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作成日時:2023.10.05
更新日時:2023.10.07

【日本代表】「4-0」「モビリティ」「カオスのコントロール」日本の現在地を読み解く3つのキーワード。木暮賢一郎監督「日本のアイデンティティを持ったフットサルを、選手と共につくっている」

PHOTO BY本田好伸

日本代表は、10月7日にAFCアジアカップ予選の初戦を迎え、オーストラリアと戦う。11日にチャイニーズ・タイペイと戦い、成績に応じて、2024年4月のアジアカップ本大会への切符を手にする。そして、アジアカップで上位に入れば、同年9月にウズベキスタンで開催されるFIFAワールドカップの出場権を獲得できる。

つまり、アジアカップ予選は、1年後のW杯出場に向けた超重要な戦いだ。

日本は9月28日、予選に向けた国内合宿をスタートし、10月1日まで高円宮記念JFA夢フィールドでトレーニングを行い、その後、大会が行われる台湾へと移動して調整を続けている。

顕著だったのは、日本がベースとなる戦術をガラッと変更したことだ。これまで、ピヴォを軸にした3-1システムを採用してきたが、現在、試合やトレーニングで積み重ねているのは4-0システムだ。

木暮賢一郎監督いわく、2021年12月の木暮ジャパン発足からアジア王者となった2022年10月のアジアカップまでが第1フェーズであり、その後、第2フェーズへ移行してきたという。そこには、明確な意図がある。

「この1年は大事な1年。日本のフットサル界にとっても重要なこと」

そう断言する木暮監督に、国内合宿期間中に話を聞いた。

「モビリティを生かし、頭を使いながら相手よりも多く走ることが重要」
「日本のアイデンティティを持ったフットサルを、選手と共につくっている段階」
「カオスをコントロールしたい」

その言葉の真意とはなにか。

取材=本田好伸、福田悠、舞野隼大

※取材は9月29日と10月1日に実施しました

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2022年のアジアカップ以降、次のフェーズに入った

──初日から多くのメニューが4-0を軸にしたものでした。アジアカップ予選に向けた合宿のコンセプトは?

前提として、我々は昨年のアジアカップ以降、U-23代表のフランス遠征、フル代表のモロッコやブラジル遠征で、非常にいい対戦相手とのマッチメイクを10試合以上も重ねてきました。とはいえ、ほとんどのゲームは、時間を使って準備してゲームに臨めず、みんなで集まってから1日か2日で調整してゲームを戦うサイクルでした。その取り組みで出た成果や課題を、このタイミングでブラッシュアップしてチームに落とし込むことが今回の国内合宿のテーマです。

──具体的にはどのようなことでしょうか。

攻撃、守備、トランジション、セットプレーを深掘りしています。攻撃はフランス遠征以降、少しずつ取り組んできた、モビリティを出して人との距離感を近くプレーすることで、少しずつ良くなってきた部分を具体的にアプローチしています。

──これまでは3-1を軸にしてきましたが、そこは積み上げてきた前提で、今は4-0に取り組んでいる。

物事にはフェーズがあります。自分が就任してから昨年のアジアカップまでは、4-0も大会中にやってきましたが、どちらかといえばピヴォを使った攻撃にフォーカスしてチームをつくってきました。決勝でイランに勝って優勝しましたけど、内容は、攻撃がすごく機能したというよりは、いい守備やゲームの流れを読んで勝てたと思っています。

そこで最初のステップはひとまず終わりました。

特に、立ち上げの1年目は非常に若い選手や国際経験の少ない選手が数多くいました。当然、結果と内容を求めているので、もともと持っている選手の特徴を生かす狙いもあり3-1を採用してきました。ただ、その先のステップである今回のアジアカップや、2024年のワールドカップで強豪国と対戦することを考えた時に、3-1だけでは非常に厳しいものがあります。

強豪国に勝つには、ボールを持つ時間を長くして、ディフェンスの時間を減らすことに取り組む必要があります。3-1とか4-0というよりは、選手の距離を近くして、よりモビリティを出してプレーしたいと思っています。そのなかでピヴォの選手がいればトランスフォームして、ピヴォがいなければ違う選手がピヴォのような動きをしてスペースを生み出すといったことを、昨年のアジアカップ以降から取り組んでいます。

大事なのは、なぜそれに取り組むかということです。ピヴォにはいい選手がいます。ただ、より体が大きな海外の選手や、今の世界のファウルの基準は非常にコンタクトが激しいことを考えると、ピヴォを起点にすることが困難なゲーム展開になってきます。そのなかで、ピヴォの選手に成長してもらう道と、ピヴォの選手も自陣方向に降りてきてプレーできる道をつくりたい。それでもうまくいかなければ、ピヴォの選手がいない状態でプレーする。一番いいのは、その3つすべての方法を持てることであって、今はそういった取り組みをしているということです。

おそらく、日本のFリーグで起きている現象やレベルと世界のそれとではまったく違うと思います。特に、この間のFutsal Nations Cupにおけるブラジルvsイランの決勝のように、モビリティはないけれども足を使えるGKや、フィジカル的に優れたゲーム構造も存在します。我々がこのサイズ感で同じ土俵に立つのは難しい。日本のアイデンティティや持ち味はなにかということをアジアカップ以降、スタッフでいろいろとアイデアを出して、今そのフェーズに入っているということです。



本気で日本人に合ったフットサルに取り組んでいる

──前体制のブルーノ・ジャパンでは、強度の高い守備を武器にW杯を戦いました。モビリティは日本人ならではの武器になり得ますか?

我々はブルーノ・ガルシア、それ以前のミゲル・ロドリゴからスペインのフットサルを学んできましたが、攻撃を構築するというより、守備とセットプレーを軸にチームづくりをしてきたと感じています。おそらく、オフェンスに対して多くの時間を費やすことは今までなかったと思います。どちらかというと、スペインにあるフォーマットを日本に持ち込んで、そこに日本人選手がアダプトしていったという構図です。小学生年代のバーモントカップや中学生、高校生年代の大会など、育成年代からどういう環境下で日本の選手が育っているかをつぶさに感じながら、今は、かつてのような“日頃から取り組む機会がない”といったフィルターをかけていないので、ベストを築くために、選手とともに本気で日本人に合ったフットサルに取り組んでいます。

──先日のFutsal Nations Cupでは、自陣でボールを回している時に、石田健太郎選手などがパスを出した後、ブロックしてから後方にスプリントしてサポートする形が多いように感じました。あの動きにはどんな狙いが?

ボールホルダーをフリーにすることと、スペインやいわゆるモダンなフットサルの3人目の守備者がカバーリングを考えるものに対して、自分たちが後ろに下がることで時間とスペースをつくったり、相手がカバーリングをしてくれたりすれば、前には進まないですけど、健太郎のような配球に優れた選手がフリーになってプレスを回避できる狙いがあります。

もし、ベタ付きでマンツーマンのディフェンスをしてくれたら、カバーリングのいない状況でアタックできる。我々がスペインから学んできた守備のシステムに対して、負荷をかけながら、なおかつボールを保持して、チーム全員で時間とスペースをつくるためのアイデアの一つとして、そういう動きを練習しています。

──深い位置に下がるため、ある程度フリーでボールを受けられるメリットもある。

自分たちが前に走ると相手は後ろに下がるので、スペースは消えますよね。自分たちが後ろに下がって相手が来たらスペースは広くなり、来なかったら中央や奥のスペースは使えないですけど、後ろのスペースは使えます。我々は長くボールを持ち、相手を引き出した状態でアタックしたい。我慢強くボールを保持するためには、いいバランスで全員がしっかりとサポートできて、ボールホルダーよりも後ろに人がいるという、いくつかの原則に基づいてプレーできればと思っています。

スペースをいいタイミングで使いたいので、そこまでは我慢強くボールを持つ必要があります。多くのゴールを奪うことが難しいゲームもあるでしょうし、長くボールを持つことができれば、物理的に守備をする時間も減ります。どのスポーツでもそうですが、強豪国を相手に40分間、守り続けることは簡単ではありません。

──これまで以上に高い技術力が求められそうです。ただたしかに、保持率を上げることで守備の時間を減らせれば、相手が焦れて寄って来た際に前線のスペースをうまく使うことができますね。

そうです。攻撃や守備、トランジションで日本人のスピードや運動量というモビリティを生かし、頭を使いながら相手よりも多く走ることが重要ではないかと思っています。



選手、スタッフにとって有意義な国内合宿だった

──まずは、若い選手を中心に収集した候補合宿の3日間を振り返っていかがですか?

最初の3日間はリーグ戦で結果を出し、年齢も代表経験もフレッシュな選手を手元で見れましたし、代表チームの戦力を広げて次につなげる機会としても、非常にいい3日間だったと思います。

ほとんどの選手に代表経験がないなか、まずは代表がどういうマインドで、なにを目指していて、どういう選手を必要としているかを感じてほしかった。こういう経験をしないとわからないことがあるので、いい機会になったと思います。

大事なことは、彼らがそこで感じたものを所属クラブに戻った時、日常からどれだけやれるかです。チャンスやヒントをたくさん散りばめることができたと思いますけど、受け取るのは選手たちです。そこはリーグを見て、どのように進んでいくのか、これからも一人ひとりをチェックしていきたいと思います。

──新たな発見などはありましたか?

あえて厳しいことを言うと、いい部分、改善が必要な部分を含め、彼らの日常が見えました。一人ひとりのアスリートとしての日々の取り組みや、クラブでのトレーニング、ゲームでの要求レベルの違いが様々見て取れました。我々は育成年代にも関わっていますので、そういう意味でも、若い年代から課題をしっかりと改善できるプログラムを組んでいきたいです。

──では、アジアカップ予選に臨むメンバーの国内合宿を終えていかがですか?

しっかりとミーティングをして、2部練習もできて、強度高くトレーニングできたことが1年ぶりです。ここまで、試合に向けて短い準備期間のなかで取り組んできましたが、1セッションでゲームに向かったり、移動や、国内組と海外組で入るタイミングが違ったりもしたので、今回の時間は、コーチングスタッフにとっても、選手にとっても有意義なものになりました。戦術的なことだけでなく、チーム力を高めるという意味でも、いいプログラムを組んで終われたことは大きいです。

──強度の高い数々のトレーニングが印象的でした。

今回は、強度が高いなかで選手たちが決断できるようなアプローチをしました。今、取り組んでいるフットサルをするために、スピードや動きながらプレーすることと、攻守においてモビリティや運動量を強く求めていました。しかるべき時間が必要でしたし、多くのセッションを組めて、強度が高いなか選手たちはよく頑張ってくれました。最初の3日間から継続して参加してくれた選手たち(本石猛裕中村充ナカマツ・ルアン井戸孔晟)の貢献度も非常に大きいです。彼らとしても、代表チームとしても戦力拡大につながる活動になったので、非常にいい刺激を与えられたのかなと思います。



カオスをコントロールしたい

──新たなフェーズに入ってきたなかで、今回は大会前に試合を行わずに向かうのでしょうか?

台湾でも試合は組んでいないため、大会初戦のオーストラリア戦が本番になります。今まで、東アジアにおける予選は2グループでやっていたこともあり、対戦しない国とトレーニングマッチもできましたが、今回はオーストラリアとチャイニーズ・タイペイしかいないので。ただ、2023年に入ってから10試合以上を戦い、ほとんどの相手が強豪国だったので心配はしていません。

──台湾入り後のプランは?

まず、海外組の3人(内田隼太、平田ネトアントニオマサノリ、原田快)が合流しますので、もう一度、攻撃や守備、トランジション、セットプレーのコンセプトの理解を深めたいです。今回は今までと比べても時間があるので、有意義に使いたいですね。

先日、お話ししたように、今は第2フェーズに入っています。スペインの一つの成功モデルが日本に持ち込まれ、選手が成長してきたところから、日本のアイデンティティを持ったフットサルを、選手と共につくっている段階です。

これまでは「スペインのフットサル」という一つの正解がありましたが、今は、そこで得た学びを生かしながら少し視点を変えて、正解がわからないなかで取り組んでいます。世界のトップを目指すのであれば、まったく同じフレームワークで戦えば、クオリティの高いほうが上になります。近年、アルゼンチンやポルトガル、モロッコといったいろいろな国が躍進していますが、海外の指導者たちと話をしても、自国の持っているいいリソースや特徴を活用したチームを構築してきています。そういった理解の下、日本のフットサルを推し進めていると考えてもらえたらと思います。

──そのアイデンティティの一つがモビリティということですね。

スピードやサイズなど、世界には高い壁がどうしてもあります。そうした相手とマッチアップした時に、攻撃、守備、トランジション、セットプレーのすべてにおいて、どこに勝機があるかという視点からトレーニングを構築しています。特に、攻撃においては、カオスな状態で(相手が、あるいは自分たちも)崩れているなかで、どれだけいいプレーができるのかにフォーカスしています。単純な強度ということではなく、自分たちがうまく“カオスをコントロールしたい”というのがあります。

──今回、選手からも「モビリティ」というキーワードをよく聞きました。改めてその概念とは?

例えば、“静態”し整っている状態でブラジルやスペイン、イランなどを相手に真っ向勝負を挑み、ピヴォとの1対1で優位性をつくることは簡単ではありません。アドバンテージをつくりたいけれど、相手も整っていて、自分たちも整っている時に、純粋な個で上回ることは容易ではないですよね。

そうしたなか、「自分たちは整っているけど、相手は崩れている」あるいは「お互いに崩れている」なかで、自分たちがいち早く整えるとか、崩れているなかでも自分たちにアドバンテージがあると理解して、選手の特徴を出したい。つまり、カオスのなかで意図を持ってプレーし続けるというのが、大枠の話で言うと、今のチームのコンセプトになります。

──それが、カオスをコントロールするということですね。

止まった状態で崩すには、クオリティが必要です。ですから、相手を崩すために止まっていたらできません。サッカーで言えばリオネル・メッシのような選手がいれば簡単かもしれないですが、そうした選手がいるわけではない。みんなで協力して崩すには、モビリティやスピード、連動した動きが大事になります。ピヴォがいる、いない、といった話ではなく、ポジションに関係なく、意図を持ってカオスのなかでプレーする。自分たちが整っているか整っていないか、相手が整っているか整っていないかを理解してプレーする。攻撃も守備もトランジションもセットプレーも、同じ一つのゲームアイデアに基づいて進めています。

──システムが大事ではなく、コンセプトが最初にある、と。

そうです。ですから、「ピヴォがいない4-0では深さを取れない」ということではなく、今は4-0でも深さを取る方法のトレーニングをしていて、いい形をつくれています。「あなたはピヴォです」ということではなく、ある意味では、誰もがピヴォになり得るスペースを勝ち取れるように考えています。4-0、3-1という配置よりも、コンセプトを大事にしています。

──まさに、トレーニングを見る限り、かなりカオスだな、と。その状態でも立ち戻れるためのアイデアを、今はたくさん落とし込んでいるといったイメージでしょうか。

崩れていてカオスではあるけれど、自分たちはカオスを取り戻す方法を知っている、というイメージです。極論、知らない人が見たら「日本代表はぐちゃぐちゃだね」とか「バランスが悪いね」と感じると思います。

──たしかに、写真を撮っていて気づいたのですが、次の展開をまるで予測できないシーンが多く、まさにぐちゃぐちゃだな、と(苦笑)。

そうですね。ぐちゃぐちゃな練習をしています(笑)。ただし、ぐちゃぐちゃがそのままでは厳しいですけど、わかっていてぐちゃぐちゃになっている。それを戻すことをみんなが理解していれば、アドバンテージを取ることができます。



──ありがとうございます。いよいよ、1年後にはW杯ですね。

目の前の選手たちに毎回伝えているのは、人生は長く続きますけど、アスリートとしての寿命やピークがあるということです。怪我や移籍もありますし、誰もが、いつ、どうなるかはわからない。ここから何十年と続く人生のたった1年かもしれないですが、「あの時もっと努力をしておけば」と思わないように過ごしたい。最後は、野心のある選手がW杯へ行けると思いますし、自分はそういう選手と一緒に行きたい。この1年、野心をもって自身のアスリート人生を懸ける選手が14人だけでなく、30人、40人、50人いたなかの14人であれば、間違いなく強いグループになれます。この1年は大事な1年だと思っていますし、それは日本のフットサル界にとっても重要なことです。

──そのためにもまずはアジアカップ予選ですね。

忘れてはいけないのは、我々は、2012年大会以来、アジアの予選を突破してW杯に出場していないということです。自分もコーチとして帯同した2021年のW杯に出場した監督、スタッフ、選手をリスペクトしていますけど、(コロナ禍でW杯の出場権をかけたアジアカップが中止となったことで)勝ち抜いてW杯へ出たわけではありません。

その前の2016年のW杯は予選(アジアカップ)で負けて出場できていません。2012年から比較しても間違いなく成長していて、進んでいますけど、予選に関してはある意味で時が止まっています。もちろん簡単な大会ではないですし、まずはしっかりと予選を突破して、なおかつ最高の成績を出せるよう、日本のフットサルが一丸となって戦えたらと思います。

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