更新日時:2022.06.17
王者の新キャプテン・篠田龍馬の覚悟とブレない生き様。「失敗は次に生かさないとダサい」
PHOTO BY高橋学
Fリーグ16年の歴史のなかで15回ものリーグタイトルを手中に収めている名古屋オーシャンズ。
“絶対王者”と呼ばれる名古屋オーシャンズに14年も在籍し、誰よりもこのクラブのことを知る男・篠田龍馬が今シーズンから新たなキャプテンに就任する。
どこよりも勝ち続け、タイトルを取り続けなければいけない。
そんな使命を課せられる名古屋の主軸を担っていた星龍太、星翔太、関口優志が昨シーズン限りでチームを去った。クラブ所有の練習場も新設され、一つの転換期を迎える名古屋で、大きな役目を任される篠田。
篠田は、負けることが許されないクラブのゴールマウスを長年守り続け、常にプレッシャーを浴び続けてきた。普段、感情を表に出すタイプではないが、重圧に晒され、何度も弱気になってしまうことがあった。しかしその度に篠田は打ち勝ち、失敗を失敗で終わらせずに生きてきた。だからこそ、名古屋というクラブに長く在籍し続けられている。
自らの中にブレない強い意志を持つ篠田は今、どんな覚悟を抱き、キャプテンとして迎える新しいシーズンを戦うのか。
そこにも、彼のブレない考えがあった。結果を求め続けられるクラブに14年間も居続け、チームをけん引する篠田の生き様を紐解いていく。
インタビュー・文=舞野隼大
♦︎Fリーグ2022-2023 試合日程・放送予定♦︎
プレーや姿勢で引っ張っていく
──今シーズンから名古屋オーシャンズのキャプテンを任されることになりました。キャプテンに任命された時の心境を教えてください。
もう32歳なので、正直もう少し若い選手の方がいいんじゃないかと思いました。でも、任命されるのは光栄なことなので、すぐに「やります」と伝えました。僕は地元出身選手ですしこのクラブに長くいるので、その意味でもチームの顔になっていかないといけないと思い、自分が成長するいい機会だと思いました。
──以前、星龍太選手にインタビューした際、篠田選手なら「チームの内情、歴代のキャプテンを見ているから、自分のやり方でやってくれる」と話していましたが。
自分より若くて、同じくこのクラブに長くいる八木聖人や水谷颯真がキャプテンになると思っていました。自分がキャプテンになるイメージはなかったので、適任だとは思わないですけど、責任感や名古屋の選手としてどんな振る舞いが求められるかというのを自分が一番よく分かっています。その意味では、プレーや姿勢で引っ張っていけたらと思っています。
──歴代のキャプテンを見てきて、印象に残っているキャプテンは誰でしょうか?
当時、僕が若かったこともありますけど、北原亘さんはすごいキャプテンでした。外国人選手を含め、誰にでも分け隔てなく接して、取り込むのがすごくうまかった。僕がオーシャンズに来て1年目のときにいた個性派揃いのメンバーをまとめていたのはすごかったですし、印象に残っていますね。
──北原さんは、個性派揃いの選手たちをどのようにしてまとめていたのでしょうか?
試合中も練習中も手を抜かず、みんなからリスペクトを勝ち取っていました。ポルトガル語で冗談を言い合って、外国人選手を巻き込んだりしていた。僕も若い頃はご飯に連れていってもらっていましたし、若手も上手くチームの輪に入れてくれましたね。オフザピッチがとにかくすごかったですが、それはピッチ内でリスペクトされていなければ、成り立たないことですね。
悔しさを経験して強くなれた
──昨シーズンは全日本フットサル選手権の決勝戦で敗れてしまい、タイトルを落としてしまいました。篠田選手はSNSに「10連覇を逃した時と同じ気持ち」と綴っていましたが、あのときの気持ちを改めてお伺いしたいです。
いつもは優勝すればホッとしますけど、あの大会を最後にチームを去る人が多かったので、今までで一番勝ちたい大会でした。その分、負けて一番悔しい大会になりましたね。次はもう一度強い名古屋を見せて、タイトルを取り返さなければいけません。10連覇を逃したときも、悔しさを経験して強くなれたと思っています。敗戦から学ばないといけないですし、タイトルを逃してしまったときのほうが成長すると思っている。「このままじゃいけない」と思い知らされたので、強くなった姿をまた見せたいという気持ちになりました。
──今シーズンの名古屋に必要なものは何になりますか?
ゴールを決めるところですね。昨シーズンの終盤は失点が多かったですけど、ディフェンス面は組織的に守れていました。なのでオフェンスの部分は突き詰めないといけないですし、監督もゴールが足りないとよく話しています。
──仰るように、全員が一体感を持ってハードワークするスタイルが今までの名古屋の良さでした。ですが篠田選手がキャプテンになった今、昔のようなピリついた雰囲気に変えるのか。今までの良さを継続するのか。どのような方針を考えていますか?
チームのために走り、体を張ることが一番大事だと思っているので、一体感は継続して高めていきたいと思っています。僕がどうこうというのはないですけど、昨シーズンのような戦いの方がピッチ上でもいい影響が出る。練習中からいいコミュニケーションを取れていますし、突き詰めていることで、みんながみんなを信頼しながらできています。
──選手一人が際立つより、チームとしてまとまった方が強いという考えでしょうか?
はい。個々のタレントを持った選手たちがまとまって戦えたら間違いなく強いです。オフザピッチも含めて、一人ひとりがやるべきことをやり、チームのことを考えてプレーする。それが個人の成績にもつながっていきますし、そういうことを一番に考えてやれると強いと思います。
主将としてのプレッシャーはない。ただ…
──キャプテンとして迎える今シーズンは、例年と比べて気持ちの変化やプレッシャーはありますか?
いえ、プレッシャーは感じてないですし、気持ちも例年とそんなに違いはないですね。今シーズンは選手がある程度入れ替わりましたが、キャプテンとしてすることは特にないかなと思っています。僕は元々、言葉で引っ張るタイプではないので、今まで通りプレーして、何かあったときにチームのためになれる行動をする。それはキャプテンだろうが、そうじゃなかろうが変わらないので、いつもと同じですね。
──では、キャプテンとして特別何かをするようになったわけではない。
そうですね。中心選手やムードメーカーが抜けて、雰囲気は大人しくなったかなという感じはありますけど、ピッチに入ればみんな真面目なので、僕がやることはないかなと。
──「プレッシャーがない」とのことでしたが「自分がキャプテンになったシーズンにもしもリーグタイトルを落としてしまったら……」という不安はありませんか?
キャプテンとしてはないですね。ただ、一人の選手としては、常にそのプレッシャーはあります。毎年その戦いで、弱い気持ちになるときもあります。でも、基本的には今までそこに打ち勝ってきたからここにいますし、自分の場合はその数が多い。
──弱い気持ちになってしまったとき、心が折れかけるようなことはありませんか?
GKなので、自分のミスで負けてしまうことはあります。そういう経験をしすぎていて、その度に「またこんなことしているのか」「自分はダメなのか」と思うときはありますけど、そこからなんとか持ち直していくことで力がついてきました。ミスをして負けてしまったり、良くないときは逃げ出したくなることもあります。でも、それで終わったら失敗のままで終わりますし、次に生かさないとダサい。つらいことに耐えて、また起き上がるのはしんどいですけど、悔しい経験を繰り返してきたことで成長してきました。初めてリーグタイトルを落としてしまったときもそうでしたね。
──逃げ出したくなるようなときに踏み止まれるのは、根本に「強く生きたい」という思いがあるからでしょうか?
そうですね。後ろで守っている人間ですし、他のチームのGKより結果に対する責任を背負っていると思っています。その経験できる人間は一握りなので、それを生かさない手はありませんし、人間としても間違いなく成長できるはずです。ダメなときでも強い自分でいられるのは大事なことだと思いますけど、そういう能力だけは人より持っていますし、弱いままで終わったら格好悪いので。
──篠田選手個人としては、関口優志選手が移籍したことも大きな出来事なのかと思います。単純な考え方をすれば、出場機会を半々に分けていたライバルがいなくなったことは、メリットなのかもしれないです。でも、今までの2人の関係性を見ていても、それだけでは片付かないように思えますが。
優志が移籍したのは、選手としてはいいことだと思いますけど、やはり寂しい気持ちがあります。6シーズンも一緒に過ごして、長い時間を共有してきたので、2人にしか分からないことがたくさんありました。今シーズンはケガを治して、よりいいコンディションで敵としてピッチに戻ってくるので、僕はそこに負けないようにしたいですね。
──今シーズンはY.S.C.C.横浜から復帰した田淵広史選手とポジションを争うことになります。
ラファ(田淵)は成長して帰ってきましたが、「自分は自分」という考え方で僕らはいます。より多くの試合に出ないといけない。出場機会は増えなければいけないですし、そこで自分の力を示さなければいけません。
いつ、どうなってもいいように毎日を過ごしている
──今シーズン、個人としての目標はありますか?
チームが一番なので、まずはチームを勝たせることですね。そこで自分が多くの試合に出てすべてのタイトルに貢献する。それが短期的な目標です。
──中長期的な目標はどんなものがありますか?
長くこのチームでプレーしていたいですね。名古屋オーシャンズはシビアな世界なので、1年1年が勝負だと思って常に過ごしています。なので自分がいつ、どうなってもいいように毎日を過ごしているつもりです。キャプテンだろうが、そうでなかろうが、ダメならそこで終わる世界です。やってきたことが全部返ってくると思っているので、そうなったときに後悔しないように日々を過ごしたいです。
──篠田選手が名古屋以外でプレーしている姿は想像しにくいですが、もしも名古屋を退団することになったら……?
正直、名古屋以外のチームでやるつもりはないですね。このクラブを契約満了になったときが引退だと思っています。「唯一のプロクラブだから」とかではなく、このチームでずっとプレーしているので、違うチームで続けようとは思わないです。だからこそ、毎日を大切にしていきたいです。
──日本代表への思いはいかがですか?
代表は若返っていますけど、入りたい気持ちがありますし、一番は優志と一緒に選ばれたいと思っています。でも、それを僕が言える状況ではないので、地に足をつけて、チームでの成果と多くの試合に出ることを考えています。
──次のW杯は2年後になるので、そのとき篠田選手は34歳になります。当然そこも目指しているのでしょうか?
もちろん出たいと思っていますし、前回大会だって出たかったです。34歳になりますけど、体も問題ないと思っているので、まずはチームで結果を出すことに尽きます。評価するのは自分ではないですし、そんなことを言える立場ではない。なので自分は自分にできることをして、チャンスが来たときにそれを掴めるよう準備しておく。結果を出していたらチャンスは来ると思っています。いろいろな意味で覚悟は決まっているので、恐れるものはありません。
──篠田選手の考えはいつもブレないですね。
他の選手より優れてないので、思いを貫いたり、継続することで生き残っていると思っています。失敗したときにしっかり立ち上がって、上に行くというのをしてきました。名古屋の選手になる前から常に挫折を繰り返しているので、耐性は人よりあると思います。
──そうした考えは元を辿ると、どこにありますか?
小学校、中学校のときの経験が大きいと思っています。小学生のときはドッジボールしていましたが、厳しいチームでした。中学生のときに所属していたサッカーチームも人間形成に重きを置いていた。中学のときは試合に全然出られなかったのですが、そのとき経験も大きいです。上手くいかないことの方が当たり前の中で育ったので、なにくそという気持ちはずっと持ってやっていました。一人の人間として、試合出られず不貞腐れるのはダサいと思っていましたし、それを他人のせいにするのはかなり格好悪い。今、自分にできることをしないのは違うなと思って、ずっと取り組んできています。だからこそ、先ほども言ったように恐れるものはないですね。
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