更新日時:2025.02.28
稲葉洸太郎に師事した23歳ドリブラー、Fリーグ1年目の物語。帝京長岡出身・矢尾板岳斗が切り開く日本代表の夢【F1第27節|コメント記事/大阪vs横浜】
PHOTO BY本田好伸、伊藤千梅
【Fリーグ】シュライカー大阪 3-0 Y.S.C.C.横浜(2月15日/パークアリーナ小牧)
2月15日、Fリーグ2024-2025 ディビジョン1 ファイナルシーズンの小牧ラウンド(第26節)が行われ、シュライカー大阪はY.S.C.C.横浜と対戦。横浜は0-3で敗戦を喫した。
試合には敗れたものの、左サイドで異彩を放つ横浜の選手に、筆者は釘付けになった。165cmの小さな体から繰り出されるスピードのあるドリブルは圧倒的な力を示していた。
彼の名前は矢尾板岳斗。2002年生まれの23歳だ。帝京長岡高校と中央大学でのサッカーキャリアを経てフットサルに転向し、2024-2025シーズンより横浜に加入した。Fリーグ特別指定選手として登録され、トップチームとセカンドチームを行き来する日々だ。
取材・文=溝口優輝(ウニベルシタ)
編集=本田好伸
2人の監督に学んだフットサル1年目
矢尾板の “フットサル1年目”は必ずしも順調なスタートではなかった。
「トップチームはフットサルをずっとやってきた選手が多いので、監督の要求にすぐ対応できる選手が多いんですが、自分はパッと言われても始めたばかりなので難しくて……」
「フットサルはコートの大きさがサッカーとは全然違って、スピードの使い分けが難しく、(稲葉洸太郎)監督には、練習の時からすごく怒られることが多かったですね(苦笑)」
帝京長岡時代、全日本U-18フットサル大会で全国制覇した経験があるものの、フットサルと本格的に向き合うのは人生で初めてのこと。戸惑いも多かった。
元々、スピードのあるドリブルが売りであり、スキルの高さを買われていた。自身もその持ち味を生かして早く得点に絡みたいと、少しの焦りもあった。しかし、フットサルはサッカーとは異なり、1枚目の選手を交わしても即座に2枚目がカバーリングに来るため、勝手が違う。なかなか本来の力を発揮できずにいた。
「でも、セカンドチームでは、井原(智)監督からプレーの細かいところまで教えてもらって、この1年間トップチームと行き来するなかでフットサルの理解度が高まりました」
セカンドチームで基礎を習得し、トップチームの高レベルな舞台で経験を積んでいく。そんなサイクルを地道にこなしながら、機会を待った。そして、その時が訪れる。
ファイナルシーズン小牧ラウンドのバサジィ大分戦。2得点を挙げる大活躍を見せたのだ。
1点目はボールカットから味方に預けて、ゴール前でこぼれ球を押し込んだ先制点。2点目は右サイドの位置で味方からのパスに反応して右足ダイレクトでネットに突き刺した。
Fリーグ初得点からいきなり2ゴールを奪って大きな存在感を示した。
キーワードは「スピードの使い分け」
翌日、大阪戦ではチームとしても個人としてもゴールこそ奪えなかったものの、自信に満ち溢れる表情で切れ味鋭いドリブルを披露する矢尾板の姿がピッチにあった。
そんなプレーに魅せられて、試合後に矢尾板に話を聞いた。
「この1年フットサルを続けてきて、ボールロストが減ったなと個人的に思いますし、スピードの使い分けもできるようになってきたと思います」
まだ納得したわけではないというように、わずかに苦笑いを浮かべながらそう話す。実際、フットサルへの適応はできてきたものの、トップチームでの出場時間はまだ少ない。
それでも、この1年間の練習は、確実に彼の血肉となっていた。
「まあ、練習の中でとにかくひたすら怒られてきたので(苦笑)」
状況に応じて「100」のスピードを出すのか、それとも「80」なのか「60」なのか。矢尾板が何度も口に出す「スピードの使い分け」の重要性を稲葉監督から特に学んできた。
現役時代に2度のワールドカップを経験し、日本代表のW杯最多得点記録をもつ稲葉監督は、日本屈指のドリブラーとして異彩を放った選手である。
自身が歩んだキャリアに、矢尾板を重ねる部分もあるのではないか。卓越したスキルを武器にもつ選手だからこそ、より一層、厳しい目で矢尾板を指導してきたのだろう。
「稲葉さんからは『武器はもっているんだけど、守備の部分やボールの失い方がちょっと悪かったりして使いづらい』と、はっきりと言われてきました。これからはそこをもっと意識して、Fリーグや日本代表などトップで戦えるようになっていきたい」
稲葉監督の薫陶を受けた矢尾板は、そのメンタリティも受け継いでいる。
明確に「日本代表」を口にし、その夢に向かって研鑽を積む覚悟だ。そんな矢尾板が常に大事にしている格言は、「勝負の神様は細部に宿る」だという。
「例えば、ゴミを拾って運を貯めるじゃないですけど、そういうことも毎日やっています。挨拶とかもそう。見えないところでも善い行いを心がけています」
経験を積み、徳を積み、日々進化を遂げ、ピッチで圧倒的な輝きを放つドリブラー。23歳の若きスピードスターの物語はまだ、始まったばかりだ。
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