更新日時:2023.03.22
【渡邉知晃コラム】頂点に立ったエースと、タイトルを逃したキーマン。「日本一」の命運を分けたもの|全日本フットサル選手権
PHOTO BY高橋学
3月19日、第28回全日本フットサル選手権大会決勝が聖地・駒沢体育館で行われた。湘南ベルマーレとフウガドールすみだが激突した一戦、試合結果は既報の通りだが、延長戦にもつれ込む激戦となった裏側を、今大会で4回の優勝経験をもつ元日本代表のフットボールライター・渡邉知晃が分析する。
清水和也、絶対的エースのメンタリティと技術
今年の全日本選手権は、すみだの優勝で幕を閉じた。絶対王者・名古屋オーシャンズも、昨年の覇者・立川アスレティックFCも決勝の舞台に立てなかった。地方の会場に分かれて行われた1回戦、2回戦を勝ち上がり、駒沢の準々決勝に進出したのは、今シーズンの実力通り、F1の上位8チームだった。
しかし、決勝を戦ったのは5位・湘南と6位・すみだである。やはり、一発勝負のトーナメント戦というのは何が起こるかわからない。
決勝戦で試合を決めたのは、すみだのエース・清水和也だ。
試合開始早々からエンジン全開でゴールを狙いにいった清水だが、湘南としても、最も警戒しなければいけない選手であることを理解しているため、守備力に定評のある日本代表・内村俊太をマッチアップさせることで、自由を与えないようにするなど、きっちりと対策を立てて臨んできていた。
清水に何度か決定機が訪れても、守護神・フィウーザがゴールを割らせない。ゴレイロと1対1で決めきれなかった時は、悔しさを表情ににじませた。
決勝戦は、いつも以上に気持ちがたかぶり、意地と意地がぶつかることによってフィジカルコンタクトも必然的に激しくなる。すみだのエースである清水に対しても、当然のように湘南の選手たちは体を強くぶつけてきていた。
ファウルに見えるようなコンタクトでも、笛が吹かれないシーンもあった。加えてゴールを奪えずにいたことで、清水にとってはフラストレーションが溜まってもおかしくない展開であった。さらには、準々決勝以降、アシストこそあったものの、ゴールという目に見える結果を残せずにいた。
しかし、その時を虎視眈々と狙っていた。
延長第2ピリオド、勝ち越しを目指してパワープレーに出ていた湘南に一瞬の隙が生まれた。切り替えが一瞬遅れ、選手交代のミスも重なり、ゴール前の中央で清水がフリーでボールを受けたのだ。
シュートを防ぐために前に出てきたフィウーザを右に揺さぶり、角度のないところから右足を振り抜くと、ボールはゴールへと吸い込まれた。試合終了間際のワンチャンスを確実に得点につなげ、チームを優勝に導いた。
清水のメンタル的な強さと、常に得点を奪うためにいい準備を続けること、そして、ワンチャンスをものにする決定力の高さが凝縮していた。チャンスを決めきれずにいても、決してメンタルを崩すことなく、どんな時でもいつもと同じようにプレーを続けられたことも大きかった。
Fリーグ得点王としての実力を発揮し、エースとしての役割を果たした、”清水和也らしい”ゴールで優勝へと導いたのは、さすがとしか言えない。
湘南の敗戦理由の一つは内村俊太の退場
湘南の先制点で起点となったのは内村俊太だった。この試合も彼の存在感は際立っていた。大舞台になるほど、彼の価値は高まるように感じる。
現に、日本代表が優勝した2022年のアジアカップ決勝でも、それまで出場機会が少なかったなかで、イランの屈強なピヴォを抑え続けた。日本がアジアチャンピオンに輝けた背景には、少なくない内村の貢献があった。
湘南の初タイトルがかかったこの舞台でも、第1ピリオドからチームを攻守ともにけん引していた。ディフェンス面では、すみだのエース・清水に得点を奪わせず、得意のパスカットや前への飛び出しでチャンスを演出していた。
内村のインターセプトからのカウンターアタック。ゴールクリアランスの際に裏に飛び出していき、フィウーザからのロングスローを受けてシュートまで持っていく形は、湘南の大きな武器となっている。
準々決勝のペスカドーラ町田戦でも、フィウーザのロングスローを受けて奪ったものを含め2得点を挙げ、準決勝でも1得点、さらには決勝でも、インターセプトから靏谷春人の先制点をアシストするなど、存在感は際立っていた。
湘南の中心選手であり、チームの心臓であることは間違いない。この決勝戦でも素晴らしいパフォーマンスを見せていた。試合自体も、どちらかと言えば湘南のペースで進んでいた。このままいけば湘南か──そんな時だった。
第2ピリオド残り時間9分を切ったところで、内村が2枚目のイエローカードをもらってしまい、退場処分となってしまったのだ。
1枚目は、相手のキックインの素早いリスタートを避けるためにもらったイエロー。2枚目は、すみだの決定機になりそうなチャンスをファウルで止めてのイエロー。致し方ないカードだっただけに、湘南としては痛かった。
試合後に伊久間洋輔監督は、「痛かったです。あのままいけばどうなっていたかとは思いますけど、それがゲームだと思います」と内村の退場について話したように、チームへの影響は少なからずあったことは間違いない。
内村の退場後、3対4の数的不利の2分間をなんとか守り切ったものの、直後に失点。すみだが勢いを増し、試合の流れをもっていった。延長戦では、それまで内村がマークにつき、ゴールを奪わせずに守り切っていた清水にやられたことを考えても、日本有数のフィクソの不在は確実に影響していた。
すみだの一番の勝因は想いの強さと一体感
全日本選手権という大会は、シーズンの最後に行われるカップ戦であるため、各チーム・各選手がいろいろな“想い”をもって戦う。引退、退団、移籍など、今のメンバーで戦うことができる最後の大会だ。
昨年の優勝チーム、「立川・府中アスレティックFC」は、翌シーズンからチームの本拠地が立川に移転することが決まっていたため、「府中」の名前をつけて戦う最後の大会だった。「府中」の名前を歴史に刻むために、チーム一丸となって戦い、そして優勝という結果を残した。
今大会の決勝に進んだ2チームにもそれぞれ、強い想いがあった。
湘南は、エース・ロドリゴの退団が決まっていた。長い間チームを引っ張ってきた鍛代元気も、この大会を最後に現役引退する。薮内涼也も期限付き移籍が発表されていた。彼らのためにも、タイトルがほしかったのだ。
一方、すみだは荻窪孝監督の退任するほか、岡村康平、宮崎曉、佐藤雄介が現役引退する。檜山昇吾、川﨑柊音の退団も発表していた。そして決勝翌日に発表された清水和也の名古屋への移籍も当然、仲間は知っていただろう。
すみだは、タイトル獲得への「想い」がどのチームよりも強かった。
今シーズンのリーグ戦で6位に終わったことからも、チームの調子が決してよかったとは言えない。清水も、決勝後には「プレーオフに行けなかったことは、チームに申し訳ない。もっと点を決めていれば……」と語っていた。
今シーズンは、清水、星龍太というFIFAフットサルワールドカップ2021を戦った日本代表の復帰もあり、チームとしての期待値も高かっただけに、プレーオフに行くことなく終わったリーグ戦の結果に満足はできないだろう。
だからこそ、「日本一」のタイトル奪取への想いは強かった。
すみだは、伝統的に「一体感」がストロングポイントだ。須賀雄大前監督や、歴代の所属選手が植え付けたクラブのアイデンティティである。
人々の記憶に深く刻まれているのが、前身チーム「FUGA MEGURO」として出場した2009年の第14回大会だ。当時、Fリーグの上位3チームだったデウソン神戸、バルドラール浦安、名古屋オーシャンズを倒して、地域リーグ所属のチームながら大会制覇を成し遂げた。
チームの一体感、さらには会場に来ていたファンも一体となって、格上をなぎ倒していった。宮崎曉や諸江剣語などのベテランも、当時はまだすみだでプレーしていなかったため、優勝を知るのは星龍太だけだった。
カップ戦に強いすみだは、それ以降も全日本選手権で3度、決勝の舞台に立っていたが、いずれも準優勝に終わっていた。
迎えた今大会は、チームを去る監督やメンバーのためにも……という気持ちが、毎試合のようにチーム全体から強く感じられた。少なくとも、2009年にフウガで日本一を経験した筆者自身は、その空気感を感じとっていた。リーグでは少し薄れていたように感じた、「フウガらしい一体感」があった。
それぞれの“想い”がチームに多くの影響を与え、選手を走らせ、観ている人に感動を与えるということを改めて感じた今大会のすみだの優勝だった。
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