更新日時:2024.03.23
全盛期の引退は、“楽しさ”に包まれて|浦安・大島旺洋 #人生に刻むラストゲーム
PHOTO BY高橋学
最後のリーグ戦、ホームで2ゴールを挙げた大島旺洋。その快進撃は選手権でも止まらず、準々決勝では決勝点を奪ってみせた。日に日にキレを増していたからこそこの日、敗戦した後も、引退するのが信じられなかった。
ホーム最終節後の取材を踏まえて、“もったいないとは言わない”と決めて臨んだ試合後の取材。それでも、何度その言葉が飛び出しそうになったかわからない。
「フットサル人生に後悔はない」
キレの良いプレーの残像と未練を私たちに残しておきながら、自分はさっそうとこの場所から立ち去ろうとする彼に、思わず念を押してしまう。
「後悔は……ないんですね?」
「後悔があったほうがいいですか(笑)」
こちらの葛藤など知らず、本人は屈託なく笑っていた。
そんな大島だけれども、取材の途中でふと思いついたようにこぼした一言があった。
彼はきっと思ったままを口にしただけだろうけれど。その言葉を聞いて、うれしくも、うらやましくもなりながら“これが大島だ”と思わされたのだ。
取材・文=伊藤千梅
最後にこぼれた一言
5年間。長くはないけれど、決して短くはない現役生活を終えた大島に、最後の試合が終わった瞬間を思い返してもらうと、特に感傷に浸る様子も見せずに答えた。
「『終わっちゃったな』くらいですね。でも、悔いなく終われたかなと思います」
涙の跡は見えない。やり切ったという気持ちのほうが強いがゆえに、高校時代にサッカーを引退した時も涙は出なかったという。フットサルを引退する今も、表情を崩さなかった。
どこかスッキリとしている大島に対し、質問するほうはどこか煮え切らない。後悔はないと何度も伝える大島に、自分の気持ちを落ち着かせる。
すると、大島が思い出したように付け加えた。
「5年間で一番楽しかったかもしれないです。今日プレーしていて」
この言葉に、正直驚いた。
自分のラストマッチにこれまでの「楽しい」を更新できる選手がどれだけいるだろうか。また、その感情が強ければ強いほど、このピッチへの未練は残らないのだろうか。
こちらの衝撃をよそに、大島はいかに今日の試合が楽しかったのかを語る。
「最後の大会というこのタイミングで、一番強い名古屋を相手に、1年間一緒にプレーしてきた仲間と本気のバトルができたのが楽しかったです。ここで勝って、決勝に行けたらよかったんですけど。でも、勝てなくて悔しい気持ちはありますけど、最後、名古屋と本気の試合ができたのは、自分にとっては財産です」
最後の最後まで涙を見せなかった大島が、楽しかったのならそれでいい。本気の勝負、負けられない戦いのなかで、幸せに現役を終えられるのが“大島旺洋”という選手なのだ。
苦しい時にどう乗り越えるか
引退した大島は、指導者の道へ。サッカーであればJリーグ、フットサルが好きな選手はFリーグの舞台に立たせるために、彼がこの舞台で培った経験を子どもたちに伝えていく。
そのなかで大島は、一番伝えていきたいことにメンタルを挙げた。
「メンタル的な部分や、苦しい時にどう乗り越えるかは、うまくいってない子とかに声をかけたいなと思います」
昨シーズンにはもう、大島はこのチームの中心選手だった。今シーズンは途中、怪我で離脱したものの、2カ月半後に復帰してからは、以前と変わらないハイパフォーマンスを示した。その表情もいつもと変わらず、ひょうひょうとしたものだった。それでも、苦しい時がなかったわけではないのだと、この言葉を聞いて思い知らされた。
2019-2020シーズンに浦安の特別指定選手としてFリーグにデビューした翌年、シーズン途中に一度、セグンドに落とされた。それでも、フィジカル面を軸に鍛え直し、2022シーズンにトップチーム再昇格をつかみ取った。
「試合に出られない時は、評価されていないと思うこともあるじゃないですか。そういった経験は、Fリーグの5年間以外でもありました。でもやることは変わらず、『いつか結果は出る』と信じて練習を必死にやり続けることによって、試合に出られるようになったり、活躍できるようになったりしました。だから子どもたちにも『ちゃんと見ているよ』と伝えたい」
キツイ表情は見せない。けれど、その気持ちは知っている。そんな大島だからこそ、子どもたちがこれから抱える葛藤にも、気がついてあげられるのではないか。
苦しさも、悔しさも、全部凌駕するほどの“楽しさ”のなかで、大島は現役生活を終える。そんな彼だからこそ伝えられるフットボールの楽しさを、これからは子どもたちに伝えていくのだろう。
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