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作成日時:2018.11.18
更新日時:2018.11.18

今季も猛威を振るう「アルトゥール・チアゴライン」。Fリーグ最強コンビはなぜ、止められないのか?

PHOTO BY軍記ひろし、本田好伸

ホットライン。それは本来、スポーツ界の言葉ではなかった。半世紀以上も前、アメリカのホワイトハウスと、ソビエト連邦のクレムリンに設置された、非常時に二カ国の首脳をつなぐ直通の通信線。米ソ間の偶発的な戦争を防止する役割があったという。一方、フットボール界のホットラインとは、味方同士の、特に2者間における強力なコンビネーションを称賛する意味で使われている。

かたや敵国同士の均衡を保つ最後の手段、かたや味方同士でゴールへ向かう絶対的な道筋。まるで異なる解釈のようで、2つの“ホットライン”には確かな共通点がある。

いずれも「信頼」があって初めてつながること──。

シュライカー大阪のブラジル人コンビ、アルトゥールとチアゴの連係がまさにそれだ。

わかっていても止められないパス交換

アルトゥールの来日は2015年、チアゴは2016年のことだった。2014年に就任した木暮賢一郎監督がリーグ制覇への“3カ年計画”でチームづくりを進める中で、目標達成に欠かすことのできない“ラストピース”として、2年目、3年目に彼らは一人ずつ迎えられた。

アルトゥールの父親は元フットサルブラジル代表監督であり、母国で開かれた2008年のワールドカップで世界一を経験した名将だ。そのDNAを受け継ぐ彼もまた、幼少期からフットサルをプレーして、名門チームでも活躍した。ポジションは守備の要とされるフィクソだが、卓越した攻撃センスを併せ持ち、相手守備のわずかな隙を見逃さない高精度のパスとシュート技術で、得点力も申し分ない。

チアゴも母国のトップリーグで活躍するストライカーだったが、アルトゥールほど知名度はない。しかし、脂の乗り始めた26歳で新天地を選んだのは、木暮監督の熱心なオファーによるものだった。チームにはすでにヴィニシウスという無類の点取り屋がいたが、選手交代を繰り返しながら戦うフットサルでは、前線で仕事ができる複数のピヴォが不可欠であり、その意味で、得点力に課題を残す大阪に欠かせない選手だった。

2016シーズン、彼らは圧倒的な攻撃力を発揮して、悲願のリーグ制覇の立役者となった。

得点王はリーグ戦33試合で43得点を挙げたヴィニシウスに譲ったが、2位のチアゴは37得点、3位のアルトゥールは33得点。まさに驚異的な活躍だったわけだが、その生命線は、アルトゥールのパスだった。

中央でバランスを取るフィクソ(もしくはサイドの選手)からピヴォへのパスは「ピヴォ当て」と呼ばれるが、世界のフットサルでも重用されるスタンダードなこの戦術の質が、異様なまでに高い。

ピヴォは通常、相手のゴール前数メートルから8メートルくらいを主戦場にするため、そこへのパスは、相手からすれば最も失点の危険が伴う場所であり、真っ先に警戒すべきコースとなる。つまり「簡単にピヴォに当てさせない」ことを相手は考えるのだが、アルトゥールは「簡単に」当ててしまうのだ。

同時に、パスには受け手がいないと始まらない。チアゴが絶妙なタイミングでフリーとなり、もしくは難しい体勢でも相手に奪われないようにキープするからこそ、この高度な連係は成り立っている。

2017シーズン、アルトゥールがケガがちだったことや、相手に執拗に警戒されたことで、この「アルトゥール・チアゴライン」は封じられてしまったかに思われた。しかし驚くべきことに、今シーズンは再び、彼らの強力なコンビネーションがリーグを席巻しているのだ。

ここまで21試合を終えて、アルトゥールが22得点、チアゴが20得点でランキング1位、2位。直接ゴールにならなかったものも含めて、彼らはまたしても古典的なピヴォ当てから相手に脅威を与えている。

警戒されていることは変わらない。それに、シーズンを重ねるごとに相手のスカウティングも進み、パターンも丸裸になっているはず。しかし彼らのパスは“わかっていても止められない”のだ。

なぜパスが通るのか?

それはやはり、2人の信頼関係に終始する。中央で持ったアルトゥールがふわりと浮かした縦パスを通す、サイドからダイレクトでピンポイントに突き刺す、少し中に運んでから絶妙なタイミングで当てる。ゴール前のチアゴがゆっくりと相手の前に入り込む、タイミングよく中に入ってくる、相手を封じ込めながらキープしてみせる。その一連の作業は、2人にしかわからない間合いと“呼吸”で完遂されてしまう。

まるで、彼らにしか見えない“直通の線”があるようだ。確かに、いくつもの形を目にするが、そのどれもが何度も目にしたパターン。2人はそんな再現性の高いプレーを、簡単にやってのけてしまうのだ。

2人を分断する術はあるのか? それはもはや不可能ではないかと思わせるほど、彼らのホットライン「アルトゥール・チアゴライン」は、完璧で、美しく、今もなお、圧倒的な破壊力を持っている──。

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