更新日時:2021.11.23
日本フットサル界の歴史を知る男・木暮賢一郎「価値を上げるために全力を尽くしたい」|就任会見全文
PHOTO BYJFA、軍記ひろし
日本サッカー協会(JFA)は11月22日、フットサル日本代表の木暮賢一郎新監督就任を発表した。
ブルーノ・ガルシア前監督が率いた日本代表は今年9月、FIFAフットサル・ワールドカップ リトアニア 2021でベスト16に進出した。大会後、5年間チームを指揮したブルーノ監督は退任し、同大会でコーチを務めた木暮氏が後を引き継ぐ形となった。
選手としては、2000年から2012年まで日本代表のエースとして活躍し、W杯にも3大会連続で出場した。2012シーズンで現役を引退してからは指導者の道に進み、2016-2017シーズンにはシュライカー大阪でFリーグ制覇を達成。名古屋オーシャンズの10連覇を阻んだ。その前後で、FリーグU-23選抜の監督や、2016年4月にはスポットで代表監督も経験。その後、ブルーノ・ジャパンでは鈴木隆二氏とともに、“ダブルコーチ”体制で、監督の右腕として才気を振るってきた。
日本フットサル界の歴史を、選手としても指導者としても知り尽くす木暮新監督が、就任会見でその思いを語った。
ラウンド16の壁を破るに必要なことは?
■木暮賢一郎監督(日本代表)
日本代表監督に就任した木暮賢一郎です。この場をお借りして、感謝の気持ちをお伝えします。代表監督という素晴らしい機会をいただいた日本サッカー協会・田嶋幸三会長、北澤豪フットサル委員長にも感謝しています。期待に応えられるような仕事を全力で行なっていきたいと思います。
まず、これまで3年半、女子代表監督を務めてきました。本来であれば2020年にAFCフットサル選手権が開催される予定でしたが、延期が続いています。ここまで関わってきた選手とタイトルを獲得する気持ちでしたので、共に迎えることができない残念な気持ちはあります。ですが、須賀雄大新監督がAFCのタイトルを獲ってくれると信じています。すべての関係者、指導者にもあらためて感謝をお伝えします。ありがとうございました。
A代表については、私も選手として、2000年に初めて代表のトレーニングウェアを着ました。ここまで、6名の代表監督と共にやってきましたが、選手としての振る舞い、誇りを学びながら歩んできました。代表監督、スタッフ関係者だけではなく、多くのチームメイトと切磋琢磨しながら、日本代表の価値を高めたり、当時はW杯の出場経験もなかったので、自力で予選を突破するという目標達成のためにトレーニングを積んできました。
今も関わっている当時のチームメイトもいますし、遠くから応援してくれている方もいます。そうした歴史を積み重ねてきていますから、共にフットサルを大きくしてきた方々の思いを受け取って、日本代表監督として、強いだけではなく、他のスポーツからも尊敬されるような、フットサルというまだまだメジャーとは言えないスポーツの価値を上げるために、全力を尽くしたいと思います。
──日本代表の監督に就任し、率直にどんなお気持ちですか?
私は、現役を引退するときも、将来は日本代表監督となり、世界を驚かすようなゲームをしたいという想いを発信してきました。選手をしてきたので、代表がどんな場所であり、望んだからといって必ずたどり着ける場所ではないことを理解してきました。
今回はタイミングがあって、チャンスをいただきました。非常に光栄なことですが、それ以上に、やるべきこと、成し遂げるべきことがたくさんあるので、そこに向けて全力を尽くして、日本代表の誇りを持って、先頭に立って引っ張っていけたらと思っています。
────W杯では、世界ランク1位のスペインと、同2位のブラジルと善戦し、10位のパラグアイとも、敗れながらもいい勝負を見せました。その大会をどのように振り返り、次を託される監督として、どこから着手し、どう取り組んでいくのでしょうか?
当然、ブルーノ前監督が築いたプロセスは、私もコーチとして共に見てきています。そのなかで、どういう狙いを持っていて、どこに課題があるかも、結果だけではなく、常に共有してきましたから、私の頭にはすべてが入っています。
監督が替わることで、継承するものも、変化もあります。具体的に、W杯ではここが弱点でした、通じましたなどは、この場で私の口から言うよりも、今後の活動で見てもらいたいと思います。そこで、継続と変化を見てください。
また、別の視点として、W杯はリトアニア大会だけではなく、過去に出場した大会までの分析が必要です。私はここまで、2004年大会から2008年、2012年、2021年の15試合を戦いました。11試合は選手として、4試合はコーチとして見ています。
そこで、スペインやブラジル、かつてはイタリアなど、世界のトップ4と言われる国との戦いでは、スコア上、間違いなく日本フットサルは進化していると言えます。一方で、今大会で対戦したパラグアイは、私が日本代表のデビュー戦で戦った相手でもあり、南米の勝負強さなどを痛感しました。
具体的には、ベスト8に進むため、ラウンド16の壁を破るには、予選で2位以内に入る必要があります。つまり、同じような力関係の国には必ず勝ち切らなければいけません。そのためにも、ここまでの相性や過去の成績もピックアップして、すべての情報を味方につけ、そこをストロングポイントにして進んでいければいいなと思います。
──W杯を経て、世界における日本の立ち位置はどこにあると感じていますか?また、3年後は、どこまで食い込みたいと考えていますか?
客観的な視点で言えば、日本の立ち位置は、今回のW杯も、2012年もベスト16であり、共通して予選を3位で通過しています。これまで積み重ねてきた結果を踏まえた優先順位として、まずはグループで2位で突破すること。その後のトーナメントの振り分けはわかりませんから、ラウンド16で勝利するための確率を高めることが絶対条件だと思います。
W杯前にはAFCもありますが、2位で通過するためには、特にランキングで同じような国に対しては、必ず勝ち切る実力をつける必要があります。対戦相手は予測できないものの、過去にブラジルが勝ち続けた、スペインが勝ち続けた時代は変わってきています。
その時代が終わったわけではないですが、直近2大会はアルゼンチンとポルトガルが優勝し、ベスト4の顔ぶれも変わってきています。2024年も、新しい国の台頭があるかもしれないですし、他国が力をつけていることは間違いありません。
世界の状況を見ながら、どんなプレースタイルの国に対して、日本がどんな傾向にあるかを予測する。苦しむチーム、噛み合わせがいい国もあると思います。スペインやポルトガルなど、組織に優れたチームとはこの数年、間違いなくスコア上でも拮抗した試合ができていることが多いです。その一方で、フィジカルや個人技術を前面に出すチームには分が悪かった時代も見てきています。
相手の傾向を見つつ、対戦相手に反映させながら、来年以降のFIFAデイズを活用して、海外との試合などを組んで具体的な強化をしていきたいと思います。
日本の立ち位置ということでは、世界ランキングがありますから、それを信じるのであれば、そこが一つの目安になると思っています。
──2013年に現役引退された際に「監督にもいろんなタイプがいる」という話をしていました。常勝チームを勝たせる監督、下位チームを勝てるチームにする監督など。そこで木暮監督は、どんなタイプにも対応できる監督になりたいと話していました。今は、どんなパーソナリティを持って、今後どんな監督になりたいですか?
日本代表監督は明確に、どうあるべきかが定まっています。ここでお答えする必要がないくらい、日本代表はそれ自体が、世界に日本のフットサルを知ってもらうこと、プレーの質だけではなく、育成環境や指導者の質、ファン・サポーターを世界に示すチームです。そのチームを率いることは、私自身がどうしたいということ以上に、持っているアインデンティティを示すことが、まずは大事です。
私がどんな監督かということですが、ゲームを進めながら目標を達成するためには、やはり10人いれば、10通りのスタイルがあると思います。引退した2013年からも、少なからず経験を重ねてきています。Fリーグ選抜やFリーグのクラブでの監督、女子代表監督、育成年代代表を率いた経験から、当時より見える視野は広がりました。そうした積み重ね、学んだことをフル活用して、これから始まる代表チームに伝えていけたらと思っています。
そこでは、若い選手も、経験のある選手も必要です。私は、世界の舞台でプレーすることと、国内で結果を出すことは、必ずしもイコールではないと選手時代から感じています。アジアで勝つ戦い、世界で勝つ戦いがあり、相手も違いますから、私のすべての経験を生かし、コーチングスタッフとも力を合わせ、木暮はこういうものを好むんだというものを、代表の価値だけではなく、見ている人に感じてもらえたらいいなと思います。
──通常はW杯まで4年の準備期間がありますが、今回は3年のサイクルとなります。3年しかないというなかで、どのようにチームを構築していこうと考えていますか?そこに、代表の年齢制限や、世代交代という狙いも含まれているでしょうか?
3年しかないというのは事実としてあります。来年にはAFCがあると思いますし、今回のW杯出場の経緯を含め、過去のAFCの成績がポイントが加味されましたし、不測の事態ではれが活用されることを、生々しく経験しました。ですから、どのAFCの大会も重要ですし、まずは来年のAFCがあります。
私自身、生々しく代表活動を見てきたなかで、年齢制限は基本的にないと思っています。リーグでしっかり結果を出していることが選考で重要視されます。
とはいえ、「世代交代」ということではないですが、私自身がU-20代表も、コーチと監督として携わってきましたし、多くの若くポテンシャルのある選手が台頭している事実もあります。具体的に年齢をどう変える、新しい選手をたくさん呼ぶとは言いませんが、同じ実力をもっている2人がいた場合、若い選手がその座を勝ち取る可能性があります。若い選手はその気概で、リーグでハイパフォーマンスを示してもらいたいと思っています。
監督においてさまざまなスタイルがある話しましたが、私は、若い選手を起用することにおいて、怖いとか、うまくいかなかったらどうしようという不安を抱かないタイプだと思っています。いいパフォーマンスをしていれば、その座を勝ち取れると思います。大事なのは、ピッチで実力を示すこと。W杯を経験した選手は、そこに行かないとわからない課題や感じたことも胸に残っていると思うので、その意味では、新体制以降、選手のモチベーションも上がっていくと思うので、各クラブでのプレーに期待したいです。
──女子代表監督としては、2018年のAFCフットサル選手権の出場以降、公式大会がないまま退任となりました。その点で心残りはありますか?
できることなら、AFCで選手がトロフィーを掲げるところを見たかったです。それ以外は、素晴らしい経験をさせてもらったことへの感謝しかありません。彼女たちは、15年くらい前の男子と似ていて、フットサルが好きで、代表に呼ばれる喜び、トレーニングできる喜びをもっていて、私もそれを再認識する場でした。私のほうが学びが多かったかもしれません。そこで得たものを、あらためて男子に還元する必要もあると思います。女子監督を経たことで、男女の垣根を越え、日本代表チームのファミリー感を出し、立場を変えても女子も気にしていますし、応援し、トレーニングも見に行きたいと思っています。
──ファン・サポーターにメッセージをお願いします。
私は、1990年代後半にフットサルと出会いました。当時はFリーグもなく、フットサルを知らない人が多い時代でした。練習場所もなく、駐車場で練習したり、休日に民間大会に参加した原点があります。その後、地域リーグができ、少しずつフットサルに興味を持ってもらい、フットサルを見にきてくれるようになったのが2000年くらい。その頃からずっと見てくれている方がいるのも知っています。
04年に初めて日本代表が国内で親善試合をアルゼンチン代表と戦い、会場が満員になった光景は今でも忘れていません。なにもなかった頃から応援してくれている方もそうですし、その過程でファンが増え、はるかに多くの方々がフットサルを認知してくれています。まだまだ増やしていくために、代表を強く、魅力あるチームにすることも私の使命だと思っています。
応援してくれているファン・サポーターには、感謝の気持ちしかありません。なかには、昔は見ていたけど今は見ていないという方もいると思います。そういう人がまた見たいと思うような魅力ある代表チームを築き、フットサル界が盛り上がり、みなさんを味方につけ、素晴らしいチームをつくりたい。そのためにファン・サポーターの存在は欠かせません。多くの人にさらにフットサルに興味を持ってもらい、共に、強く、魅力あるチームをつくっていけたらと思います。
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