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作成日時:2021.08.23
更新日時:2023.11.29

「柴崎岳との出会い」という挫折から14年。生粋の“フットボール小僧”が挑むW杯|ブルーノジャパンの肖像

PHOTO BY高橋学、本田好伸

なぜ人は、室田祐希に魅了されるのか。答えは簡単だ。うまいから、だけではない。

誰よりも楽しそうだから、だ。

彼のプレーを目撃した人たちは、よくこう話している。

「すごく楽しそう」「まるで遊んでいるみたい」と。

ギリギリの真剣勝負で、彼は真剣にフットサルを楽しみ、遊んでいる。

18歳でFリーグにデビュー。ふてぶてしいほどに変幻自在のテクニックで、敵味方関係なしに周囲を驚かせた。すぐに彼は代表に呼ばれ、名古屋に引き抜かれた。

でも、あのころはまだ若かった。

一言で言えば「やんちゃ」。圧倒的なプレーは、悪く言えば“軽かった”。自陣の深い位置で勝負を仕掛け、ボールを奪われ、チームを窮地に陥れてしまう。室田のドリブルは、相手にとって脅威であると同時に、味方にとってリスキーな武器でもあった。

フットサルにおいて、「そのプレーを“いつ”選択するか」は非常に重要だ。判断を間違えれば、いきなり失点のピンチを招く。だから“フットサルを知る”必要があるのだ。

そして今、室田は“フットサルを知っている選手”になった。

名古屋を1年で退団し、北海道に戻り、町田へ移籍し、再び北海道へ復帰。その間、約10年。29歳になった室田は心技体を磨き上げ、日本を背負って立つ選手へと成長した。

ただ、今でも変わらないものがある。「楽しそうにプレーすること」。室田にとって、なにより大事なことかもしれない。“楽しそう”ではなく、楽しいのだろう。室田が楽しめているかどうかが、ピッチの出来を左右する。これはW杯の大きなポイントになるに違いない。

そんな室田にも挫折があった。フットサルが楽しくないときがあった。

室田には、今まで明かされることのなかった物語がある──。

聞き手は、名古屋時代を共にし、日本代表でも同じ時期を過ごした渡邉知晃。室田が“トモさん”と慕う6歳離れた盟友。唯一、この2人だから実現したインタビューだ。

インタビュー=渡邉知晃
編集=本田好伸

※インタビューは7月1日に実施しました



北海道は良くも悪くもガツガツしていない

──室田祐希は記者に本音を話さないということで、俺が話を聞くことになった。

そんなことないから(笑)。なんでも話すよ。

──じゃあよろしく。さっそくだけど、北海道はどう?

良いところも難しいところもあるよ。町田より和気藹々としたチームだから、自分としては試合の入り方とか。俺はガッと熱くいきたいタイプだから。町田だったら、戦えているのかみたいに若い選手に言っちゃうけど、ここでやったら空気が悪くなるとか考えちゃう。

──町田のときのようには言わなくなった。

個人的に伝えることはあるけど、全体にしゃべることはなくなったね。

──北海道は、良くも悪くもガツガツしている感じはないよね。

そうだね。

──ぶっ倒してでも相手に勝とうというか。

それは少ないかもね。もうちょっと出してもいいかなと思うよ。

──やりづらいの?

いや、そんなことはないよ(笑)。ただ、俺は今年W杯もあるし、そういう舞台はガツガツしてないと戦えないから、個人的にそこは意識しているという感じかな。

──自分がまずやる。

そうだね。それで若い選手とかがなにかを感じ取ってくれたらいいかな。

──仕事は?

出前授業といって、小学校の体育の授業に講師として行っている。コロナ禍で延期になることも多いけど。

──その活動でクラブからお金をもらう、と。フットサルに専念できている?

そうだね。町田と同じくらいの環境で専念できているかな。(町田は午前練習だったので)夜の練習というところは違うけどね。でも、昼間は自分で練習したり、ケアしたりしている。チームの練習は、緊急事態宣言が出て、体育館の使用が20時までの制限がないときは、17時〜19時、21時〜23時で2部練習をすることもたまにあるよ。

──間が短い(笑)。

そうそう(笑)。



日本代表の立ち位置は常にギリギリのライン

──W杯まで2カ月半くらい。現在の心境は?

確実にメンバーに入れるとは全然思っていない。俺は常にギリギリのラインにいるから。

──そうなの?

ファーストセット、セカンドセットに、基本的にはいつも入っていない。だから絶対にメンバーに入りますという立場じゃないと思っているし、まずは入ることだよね。入ったらもちろん楽しみだけど、入らないとなんの意味もないから。

──でもずっと呼ばれている。

そうなのよ。

──でも定位置感はない。

そうそう、ないんだよ。そこに食い込めない。(2020年2月に戦った)パラグアイのときは出られていたけど、(2019年に)タイと新潟で戦ったときはセカンドセットにも入っていなかったからね。本番は逸見(勝利ラファエル)も来るし、アラが大変。壮絶だよね。

──(6月末の)合宿は誰と組んだ?

1日目はマサ(平田・ネト・アントニオ・マサノリ)、(八木)聖人、(皆本)晃。2日目は、(オリベイラ・)アルトゥール、(清水)和也、(加藤)未渚実。

──主力が多い。

2日目はそうだけど、1日目はギリギリのところ。もう2つのセットは、アルトゥール、(吉川)智貴、和也、未渚実と、パッシャン(西谷良介)、(星)翔太、仁部屋(和弘)、(星)龍太。2日目と3日目は固定したけど、ブルーノは、1日目はセットを変えていたかな。

──正直、W杯よりもまずはメンバーに入ることを考えている。

Fリーグで1点しか取ってないし、そうだね、まずはそこかな。W杯ということでは、スペインとパラグアイには負けているから、リベンジできる機会があるのはめっちゃいい。大会の抽選を見て楽しみが増した。もし入れたらね。



日本代表はドリブルだけでは勝負できない

──2016年のアジア選手権はメンバーに入っていたけど中心ではなかった。ジョーカー的な使われ方で出場時間はあまりないなかで敗退。あのときはどう思っていた?

正直、「俺を出せ」というレベルではなかった。このメンバーで負けるかって感じだよね。歴代最強みたいに言われていたじゃん。だから、これで負けるのか、って。

──客観的に見ていた。

もちろん、出たかったけどね。でも、ここで出ても、「俺がなんかできるかな」というのはあったね。(準々決勝の)ベトナム戦とかさ。出たいけど、メンツがメンツだったからね。

──大会前に国内でやったコロンビア戦。代々木で戦った試合を見返したら、途中から出たよね。ドリブル突破してチャンスメイクして活躍した。そのあと、(清水)和也と(中村)友亮が外れた。あそこでメンバーを勝ち取った気がする。

なるほどね。

──2012年のW杯でベスト4のコロンビアに連勝したからね。

たしかに日本史上最強と言われるよね(笑)。

──大会後、次は自分が中心だという想いはあった?

監督が交代して、合宿に呼ばれてから思ったかな。ブルーノ監督になってからはほぼ呼ばれているから。

──たぶん、一番参加しているよね。

そうかもね。戦術的にも、ブルーノとは4、5年やっているわけだからだいたいわかってくるじゃん。だから、ブルーノからは、「新しい人には、戦術の声がけとかをしてくれ」と言われている。そういう立ち位置になったか、と。年齢もそうだけどね。

──若手中心の合宿でも呼ばれているし、いろんなパターンのメンバーのなかで選ばれている。だから、メンバー争いは手堅いという印象だけど。

これだけ呼ばれてきて最後に呼ばれないって、ないわけじゃないから。(前監督の)ミゲルには、ヒールリフトからゴールを決めたあの後に「あいつは絶対に呼ぶ」ってメディアにも話していたけど、実際、呼ばれなかったからね(笑)。そういうこともあるから、最後まで集中しないとだよね。でもあれは逆サプライズだったわ(笑)。

──中心としてやろうという想いはある。

それはある。試合にも出させてもらっているし、使ってもらっているから。でも、北海道でやっているものと、プレースタイルは変えないといけないんだよ。(逆サイドの)未渚実と俺がどっちも(ボールを持って相手と対峙しながら)さらしちゃうと、停滞する。だから俺は前線から犬のように走るしかない。北海道だったらドリブルしてチャンスメイクするけど、代表ではそれだけで勝負できない。ピヴォに当ててからの3枚目を意識している。

──チームとの切り替えの難しさはある。

でも、みんなうまいからさ、純粋に楽しいよね(笑)。



名古屋でもっと真剣にやっていれば良かった

──そういうおまえは、挫折とかあるの? 俺が知る限り、2回くらいしている気がするけど。1回目は名古屋かな。どう感じている?

1年ちょっと名古屋にいたけど、もっとやっておけば良かったと思っているよ。もっと成長できたと思う。あのときは若かったし、ドリブルしかしない。フットサルというか、ドリブルばっかりだった。もっと真剣にやっておけば良かったって、今なら思うけど。

──自分からやめた。

そうだね。

──名古屋はだいたい、契約を切られて出ていく選手が多いのに。

うん。試合に出られなくて、無理やなって……。試合出ないとつまんないとか、あまり深く考えられてなかった。監督とも合わないって(苦笑)。

──後悔がある。

というか、もう少しうまくやっておけば良かったなと。監督との接し方とかもそうだけど、とにかく我が強すぎた。今ならもう少しうまくやれたと思う。20歳くらいだったからね。それから、町田のルイスとかと接するなかで、うまくやらないといけないと感じた。

──試合に全く使われないわけじゃなかったからね。

ポイントで使うみたいな考えだったと思う。

──でも、もっと出たかった。

そうだね。

──あのころは、紅白戦で俺とおまえの2人の関係でよく点を取っていた。でも、その出来がそのまま試合に直結するわけじゃない序列がある。絶対的に中心とされる選手がいるから、その葛藤があるよね。紅白戦で活躍していても、出番が約束されるわけじゃないという。

それはあるよね。でも、それがあって、今があると思うよ。1年ちょっとだけど、名古屋にいたのは大きかったかな。あとは、(森岡)薫さんとかがいたころの町田。アウグストとか、ダニエル(・サカイ)とかがいて、練習からすごく質が高かったからね。



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