更新日時:2025.03.31
27歳での引退は道半ばにあらず。奥直仁が過ごした、大分での忘れ得ぬ1年【全日本選手権 準々決勝|インタビュー/大分】
PHOTO BY伊藤千梅
【第30回全日本選手権|準々決勝】名古屋オーシャンズ 5-4 バサジィ大分(3月20日/駒沢オリンピック公園総合運動場 屋内球技場)
3月20日、駒沢オリンピック公園総合運動場 屋内球技場でJFA 第30回全日本フットサル選手権大会の準々決勝が行われ、名古屋オーシャンズとバサジィ大分が対戦。大分は4-5で敗れ、惜しくもベスト8敗退となった。
今シーズン限りでの現役引退を表明していた奥直仁が、キャリア最後の大会となったこの全日本でも輝きを放った。別府で行われた1回戦のアグレミーナ浜松戦では決勝点を含む2ゴールで勝利に貢献。2回戦の湘南ベルマーレ戦でもまたも決勝ゴールを決め、ベスト8進出の立役者となった。
迎えた駒沢での準々決勝。第1ピリオド19分、前回王者・名古屋相手に一時同点に追いつくゴールを決め3戦連発とすると、第2ピリオド5分、今度は右奥で上原拓也からの縦パスを引き出し、ファーへ送って陣川凌のゴールをアシスト。負傷者続出によりFPの人数が限られていた大分のなかで、チームを最後までけん引してみせた。試合後、現役ラストゲームを終えた奥に話を聞いた。
取材・文=福田悠
「やりきった」という気持ちが強いです
──お疲れ様でした。この準々決勝が現役ラストゲームとなりましたが、今の率直なお気持ちを聞かせてください。
準決勝に進めずとても悔しいです。ただ同時に、僕個人としては「やりきった」という気持ちが強いです。これまで支えてくださった方々に改めて感謝したいと思います。
──リーグ戦後半以降、今日の試合も含めて素晴らしいプレーを披露していたように思います。第三者としては奥選手のプレーがまだまだ観ていたいなとも思ってしまうのですが、引退の決め手は何だったのでしょうか?
決め手……難しいですね。元々自分のなかでは、サッカーをやっていた頃から「30歳までには引退しよう」と決めていて。今季がF1で1年目だったんですけど、シーズン序盤はなかなか結果が出せずに難しい時期もありました。終盤に入ってからようやく少し結果を出せたんですけど、じゃあここから日本代表を目指したり、次のワールドカップを目指すということを考えた時に、「自分はフットサルに対してそれほどの情熱を注げるのか」というと、そこまでの自信がもてなかったんです。体力的にはもちろんまだまだ動けます。ただ、先を見据えた時に、気持ちの部分で難しいのかなと。
──なるほど。そうなると、F1に挑戦した今シーズンは相当な強い覚悟で臨んでいたのですね。
そうですね。「この1年、勝負」と思って大分に来ました。最初は試合のメンバーにもほとんど絡めていなかったのでかなり苦しかったですが、とにかくこの1年、最後までやりきって結果を出そうと。それは自分だけのためではなくて、例えば僕がF1初挑戦で、フットサル歴も2年目というところから結果を残せば、昨シーズン所属したヴィンセドール白山の選手や、F2から上を目指している選手たちに「俺にもできる!」って思ってもらえるんじゃないかと思って。そんな思いもあったので、最後まで諦めることなく取り組むことが出来ました。
──そこが活躍の原動力だったのですね。引退を決めたのはいつ頃でしたか?
去年の9月から10月にかけてです。
──夏の中断期間が明けてすぐの頃なので、かなり早い時期に決断していたのですね。ただ、その後のリーグ終盤から選手権にかけての奮闘ぶりは鬼気迫るものがありました。
そうですね。それはもう、バサジィ大分の一員として3月まで自分の任務を全うしようと決めていたので。フットサルとの向き合い方であったりチームでの仕事に対して、気持ちが切れてしまうことは一切なかったです。
絶対活躍して恩返ししようと思っていました
──大分に加入されたのは、やはりプロの環境でプレーしたかったということが理由だったのでしょうか?
はい、それが一番大きかったです。「一度フットサルに集中できる環境に身を置いてチャレンジしたい」という気持ちは強かったので。お陰様で1年間、素晴らしい環境でプレーさせていただくことができました。監督をはじめ、スタッフの方々やチームメートも本当にいろいろアドバイスをくれて、それを参考にしながら、時には「見返してやろう」という気持ちを持って努力してきたことが、年が明けてからようやく結果につながってくれたのかなと思っています。自分の約20年間のフットボール人生のなかで、これほど1年の初めと終わりで成長を実感できた年は今までなかったので、プロの舞台で一緒に仕事をさせていただいた方々には本当に感謝しています。
──それを聞いてしまうと尚更、引退の決断は思い切ったものだなと感じますが、ご自身のSNSでは引退発表の際に「この決断に対して後悔や未練は一切ありません」と記していらっしゃいましたね。
はい。自分の率直な気持ちとして、あのように伝えさせていただきました。実際に今日の試合を終えてみて、もちろん「勝ちたかった」という悔しい気持ちが一番大きいですが、最初にお伝えしたように「やりきったな!」という充実感もすごくあって。それだけ、この1年間本当にフットサルに打ち込めたんだなと、今改めて感じています。
──27歳での決断ですが、奥選手のなかでは完全燃焼しての引退なのですね。そうなると、今後はフットサルやサッカーとは関係のないお仕事に就かれるのでしょうか?
4月からは地元・福井県の隣の石川県にある製薬メーカーに勤めることになりました。引退を決めてから自分なりにセカンドキャリアに向けて動き出していて、いくつかの選択肢があったなかでご縁があって、という形です。自分としても興味のある分野だったので、トライしてみようと決めました。
──そうでしたか。第二の人生もぜひ充実させてくださいね!最後に、ご自身の挑戦を見届けてくれたバサジィ大分サポーターの皆さんにメッセージをお願いします。
サポーターの皆様には1年間支えてもらい、本当に感謝しかありません。勝利を届けられることが少ないシーズンだったと思いますが、どんな時も変わらない熱い声援を送ってもらいました。
自分がサポーターの方とのやり取りで印象に残っているのが、シーズン中盤くらいのリーグ戦で自分が全然良いプレーができなかった試合のあとに、とあるサポーターの方から“今は試合に少しでも出て経験を積んで、一歩ずつ良くなっていけばいいから”と言っていただいたことです。その時のその言葉が自分のなかですごく刺さって救われたというか、奮い立たされました。期待して応援してくださっているサポーターの方に、絶対活躍して恩返ししようと思ったのが印象に残っています。
また、全日本選手権の別府ラウンド湘南ベルマーレ戦では、試合後に泣いて喜んでくれているサポーターの方もいて……。それを見たときに、「これが見たくて!こうやって一緒に喜びを分かち合いたくてフットサルをやってきたんだ!」と改めて思いました。そうやって自分の感情が動く瞬間を、サポーターのみなさんにたくさん創っていただいたと思っています。本当に感謝しています。最後まで応援していただき、ありがとうございました。
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2025.03.31