更新日時:2025.12.02
最多6人が出場する浦安の指揮官はW杯をどう見ているのか?米川正夫監督が語る、ブラジル撃破の算段「信じれば、勝つ道は必ずある」

PHOTO BY伊藤千梅
FIFAフットサル女子ワールドカップ フィリピン2025を戦うフットサル日本女子代表は、グループステージを2勝1敗で突破し、2日にブラジル女子代表との準々決勝に臨む。
今大会のメンバーに、最も選手を輩出しているクラブがバルドラール浦安ラス・ボニータスだ。筏井りさ、宮原ゆかり、伊藤果穂、江口未珂、松本直美、池内天紀の6人。日本の女子フットサルをリードしてきた証だ。
長年にわたってチームを率いる米川正夫監督は、W杯をどのように見ているのか。所属する選手たちのパフォーマンスはどうなのか。そして、ブラジルに勝てるのか──。
運命の準々決勝を前に話を聞いた。
取材=本田好伸

日本がもう少し上だと思っていた
──米川さんはワールドカップをどれくらい見ていますか?
日本戦以外もある程度は見ています。他国のフットサルをちゃんと見られる機会はあまりないので、どの国がどれくらい強くて、どんなフットサルをしているのか気になってチェックしている感じですね。W杯開催はすごくうれしいことですし、うちからも多くの選手が出ているので、本当にいい結果を出してほしいと思っています。
──グループステージを終えての印象は?
とりあえず、ブラジルが際立って強いなと。あとは、スペイン、ポルトガルも相変わらず強いですね。それ以外だと、アルゼンチンやコロンビアなど、南米のチームは力強さを感じました。サプライズというほどのチームはいないですけど、予選突破できなかったものの、ポーランドは個人の部分もうまかったですね。

──世界のレベルをどのように感じていますか?
イメージ通りではあるのですが、正直、日本の立ち位置がもう少し上だと思っていたところ、全くそんなことはありませんでした。アジアカップでもタイやイランを見ていたので、日本はもう少し上のレベルかなと思っていたら、他の国も強く、大きな差はない印象です。
勝利にコミットできるかどうか

──日本の初戦となったニュージーランド戦はどんな印象でしたか?
ニュージーランド代表の選手がうちでやっていたことがあったり、日本人スタッフとしてコーチを務めている伊奈(伸悟)さんも練習をよく見に来てくれたりしたので、日本と相手との力関係はなんとなくわかっていました。実力からすれば、スコア通りの結果になったなと。もちろん、W杯初戦の緊張感や普段との違いもあったと思います。
同じクラブの選手でセットを組んでいるわけではないですし、3セットで回しながらやっていました。うちの選手にとっては、プレーモデルも似ているので難しさはそれほどないと思いますが、やはり人が違えば当然タイミングやプレーの好みなども変わってくるので、様子を見ながらやっているように感じています。
──続くポルトガル戦は、当初から山場とされている試合でした。
正直、もうちょっとやれたかなと思っています。選手たちも大事なゲームだとわかっていたと思いますが、勝つと負けるとでは、決勝トーナメントの最初に戦うことになる相手がブラジルになるか、そうじゃないかという想定だったので、勝利にコミットする厳しさ、激しさがもう少しあっても良かったとは思っています。

──普段では起こらないようなミスからの失点がありました。
やはりそこは、日常的に厳しいゲームがたくさんあるわけではないリーグという影響も多少あると感じています。一つのミスが、本当に敗戦につながってしまう。日本では「どうしても勝たなきゃいけないゲーム」が日常的に少ないと思っています。こうしたある種の“失敗”も、やってしまってから気づくことがあると思います。経験を重ねることで得られるものもあります。ただ、この舞台では、次はもうないですからね。
──ポルトガルの印象はどうでしたか?
やはり、ピヴォの選手なども身体能力が高いなと。日本にいないような身長の選手がスピードもあって、そこには何度かやられていました。強い、速いという部分を感じましたね。戦術的にそれほど優れている印象はありませんでしたが、選手個々の強さや速さ、パススピードなども含めて違いを出されていたと思います。
──戦術的に見れば、日本は世界水準にある?
そうだと思います。ただ、それにとらわれすぎてはいけないと思います。男子もそうですが、個人の部分で「強く、速く、うまく」というベースの部分のトレーニングを欠かさずにやっていくことが大事ですよね。

──勝てばグループステージ突破が決まるタンザニア戦は、見事に大勝しました。
男子のホームゲームと試合時間が重なっていたのでリアルタイムでは見られなかったのですが、順当でしたね。開始早々にゴールを決めたことで気持ち的にも楽になって、後半にゴールを積み重ねることができました。相手はフットサルをあまりやっていないチームということでしたし、ひとまず突破を決められて良かったです。
初めての大会ということで地域格差もありますし、点差が開くゲームが多いのは仕方ないことだとは思います。まずは、この大会を開催できたことの意義の大きさを感じています。
浦安の選手たちは普段通りやれている

──浦安からは最多6人が選ばれています。選手たちのプレーはどうですか?
良くも悪くも、普段通りにやれていると思います。当然、できるプレーとできないプレーというか、得意なプレーとそうではないプレーがあるなかで、得意なプレーを出すことはできています。一方で、苦手なプレーも出ているので、あまり良くないボールの失い方なども見られますね。大会前から、りー(筏井りさ)や(松本)直美あたりはすごくコンディションが良さそうだったので、もう少し長く起用されるといいなとは思っています。
自分としては、一人でも多くの選手を代表に送り込むことも目的の一つなので、この舞台に多くの選手が立てていることは、純粋にうれしい思いがあります。
──グループステージの3試合は、基本的に3セットを固定して回しながら戦っていました。このローテーションは、選手にとってはどんな感覚なのでしょうか?
人それぞれ考え方があると思います。ただ自分は、同じくらいのレベルの相手に対して3セットで回すことはあまりやりません。そこのリスクがある、というか。
自分としては、主力を担う選手で2セットを組んで、フィットネスが落ちる後半に他のメンバーを使っていくことをよくやっています。3セット回しは怖くてできない(笑)。
セットのローテーションで言えば、1stセット、2ndセット、1stセット、2ndセットというほうが選手としてはリズムが出ると思っています。ただ、須賀(雄大)監督が選んでいる3セットの意図を考えるなら、試合の終盤までフィットネスを落とさないでプレッシャーをかけ続けたいというところかもしれません。
それに加えて、3セットのメンバー全員の力が本当の意味で実力差がないと考えて自信をもって送り出しているということ。ここは本人に聞いてみないとわからないですけどね。
──出発前、選手たちにはどんな言葉をかけたのでしょう?
いや、自分はそういう時にあまり話をしません。「責任をもってやってきてほしい」くらいです。もちろん、うちの選手たちに頑張ってほしいですし、同時に、怪我なく帰ってきてほしいという思いですね。
──須賀監督とは旧知の仲ですが、代表監督とクラブの監督の関係はどのようなものなのでしょうか?
一般的なところで言えば、選手には代表でも頑張ってほしいですから、いくらでも送り出しますし、代表の意向になるべく応えようというスタンスです。
みんながプロではないですし、上のレベルを目指す選手にとって、一番に思い描いているのは日本代表だと思うので、そこに向かっていく選手を後押しできたらと思っています。
ただ、自分と須賀監督の関係で言えば、実際には言いたいことも言わせてもらっています(笑)。お互いに女子チームを指導する監督として意見交換や議論をかわすこともあります。
──筏井選手、松本選手以外にも、浦安の選手たちのパフォーマンスはどうですか?
先ほど話したように、自分のプレーというものはできていますし、すごく良くないという選手はいません。(伊藤)果穂は、リーグで良くない時もあったのですが、代表の前はかなりコンディションを上げてきましたし、しっかりと自分のやるべきことをやっています。
江口(未珂)は普段、うちではあまりアラで使わないので、そこで使った時に彼女が好きなプレーをもう少し抑制してもいいかなと思うことはあります。(池内)天紀は自分ができることを粛々とやっている印象ですし、(宮原)ゆかりはやはりフィニッシャーなので、その機会をもうちょっと増やしてほしいですね。

──普段から世界の舞台で戦うことをイメージしてアプローチしているのでしょうか?
そこはずっとやってきていることですね。試合中から「結果にこだわれ」と話しているので、ファウルも多いですし、それこそ本当に危険な場面では相手のユニフォームを引っ張って止めることもあります。そういう日常が必要だろうと考えています。
それに、強い、速い、うまいという部分も、トレーニングで磨くことはできます。当然、生まれもった才能の比重はありますけど、しっかりと体をアスリートにするためにはトレーニングが不可欠ですし、ボールを使うだけではないメニューも必要です。そうした体を軸にして、ポジションごとにどうプレーするか。アスリートの部分と、フットサルの頭脳の部分との両方を常に意識できる環境が大事だと思って取り組んできました。
10回やって1回勝てるかどうか

──ブラジルに勝てますか?
もちろん、かなり厳しいゲームになると思っていますが、勝つ確率が0%ではありません。普通に真っ向勝負するときついと思うので、相手の良さをどう濁すか。ゲーム展開や戦い方など、いかに相手に良いプレーをさせないかにフォーカスすることが大事だと思います。
──自分たちのスタイルを出し切って戦うか、相手の良さを消すことに徹するのか。
現状のレベル差だと、やはり相手の良さを消して、簡単にフィニッシュに持ち込ませないことからスタートするのがいいと思います。もしかしたら、フィットネスの高い選手を軸に、2セットとか、それ以下の人数をベースにしながら回す戦略もアリではないかなと。最初に前から奪いにいって、逆に失点を重ねると後戻りはできなくなるので、スタートはディフェンスラインを下げることも想定されると思います。
代表チームは、あらゆる展開をシミュレーションしているはずなので、それこそ、めちゃくちゃプレスをかけて自由を与えないで、ショートカウンターを狙う戦いができるのかも検討しているだろうなと。他にも、GKをうまく使って自分たちがボールを持つ時間を増やせるかどうかなども。選択肢はいくつかあると思うので、そうした中から、今いる選手のプレースタイルや監督のプランに基づいて決めていくと思います。
──とにかく、結果が一番。
その通りです。個人的には何がなんでも勝ってほしいという、それだけですね。
──日本は世界一という目標を掲げています。
もちろん、当然そうあるべきだと思います。ただし、この第1回大会で本当にそこを狙えるのかというと、現実的には甘くないはずです。
仮に、ブラジルに勝ったとしても、あと2つは簡単じゃない。それに、ブラジルと10回やって何回勝てるかで言えば、それこそ1回あるかないかというレベルだと感じています。
だからこそ、その1回をここでもってくるために戦略を立てて、とにかく勝ってほしいですね。ポルトガルとこの舞台で戦えたことで、世界の相手の感じもなんとなくわかったはずなので、その現実的な体感を踏まえてどう戦うのか、すごく楽しみにしています。
選手には高いモチベーションで戦ってもらいたいですし、信じれば勝つ道は必ずあります。自分も、この戦いを見守りながら日本を応援しています。

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