更新日時:2023.10.07
【日本代表】新システムで戦う木暮ジャパンに求められるGK像とは?内山慶太郎GKコーチ「ゴレイロはスペーシングとタイミングが非常に重要になる」
PHOTO BY本田好伸
日本代表は9月28日から10月1日まで、高円宮記念JFA夢フィールドでAFCアジアカップ予選に向けたトレーニングキャンプを実施。7日に、決戦の地・台湾で初戦を迎える。
GKには、9月にブラジルで開催されたFutsal Nations Cupにも出場した黒本ギレルメに加え、今年6月に日本国籍を取得したフィウーザ・ファビオが念願の初選出。その後、黒本が体調不良のため急遽離脱となり、代役として代表経験も豊富なピレス・イゴールが追加招集された。フィウーザ&イゴールという強力な2枚看板で予選に臨むこととなる。
ハイレベルなポジション争いが繰り広げられているゴレイロ陣だが、選手それぞれにはどんな特徴や違いがあるのか。また、代表ゴレイロに求められるものとは。内山慶太郎GKコーチに話を聞いた。
※取材は黒本ギレルメ選手が離脱する前の9月29日に行われたものです。
プレーモデルのなかでそれぞれの特徴を発揮してもらいたい
──間もなく本番を迎えるアジアカップ予選には黒本ギレルメ選手、そして初招集となるフィウーザ・ファビオ選手の2人が選出されました。内山GKコーチから見た2人の印象を聞かせてください。
黒本はすでに1年間代表で一緒に仕事をしてきて、フィウーザも継続してずっとウォッチしてきましたが、それぞれまったく異なる特徴を持った2人であると認識しています。そのなかで自分の仕事は、「チームのなかでこういうプレーをしてもらいたい」という要望を伝えつつも、彼らが持っているいいものを日本代表で最大限、輝かせることだと思っています。
分かりやすいのは、前回のアジアカップのイゴールと黒本の関係性ですね。スタイルは全然違うし、でも、それぞれの持っているいものを発揮してチームに貢献することで、一つの結果につながったと思うので。黒本とフィウーザは見て分かる通り、体格も異なります。2人とも攻撃が好きという点は共通していますが、よく見ると攻撃の仕方も微妙に違う。黒本だったらパスがうまい、フィウーザはシュートが強いとか、分かりやすいところでいうとそういった違いがあるので、それぞれの良さを存分に発揮してもらいたいですね。
──「攻撃の仕方が違う」という具体的な例が出ましたが、内山GKコーチの目から見た2人の特徴をあらためて教えてください。
2人とも、できないことがあるわけではなくて「ストロングポイントが大きく異なる」という印象です。まず黒本は、先日のFutsal Nations Cupのブラジル代表戦で見せたような、相手のシュートに対してゴール下でリアクションするプレーを得意としています。世界トップレベルのブラジル代表のシュートをあれだけ止められるということは、世界でも十分に通用するストロングポイントだと言えるでしょう。
フィウーザに関しては、大柄な体格(185cm・84kg)を生かしたボールにアタックするプレー(前に詰めながらシュートブロックするプレーなど)だったり、手足の長さを生かしたセービングなど、どちらかと言えばコースを限定していくような止め方が得意だと認識しています。
──なるほど。そうなると当然、同じディフェンスシステムのなかでプレーしていてもシュート対応の際のポジショニングの取り方、技術選択などがそれぞれで微妙に変わってくるわけですね。
そうなります。代表チームのプレーモデルのなかでやってもらいますけど、最終的な感覚の部分は少し違うのかなと。そこをうまく尊重しながらプレーさせてあげたいと考えています。
「絶対こうしなければならない」というルールを用意しているのではなくて、そこには幅を持たせるようにしています。FPにも選手のカラーがあるのと同様に、GKにもいろんなスタイルの選手がいますから。「ここにボールがあったら絶対にそこから何mの位置に立たなければならない」と厳しく制限するのではなく、「このシチュエーションだったらだいたいこのエリアで、これくらいの距離感でプレーしてほしい」と伝える。その上で、最終的にはそのなかで選手それぞれの良さを発揮してもらいたい。チームのプレーモデルの範囲内で、得意なプレーを選択してもらおうと考えています。
例えば「数的不均衡だったら」とか、「セカンドポストに相手が入ってきていたら」とか。あるいは「相手がドリブルで運んできたのがタッチライン際の角度が少ない位置だったら」「コーナー方向に流れていたらなるべくゴールを空けないでほしい」など、プレーエリアやシチュエーションごとに指標となるプレーモデルが決まっています。
相手が攻め込んできた局面だけでなく、味方が攻めている時も同様です。どういう高さでカバーリングポジションを取るのか、ピッチを縦10mごとに割った4つのゾーンに分けて決めています。
──その約束事の範囲内で、例えば最後のところは選手個々の判断でそこからもう一歩詰めて距離を限定するなどもある。それについてはそれぞれの選手の判断を尊重し、それぞれの良さを発揮してもらいたいということなのですね。
その通りです。完全に「こうしてくれ!」と決めてしまうのではなくて、余白を残すようにしています。ただその一定の範囲から出てしまうと、我々がチームとして求めているプレーモデルではなくなってしまうので、あくまでもそのなかでプレーしてもらう必要があります。所属クラブのやり方とは異なる部分も出てきますが、2人ともよく適応してくれています。
──黒本選手、フィウーザ選手だけでなく、例えば昨年のアジアカップではイゴール選手も同じプレーモデルをベースにしていたんですよね?
はい。イゴールは前に詰めてコースを限定するブロッキングがストロングポイントの選手で、そこがブルーノ・ガルシア監督体制のチームでもすごく評価されていました。昨年のアジアカップではその良さを生かしつつも、黒本と同じポジショニングのベースでプレーしていましたね。
同じポジションをベースに、黒本は下がってリアクションタイムをつくりに行く(シューターとの距離を取ることで反応するための時間をつくる)、イゴールはそこからアタックして、早い決断と速い移動でコースを消しにいくというやり方を、同じプレーモデルに基づいて使い分けていました。ベースのポジションは同じ。だけど最後の決断(技術選択)が違うんです。
──例えばイゴール選手のプレーは、最初から前に出るのではなく、ベースのポジションを取った上で相手がもうワンタッチ運んで来た瞬間、一気に前に詰めてコースを消すといった具合ですね。
まさにそうです。チームのプレーモデルに基づいたポジションを取った上で、イゴールは出たい、黒本は下がりたいというそれぞれの選択を尊重する。「でもこの角度は出たくないよね」「この角度は選んでいい幅があるよ」といったコミュニケーションを常に取っていますし、相手の利き足、体勢、味方DFの付き方、ボールの進む方向などを込みで、出るのか、残るのかという部分を常にすり合わせるようにしています。
今回の合宿でも、集合してすぐにGKだけでミーティングを行いました。守備のガイドラインと攻撃のガイドラインを一通り確認して、特に初招集のフィウーザとはピッチでも密にコミュニケーションを取りながらすり合わせを行っています。
──今の日本代表は4-0のボール回し、プレス回避が特徴の一つです。そのなかで、パスを出した選手が裏に抜けるのではなく、後ろに向かってスプリントして数的優位をつくり、相手がマンツーマンで寄せて来たらすかさず裏のスペースへのパスを狙っていく「アルカ」という動きを多用していますよね。その際のゴレイロのポジショニングや関わり方については?
今は、チームとしてFPの最後尾とキーパーの距離感は間違いなく近くなる傾向にあります。そのなかで自陣の深い位置(自陣ペナルティエリア内のゴール脇など)でボールを持った選手が相手DFを引き付けた際、ボールと逆サイドにいる味方選手が裏に抜けることによってスペースを作って、そこにキーパーが開くという形を意図的に行っています。
キーパーがゴール前に留まった状態で短い距離感でパスを受けてしまうと、当初のマークを捨ててジャンプしてきた相手DFにすぐに寄せられてしまうので、ボールホルダーのマーカーが簡単に飛んで来ないようなポジションを取るようにしています。逆に、簡単にジャンプされてしまうような状況では、リスクの高さを考慮してキーパーを使わないのが原則です。
ボールと逆サイドの選手が本気で裏を取りに行って相手DFを1枚引っ張れれば、その選手が元々いたタッチライン際のスペースにキーパーがプレーできるエリアが生まれます。ボールホルダーがギリギリまで相手を引き付けてから、逆サイドに開いたキーパーを使う。その際にキーパーはボールよりも高い位置で、相手のファーストディフェンダーを越えた高さで受けるのが理想です。今のシステムのなかでキーパーを使う際は、スペーシングとタイミングが非常に重要になります。
──最後にメンバー選考の部分で、フィウーザ選手が初招集となり、9月のブラジル遠征に入っていた田淵広史選手が外れました。イゴール選手を含め、その評価を話せる範囲で教えていただけますか?
まず、先ほど触れたイゴールについては、これまでも一緒に戦ってきた仲間ですし、言うまでもなく素晴らしい実力と経験を兼ね備えた選手ですから、当然、今もウォッチしています。彼の力が必要になるケースは十分に考えられると思います。
田淵に関しては、Futsal Nations Cupのサウジアラビア戦でとてもいいプレーを見せてくれました。どちらかというと自分たちがボールを握るゲームで、なかなかシュートが飛んで来ない上に、たまに来たピンチがすごく大きなものという、キーパーとしては難しい展開でした。そのなかでもきっちり結果を示して勝利に貢献してくれました。彼は24歳と若いですし、AFC U-20フットサル選手権でアジアチャンピオンになったチームのキーパーとして着実に階段を上っていると思います。
ただ、このチームの目標はワールドカップでベスト8以上に進出することで、そのために必要なレベルを基準としてメンバーを選考しています。田淵は全体的なレベルで考えればそこに到達できるポテンシャルを十分に持っていますし、だからこそFutsal Nations Cupにも招集しました。ただ、本当に細かな部分で今回の2人(黒本、フィウーザ)と比べてもっと頑張ってもらいたいと考えています。とはいえ、それは本当に細かい、ほんの僅かな差であることに間違いありません。今後、彼がその部分で成長を示して代表に入ってくることも十分に考えられます。
そして当然、田淵本人にもこういった話はしっかりと伝えています。
彼らのみならず、Fリーグ各チームのキーパーは常に、くまなく見ていますし、そこでいいプレーをしている選手がいるのも理解しています。新体制になってからまだ招集できていない選手を含めて、まだまだ多くの選手たちにチャンスがあるということはここでもお伝えしておきたいと思います。
また、田淵や、今大会のバックアップメンバーとして合宿にも帯同した井戸孔晟(その後、負傷により離脱)は6年前にスタートした「フットサルGKキャンプ」(U-23年代およびU-18年代の選手たちを対象に、将来のフットサル日本代表GKを育成・強化する取り組み)の卒業生ですが、そういった取り組みが徐々に成果として出始めていると感じています。
フウガドールすみだで少しずつ出場機会を得ていて、この前の代表合宿にも来ていた入江悠斗、ボルクバレット北九州で多くの試合に出場している伊名野慎などもGKキャンプの卒業生です。若いキーパーが台頭してきているのは素晴らしいことですし、今、代表でプレーしているキーパーだけでなく、彼らの成長にも多いに期待していただきたいと思います。
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