更新日時:2024.11.21
「自分がやる」覚悟を決めて背負った“10番”。フットサル転向から1年半、湘南・菊池大介の現在地
PHOTO BY伊藤千梅
「まだ早い。フットサル選手として一つひとつ積み上げて、いつか10番をつけられたら」
湘南ベルマーレフットサルクラブに加入当初、菊池大介はそう話していた。
フットサル転向1年目は、16歳で湘南のトップチームに昇格した時に初めてつけた番号「38」で挑んだ。シーズン終盤にかけて徐々に出場時間を伸ばしたものの、ピッチに立ったのはわずか5試合。
チームとしても12チーム中8位で終わった苦しいシーズンを経て、菊池は今シーズンから湘南の10番になった。
電撃発表から、1年半。菊池はどんな覚悟をもって、この番号を背負うことを決めたのか。そして少しずつ結果を出し始めた今、新たな舞台で目指していることとは。
「自分が変わる」決意の表れ
菊池大介が、再び10番を背負った。
2023年に32歳でJリーガーの肩書きをおろした菊池は、同時に「フットサル選手」として第2のキャリアをスタートさせた。始まりの地は、サッカーと同じ湘南ベルマーレだ。
菊池は2007年に湘南のユースからトップへ昇格。スピードとドリブルを武器に当時のJ2リーグ最年少出場を達成すると、翌年にはJ2リーグ最年少得点を記録した。9年間を湘南で過ごしたうち、21歳からの5年間は10番を背負った。
菊池としても、思い入れが強い番号。それをシーズン2年目でつけたのは、覚悟の表れだった。
「昨シーズンは結果を残せなかったので、自分が10番をつけるのはどうなんだという葛藤は、もちろんありました。見られ方も含めて『違うんじゃないか』という思いもあります。でもそれ以上に、この番号をつけることで、“自分がやる”空気感にしたいと思ったことが一番の理由です」
この決断に至ったのは、若かりし頃この番号をもらった時に感じた思いが根底にあった。
「それまでは先輩やクラブに頼っていたけれど、この番号をもらった時に『自分が引っ張っていかなきゃいけない』と思ったことは、実感として覚えています。無理やりにでもこの番号をつけることで、自分が変われたらという思いでつけさせてもらいました」
菊池はJのころから「中盤でいなして、テクニックで魅了するタイプではない」と話していた。それでも“湘南の10番”として貫きたいものは、今も昔も変わらない。
「どちらかというと泥臭くプレーして、チームに勢いを与える。ベルマーレの10番は、そういうものだと自分は思っています。そういう意味では、自分らしい番号かもしれないですね」
葛藤も垣間見えながらも、この番号を背負うことへの“誇り”と“自負”を感じさせた菊池は、競技転向2年目にしてチームの顔となった。
開幕戦で見せたリーグ初得点
同じフットボールのようで、サッカーとフットサルはまったく別のスポーツだ。戦術や動き方、守備の立ち位置、セットプレーの種類……覚えることがたくさんある難しさは、サッカーの日本代表として活躍した松井大輔も「迷子になる感覚」と話したほどだ。
菊池も同様に競技転向1年目は苦戦した。しかし、焦りはなかったという。
「F1は本当にレベルが高い。このようにチャンスを与えてもらえること自体が特別なことです。この舞台で自分の強みを生かすためにも、“フットサル”を覚えないといけない。思うようにいかない悔しさはありましたが、結果が出ないなかで試行錯誤したことは、今シーズンにつながっていると感じています」
迎えた2年目、シーズンの始めに監督から選手それぞれに対して目標数値を示された。そこで菊池に課されたのは「3得点」という数字。試合に絡めず、無得点で終わった昨シーズンを思い返すと、少し高めのハードルなのかもしれない。
それでも、10番を背負った菊池は、開幕戦で見せた。
6月1日にアウェイで行われたボルクバレット北九州との一戦。15分に左サイドでボールを受けた菊池は、ドリブルで縦突破を図った。マークについた相手がスライディングをする前に左足を振り抜くと、低弾道のシュートはGKの脇をすり抜け、ニアに突き刺さった。
得点を振り返って「たまたまなのはありますけど(笑)」と笑顔を見せた菊池は、このゴールで自分が勢いづいたと話す。
「当たり前ではありますが、試合に出ていない1年目から腐らずに、若い選手からも学んでいたから、ゴールという結果につながったのかなと思います。開幕戦で点が取れたことで、自分のなかで『もっと取りたい』といういい意味での欲が芽生えました」
そこからはチームとして4試合連続勝利できない耐える時期が続いた。第6節のバルドラール浦安戦で5試合ぶりの勝利を収めたが、菊池自身はこの試合で右足の半膜様筋肉離れに。6週間戦線から離脱した。
それでも「よりフットサルに慣れて、レベルを上げていくために、いい期間だった」と、この負傷も前向きに捉えていた菊池。約2カ月間のリーグ中断期間でさらにパワーアップすると、中断明け2戦目のシュライカー大阪戦ではシーズン2得点目を挙げ、チームも2-1で勝利した。
「チームが勝った試合で、大事な点を取れたことが一番大きい。そういう試合をもっと増やせればいいかなと」
菊池はサッカー選手から、試合を決定づける“フットサル”選手へと変貌を遂げつつある。
「プロ」の経験をフットサル界へ
リーグ戦15節を終えて、湘南は7位。上位リーグ進出を狙える位置にいるが、菊池はチームに対して、そして自分にも厳しい目を向けた。
「マインドやプレーにおいて、変えないといけないものはたくさんあります。タイトルを取りたいという思いは強くもっていますが、今のままでは、正直絶対に無理。リーグ優勝やアジアを本気で目指すために、なにをしないといけないかは、みんな以上に僕が経験している部分だと思います。だから、それをより伝えていかないといけない」
自分よりフットサルがうまい選手はたくさんいる。競技歴も浅い。けれど、これまで「プロ」として積み重ねてきた経験は誰よりもあるはずだ。だからこそ、他の誰でもなく“自分が”やらないといけない。
そんな思いに突き動かされる菊池は、個人としての結果、そしてチームとしての結果の先に、フットサル界の未来を見据える。
「サッカーしか見たことがない人がフットサルの試合に来てくれることがありますが、みんな『フットサルはすごく面白い』と言ってくれます。だからこそ、今のFリーグでは物足りないし、満足してはいけない。Jリーグを見てきて、同じように価値があるスポーツだと感じますし、もっと盛り上がるべきだと思います」
まずはピッチ内で。その上で、プレー以外のところでも自分が貢献する。「近道はないので、着実に積み重ねていく」と語った湘南の10番のフットサル人生は、まだ始まったばかりだ。
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