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ポップコーンを食べながら悔しさを噛み締めた“あの2016年”から5年。「他の人にできない仕事が俺にはある」。皆本晃が臨む集大成|ブルーノジャパンの肖像

PHOTO BY高橋学、本田由伸

ブルーノ監督との“親子”秘話

──9月に5年越しのW杯を迎えるけど、今の心境は?

もうね、とにかくいいコンディションで迎えることだけだよね。これはもう切実。

──たしかにおまえはそれしかないな。

そう、これしかない。切実だわ。昔からW杯を一つのゴールにしてやってきていて、たとえば2020年の正月、あのときはまだコロナ禍の前で、「正月までもこんなに真剣にトレーニングするのは最後になるな」と思っていたし、アジア選手権前のパラグアイ戦でも「国内で戦う親善試合で、お客さんの前でプレーを見せられるのはこれで最後かもしれない。点を取りたいな」って思っていた。俺は本質的にトレーニングが好きじゃない。うまくなりたくて、強くなりたいからやるけど、目標がなくなったら一切やらないと思うよ。

──俺は今でもやってるよ。

俺には絶対できないし、意味がわからない。なぜそんなつらいことを自ら進んでやるのか。

──でもコロナで大会が延期されたからトレーニングも続けたわけでしょ?

ゴールを(2020年)9月にしていて、そこから1年以上延びるって……。俺もうつらいことやりたくないんだけどって思っていたから、延期になってマジかよと思ったね。でもW杯に向けて気持ちを整えないといけないし、このままじゃいけない。それにもっとうまくなりたいと思って過ごして迎えた今なんだけど、ここまで来ると1日でも長く時間をもらいたいと思うよ。ちょっとでもいいコンディションで出たいからね。

──ケガしないうちに早く大会を迎えたいとは思わない?

今がベストコンディションならそう思うだろうけどね。今はそうじゃない。せめて普通の状態で出たいな。コロナの影響で今年はオフがほとんどなかった。(昨シーズンが終わって)3日だけ休んで、すぐにトレーニングして、代表トレーニングにも参加した。だからかなり(疲労が)きているよね。今まではあと何回とか考えていたけど、ここまできて今は逆に、時間がほしいと思う。でも時間は待ってくれないからやるしかない。まずは自分との戦いだし、だからこそ相手が決まった今でも、スペインやパラグアイ、アンゴラのことは考えていないかな。

──コンディションさえ整えばやれる?

自信はある。コンディションさえ整えば、相手がスペインでもやれる。でもそれが一番高いハードルなんだよ。そんなこと言っていたら、連れて行かれなくなっちゃうかもね。でもどんな状態でもなにかしらの貢献はできると思っている。

──もうだいぶ年齢を重ねたからね。

本当に毎日必死。今までも必死だったけど、今はマジで必死。W杯までに絶対コンディションを整えないといけないけど、タイムリミットが近づいている。3カ月後にベストコンディションになりましたと言っても、そのときはもうW杯は終わっている。それじゃ意味がなくて、だから大会までにコンディションを上げないといけない。そこに焦りはあるし、毎日必死に生きている。

──心境を話すどころじゃなく、今は自分でいっぱいいっぱいなんだね。

でもそれでいいと思っている。ブルーノ・ジャパンが立ち上がったときにキャプテンを任されていたけど、2018年のアジア選手権が終わった後にメンバーから外されたんだよね。ちょうどおまえが外れたときに、俺も外された。それで、アスレの練習場にブルーノが来てくれて「キャプテンを下ろすとかではなく、もうおまえのことを選べるかわからない」と言われた。

──そもそも、アジア選手権もそんなに出ていなかったよね。

そう、おまえとの泥舟セット(笑)。でもイラン戦とか大会の最後のほうは出られるようになった。

──イランはピヴォに、タイエビとかゴツイ選手がいたから、おまえと滝田(学)の経験ある選手で抑えていた。

そうそう。予選の最初はちょっとしか出てなくて、決勝は出られた。でも日本に戻ってきてから、次の代表メンバーで外された。あのとき、アスレは練習試合をしていて、ブルーノは「練習試合じゃなくておまえと話すために来た」と。

──大会後に継続して呼ばれたのは誰がいた?

(星)翔太、滝田、パッシャン(西谷良介)かな。そのときから(吉川)智貴がキャプテンで、たしか(森岡)薫くんも外れたかな。

──若手と半分になったタイミング?

そうだね。ブルーノには呼べないと言われたけど「パフォーマンスが上がったら呼ぶ」とも言ってもらった。完全に切り捨てることはしないけど、今のままなら2度と呼ばない、と。「だからパフォーマンスを上げて来い」ということだよね。「おまえと戦いたいけど、決めるのは俺じゃない。おまえのパフォーマンスだ。俺は待っている」と。その他にも、ここでは言えないような話をしたけど、いい監督だなと思ったよ(笑)。

──シビアな監督だからね。

正直言って、そりゃムカつく部分もあるけど、そういう想いもあるんだなって。ブルーノの気持ちに応えたいと思ったよ。俺自身も、その時点でキャプテンを外れたし、メンバーにも呼ばないと言われたから、チームのことを考えることをやめた。自分が入る・入らないは別として、他の人にはできないことをやらないといけないと改めて思った。

──自分にしかできないことをやるって、具体的には?

相手のピヴォを止める、後ろからのパスを入れる、とかだね。チームを動かすという感覚より、俺が入ったら1人で解決するような感覚でプレーし始めた。だからチームメイトにこうしようとかはあまり言わない。もちろん若手にアドバイスくらいはするけど、基本的には言わない。

──ブルーノ監督が求めるパフォーマンスを出すために、自分に集中し始めたんだ。

それで代表に貢献したいんだよね。周りからは、リーダーシップとか、中軸だとか言われるけど、俺自身にそんな気持ちはなくて、100%をこのチームに捧げる。その結果、メンバーから外れてもなんとも思わない。俺のベストをこのチームに提供しないといけないという思いがある。だからコンディションを高めないといけないよね。開幕戦をちょっとでもいい状態で迎えたい。チームとしてどうしたいとかは今はなくて、与えられた仕事でハイクオリティを見せるだけだね。

──それで代表にはいつ復帰したの?

それから2回後くらいの合宿で呼ばれた(笑)。

──ハッパをかけられたってことか。

でもいまだに毎回言われるよ。「俺は1度、おまえを外した。地獄に落とした。そこから這い上がるのはおまえだ。おまえが良ければ呼ぶし、悪ければ落とす。でもおまえのことは息子のようにかわいがってきた」って。どっちやねんと(笑)。

W杯のその先は……

──それじゃあ、皆本晃は今大会、日本代表の主人公ではない?

ポジション的にも、自分のプレースタイル的にもそう見られることはあるけど、感覚的には自分中心だとは思ってない。でも他の人にできない仕事が俺にはあって、俺の代わりはいない。だから違いをつくらないといけないし、それができなければ俺がいる意味はないから。

──そういう強い想いを持って臨む今回のW杯は集大成だね。その後はどうするの?

気になってる(笑)?

──アスレのファン・サポーターは特に気になっているでしょ。皆本としても、チームで同じ世代が一気にいなくなったし。

正直言って、決めてないんだよね。でも今年でやめることはないと思う。もうしばらくはやるかな。途中で諦めるかもしれないけど、3年か4年。

──それ次のW杯じゃねーか(笑)。

そうだね。そのころかな。

──目指しているの?

いや、目指しているわけじゃない。それにあまりにもチームに迷惑をかけるようなら、もちろんやめる。アスレを離れて他のチームでプレーする気はないから。

──アスレでの引退は決めているんだ。

ただチームで戦力になれるかどうか。ケガがひどくて動けないとか、チームに迷惑はかけたくない。チームとしてもやめろとは言いづらいじゃん。それをさせたくないから、自分で決めたい。

──それじゃ、すべてはW杯が終わってから考えるわけね。

そうだね。今シーズンでやめることだけは絶対にない。だけど次のシーズンは、(引退する)可能性はゼロじゃなくて、選択肢としてはある。それでもざっくりと、3年くらいは続けるかなと見てはいる。イメージどおりいくかわからないけどね。

──今日は皆本晃のいろんな本音を聞けた気がするわ。

いやいや。というか、ライターってなんなん? まぁ楽しみだけど。

──(皆本選手の前に聞き手として取材した)室田(祐希)のインタビューでも結果出してるから。てか『漫喫ポップコーン』ってなんだよ(笑)。

ポップコーンなんて、普段は絶対に買わないんだよね。でも、そこの漫喫がサービスでくれた(笑)。いらなかったけど、手が寂しいからついもらっちゃったんだよな。本当はスポーツバーとかも探したんだけど、フットサル日本代表の試合をやってない。漫喫だってBSが映るところと映らないところがあるから結構、探したんだよ。

──1人でそんなことになってたのか(笑)。

今度はちゃんとピッチに立って、1人じゃなくて、みんなと喜びを分かち合うよ。

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