更新日時:2023.10.07
【日本代表】アジア最高の選手・吉川智貴の“生き様”を継ぐ選手は誰か?「若い選手が入ってきた今のサイクルには、楽しみしかない。日本はもっと強くなれる」
PHOTO BY本田好伸
日本代表は現在、7日に初戦を迎えるAFCアジアカップ予選に向け、開催地・台湾で調整を重ねている。2024年4月に行われる本大会での連覇と、同年9月のFIFAワールドカップ出場のために、予選の2試合は一戦必勝だ。
その戦いにおいて、チームの大黒柱となるのが吉川智貴だ。
ブルーノ・ガルシア監督が率いた前体制ではキャプテンも務め、ピッチ内外でチームをまとめ上げた。2019年にはアジア年間最優秀選手賞を獲得するなど、名実ともに“アジア最高の選手”であり、日本のリーダーとして振る舞ってきた。
木暮賢一郎監督による活動が始まった2021年12月から、今回まで45人以上の選手が招集され、激しい競争が繰り広げられてきたなかで、20歳前後の若い選手も次々に台頭してきている。昨今でいえば、星翔太や吉川が受け継いできたように、日本は今、「強化と世代交代」の両方を追い求め、チームの構築を進めている。
吉川は現在、34歳。強度の高いプレーや的確な判断と決断、研ぎ澄まされた技術は、年齢を感じさせることなく超一線級を維持し続け、なおかつベテランらしい経験に裏合うちされた老獪さも色褪せない。
9月28日から10月1日の国内合宿の期間中、トレーニング後には一人アリーナに残って、黙々と自分の体と向き合う姿があった。「同じことをしていたら衰えていくだけ」と笑うが、吉川の体は今もなお、研ぎ澄まされていくようだ。
だが、世代交代は必ずやってくる。
日本のリーダーが見せてきた“生き様”を継承するのは誰か。10代の頃から将来を嘱望されてきた清水和也か、技術と戦術眼を武器に地位を確立した石田健太郎か、あるいは別の誰かなのか。もちろん、一人ということでもないだろうが。
全体練習後、1時間ほどして引き上げてきた吉川に、体のこと、今回の合宿のこと、チームのことを聞いた。
自分の体をこうやったら“整う”がわかってきた
──全体練習後に時間をかけていたのは、なにをされているんですか?
トレーニングとケア、それと体の感覚を養う目的のものですね。簡単に言えば、「骨盤の位置を正しいポジションに保ちましょう」ということですね。
──いつ頃から採り入れているんですか?
最近ですね。この3、4カ月くらいです。少しずついろんなやり方をしてきて、今はこの方法に行き着いたというか。年齢と共に、今までと同じことをしていては衰えていく一方ですから。ただ、トレーニングを変える怖さはもちろんあります。トレーニングを変えてからそんなに日は経ってないです。やる内容が変わったという感じですね。
──体と向き合う姿が、イチローさんのようです。
いやいや。比べるところがちょっと高すぎないですか(笑)。
──トレーニング後、常にやっているんですか?
時間があればという感じですけどね。トレーニング前とトレーニング後、それに空いてる時間などです。それと、寝る前は確実にやって体を整えないとダメですね。
──日本代表活動中に見た、小曽戸允哉さんを思い出しました。練習後に一人黙々と走っていたり。
ノブさんもやってましたよね。
──吉川さんのその姿が、本当にすごいなと。
そんなことないですよ(笑)。これがノーマルになっているので。名古屋の選手は普通にやっていますよ。
──ただ実際、吉川選手がイチローさんに見えてきていて。系統は絶対にそうだな、と。
そうかもしれないですね(笑)。アスリートのなかで誰が一番好きだったかと言われたら、イチローさんでした。今は少し変わってきていますけど、昔はそうでしたね。イチローさんが大好きでした。
──朝はカレーを食べるんですか?
いやいや、食べないです。マネしちゃおうかなと思った時期はありましたけど(笑)。イチローさんのレベルとは違うと思いますけど、自分の体をこうやったら“整う”というか、これをやったらこうなる、というのがわかってきました。
──吉川選手らしいなと思います。
そんなことはなくて、これは名古屋の安藤(良平)くんがもともとやっていたんです。それを教えてもらってから始めて、安藤くんと“おじいちゃん”同士でやってます。
空が良くなれば、若い年代はもっと上がっていく
──国内合宿を終えていかがですか?
めちゃくちゃいいトレーニングができたと思います。疲れましたけど。
──普段よりも疲れました?
名古屋も強度が高いので、異なる疲れ具合かもしれません。名古屋であれば、試合に向けて週の頭に強度を上げて、少し落としていくという感じですけど、今回はほぼ毎日、強度を高くやっていたので疲労が溜まっている感覚です。でも、そのなかでみんながめちゃくちゃいいトレーニングをできたと思いますし、雰囲気的に少し“ダレる”瞬間も全くなくて、いい形で台湾へ向かえると思います。
──これまでの多くの活動は、短期間で練習して試合をするサイクルでした。木暮賢一郎監督は「第2フェーズに入った」と話していて、新しいことを落とし込んでいるので、頭も体もかなり疲れる時期ではないでしょうか。
今までは試合で試すという感じでしたね。それで試合映像を振り返って、また試合でどんどん修正していく。こうやって長い期間トレーニングをしたのは、グレさんになってからは数えるくらいしかないので、すごくいい時間だったと思います。個人的に頭が疲れることはないですけど、「こういう感じなんだ」とチップを変えていく感じですね。
──外から見ていると、戦い方がガラッと変わった印象です。選手としてはどんな感覚ですか?
僕は、スペインにいた時も4枚(4-0)でやっていましたし、そのプレーは好きだったので慣れている部分もあります。ただ、名古屋も今は3-1で、代表でもしばらく3-1だったので、こうやってやるのは久しぶりですし、それにグレさんは少し違った形の4枚に取り組んでいますね。そういう意味では新鮮な部分もあります。
とはいえ、ちょっと考えを変えるだけである程度はやれている感覚があるので、そんなに苦労していることはないし、楽しくできています。みんなが動いてボールがどんどん回るので、やっぱり楽しいな、と。
──周囲の選手たちの浸透度はどう感じますか?
今回の合宿でかなりスムーズになってきたと思います。人それぞれ理解する速度も違いますし、慣れもあると思うので、最初は仕方がない。でも、ブラジル遠征の短期間でグッとよくなったと思いますし、それが今回の合宿でまた磨かれた感じがあります。誰かの強度が低いとか、理解度がめちゃくちゃ低いということは全然ないですね。
──台湾で海外組の3人と合流して、もう一度確認作業をして大会初戦へと臨むことになります。
3人とはブラジル遠征でもやっていますし、チームのコンセプトは理解しています。国内でいい積み上げができたので、そこに3人が加われば、もう一段階上にいけるはずです。ここからは負けられないので、チームが一つになって戦うこと。ありふれていますが、そこに尽きると思います。みんながバラバラになることが絶対にダメなので、一つの方向へ向かってやっていくことが一番大事です。
──吉川選手自身のチーム内での役割は変わらないですか?
変わらないですね。前のアジアカップから今までもそうですけど、特に変わらない。ちょっとでも変な方向にいきそうな時は自分が止めなければいけないと思います。なので、雰囲気をよく見るようにはしていますね。
──吉川選手が積み重ねてきた技術やメンタルを誰かに継承していく思いもありますか?今のチームの起用などを見ていると、石田健太郎選手あたりは、吉川選手などが果たしてきた背中で引っ張る役割を継いでいくようにも見えます。
誰かに、というのは特別ないですね。自分の価値観を押しつけるのも違いますし。みんなにアドバイスはしますけど、みんながよくなればいいかなと。健太郎ももちろんですし、誰か一人というのはなく、みんながよくなれば日本は強くなれると思うので。
──特別に誰か、ということはない。
そうですね。あえて挙げるなら、名古屋でも一緒の(金澤)空は同じポジションですし、本人に伝える機会が多いかもしれません。そこはちょっとありますね。彼がもっとよくなれば、若い年代はもっと上がっていく気がします。
──若い選手が増え、受け継がれるサイクルができてきていますね。
そうですね。だから楽しみしかありません。僕はもう、ジジイなので(笑)。若い子に負けないよう、ついていかなきゃなと。必死にやっています(笑)。
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