【Ｆリーグ】湘南ベルマーレ 6－3 ヴォスクオーレ仙台（1月5日／小田原アリーナ）

新年早々の1月5日、用意された舞台と寄せられた期待に応える“No.10”のゴールに、小田原アリーナのスタンドが熱狂した。

第1ピリオドの12分15秒、1－1に追いつかれた場面でこの日初めてピッチに立ったのは、今シーズン限りでのＦリーグ引退を発表した菊池大介だった。

身につけていたビブスを交代選手に渡し、左アラのポジションに位置取ってからネットを揺らすまでの時間は、わずか12秒。ピッチに立つ全員が絡み、瞬きする間の判断で相手GKの股を射抜いた決勝点は、「菊池大介らしさ」と「フットサルらしさ」を兼ね備えた、完璧な1点だった。

Ｊリーグでは9年、Ｆリーグでは2年の計11年身につけたベルマーレのエンブレムを胸に、最後のホームゲームで最高の輝きを放った“湘南乃星”が、胸の内を語った。

試合結果・順位はこちら

現役引退は「本当に苦しい決断」

──今日は第1ピリオドの12分に初めてピッチに立ち、わずか12秒で勝ち越し点を決めました。改めてご自身のゴールを振り返って。

現役引退を発表した直後、そして最後のホームゲームだったので、特別な思いで今日を迎えました。この2年間、小田原アリーナでゴールできたことがなかったので、なんとか決めたいという気持ちはありましたが、固くなりすぎず平常心でやろうとピッチに立ちました。

そうしたら、味方がいい形でパスをつないでくれてファーストタッチでボールをいい位置に置けてタイミングずらして、うまくシュートを打つことができました。自然にああいうプレーができたのは、試合の入り方が良かったからだと思います。

──タイミングよく動き出し、味方のパスワークを生かしたフットサルの良さもぎゅっと詰まったようなゴールでした。あのような動きができたのは「Ｆリーガー・菊池大介」が染み付き始めていた証拠とも言えるのでは？

いや、まだまだですけど……。1年目や今シーズンの初めと比べても考えなくても自然にプレーできる時間は少しづつ増えてきた実感をもってますし、練習でやっていることが、試合でもうまく発揮できることが増えていることについてはすごく手応えを感じています。

一方で、今日もそうですがうまくいかなかったり、「もうちょっとこうしていればな」とあとから反省したりするプレーもたくさんあって、1人のフットサル選手として自立していないし、まだまだだなと感じます。セレモニーでも話した通り、それが辞める理由でもあります。

この先、自分が「フットサル選手として成功した姿」を描いてみた時に、第一戦でやり続けてる選手を差し置いて短い時間で到達するのは、絶対に難しい。だけど、そこを目指すために長い期間をかけてこのフットサルに本気で向き合い続けることは、自分の年齢や今後の人生、家族のことを考えると、それも難しい。続けていればやれる自信もあるし楽しいし、本当に苦しい決断ではあったんですが、熟考した結果、今やりきって終わろうという判断になりました。

──「サッカーとフットサルは全然違うスポーツ」だとよく聞きますが、実際にプレーをしてみてどんな違いや難しさを感じましたか。

言語化しようとすると、難しいんですよね……。本当に一瞬一瞬の駆け引きが得点や失点に直結するところですかね。サッカーも同じじゃんと言われれば、そういうところもあるんですけど、たとえばセットプレーの駆け引きも、0.0何秒くらいの動きや判断で「世界が変わる」というか……。

同じ「フットボール」ではあるので自分がやってきた技術やフィジカルは通用するし、むしろ「僕が一番だ」というくらいの気持ちでやってきましたけど、いろんな決まりごとを覚えて、どこで何を使うも考えてやらないといけないのが楽しさでもあり、難しさでもありました。

──菊池選手が思い描いていた「フットサル選手としての成功」とは、具体的にどんな姿だったのでしょうか。

わかりやすいところで言えば、日本代表になってワールドカップに出場すること。僕自身、やるからには本気でその舞台を目指してこの世界に足を踏み入れました。同時に踏み入れたからこそ3年、4年でそこまで到達することはできないなと感じました。

──監督は先ほど記者会見で「あと1年。3年目まで続けていれば、いい選手になる」と話をしていましたが……。

今よりもギアをまた上げて自分の全てをフットサルに注げば……いい選手にというのはあるかもしれません。でも、未来のことはわからないですからね。監督をはじめ、見にきてくださるファン・サポーターさんもあ「もうちょっとやればいいのに」とか、「もったない」と言ってくれる方もいるんですけど、自分としてもこの2年で感じたことがあるなかで、この決断に至っています。なので決めたからには絶対に後悔はしたくないですし、最後にやり切ってタイトルを取って終れば、僕自身はすごく気持ちよく辞めれるかなと思ってます。

努力をしている選手たちが、報われるリーグになってほしい

──改めて2年間のチャレンジについての総括、フットサルという競技への思いについて聞かせてください。

2022シーズンまでＪリーグのFC岐阜でプレーをしていて、来シーズンの契約がないと言われてからも当初はサッカーを続けるつもりで、移籍先を探すためにいろんなクラブや関係者の方とお話をさせてもらっていました。それは、次の年のことだけではなく、自分が今後何をしていきたいのか、どういうキャリアを歩んでいきたいのかということもですね。そのなかでやはり一番大きかったのが、自分がプロ1年目からあわせて9年間プレーした、ベルマールというクラブの存在でした。

「どんな形でもベルマーレで何かしたい、チャレンジができないか」という思いがあるなかで、奇遇にも僕は小学生の頃に少しだけフットサルをやっていた時期があって、在籍していた頃にもＦリーグを見にきたこともありました。そこから「これはほかの誰にもできない、僕にしかできないチャレンジになるのではないか」と話が進み、たくさんの方々の協力のおかげで、“Ｆリーグへの挑戦”が実現する形になりました。

振り返ると、この2年間は毎日が本当に充実していましたね。

初めて練習参加をさせてもらった日も「サッカーとフットサルって全く違うスポーツだな」というのを早々に思い知らされました。やればやるほど、自分が今までやってきたものが崩れていって「ここでは何もできないんだな」とショックを受けたところもありましたけど逆に「このチャレンジを成功させたい」と、自分の負けず嫌いなところに火が付きました。

Ｊリーグに比べてもＦリーグはまだまだ盛り上がっているとは言えない状況です。なぜこんなに魅力的で価値のあるスポーツなのに、お客さんが少ないのか。アジアカップで優勝をしてもメディアに取り上げられないのか。自分に少しでもなにかできることはないのか。自分なりにいろんなことを考えてアクションを起こしたつもりですけど、自分の力だけですぐに大きく状況を変えられるほど、簡単なものでもありません。

そういったところも含めて、たった2年で辞める選択を取ることになるのはすごく悔しいですし、申し訳ない気持ちもあります。

この2年間一緒にトレーニングをして試合を戦ってきて、このチームの仲間がどれだけ頑張ってきているかを、僕は見てきました。これだけ努力をしている選手たちが報われるリーグになってほしい。僕ごときが言っていいことではないかもしれないし、少し上から目線に思われてしまうかもしれないですけど、Ｆリーグを広めるために各クラブをはじめできることは、まだまだたくさんあるはずです。

こうして引退はしますけど、これからもベルマーレフットサルクラブのことは応援し続けますし、もちろんなにか協力できることがあれば、貢献できたらうれしいです。

みなさんがいなかったら今の自分はなかった

──今後の道や、フットサル選手を引退してからの目標は？

先ほども話したように、Ｆリーグやベルマーレフットサラクラブのために何かしらの形で関わっていければと思っていますし、今もＪリーグの方のベルマーレのスタッフとしても働いているので、両軸で自分に何ができるのかを考えながら、もう少し具体的に次の道を決めたいなと思います。

選手を辞めて次の道に進んでも必ず誰か見てくれてるという気持ちで、本気で取り組んでいきたいです。

──最後に、ベルマーレというクラブに関わる方、ファン・サポーターに向けて伝えたいことは？

ベルマーレは「菊池大介」という人間を形成してくれたクラブです。それだけの出会い、別れ、経験がこのクラブには詰まっています。

そしてベルマーレのファン・サポーターさんは、競技は違いますけど「お帰り」と言ってくれたり、「新しいチャレンジも応援してるよ」と言ってくださったり、今日の試合の前にも「最後見に行くから活躍してね」と温かい声をかけてくれました。本当に愛されていたんだなと、改めて実感しましたし、みなさんがいなかったら今の自分はなかったです。

サッカーでもフットサルでも悔しいことのほうがたくさんあって、今日、ゴールという目に見えるもので感謝の思いをみなさんに届けられたのは、ここまで選手を続けてきた甲斐があったなと思います。伊久間監督からも課せられた「今シーズンのノルマは3点」というのも達成できましたしね。

自分を信じてやってきて良かった。ありがとうございました。

試合結果・順位はこちら