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作成日時:2024.05.27
更新日時:2024.06.13

「幸せを届けたい」経営者兼Fリーガー・北野聖夜が、スコーン専門店「iro」とフットサルで広げる優しい輪

PHOTO BY株式会社iro、高橋学

京浜急行戸部駅から、歩いて約7分。各駅電車しか止まらない静かな住宅街に、スコーン専門店『iro(イロ)』がオープンした。

無添加のオーガニック素材にこだわり、スコーン特有の「固さ」や「ぼそぼそ感」ではなく、柔らかくしっとりとした食感が多くの反響を呼び、店舗公式SNSのフォロワーはすでに1万人到達目前。横浜市内を中心でのポップアップ販売も大きく売り上げを伸ばし、オープンから1年足らずで2店舗目、3店舗目の出店の目処が立つほど、圧倒的なスピード感で事業を展開している。

オーナーを務めるのは、現在Y.S.C.C.横浜で現役フットサル選手としてプレーする北野聖夜。名古屋オーシャンズサテライト、U-18、Fリーグ選抜で培った経験を生かし、中堅選手としてチームを支えつつ、ピッチ外でもその「敏腕っぷり」を発揮している。

「みんなの喜んでいる顔や言葉をもらえることが、僕の喜び」

そんな北野が、体にも心にも優しいスコーンとフットサルの両軸で描く未来とは。



商品化まで2週間、出店までは3カ月

──もともとお父さんも会社を経営されているとのことですが、小さい頃からいつかは起業したいとは思っていたんでしょうか?

「自分もいつかは」というよりかは、当たり前のようにやるだろうという感覚でした。ひとりっ子ということもあってか、何かに縛られた場所で働くよりも起業する方が向いているだろうなとも思っていました。

実家では不動産、建設関係の会社を経営していて、自宅が事務所なのでずっと父の働きぶりを近くで見てきましたけど、時代も今とは違うこともあってすごく厳しく従業員の方に接していたので、人との関わり方は反面教師にしている部分は多いかもしれないです(笑)。

──そこから、「スコーン専門店」に辿りついたきっかけは?

昔から、せっかく口にするものならできるだけ体に優しい食べ物にしようと心がけてはいたんですが、自分が結婚してから、奥さんが補食としてオーガニックのお菓子を作って持たせてくれるようになって、そのなかで一番美味しかったのがスコーンだったんですよ。それがちょうど1年前のことですね。ピンときて「これちょっと商品化してみようよ」と、はじめたことがきっかけでした。

──ということは、レシピの考案もすべて奥様が?

そうです。料理はずっと得意だったらしく、前は小さいパン屋さんで働いていて、ベーグルサンドを考案して売上を立て直したり、けっこうやり手といいますか。性格もお互い似ていて、やりたくないことはやらない、でも一度ハマるととことんやるというタイプなので、「作ること」に専念してもらっています。

──初めて食べた時に、しっとりと柔らかい食感に驚きました。このアイデアはどこから生まれたんでしょうか?

はじめはとにかく添加物を入れない、できるだけオーガニックな材料で作ることを一番に考えて、形ももう少し大きく、全粒粉を使うレシピで柔らかさにはそこまでこだわっていませんでした。

ただ、以前働いていた会社のマーケティング部で働いているときに、物を売る時のポイントとして「他社との違い」を強調することを意識していたので、うちだけの強みを考えるために、2週間箱詰め状態で試行錯誤しました。

奥さんのスコーンを食べてから、次の週には全国の有名なスコーンを全部取り寄せて、都内でも美味しいと言われている店舗を巡って、食べて、改良して、形も、ただの丸ではなく特別感が感じられるようなものにして、「これはどこにも負けない」と納得してできたものが今の「iro」のスコーンです。

──スコーンを食べて起業を決めたのは1年前。店舗を出すまでは……?

3カ月くらいですかね(笑)。

──最初に別の事業で起業しようと思っていたとは思えないくらい、ものすごいスピード感ですね。

本当は、あくまで奥さんとの“副業”としてできる範囲に留めて、実家の会社を継ぐか、自分の知識を生かしたコンサルティングの事業を拡大させようと思ってました。でも、いざ通販を始めてみたら、予想をはるかに上回る勢いで売り上げが伸びて、あっという間に生産が追いつかなくなってしまって。

自分たち二人だけじゃ手が回らないし、レンタルキッチンも少し離れたところにあったので、「もう、自分たち専用のキッチンを家の近くに借りよう」と。キッチンだけでもよかったんですが、たまたま賃料もちょうどいい物件が見つかったし、いつか自分の店を持ちたいと奥さんも話していたので内装のデザインも好きにしていいよと任せて、店舗を出すことを決めました。

ためらいはなかったし、決める時は直感で決めちゃう時も多いかもしれないです。



大変なことは「特にない」

──いろいろな商業施設やお店とポップアップを組んで販売をしていますが、営業のようなことも北野選手が一人で担当されているんでしょうか?

店舗拡大の戦略だったり、売上の管理のお金が絡んできそうな部分、店舗スタッフの面接……。スコーンを作る過程に関わること以外は、全部自分でやっています。

──売上管理や予算組みなどは知識も必要そうですが、どこで身につけたんでしょうか?

簿記のような資格の勉強はしたことがないです。でも、昔から経済とかマーケティングの本が好きで、よく読んでましたね。高校を卒業して名古屋オーシャンズサテライトでフットサルをやっている間は時間がたくさんあったので、そこでお金の流れや投資のことも勉強して、実践したりもしていました。それが今かなり生きているのかなと思います。

──一人で全てをこなすのは難しそうですが、社長業をはじめて一番大変なことは?

いや……これが特にないんですよね。というのも、従業員の子たちが優秀すぎるんですよ。

店でスコーンを作ったり販売をするだけではなく、コストカットをして原価を下げる方法を全部考えてくれたり、僕が経営者であったとしてもフラットにアイデアや改善点をぶつけてくれます。

ただ一つだけ、会社のポリシーとして大事にしているのは、言いたいことは「意見」として話をして、「文句」や「悪口」を言わないこと。みんなで気持ちよく働けて、このスコーンが日本全国に広まることなら、なんでも話してほしいと全員に伝えています。

──「スコーンが日本全国に広まることなら」という言葉もありましたが、すでに2店舗目の出店も予定しているんですよね?

今、進めているところです。本当は地元の岐阜を予定していたんですが、協力してくれている金融金庫の方も僕たちのスコーンのファンになってくれていて「まずは神奈川県内か都内で。どんどんやろう!」と言ってくれているので、どこがいいかを模索しています。

すでに京都と大阪からフランチャイズの話もいただいているんですが、2、3年は自分で10店舗くらい経営してみたいなと思っているので、軌道に乗ったらフランチャイズでの全国展開、そのあとは海外にも……なんてことも考えてます。ただ、僕としてはフットサルも続けたいので、そこが難しいところですね。



フットサルが大好きだし、みんなと優勝したい

──お店がオープンしたのは去年の10月。その少し前に北野選手は大怪我をして、手術をしていますよね。

起業して2、3カ月くらいですかね。いい感じに通販でスコーンもうれていたし、ピッチでのコンディション好調な時でした。痛かったですけど起き上がったあとも普通に走れていたし、ボールも蹴れていたので、はじめは大したことないと思ってました。

だけど、病院に行って先生に「手術です」と言われた瞬間、まじか、と。

これまで大きな怪我もしたことがなくて入院も初めてで、本当にショックすぎたし、怖かった。「嫌です!」って言いました(笑)。

──前十字靭帯断裂は、選手生命に関わる怪我ですもんね。

自分としては1カ月くらいで治ると思っていたのに「全治8カ月ってなんですかって感じでしたね。それを言われちゃうと、どうしても「引退」って言葉がよぎってしまうんですよ。

同じ試合で怪我をした大夢と一緒に病院にも行っていたので、もう、「どうする?」ってずっと話してました。

──ちょうど起業もして、そちらに専念するという道も……。

もちろん、それも選択肢としてはあると思います。でも困ったことに、フットサルが大好きすぎるんですよ。

チームも今すごくいい状態で、菅原(健太)とか高橋(響)とか、“サッカー組”の選手たちがどんどんうまくなって、正直「歴代最強」と言える状態になっているんじゃないかな。

だからこそ、みんなと優勝したい。

加入するときに前のGMと話をして、いろんなデータに基づいたプランを見せてもらった上で「このクラブはリーグ優勝を目指せる」と感じたからこそ横浜に加入しすることを決めたし、今順調に階段を登ってきているので、移籍も辞めるということも考えていないです。



本当の“二足のわらじ”はこれから

──手術日からはちょうど8カ月が過ぎて新シーズンが始まりましたが、状態はどうですか?

正直、この足で前みたいに活躍できるイメージは沸いていないし、復帰という大きな目標だけを持ってしまうとメンタル的にもしんどくなってしまう。なので今はもちろん戻ることを目指しながら、「足を真っ直ぐにして立つ」とか「練習メニューを痛みなく全部こなす」とか、小さな目標を設定しながらコツコツとやってます。

──今シーズンからは、新たに稲葉洸太郎監督が就任したことも大きなトピックですが印象は?

クラブOBでもあるしFリーグでもずっと活躍してきた選手だし、“フットサルのカリスマ”じゃないですか。だからすぐに戦術とか戦い方の話をするのかなと思ったんですが、まずはコミュニケーションとか、人間的なチームの構築からはじめているところは、今までとはちょっと違う監督だなと思っています。

これまで歴任した前田(佳宏)さんは“情熱”、鳥丸(太作)さんは“戦術”、稲葉さんは“カリスマ”と違う要素が積み重なって、また一つ成長できるんじゃないかなと思っています。みんなモチベーションも高いし、ワクワクしています。

──仕事との両立も、これからどんどん忙しくなりそうですね。

これまでは両方やっていると言ってもリハビリ中だったので、本当の“二足のわらじ”はこれからですね。頑張ります。

──すでにiroにハマっている私としても、いろんな街でお店が見られることが楽しみです!

そういう言葉をもらえることが、一番やっていてよかったという気持ちになります。「選手をやりながら経営者もやってすごいね」とよく言われるんですが、働きながらプレーしている選手と同じで何か特別なことをしているとは思ってもいないし、自分の好きなことで誰かを幸せにしたいという部分はどちらも変わりません。

家族も従業員も含めて、このiroのスコーンをとおして笑顔になってくれる人が一人でも増えてくれたらうれしいです。



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