更新日時:2025.03.02
オフィシャルカメラマン・勝又寛晃が迎えた人生最良の日「“18年モノ”になってしまった浦安ワインを開けます」【浦安/優勝インタビュー】
PHOTO BY伊藤千梅
【Fリーグ】バルドラール浦安 5-5 しながわシティ(2月16日/パークアリーナ小牧)
2月16日、Fリーグ2024-2025 ディビジョン1 ファイナルシーズンの小牧ラウンド(第27節/最終節)が行われ、レギュラーシーズン終了時点で首位・バルドラール浦安と2位・しながわシティが対戦。5-5で引き分け、悲願の初優勝を果たした。
ピッチサイドで、18年目にして訪れた歓喜の瞬間を、誰よりも深い愛情を抱きながらシャッターを切る人物がいた。浦安のオフィシャルカメラマンを務める勝又寛晃さんだ。
前身クラブのプレデター時代にフットサルと出会い、このクラブにずっと寄り添ってきた。華々しかった開幕当初も、経営危機が訪れた時も、勝又さんは変わらずにそばにいた。
試合後には赤の優勝Tシャツを着て、選手やスタッフと一緒に集合写真に収まった、“チームの一員”に初優勝の感想を聞いた。
浦安を撮るのはライフワーク
──勝又さん、おめでとうございます!
ありがとうございます。僕、カメラマンやってるうちに“この日”は来ないかなって、ちょっと思ってて……。でも来たので、うれしいですね……。
──バルドラール浦安のオフィシャルカメラマンになったのはいつからですか?
2000年です。チームができて3年目、私自身は21、22歳でした。スーパーリーグという、プライベートリーグが立ち上がるということで、「撮ってみない?」と塩谷(竜生)さん、浅野(清春)さんに声をかけていただいて。もともとのきっかけは、プレデターの選手だった岡山孝介さん(現フウガドールすみだ監督)でした。
──当時のフットサルは今よりもずっとマイナースポーツでしたよね。
僕もフットサルについて詳しくは知りませんでした。ただ、僕の記憶が確かならフットサルマガジンピヴォ!さんがあって、雑誌があるんだというのと、組織的に運営されていてるクラブがあって、「お兄ちゃんが楽しくやっているというスポーツ」とは一線を画していて、このスポーツは来るんじゃないかと感じたのを覚えています。
──プレデター時代に印象に残っている選手は?
ミスター・プレデターこと岩本昌樹さんですね。ほとんどフル出場しているんじゃないかというぐらい、長い時間プレーしているんですが、スピードもキレも落ちないのはすごかったですね。40代の引退間際になってもYo-Yoテスト(持久力テスト)もチームで一、二番を争うぐらい早かったそうです。
──2007年、そのプレデターが「バルドラール浦安」となってFリーグに参戦します。岩本昌樹、市原誉昭、藤井健太、川原永光、稲田祐介、小宮山友祐、稲葉洸太郎、高橋健介、中島孝……。まさにオールスターチームでした。
浦安は日本代表がたくさんいたので、初年度は残念ながら優勝できなかったんですけど、これは普通に毎年優勝争いするチームになるんだろうなと。ところが、っていう(笑)。
──1、2年目は2位。その後は徐々に優勝争いから遠ざかっていきました。
うちは夜9時からという練習環境で、みんな昼間は仕事をしていて。これは名古屋オーシャンズには一生追いつけないんじゃないかと。
──若手主体のチームに切り替わっていって、中位にいることも多かったですよね。
そうですね。(石田)健太郎くんが入った9年前が過渡期というか、岩本さん、稲葉さんなど、お客さんを呼べる選手がいなくなって、なかなか勝てなくなって。
──そんな苦しい時代、勝又さんはどんな想いで写真を撮っていましたか?
僕は、働きながらやっているところにフォーカスというか、環境は難しくても上を目指しているところに焦点を当てようと。勝っても負けても、一生懸命やっている姿を探すようにしていました。負けた試合でも、走っているところか、体を投げ出しているところを撮るようにしていましたね。
──勝又さんにとって「バルドラール浦安を撮る」のは、どういうものですか?
簡単に言うと、ライフワークなんでしょうね。定点観測というか。僕は天才肌ですごい写真を撮るタイプじゃないので、浦安を軸にして撮り続けていけば、自分の人生が終わる頃には何かすごいものが残せるんじゃないかなって。
でも、何よりもチームが魅力的だったから、撮り続けたいと思ったんですよね。塩谷さんがトップだけじゃなくて育成組織や女子など、あらゆるカテゴリーに投資をしていて、すごく良いクラブだなと。
人生最良の1日でした
──今シーズンは序盤から首位に立って、「もしかしたら」という期待感はありましたか?
うっすら……すごくうっすらですね。どこのチームも何回も名古屋にひっくり返されてきた歴史があるので、そんな簡単なものじゃないだろうとは思っていました。
──ただ、名古屋が勝ち点を伸ばせないなかで、浦安が順調に勝ち点を積み上げていきました。
小宮山さん体制が5年目で成熟しきっていたタイミングと、名古屋さんが新しい監督になってチームをつくっていたタイミングが重なった。それでも、最後の追い上げは、「さすが名古屋」という感じでしたね。
──どのあたりで「優勝できそう」と思ったのでしょうか。
レギュラーシーズンまでは2位以下との勝ち点差が開いていたので、下手をしたらファイナルシーズンも最後までもつれることなく決まるんじゃないかなんて……。そんな簡単にはいかなかったですね。
──岸和田ラウンドで1-5で町田に敗れて、最終盤の小牧ラウンドで名古屋、しながわシティとの直接対決に臨むことになりました。
正直、これは名古屋の流れなのかなと。ただ、浦安の選手たちはタフでしたね。小宮山さんは5年前の就任当初から「名古屋を倒す」ということを強調し続けてきたんですよね。やっぱり現役時代に超えられなかったのが悔しかったんだと思います。そんな小宮山さんのメンタリティが染み込んでいたんだと思います。
──写真を撮りながら涙が込み上げてくることは?
いや、試合中は面白かったのもあって、夢中で撮ってて、「こりゃ泣かないな」と思ってたんですよ。逆に(土曜日の)名古屋戦のほうが途中で泣きそうになりました(笑)。「ついに名古屋に勝てる」って。今日は、とにかく何が必要かを考えて冷静だったんですけど、仕事が終わった後がヤバかったですね。表彰式を撮り終わって、いろいろな人に声をかけてもらったり、ハグをしたりすると、涙が出てきちゃいました。
──イチフォトグラファーの領域を超えて、チームの一員ですよね。
僕がどこにいても、良い意味で気にしないで撮らしてもらえる。こうやって受け入れてもらえるのは、本当にありがたいですね。
──優勝Tシャツも着て、集合写真にも入ってましたね。
はい。スタッフの方が「入って」と言ってくださって、しかもカメラマンの仲間が撮ってくれて。本当に幸せな時間でした。
──“人生最良の一日”ですか?
間違いないです。我が人生に悔いなし(笑)。
──ずっと続けてきたから、こんな場面に立ち会えた。
僕以上に選手たちがすごいですよね。自分の時間を犠牲にしてフットサルに時間を捧げて、怪我をしてリハビリして戻ってきた選手もいれば、セグンドに落ちて這い上がってきた選手もいる。そんな苦労が報われてよかったなと。
──お祝いはするんですか?
Fリーグ開幕前にワインをつくって、関係者に配られて、僕も1本いただいたんです。「バルドラール浦安」のラベルが貼られているもので、優勝したら開けようと思って。2、3年後に飲めるかなと思ったら、あれ、あれ、あれという間に18年も熟成されてしまいました(笑)。そのワインを飲もうかなと思っています。
──「バルドラール浦安を撮る」というライフワークはいつまで?
これは困っちゃいますね。“やりきった感”が出ちゃう。ただ、やっぱり、すごいうれしい瞬間なので、もう一度味わいたいですし。僕と同じようにフットサルを好きで撮ってくれるカメラマンさんがいたら譲りたいとは思っています。
──勝又さんは浦安だけじゃなく、日本代表も含めて、ずっとフットサルを取り続けてますよね。
商売としては美味しいわけじゃないないですけど、人生ってお金を稼ぐことだけじゃないとも思っているので、僕なんかは本当にこれが楽しみで生きているところもあるので。
──もう仕事っていうものを超えてますね。
うん、生きがいですね。
文=北健一郎
1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経て、フリーライターとしての活動を始める。2004年、学生時代に日本人初のセリエAプレーヤー、相根澄さんのインタビューに同行したことでフットサルの世界に興味をもつ。これまでに手がけたフットサル関連書籍は10冊以上。04年、08年、12年とフットサルW杯を現地取材。唯一のフットサル専門誌だったフットサルナビの休刊を受けて、見る人・蹴る人・着る人をつなぐ新たなフットサルメディア「SAL」を立ち上げる。
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