更新日時:2025.11.18
【インタビュー】38歳、星龍太が今季限りでの引退を決断したワケ。「体のこと、未来のこと。やめることに未練はない」

PHOTO BY伊藤千梅、高橋学
11月18日、フウガドールすみだの星龍太が、今シーズン限りでの現役引退を表明した。
すみだの前身、FUGA MEGUROでフットサルを始め、メキメキと頭角を表すと、名古屋オーシャンズでの契約を勝ち取り、2016-2017シーズンからはキャプテンを託された。
日本代表としても、2021年にリトアニアで行われたFIFAフットサルワールドカップに兄・翔太と共に出場を果たすなど、そのキャリアは輝かしい功績に彩られている。
フィクソとして屈強なピヴォを封じ込める守備力は国内屈指の強さを誇り、同時に、パンチ力のあるシュートなど、攻撃的なタスクもこなせる、チームに不可欠な闘将。2021-2022シーズン終了後、名古屋で契約満了を告げられ、新天地に選んだのが古巣だった。
あれから3年半、現在、38歳。星はなぜ、引退するのか。
ピッチの中のこと、外のこと、そこには彼らしいワケがあった。
インタビュー・文=本田好伸
フットサル界を発展させていくために

──なぜ、今シーズン限りでの引退を決めたのでしょうか?
理由は2つあります。もともと膝が悪かったところに、昨シーズンの終わりくらいにちょっとした怪我が加わり、回復が遅いこともあって来シーズンのプレーができるのかどうかと感じたことがありました。結果的には、コンディションはだいぶ良くなって昨シーズンの状態に戻ってきたものの、シーズン途中で今度は逆の左足を怪我してしまいました。
ただ、実際には今シーズンが始まる時には引退を考えていたので、体の調子的にも厳しいものがあるというのが一つの理由ではあります。
──では、もう一つは?
どちらかというと、もう一つが大きな理由ではあります。仕事というか、今後のことを考えての決断ですね。今、僕はクラブの経理や、(元名古屋オーシャンズの)北原亘さんの会社でお手伝いさせてもらっているのですが、競技の未来のことに目を向けています。
ここまでフットサル界に関わってきたなかで、フットサルの技術など、日本のレベルがすごく上がってきていることは感じています。ただし一方で、興行としてのフットサルは決して伸びているとは言えないと思うので、そうした現状をどうにかしたいと思っています。
大きな表現をすると、フットサル界を発展させていくために自分ができることをやっていきたいな、と。自分自身の体のことと、今後、若く能力のある選手を集めて、技術やフィジカルもそうですけど、クラブが選択肢を広げることでフットサル界が良くなっていく環境づくりに貢献したいと思っての決断です。
──そうだったんですね。一つずつお伺いさせてください。まずはコンディション面についてですが、右膝の状態はいつ頃から良くなかったのでしょうか?
2021年のワールドカップ前にやってしまった怪我が尾を引いて、それからは常にテーピングを巻きながらプレーしてきました。名古屋オーシャンズ時代に、AFCアジアクラブ選手権を戦って帰ってきた後、最初のリーグ戦で選手と交錯した際に痛めてしまいました。内側や軟骨にも影響していたのでテープを巻いていましたが、本当なら手術しないと治らないものを誤魔化しながら続けていて、限界を迎えてきたという感じですね。
──騙し騙し続けてくるなかでどう感じていたのでしょう?
やっぱり、パフォーマンスが落ちていることは感じていました。年々、筋力が落ちてきていましたし、1週間から2週間に1回、ヒアルロン酸の注射を打ちながらやっています。
──痛いままプレーしてきたわけですね。
そうですね。その日のテープの巻き具合とか、コンディションによってもパフォーマンスが変わります。繊細な部分では誤魔化せないというか、テーピングのズレ方によってインサイドキックの強度も違いますし、正直なところ、100%の力では正確に蹴れなくなっていて。
──それでも、続けられる水準を維持してきた。
W杯までは、テーピングを巻いた状態でやろうと思っていました。大会後にシーズンの残りを戦い、名古屋で契約満了となりました。フウガに移籍したのですが、手術したら1年くらい棒に振ることになる。年齢的にもリハビリにシーズンを費やすなら引退だと思っていましたし、フウガに戻るからには最初からやりたいなと。
──ある意味では、体の限界がくるまで続けようと。
いえ、そういうわけでもなく、2年はやろうと決めていました。1年目に全日本選手権で優勝することができましたし、そこでやめようとも考えていました。ただ、2年はやると決めていましたし、監督や周囲の人たちとも相談しながら続けることにしました。だから、その時に引退していたかもしれないという感じです。

──そうだったんですね。
ただ、名古屋でも単年契約だったので、毎年、毎年、危機感がありました。いつ区切りをつけてもおかしくなかったというか、頭の中には常に「引退」がよぎっていました。
──選手を続けていくモチベーションにも変化がありましたか?
あるとは思います。フウガに戻ってきてからは、自分のためというよりも、チームがどう良くなるかなという視点で考えるようになりましたし、そこが自分の中で大きくなっていたと思います。自分の存在がチームにどう影響を与えられるかを考えてプレーしてきましたし、戻ってきた頃よりもどんどん良くなって、昨シーズンよりも今シーズンのほうがいいチームになっていると感じています。成績だけではなく、内容の部分で実感できるようになりました。そこも引退を決める理由の一つかもしれないですね。
──チームを託せるようになった。
実際に自分がどれくらい影響を与えられたかはわからないですけどね。チームは、人が変わってもまた違う人たちでチームをつくっていくわけですし、自分が特別な功績を残したわけでもありません。ただ、変化を感じることができているのは大きいですね。
競技をやめてしまう子たちに選択肢を

──今の話を聞いてきてもなお、まだやれるのでは?とも思ってしまいます。
どうでしょうね。ただやはり、コンディションの部分だけではなく、仕事の部分のタイミングがハマったということが大きいと思います。バランスがそっちに傾いたというか。
だから、これまで維持してきたコンディションについても、しんどさが強くなってきたというか。毎週のように病院に通い、痛みがあるなかでテーピングをして、注射を打ってピッチに立つという、日々のちょっとしたストレスを大きく感じるようになったと思います。
──なるほど。では、仕事のこともお伺いします。そもそも、名古屋ではプロ選手としてプレーしてきましたが、すみだではどんなことをしているのでしょうか?
すみだでは、いわゆるそれだけで生活できるようなプロ契約選手ではありません。クラブのスクールをやったり、経理などの手伝いをしたりすることが仕事の一つになっています。
──選手だけに集中できるプロ選手から、仕事をしながら選手としてプレーするという環境に変わることをどのように捉えていたのでしょうか?
すみだに戻ってきた頃は、自分に費やす時間が減ってしまうので、体へのストレスはもちろんありました。ただ、仕事をすることは自分の人生で必要なプロセスでもあります。引退してから急に仕事をするのではなく、セカンドキャリアにつなげることはすごく重要です。
──そこについては、選手のうちから競技と仕事を両軸でやっていく「デュアルキャリア」を提唱してきた兄・翔太さんの影響もあるのではないでしょうか?
それはありますね。今シーズンから、大学の部活やサークルを訪れて、フットサルの競技者を増やすことや、トップカテゴリーであるFリーグにつながっていくような視点で活動を始めているですが、それも兄弟でやっていますからね。

──それはどういった活動なのでしょうか?
今は、将来の選択肢に「Fリーグ」あるいは「地域リーグ」がない大学生の選手が多いんです。例えば、大学3年生くらいで、就活があるからといってやめてしまう。あるいは、卒業して就職するから競技を離れてしまうという選手がかなりいる実情があります。
なので僕は、Fリーグや、その一つ下のカテゴリーの競技フットサルを続けていく人を増やしたいと考えています。仕事をしながらフットサルができるかわからないとか、この先、どうやって続けられるのかわからないと悩んでいる人たちに解決策を提示できたらいいなと。
大学でフットサルをしているチームがメインですが、サッカー部の中にあるフットサル部などを含めて、両者のつながりがあるところにも訪問しています。学生向けの大会や交流戦なども開催しているので、自分たちを通して、フットサルを続けていく未来を描けるきっかけになったらいいなと思っています。
それこそ、合同トライアウトのようなものを開催して選手を集めていくことも構想しています。何事もチャレンジしてみないと先につながらないですし、こういった考え方や行動は、兄の影響を受けていると思います。
──もう一つ、北原さんの会社や、すみだの経理を手伝っているという部分は?
すみだに戻ってきたシーズンの途中から亘さんの会社で経理をやらせてもらっていたのですが、その流れでクラブからも話をいただき、携わるようになりました。
仕事の流れやお金の動きなどを知ることが必要だと思っていたので、実際にスポーツ事業にはどういうお金がどれくらい必要なのかといったことがわかり、すごく勉強になっています。
今のフウガをアリーナで見てほしい

──フットサル界を発展させたいという想いはいつから抱くようになったのでしょう?
名古屋にいた時ですね。ピッチの中だけでなく、私生活を含めて気にかけてもらっていた亘さんの影響が大きかったと思います。「フットサル選手をやめた後はどうするの?」といった話をしていて、自分がこの先どうしていきたいかを意識的に考えるようになりました。
ただ、名古屋にいる間はプロ選手なので、別の仕事に重点を置くことはできないですし、それについては常に不安を抱いていました。それに、サテライトの子たちとも話したりすると、彼らはトップに上がれなかった場合、次の選択をしないといけないわけですよね。他のチームにいくのか、じゃあ、その場合の仕事はどうするのか。あるいは、競技をやめて就職しないといけないのか。そこにはやはり仕事の悩みがありました。
フウガに来てからも、スクールなどで下部組織の高校生たちと触れ合ったりするなかで、やめていってしまう子も多いワケです。トップにいけなかったら、競技を離れてしまう。彼らは「仕事しなきゃいけないので」「就活があるので」と、やめていく。すごくもったいないと感じました。能力もあって、チャレンジできるかもしれないのに選べない現状を目の当たりにしたり、話を聞いたりして、自分が何かできないかな、と。
例えば、彼らの就職を斡旋しようにも自分にはノウハウがないですし、どうやっていくべきかを兄ともいろいろと話していました。そこで、自分たちがもっているのは人脈だな、と。チームにもつながりがありますし、ベテランとしてやってきた経験から、企業さんを訪ねることもできる。まずは企業のニーズを聞いたりすることも含めて行動を始めました。
──すでに動いているんですね。
まだ行動に移している段階ですし、現実的に成し遂げられるものが見えているわけではありません。ただ、引退と同時にパッと加速できるようにやっているというか、自分の中で、こうやってみようという思いが少しずつ出てくるようになった感じですね。
──根本にある、フットサル界への想いというのは?
そこはもう、自分がここまでやれたのは、フットサルを通して培った縁があったからです。助けていただいた人たちには感謝しかありませんし、そうした恩に報いるというか、貢献したいので、以前のFリーグにあった華やかさを取り戻したいなという想いがあります。
──指導者ではなく、競技環境に目を向けるのが星さんらしいな、と。
もちろん、指導者不足でもあるので、そこも業界の課題の一つだとは思います。でも、自分には少し難しいかもなって。だったら、僕たち兄弟が関われるのはそこかな、と。
これまで、兄や亘さんなど、僕を助けてくれた身近な人の考え方は、自分のベースにあると思います。だから、仕組みを考えていくような思考が生まれたのかなと思います。
──ちなみに、引退について翔太さんはなんて?
これまでずっといろんな話をしてきているので、「今シーズンで引退するわ」と話しても、「そうか、じゃあ(今やっている仕事の)これも頑張ろうな」みたいな感じです。
まあ、兄は一度引退して復帰しているので引退に対しての感覚が薄いのかもしれないですね。もしかしたら、やれると思ったらまた復帰すればいいなんて思っているのかも(笑)。
──まさか、兄より先に引退されるとは。
そうですね、また復帰するかもしれないですけど……いや、冗談です(笑)。

──残りのシーズンはどんな姿を見せたいですか?
まずはあと2試合ホームがあるので、そこで戦う姿をぜひ見に来てほしいですね。それは僕が引退するからとかではなく、岡山(孝介)監督と共にみんなが目標としている上位リーグ進出をまずは通過するために、みなさんの力を貸してほしいと思っています。
長年支えてくれているスポンサーやサポーターのみなさま、新体制になって必死にフウガを盛り上げようとしてくれている運営陣やボランティア、学生スタッフみんなのおかげで、今は本当にフウガが素晴らしいんですよ。だから見に来てほしいなと。
──自分じゃなくていい、と。
もちろん、自分がきっかけで見てくれるならチームのためになるのでありがたいですけど、それは関係なしに、まずは来てほしいですね。そしてぜひ一緒に盛り上げてほしい。
昔からフウガに所属していた選手はもういないですし、2009年に全日本選手権を優勝した時代を知っているのは、僕と翔太しかいません。(諸江)剣語も次のシーズンから入ってきているので。でも、あの時と同じくらいの熱気を今なら出せると思っています。
それに、新しいフウガの姿も見せられます。昔のフウガが好きだった人も今のチームを好きになってもらえると思いますし、新しいフウガが好きな人も魅力を感じてもらいながら、もっと激しい感情を出せるという、昔の熱量を知ってもらえるのかなと思います。
やっぱり、フットサルは会場で見てもらうのが一番だと思うので、FリーグTVで見てもらうのももちろんうれしいですけど、想いがよりダイレクトに伝わる会場に来てほしい。
ぜひ、あと2試合あるホーム・ひがしんアリーナの試合でみなさんをお待ちしています。
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