更新日時:2024.07.01
【リアルインタビュー】キング・森岡薫、現役引退宣言して挑む“ラストチャレンジ”|STAR is BACK
PHOTO BY高橋学、伊藤千梅、本田好伸
3月31日、1日ズレていればエイプリルフールを疑いかねない衝撃のリリースが、ペスカドーラ町田から発表された。
「森岡薫選手新加入のお知らせ」
現役引退を考えていた矢先だった。ただ、Fリーグのファイナルシーズンを観戦した際に、自分の中で「消えかかっていた炎がもう一度燃え始めた」。
名古屋オーシャンズのエースとして、Fリーグ9連覇、4回の最優秀選手賞、4回の得点王。文字通りフットサル界のキングだ。
現在45歳。かつての輝きをピッチで示すことは簡単ではない。「無謀な挑戦」という見方もあるだろう。だが、森岡の表情には1点の曇りもない。
「今、俺、フットサルがめちゃくちゃ楽しい」
“キング”はなぜ、F1に戻ってきたのか。なぜ、町田なのか。そして「最後のチャレンジ」の意味とはなにか。
2013年に「森岡薫自伝 生まれ変わる力」を共著した盟友・北健一郎がその胸中に迫った。
取材=北健一郎
編集=田中達郎、青木ひかる
※取材は5月27日に実施
消えかかっていた炎が、もう一度燃え始めた
──率直に聞きます、なぜペスカドーラ町田に戻ってきたのでしょうか。
実を言うと、町田に戻ってくる話をもらったのは「選手として」ではなく「フロントとして」でした。
──昨シーズン限りで現役を引退することを見越しての話だった。
はい。町田は育成を大事にするチームで、トップで活躍している選手たちは他のチームからの移籍よりも、育成組織から上がってきた選手がメインになっています。
そのスタンスを大きくは変えずに、もっとチームを強化できないかと。スペイン語とポルトガル語も話せる自分だからできることもあるはず。
いずれ日本一、アジアナンバーワン、そして世界で誇れるようなチームをつくりたいという思いがずっとあったので、本当に良いタイミングだったと思います。
──森岡選手としても次のステップに行こうと思っていたわけですね。
自分の中でフットサルへの情熱が冷め始めてきていたのも事実なんです。町田を辞めたあと、スペインに行って、立川(アスレティックFC)を経て、(リガーレヴィア)葛飾がF2参戦する初年度に加わりました。
やるからには結果を出したいし、なんとかF1に昇格させられるように貢献したい気持ちはもちろんありました。だけど、F2は試合数も少ないですし、練習回数も葛飾の場合は週3回で、今までとは環境が大きく違いました。
そのなかで、自分の子どもの試合を見に行ったり、家族との時間をつくったりすることを優先するようになりました。失った時間を取り戻すというか……。こんな話をしたら、ずっと応援してくださっていた葛飾の方々に申し訳ないですが。
あぁ、自分はもう選手としては終わるんだなって。引退する選手って、こんな気持ちになるんだなって。そんなふうに考えていたんです。
──そこから「選手として」復帰することになったのは、なぜなんでしょうか?
きっかけは、ファイナルシーズンの町田ラウンドを見に行ったことでした。自分がいないF1の試合を見る気にはなれなくて、数年ぶりに現地に足を運んだんです。その時は町田が今どうなっているのかを確認するつもりでした。
でもね、久々にF1の試合を見ながら、思っちゃったんですよ。「ここでもう1回やったら、どうなるんだろう」って。自分はまだやれるとか、F1で通用するとか、そんな自信があったわけじゃない。でも、消えかかっていた炎がもう一度燃え始めた感覚でした。
その気持ちを、シュウさん(甲斐修侍監督)、社長の関野(淳太)さん、フロントの増山(竜平)さんに話したんです。
──現場の指揮を取る甲斐監督とは、具体的にどんな話をしたんですか?
「シュウさん、俺が町田を出た時、現役最後のチームが町田になったらいいなって話をしたの覚えていますか?」と僕が聞いたら、「覚えてるよ」と。
──森岡選手が町田を退団したのは2020年末のことです。それから4年経っていて、年齢も4つ重ねています。
はい、甲斐さんからは選手としてやるなら特別扱いはしないし、やるからには、ちょっとやってすぐ辞めますではなく、ちゃんと最後までやりきらないとダメだという話をされました。町田の選手はみんな若いし、よく走るし、強度も高いから、そう簡単にいかないだろうし、試合に出れないことも続くかもしれない。
でも、自分が求めていたのは、そういうシビアな環境でもあった。他の選手と競い合って、自分の実力を示して、プレーする時間を勝ち取って、チームの勝利に貢献する。ベンチやメンバー外になることも覚悟の上で1年間やらせてほしいと伝えました。
──正真正銘のラストシーズンになる。
自分のフットサル人生はずっとチャレンジの連続だった。20歳を過ぎてから本格的に始めて、名古屋オーシャンズでプロになって、日本人になって日本代表としてW杯に行って、40歳でスペイン1部リーグに挑戦して……。
僕は、これがフットサル選手・森岡薫としての「最後のチャレンジ」だと思っています。
牙を抜かれたわけじゃないよ
──今シーズンは選手としてプレーしたあと、来年から本格的に、町田のフロントに入るということでしょうか?
そうです。
──町田にいた時はプロ契約だったと思いますが、今回は?
今回は自分から売り込んだ形でもあるので、アマチュア契約です。自分でエステサロンやフットサルスクールを経営しているので、そういう意味ではフットサル選手として稼げなくてもなんとかなる。
──家族から反対はされなかったんでしょうか?
まったく。うちの奥さんはずっと「このまま終わっていいの?」という話をしてくれていたので、町田に選手として復帰すると伝えた時は、たぶん一番喜んでくれて「私も仕事を頑張るし、1年くらいなら生活も大丈夫だから、しっかり頑張って」と背中を押してくれました。
──さすが、元トップ選手だった奥様……。
僕、今は一人暮らししてるんです。町田は朝練習だから、家から通うのはきついので。家族には本当に感謝しているし、だからこそ自己満足みたいにするつもりはない。森岡薫として今できる最高のプレーを見せたい。
──45歳での一人暮らし!
こうして朝早く起きて練習をして、今までやったこともないようなケアを取り入れて全力を尽くすのは、もう一度呼んでくれたクラブのため、若い選手のため、シュウさんのためでもある。
ありきたりな言葉になってしまうけど、この1年でフットサルに恩返しできたらなと思っています。
──45歳の森岡選手から見たら、町田の選手はほとんどが20歳ぐらい年下になります。どんな風にコミュニケーションをとっていますか。
僕がこんな風貌だから怖いかもしれないけど(笑)、若手の選手たちにはなにか気になることがあったら聞いてこいと伝えています。
町田にはバナナ(クレパウジ・ヴィニシウス)、シュウさん、ヨシくん(前田喜史コーチ)、治くん(難波田治コーチ)、石渡くん(石渡良太GKコーチ)とお手本がたくさんいる。
でも、僕らが言うことすべてじゃないから、いろんな人の意見を聞いて、いろいろ拾ってもらって、自分のものにしてほしいなって思います。
──レジェンドからのアドバイスは、若手にとっては”金言”になりそうです。
僕がよくいうのは、一番の敵は“自分”だぞって。
──どういうことですか?
町田を退団した後、スペインに行った時、自分のプレーがうまく出せなくて、試合に出られなくなった経験があるんです。ボールを簡単にとられたり、シュートも打てず、平凡な選手になっていった。
「こんなのは森岡薫じゃない」と思う一方で、「40歳になったから仕方がないよな」と思う自分もいる。メンタルコントロールができなくて、かなり悩みました。
若手の頃は特に、良い時と悪い時の波はどうしてもあるもの。そういう時に、どうすればいいかというのは自分の経験を話していきたいです。
──ただ、森岡選手はコーチではなく、今年1年は1人の選手として彼らと勝負をしなくちゃいけない立場でもある。
オーシャンカップの時は、ずっとベンチにいて、声を出すっていう経験をしました。Fリーグでは怪我以外ではピッチに立っているのは当たり前だったから、キツイなって思うこともありました。
でも、さっきも言ったみたいに義理とか人情とか、今までの結果でプレーしたいわけではないから、過去はもうリセットしてやってるつもりです。
「特別扱いをしない」とシュウさんにも言われているし、それを自分で望んだわけなので。この環境で、いち選手としてアピールしようという気持ちです。
──フットサル界の“キング”として君臨していた過去と比較されることについては?
みんなのなかにある森岡薫のイメージは28~33歳くらいのはず。前までだったら比較されるのはたぶん嫌だったと思うけど、今は比較されるのはしょうがないという気持ちでやってます。
ただ、「こんなものか」ってガッカリされるのは、悔しいんです(笑)。
シュウさんによく「怪我はしてほしくないし、そんなに追い込まなくても」って言われるけど、怪我を怖がって力を抜くことはできない。僕はそういう性格だし、同じ土俵でやってるなら、同じことをしないと。
エゴイストではなくなったかもしれない。でも、牙を抜かれたわけじゃないからね。
もう1年いけんじゃねぇかってなったら……
──なんだか、すごく楽しそうに見えます。
うん、今はすんげぇ燃えてるし、フットサルがめちゃくちゃ楽しい。
これまでは、早く寝るなんて時間がもったいないと思っていたけど、早く寝て、早く明日になって、練習して、試合にならないかなって毎日考えてます。
お酒も町田に来てからは飲んでないし、食事も気を遣っているし、こんな感覚は久しぶりですね。
──いつぐらいのときに戻った感覚ですか?
名古屋オーシャンズ時代の初期の頃ですかね。2時間、3時間しか動いてないのに、なんで1日休むのって思ってましたから。
今はちゃんと休みの重要性もわかってるけど、気持ちとしては練習したいから、朝が早くても全然苦じゃないです。
──若い選手たちと一緒にやることで若返ってるんじゃないですか?
僕が若手を励まさなきゃいけないのに、逆に励まされることもある。練習でしんどい時に声をかけてくれて。みんな、かわいくてしかたない。これまでは若い選手たちには「背中を見ておけ」みたいなスタンスだったけど、だいぶ変わってきている。
今でも丸くなったつもりもないし、紅白戦だってバチバチやって勝ちたい気持ちは変わらないけど、できるだけ周りに少しでもプラスになるために、力になりたいと思うし、少しでもいい思いをさせてあげたい。
そのためには、昔のままじゃダメだろうし、うまくギアチェンジしていかないと。謙虚に、謙虚に。
──森岡選手の口から「謙虚」という言葉が出てくる日がくるとは(笑)。
でも、この1年は、選手としてだけではなく、人としても成長できるのかなと思ってる。本当にいろんな意味で。
── フットサル選手・森岡薫としての最後の1年。ピッチの上で燃え尽きるまで、やりきってください。
うん。めっちゃ体動いて、めっちゃ点取って、もう1年いけんじゃねえかってなったらどうしよう。
──そうなりそうな気もしてます(笑)。
ハハハハハ(笑)
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