更新日時:2024.11.20
浦安の新たな“闘将”は物腰柔らかな26歳、苦労人。地域リーグからF1復帰した“ブレイク候補生”田中晃輝の等身大の生き様【F1第15節|コメント記事/浦安vs立川】
PHOTO BY伊藤千梅
【Fリーグ】バルドラール浦安 5-1 立川アスレティックFC(11月17日/ バルドラール浦安アリーナ)
優勝を争うチームに“静かなる闘将”が生まれようとしている。バルドラール浦安のフィクソ・田中晃輝だ。小宮山友祐監督が「対ピヴォへの対応はリーグ屈指」と絶大な信頼を寄せる田中は11月17日、ホームで迎えた立川アスレティックFC戦で今シーズン初ゴールをマークした。「僕はまだまだ」と謙遜する26歳が、一皮剥けようとしている。
パスが来た瞬間に決断した“ノールック”ゴラッソ
立川戦は、浦安にとって攻守のあらゆる狙いがハマった試合だった。
序盤こそスコアを動かせなかったものの、守護神ピレス・イゴールが敵陣まで持ち上がる“GK攻撃”で切り崩した。相手の狙いの逆を突く形で18分に先制点すると、相手のキックオフ直後に猛烈なプレスでボールを奪ってショートカウンターから追加点を挙げ、第1ピリオドに2点をリードして試合を折り返した。
26分に現在リーグ得点ランキングを独走するエース・本石猛裕が追加点をマークすると、28分には染野伸也が今シーズン初ゴールを決め、ホーム、バルドラール浦安アリーナは熱狂に包まれていた。するとその41秒後、会場のボルテージがさらに上がる得点が生まれる。
イゴールが中央から斜め左へ低い弾道の鋭いパスを送ると、ゴール左の角度がない位置の田中は、これをダイレクトで捉えた。そのインパクトとほぼ同時に、ボールはサイドネットへと突き刺さる。田中は両腕を突き出して一瞬の雄叫びを挙げると、集まってきた仲間から勝負を決定づけるゴラッソへの祝福を受けた。
「あの時はゴールを見ていなくて。イゴールからのいいパスが来た瞬間に、ワンタッチで打とうと決めました。いつもはボールが来てからどうしようと考えてしまうところ、すぐに決心ついたことが良かったですね」
そう振り返った後、こう続ける。
「でも、簡単なシュートを外しちゃうんですけどね。それも含めて今の僕です……」
バツが悪そうに苦笑いしたのは、実はこの試合、残り4分の場面で左サイドの菅谷知寿から“どうぞ決めてください”というメッセージ付きのパスを受けながら、中央右でフリーの田中が外してしまったからだった。
「今シーズンはこれまで、もう10点くらいは取れるチャンスがあったのに、ことごとく外してきている。今日ももう1点取れる場面があったので。もっと点を取れよって(笑)」(小宮山監督)
記者会見で指揮官がそんな叱責を飛ばし「シュートの精度は課題」と話していたが、同時に「まず彼に期待しているのは対ピヴォに対してのハードディフェンス」であることも強調していた。「国内屈指だ」という言葉を添えて。
小宮山監督のように相手ピヴォを封じて雄叫びを挙げることもなければ、ゴールを決めて両腕を突き出すガッツポーズを見せてもすぐに引っ込めてしまうような、どこか控えめな田中は、間違いなく今シーズンのブレイク候補生だ。
就活の面接官に見破られたFリーグへの想い
今年で26歳になった田中は、キャリアの分岐点を迎えている。生まれ年は1998年、日本代表でも、浦安でも自他共に認める中軸選手となった石田健太郎とは一つ下の学年。いわゆる“石田世代”の選手である。
今シーズン、ピッチで示すパフォーマンスは文句なしにハイレベルである一方で、ブレイク“候補生”と記したように、ここから先、もう一段階突き抜けた存在になれるかどうかは、本人次第だ。
「次のW杯を迎える時には30歳ですから、そこが一つの区切りです。目指したいけど、1年、1年とやっていく。いつダメになるかもわからない。メンタルスポーツなのに、自分はそこがあんまり強くないので(笑)」
そうはにかむ言動がまた、田中らしい。ただし、彼が歩んだ道のりには、覚悟がある。
関西大学に通いながらシュライカー大阪でプレーしていた田中は、2019-2020シーズンを終えて関西リーグのジャグランカへと移籍。Fリーグのピッチに立ったのはわずか2試合ではあったものの、「就職」を理由に一度、区切りをつけた。しかし、新年度を迎えたシーズン中に思わぬ転機が訪れる。
「フットサルを嫌いになったわけではないから地域リーグで続けていたなかで、大学4年でしたし、遅ればせながら就活を始めました。でも、ある会社の面接官から『まだやりたいんじゃないの?』って言われたんです」
自分の中のくすぶっていた気持ちがにじみ出ていたことを痛感し、「いきなりF1に再挑戦は難しいと思ったので、まずは全日本選手権で見てもらうチャンスがあるF2を目指すことにしました」と、広島エフ・ドゥのセレクションを受け、見事合格。日本最高峰の舞台で戦うために、二度目のチャレンジを始めたのだ。
「当時の村上哲哉監督からは、『1年でこのチームを出たほうがいい』と言われました」
元日本代表でもある指揮官の後押しを受けて、翌シーズンには浦安セグンドへと移籍した。慣れ親しんだ土地を離れ、己を磨くために選んだ“関東”の舞台で頭角を現すと、2022年夏にはトップ昇格を勝ち取り、自身3年ぶりにF1のピッチへと舞い戻った。それでも慢心はなく、「一つずつ、目の前のことを」と、“できること”に徹した。
今はまだ、派遣社員として働きながら「フットサル一本でやりたい気持ちはある」と研鑽を積む段階だ。浦安で結果を残せば、それこそ日本代表や、プロ契約という道も見えてくる。ただし、背伸びはしない。
「もちろん、健太郎くんとか、ポジションを奪ってやるって感覚はありますよ。でも、それぞれの個性はありますから。健太郎くんだって替えが効かない選手ですし。大きなことは、言えないですね(笑)」
F1→地域リーグ→F2→地域リーグ→F1と、一歩ずつ踏み締めるようにして、愚直にステップアップを遂げた男は、どれほど重要な選手になろうとも、一足飛びに駆け上がることを選ばないだろう。
「今は守備が得意だと思っているし、そこを評価されて使ってもらっています。でも攻撃で打開することもできないし、試合状況によっては使ってもらえない。だから安心することはありません。もっと上にはたくさんの選手がいます。守備もできて攻撃もできる選手が使われると思いますから、やっぱり、一つずつやっていくだけです」
足元を見つめ、まずは守備で絶対的な選手となって、いずれ、その先へ──。それはまるで、小宮山監督が並いる猛者を己の体で封じ込めて、日本代表、しかもキャプテンを任されて、気がつけば“闘将”と呼ばれるようになった生き様と重なるようだ。ひたむきで、物腰の柔らかい、静かなる闘将。田中はこの先、どんな未来を描いていくのか。
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