反転が本当に素晴らしかったということだ。右サイドから来た横パスを半身で迎え入れ、相手と入れ替わりながら小さく無駄のないワンタッチターンで前を向いているので、ゴレイロとしてはこれを予測して距離を詰めるのは容易ではない。

そんな中で、清水の体勢とボールの位置的に「絶対にシュートを打てないコンマ数秒」の間に2、3歩距離を詰め、且つその場で一度“止まれている”というのが1つ目のポイントだ。

前に出る動作の途中でシュートを打たれてしまうと、ゴレイロは左右均等ではない中途半端な体勢からシュートを止めにいくことになるので、まともに反応することができなくなってしまう。だからこそ、相手がシュート体勢に入った瞬間に一瞬その場に止まり、あらゆる状況に対応できるよう両足に均等に体重が乗ったバランスの良い構えができているか否かが非常に重要なのだ。

疲労が蓄積し、焦りも出始める終盤であっても細部のクオリティを落とさず、前に少し詰めた上で一度しっかりと止まれている。まだシュートが飛んでくる前ではあるが、この時点ですでに「流石フィウーザ」と言える。

前に詰めつつも腕で反応

ターンしてすぐに、清水は左足を引いてシュートモーションに入った。理想を言えば、フィウーザとしてはこの時点でペナルティエリアのライン際いっぱいまで詰めきってブロックの面を作っておきたいところだ。だが、それは既述の通り清水のターンに無駄がなさすぎて事実上不可能だった。前に詰めきれていない=シュートコースを消しきれていない状況だったので、フィウーザはここで「ダブルニー」と呼ばれる技術を発動する。その名の通り、両膝で滑りながら相手に詰めていくブロックだ。

その場で止まった状態で「クロス」と呼ばれる片膝をL字に折るブロックの型を作ってもコースを消しきれないので、飛んでくるシュートに対して最後まで前に詰めながらコースを1%でも限定していく選択をしたのだ。

しかし、一方の清水も流石だ。フィウーザが消しきれていない肩口のコースに、寸分の狂いもない完璧なシュートを打ってきたのだ。ましてや利き足とは逆の左足で、だ。

シューターが狙うのに最も難易度が高く、且つ飛んでくる頻度が低い肩口は、ゴレイロがケアする優先順位的には最も下だ。肩口を気にするあまり、より確率が高かったはずの股下や脇を抜かれてしまったら本末転倒。だからゴレイロは近距離からのシュートに対してブロックの型を作る際、両腕を脇に構えて面を大きくし、身体に当たる確率を少しでも高めようと試みるのだ。

仮にそこで肩口に飛んできたら、腕を脇に構えた状態から上に振り上げていく動作が必要になるのでどうしてもボールに対して遅れがちになるが、上記した確率論から言って、ある程度後手になるのは致し方ない。「肩口を抜かれたら仕方ない」くらいの割り切りも必要な部分だ。

ところが、フィウーザはダブルニーの体勢から左腕を振り上げ、見事ボールにヒット。決まっていれば決勝ゴールかというシュートをストップしてしまった。「前に出て面で限定しつつも、それと同時に手で反応(より正確に言えば反射)」してみせたのだ。

世界基準のハイブリッドセーブ

ゴレイロの止め方は大きく分けて二通りある。「①シューターと一定の距離を取って反応で対応する」のか、それとも「②距離を詰めきってコースを消し、面でブロックする」かだ。

要は①後ろに残るか②前に詰めるかの二択になるが、今回のフィウーザは①をするには相手と近すぎて反応が間に合わない、逆に②をするには遠すぎてコースを消しきれないという非常に難しい距離感になってしまっていた中で、“詰めながら反応する”という、①と②のハイブリッドのようなセーブをやってのけたのだ。

近年の世界トップレベルのゴレイロも時折見せているプレーで、9月に行われたFIFAフットサルワールドカップでも、アルゼンチン代表の守護神ニコラス・サルミエント(スペイン1部-レアル・ベティス所属)などはこのブロックと反応を掛け合わせたセーブで何度も決定機を防いでみせた。

類稀な反射神経、動体視力はフィウーザの真骨頂であり、今回のセーブでもそれはいかんなく発揮された。だがそれだけではなく、「難しい状況下でも最後の瞬間まで止める確率を高める作業を丁寧にやりきった」からこそ生まれたワンプレーだった。

ターンの瞬間の2、3歩の詰め、ダブルニーでのもうひと詰め、そして左腕でのギリギリの反応。「止めた」という結果のみならず、内容的にも間違いなくスーパーな、これぞプロフェッショナルというビッグセーブだった。

今季のFリーグを大いに盛り上げてくれた湘南ベルマーレの守護神ファビオ・ラファエル・フィウーザ・シルベイラ。残りの試合でも、その世界基準のプレーを目に焼き付けようではないか。

■今シーズンの全ゴール&好プレーはFリーグLIVEで視聴可能!
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