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作成日時:2024.03.25
更新日時:2024.03.25

笑顔で終えた、23歳の悔いなき引退試合|町田・髙橋裕大 #人生に刻むラストゲーム

PHOTO BY高橋学

髙橋裕大は、自他共に認める“ポジティブ人間”だ。

「負けたら引退」という緊張感のあるシチュエーションでも、普段となに一つ変わらない雰囲気を醸し出していた。全日本選手権の準決勝、立川に3点差をつけられた試合終了間際でも、彼のマインドは変わらなかった。

「ここまでの競技人生をやりきった感覚があるのでどんな状況でも受け入れることができました。確かに負けて悔しい気持ちはありますが、前向きに終われました」

最後まで明るい表情を貫いた彼にとって、このラストゲームは“毎日最高”だと感じているうちの大切な1日になった。

どうして、23歳の若さで引退を決めたのか。しかも、いつもと変わらない“意気揚々”とした表情で。どうして、そんなにポジティブなのか。どうして……。

髙橋に聞きたいことは、山ほどあった。

取材・文=伊藤千梅



フットサルを自己実現の手段に

最後の瞬間も、笑顔は絶やさない。試合後、私の前に現れた髙橋は、はつらつとした表情で引退後のビジョンを語った──。

優勝争いを繰り広げた町田において、ディフェンスのスイッチ役を担っていたのが髙橋だ。「前線からのプレス」はリーグ随一。12月にはリーグ通算100試合出場を達成し、将来、日本代表にも入っていけるような、そんな選手だった。

しかし、周囲の期待をよそに、髙橋は23歳で引退を決断した。

どうして──。

「フットサル以外にやりたいことを見つけたから」

最後の試合を終えた彼から、後悔の思いは微塵も感じられなかった。

髙橋は現在、「仕事」と「競技」を両立した働き方を支援する企業「株式会社ジーケーライン」に「アスリート社員」として勤務している。チームの早朝練習を終えると颯爽と営業活動に従事する平日を送り、週末は試合。彼は、どちらの“ピッチ”でも持ち前の“強度”の高さを示した。アスリート社員として、歴代最短昇格。引退後は、ビジネスに力を入れていくのだと言う。

「自分が理想とする世の中を作っていきたくて。ビジネスはそのための手段です。だからその手段を構築するために、これから頑張っていきます」

フットサル以外にやりたいこと。ビジネス。それを手段とした自己実現。おそらくフットサルも、自分を高めるための「手段」だったのだろう。そうなった時の彼は、恐ろしく前向きで、毎日をパワフルに過ごすことができるのだろう。試合を終えたばかりで、フットサル生活の余韻にひたる気配すらなく、「ギアが上がっている」と、彼は豪語していた。

「考え方一つで人生の見方を変えられるし、最高の人生にできる」

日々、学びや教訓にあふれ、何事も前向きに考えることで、出来事をプラスに変換し、チャレンジを続けてきた。だからこそ髙橋は、仕事と競技の両面で輝くことができたのかもしれない。



見ているだけで元気をくれるような選手

髙橋が次のステージを真っ直ぐ見据えることができるのは、フットサルで多くのものを身につけたからだ。

「仕事では営業活動をしていて、いろんな人と話す機会があります。その時に、社長など立場のある人に対しても、相手がもっている課題を聞いてその解決方法を提案することができます。そのコミニュケーションの取り方はフットサルで学びました。仕事につながることはたくさんあるので、フットサルの経験を社会でも生かせていると感じています」

ピッチに入ったら、立場は関係なくなる。相手の考えを聞き、自らの考えを示す。対等に話をして、純粋に目的を達成するための判断と決断、行動がなにより重要になる。

しかも、プレーごとに次々と生まれる課題に対して「どうしたらいいか」という会話が頻繁に繰り返される。いわゆるPDCAサイクルを回す作業は、仕事のそれとリンクする。しかもその作業は、1分1秒を争う極限のやりとりのなかで研ぎ澄まされていくのだ。そうした個人とチームの関わり合いの成果として、チームの成熟度が増し、数々の成功体験を手にする経験を何度も味わってきた。

やはり、髙橋にとってフットサルとは、自己実現のための大事な手段だったのだ。

ただし、「ペスカドーラ町田」にいられたことはとても重要だった。

ペスカドーラ町田U-18から、トップチームで引退するまで、髙橋のフットサル人生の大半は町田と共にあった。トータルで5年間を町田ファミリーの下で過ごしてきた。

「町田は最高のチームです。めちゃくちゃ愛があります。チームメイトもそうだし、ファン・サポーターもそう。一人ひとりの熱量があり、いい雰囲気が漂っている。ほんとに愛が強いチーム」

髙橋にとって、町田は多くの愛を与えてくれた場所。「毎日最高」と胸を張って言えるのは、このクラブで過ごせてきたからに他ならないのだろう。

「Fリーグでナンバーワンのクラブですよ、町田は」

そう言って、いつもと変わらない笑顔で取材エリアを後にする姿が、髙橋らしい。誰よりもアグレッシブで、誰よりも率先してプレッシングに向かうプレースタイルは、そのまま彼の人生を示しているようだ。

とてつもないゴールを決めたり、圧倒的なテクニックで魅せるわけではない。最後の試合でもそうだった。ただ、見ているだけで元気をくれるような存在。その姿を見ると「私も頑張ろう」と、前向きにさせてくれる選手。

若くして競技を離れる決断を下した髙橋とは、そんなポジティブな男なのだ。



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