更新日時:2023.06.01
【新天地を求めたものたち】笠篤史がしながわで挑む「プロフットサル選手」としての道「2024年のW杯出場のために、よりベストを尽くしたい」|新天地を求めた者たち
PHOTO BY勝又寛晃/高橋学
2020年12月にSALは、新型コロナウイルスの蔓延によるFリーグ開幕延期を乗り越え、無観客試合のなか戦うF1全12チームの注目選手をピックアップするインタビュー企画「Fの主役は俺だ!」を実施した。
当時、Y.S.C.C.横浜の大卒ルーキーとして脚光を浴びていたのが笠篤史だ。
「慶應大卒で初のフットサル選手として、日本代表になる」
そう力強く語ったあの日から2年。笠にとってはFリーガー歴4年目となる2023-2024シーズンを前に、しながわシティから「プロ契約」のオファーが届いた。
「横浜もすごくいいチームです。ただ、僕には目標がある。即決でした」
退路を断って挑む笠が、競技への思いと覚悟、自身の未来を語る。
インタビュー=本田好伸
編集=青木ひかる
※インタビューは2023年5月9日に実施しました
自分の人生に悔いを残さないための決断
──まずは、しながわへの移籍の経緯を教えてください。
昨シーズンでY.S.C.C.横浜に在籍して3年目だったのですが、3年以上同じ環境にいると、居心地の良さから、自分のなかで甘えを感じてしまうことがありました。
そんななか、しながわシティからお声がけいただきました。2021-2022シーズンには全日本選手権を優勝していて実力のあるチームですし、F1昇格によって注目もされている。あとは友達が1人もいないという点も、ある意味、海外みたいな感覚が味わえそうでおもしろそうだなと。Fリーグ1年目から横浜にいたので、そこで培ってきたものが新しい環境でどれくらい通用するのかも試したかったので、加入を決めました。
──3年で環境を変えることはもともと意識していた?
3年というのもありますが、選手としての明確な目標があって。その一つが2024年のワールドカップ出場です。そのためにベストを尽くして悔いを残さないための決断ですね。
──人生設計して、目標に向かって時間を使っていく感覚ですか?
そうですね。達成したいことがある時のほうが自分自身を追いこめるし、生きてる感じがします。フットサルを目いっぱい頑張って、その後のキャリアについても、目標設定しています。競技を始めた時点で、フットサルをいつまでやるかも考えていますし、自分自身の考え方やビジョンは、スポンサーさんや応援してくれている人にも伝えています。
──オファーをもらった時、どんな気持ちでしたか?
横浜でも1、2年目は派手な活躍をしたわけではなくて、3年目も結果的に11ゴールを決めましたが、シーズンを通していい時と悪い時の波もありました。それでもプロ契約のオファーをもらえたこと、評価してくれたことが、素直にうれしかったです。
今はプロ選手として競技だけで生活できている
──プロ選手になることは大きな変化だと思いますが、もともとはFリーガーの多くが別の仕事との両立でピッチに立っている環境を理解した上でのチャレンジだったと思います。「プロ」を意識したタイミングはありましたか?
横浜からオファーをいただいたのが大学3年生の時だったのですが、当時はフットサルでプロ選手になるという意識はありませんでした。
Fリーガーのみなさんは、スクールをしていたり、スポンサー企業で働かれていたりするイメージでしたから、Fリーグの環境は理解していました。横浜は練習時間が早朝6時から8時ということも、終わってから仕事に行くためだと、最初から認識していました。プロとして競技でご飯を食べるというより、日本代表を目指すために、よりフットサルに集中できる場所や環境を提供してくれているのがFリーグであり、横浜というチームだと思っていたので、「いつか絶対にプロ契約選手になりたい」というのはなかったです。
──仕事をしながら選手を続けることによるメリットも感じますか?
横浜では、フットサル施設の店長をしながら選手を続けていて、店舗の数字を見ながら集客を考えたり、社会人としてのスキルが身についたりする部分もありました。ただ僕は、代表を目指している選手でもあるので、しなくていいのであればフットサルに全振りしたほうがいい。実際に今はプロ選手としての生活をスタートして、そのことを痛感しています。
例えば、これまでは自分の試合や練習の映像をすべて見返す時間はありませんでしたが、今はしっかりと確認できて、プレーの課題や気付きも増えました。練習時間も9時からになったので、たくさん寝ていい状態で練習に臨むサイクルが組めています。仕事で得られるスキルは、引退後に必死に頑張って身につけようと、今は思っています。
──笠選手は今、選手一本で生活できていますか?
はい、ありがたいことですね。しながわとの契約に加え、横浜時代からやっていたように、個人スポンサー制度を活用していろんな方に支援いただいています。それらは、自主練に使う費用に充てたり、ファン・サポーターのみなさんに還元するために活用したりしています。横浜の時に支援してくれた方と急に会わなくなったり、つながりがなくなったりするのは寂しいので、イベントなどをやりたいと思っています。せっかく時間に余裕ができたので、ファン・サポーターのみなさんと交流する時間も大切にしていきたいです。
──突然ですけど、Fリーグやフットサル選手の価値ってなんだと思いますか?
どうでしょうね。選手としての側面だけで考えると、究極的には「もらっている金額」になりますよね。少し乱暴な言い方になってしまいますけど、アマチュアの選手は結局、プロとしてお金を払うレベルにないと、クラブから通達されているということなので。
それと、選手が自分のプレーでどれだけのお客さんを呼び込めるかも価値の一つだと思います。ただ、Fリーグ全体で考えても、他競技に比べて観客が少ない現状があります。
フットサル全体の発展を考えなきゃいけないのは、選手一人ひとりの使命だと考えていますが、ただし、気にしすぎて競技力が落ちることが一番良くない。それこそ、フットサルの価値を落としてしまうことになりますから。難しいですよね。
オフは個人のレベルアップに取り組んできた
──しながわはどんなチームですか?加入する前と今とでギャップがある?
思ったより、みんな優しいですね(笑)。いかついというか、ゴリゴリしたチームかなと思っていたんですけど、人当たりも良くて、自分のこともすぐ受け入れてくれましたし、何より競技に取り組む姿勢も素晴らしいと思います。フットサルでなにかを成し遂げたいという思いのなかでみんなやっているので、一つひとつの練習メニューをこなすなかでも、雰囲気が締まっているのは特徴かなと思います。
──特にすごいなと思う選手はいますか?
中村(友亮)選手と白方(秀和)選手は、本当にブレないなと。練習前の準備も含めて、手を抜いている瞬間を見たことがなく、学ぶところばかりです。プロとして当たり前のことをやっているだけなのかもしれませんが、競技を長く続けていられる秘訣がそこにあるはずなので、いつも目で追ってしまいますね。
──しながわでは、どんなプレーを求められていますか?
横浜で烏丸(太作)監督の指導を受けられたことがすごく大きくて、クワトロ(4-1システム)から流動的に前線に入っていくプレーが評価されています。しながわを退団したチアゴ選手はずっと前に張るタイプのピヴォでしたが、また違ったことを求められていますね。自分は動き回ることも、前で背負って勝負することもできることが良さだと思うので、そこをしっかり見てくれていたんだなと思います。
──烏丸監督も、しながわの岡山孝介監督も、リーグ屈指の戦術家ですよね。笠選手もロジカルなプレーのほうがやりやすいですか?
今まではどちらかというと、“気合いと勢い”でやってきた、感覚的な選手でした(苦笑)。ただ、烏丸監督のスタイルの下でプレーするなかで、勢いや迫力、圧だけでは乗り越えられない壁があることを感じ始めて、変わらなきゃいけないなと。そこから元Fリーガーの石関聖さんにパーソナルトレーナーとして指導をお願いして、フットサルの原理原則を学びながら、自分のプレーを細かく分析するようになりました。今は新しい自分が見えてきてすごく充実していますし、岡山監督の下で指導を受けることで、選手としてもっともっとレベルアップできるんじゃないかと思っています。
──練習とは別に個人のスキルも磨いているんですね。
しながわや横浜のように、チーム戦術がしっかりしていると、プレーしていてもすごく楽しいです。ただ、個人戦術があってはじめてチーム戦術が成り立つことは間違いないですから、個人の技術があってチーム戦術を聞くのと、ただ聞いているだけでは、全然効果も違います。もともと人の話を聞くのが好きなので、いろんな人に相談しながら、自分に合うものを取り入れ、オフは個人戦術にフォーカスしました。個人でトレーニングして、チーム練習ではしっかり監督の言うことを聞く。この両輪を大切にしています。
──2024年のW杯出場のためには、開幕から結果を出す必要があります。チームでの出力を上げること。実際にしながわでプレーしてみてどうですか?
はじめは、チームの戦術を学んで順応する作業にすごく苦労しましたが、想定よりもスムーズに馴染めた部分も多かったので、やりづらさは感じていません。自分の良さを消さずにチームとしての戦術を体現して、序盤から飛ばしていけそうな自信はあります。
──最後に今年の目標を教えてください。
ゴールとしては、15得点。あとは代表招集ですね。今年は、勝負の1年となります。
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