更新日時:2024.12.30
「悔いばかりが残った。でも来季こそは全勝優勝を」。“2位でMVP”の悔恨と、王座奪還への誓い(江口未珂/バルドラール浦安ラス・ボニータス)|シーズンMVP受賞インタビュー
PHOTO BY女子Fリーグ
2024-2025シーズンの女子FリーグMVPは、バルドラール浦安ラス・ボニータスの江口未珂選手が受賞しました。フィクソながらシーズンを通して121本のシュートを放ち、13ゴールを挙げて得点ランキングでも3位に。どんな位置からでもゴールを狙えるキック力と正確な技術が武器であり、トゥーキックのロングシュートを放つ彼女は、仲間から「つま先の魔術師」という“通り名”をつけられるほど。攻守にハイスペックなリーグ屈指のオールラウンダー、江口選手のMVP受賞インタビューをお届けします。
インタビュー・文=伊藤千梅(SAL)
編集=本田好伸(SAL)
※インタビューは2024年12月23日に実施しました
「つま先の魔術師」は気に入っている
──シーズンMVPおめでとうございます!率直な気持ちはいかがですか?
MVPに選ばれたことを当日に知ってびっくりしました。最終節のアップに行く直前、浦安の塩谷竜生代表とすれ違った時に「MVPおめでとう」と言われて。うれしい気持ちと、その時は優勝がなくなっていたので、なんとも言えない気持ちになりました(苦笑)。
──MVPに選ばれることは予想していなかった?
今シーズンは週間ベスト5にも入っていなかったですし、まったく予想していませんでした。MVPは優勝したSWHレディース西宮から選ばれると思っていました。
──今シーズンはフィクソながらシュート数が121本で、これはリーグ1位の数字でした。昨シーズンの72本から増えていますが、「打つ」ことを意識していたのですか?
そうですね。これまでフィクソもアラもピヴォもやってきましたが、日頃からどのポジションで出場してもシュートの意識を強くもつようにしています。
また、今シーズンはリーグが始まる前に「今年こそは得点王を目指そう」と思って取り組んでいたので、自然とゴールを狙うシーンが増えたのかもしれません。
──第8節のフウガドールすみだレディース戦と第15節の西宮戦では、15mほどの距離からトゥーキックで決めていました。その距離からのトゥーキックがすごいな、と。
トゥーキックだとGKとのタイミングをズラすことができるので、前にスペースがあったら、少し距離があってもゴールを狙っています。
フィーリングもありますが、実は全部狙い通りのコースに蹴れているんです。もともと、この形が得意だと思っていたわけではないのですが、昨シーズンの最終節もトゥーキックで15mほどの距離から決めているので、 少しずつ得意な形になっているのかもしれません。
──あの距離から打つ時は、どんなことを考えていますか?
GKもあの距離からは打たないと思うでしょうし、ディフェンスが前にいるとブラインドになって見えにくいと思うので、シュートコースが見えたら打つようにしています。
──チームメイトからは「つま先の魔術師」と呼ばれています。
リーさん(筏井りさ)が名付けてくれて、去年の途中くらいから言われ始めました。今年はけっこうみんなから言われるようになりましたね。気に入っています(笑)。
悔いが残った西宮戦の判断
──5連覇達成とはなりませんでした。振り返ってどんなシーズンでしたか?
序盤で敗戦したこともあり、苦しいシーズンになりました。選手やスタッフの間で、練習時間を使ってまで、これまではしてこなかったような話し合いを重ねながら「どうしたら勝てるのか」を模索してきました。
最後に優勝して「あんなこともあったね」と笑って終わりたいと思っていましたが、負けてはいけない相手や、引き分けてはいけない相手に、勝ち切ることができませんでした。
──第15節で西宮との対決に4-5で敗れたことで優勝の可能性がなくなりました。
あの試合は、“決勝戦”だと思って戦いました。西宮は背後を使うのがうまいので、その強みを消すために、リーグ戦で最初に対戦した試合では、引いた状態からカウンターを狙いにいきました。ただ、2回目の対戦となった上位リーグでは、圧倒してやるという気持ちで「前から行くぞ」と、プレスをかけにいく戦い方に変更しました。
でも、どう戦うかは本当に最後までヨネさん(米川正夫監督)も迷っていたと思います。
──米川監督は、試合後の記者会見で「戦い方は試合の日の朝に決めた」と。
そうですね。練習でも前からプレッシャーをかけるメニューに時間を使っていましたし、4-3でリードしている状況まではいい流れがつくれていたと思います。
ただ、自分たちが冷静になれませんでした。リードしていたそのタイミングで、ヨネさんから「まだいけるか?」と聞かれて、みんなが「いけます!」と答えたのですが、第1ピリオドから激しくプレスにいっていたので、第2ピリオドでは疲れもあったと思います。
あの場面でプレスラインを下げることも、一つの選択肢としてもっておくべきでした。誰か1人でも冷静な判断ができていたら、それを自分ができていたら、その後の展開は違ったかもしれません。
試合中、ヨネさんが選手に問いかけることは滅多にありません。選手たちを信じてこちらに聞いてくれたと思いますし、それに応えたかったですね。
──シーズン最後に全日本選手権がありますが、チームに必要なことは?
上位リーグ最終節のアルコ神戸戦では、選手権に向けて今シーズン初めてセットを変えたり、クワトロをベースでやったりとチャレンジをしました。いろいろな選手が出ることによって、チームとしてのバリエーションが増えて、いい刺激が生まれていると思います。また新たな気持ちで、仲間をもっと信じて、誰が出ても勝てるチームづくりをしたいです。
“コーティング”でも日本一に
──江口選手は仕事でも“日本一”になったことがあると聞きましたが、どんなお仕事をしているのですか?
株式会社ENEOSウイングという会社に所属していて、普段はガソリンスタンドで車の整備を行っています。スタンド内ではいろいろな仕事がありますが、自分がメインでやっているのは、コーティングと手洗い洗車です。
社内でコーティングのコンテストがあって、うちの会社は全国に店舗を抱えているので県予選や関東予選を勝ち上がって全国大会に行くのですが、2020年に優勝しました。
──全国優勝はすごいですね。次の目標もあるのでしょうか?
社内の大会は優勝したので出場できないのですが、今は社外のコーティングの全日本選手権のような大会にも挑戦しています。今年は千葉県で優勝して全国大会に出場しましたが、決勝トーナメントには進めませんでした。いずれ、その大会でも優勝したいです。
──いつからそのお仕事に?
大学生の時にガソリンスタンドでアルバイトをしていて、そこでコーティングの仕事を知りました。コーティングの作業や工程、お客さんが、キレイになった車を見て喜んでくれることがうれしくて、その時に資格を取りました。
神戸に移籍するタイミングで別の会社に就職したのですが、当時のチームは週2回のトレーニングだったので、練習がない日に仕事が終わってからまたガソリンスタンドでアルバイトしようと思って始めたのが、今の会社です。
そしたら、すごくコーティングができる人が来たと話題になってしまって(笑)。フットサル日本代表にも選ばれたことから「こんな人がバイトで入ってきた」と社長まで話が届いて、「アスリート社員にしよう」と言ってくださったので、この会社に就職することになりました。今は、海外遠征に行く時でも出勤扱いにしてもらうなど支えてもらっています。
──お仕事をする上で大切にしていることは?
マニュアル通りにやってもキレイにならないことがあるので、そこは気を遣って、お値段以上のサービスができるようにとは思っています。お客様が喜んでいる顔を見たり「こんなにキレイになるんだ」と思ってもらえたりするとうれしいですね。
──仕事とフットサルとの共通点はありますか?
それは考えたことがありませんでした(笑)。でも、今のお店はけっこう忙しくて、次から次へと洗車しないといけません。12月はコーティングの繁忙期なので、1日10台くらいになることもあります。自分がメインでさばいているのですが、いろいろな人と連携を取らないと時間内に車を返せなくなるので、そういった面でチームワークは大事ですね。
なので、店舗内でコミュニケーションはすごく取ります。指示をしたり、聞いたりしながら作業を進めるところは、フットサルの感覚に近い。お客様の満足のために、連携しながら仕上げていくのは、フットサルでゴールを目指す作業と似ているかもしれません。
──仕事は楽しいですか?
楽しいです。真夏は暑く、真冬は寒いので大変ですが、キレイにすることが好きなので、汚れている車がキレイになった時はうれしいですし、全然嫌じゃないですね。
アジアを勝ち抜きW杯へ
──2024年を振り返っていかがでしたか?
本当に一瞬で終わったなと思いました(笑)。仕事では今年の10月に浦安の店舗に転勤になってから、2カ月が瞬く間に過ぎ去りました。フットサルも、思い返せばいろいろと苦しい時期もありましたが、今思えば短く感じます。あっという間の1年だったと感じます。
──2025年はついに「W杯イヤー」ですね。
まずはアジアでの予選があるので、そこで勝たないとW杯には出場できません。そこに向けて、個人としてもっと意識を変えていかないといけないと思います。
今シーズンは、思い返すといくつも悔いが残っています。優勝できなかったこと、熱くなっている時こそ冷静になること。自分の行動や発言からいい選択をするために、辛かったことこそ思い返して、一つひとつのことをかみ締めながらやっていきたいです。
──では、2025年の抱負をお願いします。
2025年、来シーズンはリーグ優勝します。負けるのはやっぱり嫌ですし、今シーズン狙っていた「全勝優勝」を目標にやっていきたいと思います。
それと日本代表では、アジアカップを優勝して、W杯のグループリーグも突破して、決勝トーナメントには絶対に行きたいですね。そんなに簡単にはいかないかもしれないですが、世界のフットサルの舞台で、日本フットサルの良さを伝えたいです。
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