更新日時:2025.04.09
運命を変えた同点弾。エース・成田美光が切り開いた、輝く未来への道|全日本の爪痕
PHOTO BY伊藤千梅
カテゴリーの垣根を越え日本一の座を争う、第30回全日本フットサル選手権。
クラブ史上初のリーグ優勝を果たしたバルドラール浦安相手に、致命傷を負わせる一撃を放ったのは、最前線で一際存在感を放つペスカドーラ町田アスピランチのエース・成田美光だった。
「美しく光る」と書いて「よしてる」。
Fリーグデビュー前にして、日本フットサル史に名を刻んだ逸材に焦点を当てる。
“うれしかった”の一言に尽きる、王者撃破
前代未聞の“ジャイアントキリング”が、大きな話題を呼んだ。
去る2月23日、アダストリアみとアリーナで行われた、浦安とアスピランチの一戦。
町田アスピランチは立ち上がりから堅い守備で攻撃を次々を跳ね返す中、11分に先制点を奪われた直後。浦安がGK攻撃を仕掛けた一瞬の隙を狙い、成田が巧みなインターセプトからロングシュートを放って無人のネットを揺らすと、応援席からは“黄色い歓声”が沸き上がった。
この同点弾をきっかけに勢いと冷静さの両方が増したアスピランチは、26分の木村颯也のゴールで逆転。1点リードを守り切り、リーグ王者を下してベスト8進出を叶えた。
「ゲーム自体は、9:1の割合で浦安のゲームでしたし、100回やって1回勝てるか勝てないかの差がありました。それでも、みんなが同じ方向を向いてやるべきことをやれた結果、自分たちで勝利を勝ち取ることができた。本当に“うれしかった”の一言に尽きます」
そうはにかむ21歳の笑顔はどこかあどけなさが残るものの、身長180cm越えの恵まれた体格とピッチ上でのプレーを一目見れば、この試合での活躍がただの“ラッキーチャンス”ではなかったことが伺える。
3月30日に駒沢オリンピック屋内球技場で行われた準々決勝でも、アスピランチはF1クラブのボルクバレット北九州に善戦。セカンドセットのピヴォで出場した成田は、GKの石井遥斗からのロングスローをほぼ百発百中で収め、ゴールを脅かす。際立ったのは、背負った相手のフィクソのパワーを逆に活用するようななめらかな反転からの、力強いシュート。柔と剛を使い分けるその身のこなしは、体格の優位性だけではない、ピヴォとしての能力の高さが垣間見えた。
しかし、あと一歩が届かず結果は1-2で惜しくも敗戦。2試合連続での“Fクラブ撃破”はならず、「サテライトでも、いい選手がそろっていることを駒沢の舞台で勝って証明したかった」と成田は唇を噛んだ。
飛躍のきっかけとなった、フィクソからの転向
「ボールロストしたり、そこからカウンターを招いたり、個人としてもミスは多かった。前線でのプレーは通用する部分もあったけど、Fリーグで戦うにはディフェンスの強度もアジリティもまだまだだなと、痛感させられました」
北九州戦を振り返り、主に守備面での力不足を課題として挙げる成田だが、2023-2024シーズンまで所属していた府中アスレティックFCでは、主にフィクソを主戦場としていたという。
ただ、本人の言葉からも分かる通り、自信としているのは攻撃への意識の高さや、ミドルも狙えるシュートの威力。その本心とポテンシャルを見抜き、今シーズン加入早々にピヴォでの起用を決断したのが、アスピランチの指揮官・小川亮監督だった。
「あれだけサイズがあって、前線でも的になれるのは日本人選手ではそういません。彼が入って迷うことなく“ピヴォで使おう”と決めて、起用し続けました。途中少しスランプもありましたけど、また調子を上げてこの大会でも活躍してくれました。守備も最初はもっと不安定でいわゆる“穴”になってしまうようなこともありました。だけど自分自身その課題と向き合って、かなり改善されました。今年1年で大きく成長してくれた一人だと思っています」
浮き足立つことなく、“やることをやる”
その小川監督の評価を裏付けるように、4月1日発表されたのが、自身が一矢報いた相手である、浦安のトップチームへの加入。全日本選手権ではメンバー外だったため残念ながら直接対決こそなかったものの、フットサルを始めるきっかけにもなった実兄・成田宇弘とチームメートとなり、新シーズンからチャンピオンクラブの一員として、Fリーグを戦う。
同じピヴォのポジションには、昨シーズン25得点を決めリーグ得点王を争ったエース・本石猛裕のほか、成田と同じ[3-1]のピヴォとしてY.S.C.C.横浜で得点源となっていた荒川勇気、浦安の育成組織育ちの柴山圭吾と、実力のある“仲間兼ライバル”がそろう。
それでも、12歳からフットサル一筋で目指し、憧れてきた舞台。成田が見据えるのは1年目でのメンバー入りはもちろん、トップリーグでゴールを量産する自身の姿だ。
「相手を背負っての反転だけではなく、シュートのアイデアやそこに至るまでの工夫は、注目してほしいしより洗練させていきたい。あとは、ディフェンス面での成長も今後は見せていきたい。とにかくここで浮き足立つことなく、やることをやる。そこは変わらずに、戦っていきたいです」
大きな一歩を踏み出した“原石”の、光り輝く未来への挑戦はまだ始まったばかりだ。
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