更新日時:2023.12.11
二度の大怪我を乗り越えた、“小田原のヒーロー”。湘南・佐藤玲惟の涙と情熱の引退会見。「地元の街にこのクラブがなかったら、僕はFリーガーになっていなかった」
PHOTO BY本田好伸
12月7日、“湘南の情熱”のキャッチフレーズで、“ベルマーレファミリー”から愛された佐藤玲惟が、現役引退を発表した。
Fリーグ2021-2022ディビジョン1の第10節、シュライカー大阪戰での右膝半月板の損傷。そして復帰直後の、2022-2023シーズン開幕前に行ったトレーニングマッチで、今度は同じ右膝半月板断裂と二度の大怪我を負った佐藤。
長いリハビリ期間を終え、今シーズンは開幕からの戦線復帰を目指していたものの、丸2年実戦から離れたブランクは大きく、ピッチに立てない状況が続いていた。
育成組織時代から佐藤を知る伊久間洋輔監督は「他のチームでやることを考えても良いのでは」と本人を諭したものの、それでも佐藤の意思は堅かった。
「このエンブレム以外を付けて、Fリーグを戦う選択肢はなかった」。
12月10日のホーム最終戦後、そう強く語った引退セレモニーを終え、佐藤が記者会見に出席した。
シーズン中盤には覚悟をしていた
●湘南ベルマーレ|佐藤玲惟
──今季限りでの引退を表明して迎えたホーム最終戦。多くのファン・サポーター光景を見てどう感じましたか?
このクラブは、無限の可能性を秘めていると思います。まだまだいける。僕自身、先のことはなにも決まっていないですが、なにかしらの形でお手伝いというか。結果も、ファン・サポーターも日本一になる手伝いをできたら。
今日、この光景を見た感想で言えば「ピッチで見たかった」ということがすべてですね。そこに立つためにやれることをやってきたので、まだまだ自分が力不足だったということです。
──怪我に泣いたこともあると思います。引退を具体的に意識したのは?
Fリーグ選抜から戻ってきて、次はロンドリーナでプレーして、翌年トップに上がって。その時から、自分がプレーするのはベルマーレだけだ、と。正直、Fリーグ選抜に行くことにも葛藤がありました。1シーズンこのクラブから離れることは悩みました。フットサルを始めた頃の目標が、このクラブの顔になること。賛否両論あると思いますけど、仮に僕の人生がうまくいって、結果を残して、他のクラブに引き抜いてもらったり、海外とかの可能性もあると思いますけど、それでも俺は、それ(他のクラブでプレーすること)を考えていなかった。一生このクラブでと、ずっと決めていた。
トップに上がった年からここで最後までやると決めていた。ロンドリーナを挟んでからトップに上がったので、僕から(やめると)言うことはないけど、クラブから言われたら、引退しようと。怪我をして、治って、2回目の時はシーズン開幕前で、10カ月の診断でした。1年を棒に振ってしまう。そこでまたチームがチャンスをくれたことに感謝しています。
2回目の時に、自分でもここで終わりかと思いましたけど、チャンスをもらえました。ただ今シーズンはなかなか出られていなかったので、途中から覚悟はしていました。客観的に見ても難しいなと。それくらいから覚悟をしていて、先日、契約の話になって。決まったからには1日でも早くみなさんに伝えたい、と。特にこのホーム最後にみなさんの前で挨拶したい、と。たくさんの方に応援してもらった感謝を伝えたかったのでクラブにも協力してもらい早く発表させてもらいました。引退はずっと、毎年毎年が勝負です。シーズン中盤には覚悟をしていました。
──そこまで覚悟を持てるこのクラブの魅力は?
難しい……すべてと言いたいですね。でも特に、ファン・サポーターのみなさんのアツさ、温かさ。僕なんか怪我ばかりで試合も出られないのに……それでもユニフォームを買ってくれたり、たくさんの方が様々な想いで応援してくれました。一番の魅力はそこですね。ファン・サポーター。ベルマーレファミリーです。
──トップチームにはロンドリーナ時代からトップを目指した仲間もいたと思います。引退のことはどこで伝えたのでしょうか。
今週の火曜練習が終わった後に話をして、寂しがってくれました。みんなもまだ一緒にやれると思ってくれていたみたいです。特にフィウーザですね。シーズン中から勝てない時もありましたけど、自分は試合に出られず、ベンチにも入れないなかで、苦しかった。今だから言えますけど。辛くて。フットサルって楽しいんだよなって、楽しかったよなって思ってしまう自分がいて。それでもフィウーザは「俺はいつも見ているし、このチームにはアナタが必要だ」と言ってくれた。その言葉が本当に支えになっていた。「こんなに試合に出られないのに腐らずによくやっている」と言ってくれて。あとダイさん(菊池大介)も、自分も出られないなかでも、「お前の頑張りは仲間に伝わっているから、一緒に頑張ろう」と言ってもらえました。
──残りの試合で、なにを見せたいですか?
一番は、やっぱりピッチに立つことですね。公式戦のピッチに立つこと。今、800何日でしたっけ。(質問者の福田悠に問いかけ)
(Fリーグの実況を務める)福田さんが僕が試合に出た時のために「何日ピッチに立てないか」を調べて毎回準備してくれていて。だから、「佐藤玲惟が800何日ぶりにピッチに立ちました」と実況してもらえるように、ピッチに立つことが残りで達成したい、つかみ取りたい一番のことです。
あとは、仲間やファン・サポーターとの残り少ない時間なので、一日一日を大切にして。後悔はしていないですけど、やりきれなかった思いはある。なのでそれをこれからの時間で挽回したいです。
地元・小田原にタイトルを
──佐藤選手は、FリーグだけではなくJリーグのサポーターにも愛されています。スタジアムで活動をされていたり、久光重貴さんに次ぐほどの認知度があります。SNS発信を始めたきっかけがあったのでしょうか。
コロナ禍の2020年4月1日から、X(旧Twitter)を毎日更新してきました。それ以前からも投稿していましたし、嫌いじゃない、苦手じゃなかったのですが、毎日ではなかったので。コロナ禍は、試合も練習もできないことがあって、ファン・サポーターとの交流も、試合で直接会うこともできない。今のような活動ができないなかで、SNSの発信は見てもらえると思いました。閉鎖的な空間でも、SNSではつながれると思って。そこから、家でできるトレーニングなども投稿して「僕は元気だよ」と知ってもらう手段として始めました。それがきっかけで、毎日やろうと。
あとは、ABeamアワードの「#ThanksRespect」で、最初はスポンサーさん75社くらいを当時、自分で調べて発信させてもらいました。行けるところは直接、訪問もしました。きっかけとしては、支援してもらっているのに、その相手を知らないのは違うな、ということからです。地元企業は知っていることもありますが、知らないことも多かった。それで自分がせっかく知ったのであれば、それをみんなにも知ってもらいたいとSNSで投稿して、情報を伝えるように。
ファン・サポーターの方も知ってくれてうれしかったですし、積極的に商品を買ってくれたり、お店に足を運んでもらったりして、そこでまたSNSを発信してもらい、どんどん広がっていく経験ができました。そうやって、微力ながら架け橋になれたかなと感じて、気付いたことは投稿して、力を入れようと思ったターニングポイントでした。
それは今後も発信していきたいと思っています。逆に今よりもっとやって、「俺は元気でやっている」と伝えたいですね。公の場で会える機会が減ってしまうので、元気だよとみんなに伝えたいので、これからもやっていきたいです。
──リリースにもありましたが、地元の小田原市への想いが大きいですよね。湘南ファミリーのなかでも、Jリーグは平塚や茅ヶ崎などがあり、フットサルは小田原を拠点としています。そこについての話を、ぜひもう少し聞かせてください。
まず、小田原に湘南ベルマーレフットサルクラブがなければ、僕はフットサル選手になっていなかったし、上を目指していなかったと思います。ロンドリーナのジュニアユースは僕が二期生で、山﨑歩夢が一期生。サッカーもフットサルも両方やるという環境でした。そこで僕は「フットサル向きじゃない」と言われていて。実際、当時はフットサルよりもサッカーが好きでしたし、サッカーで上に行きたいと思っていました。月曜日はフットサルの日で、水曜と金曜がサッカーの練習だったのですが、フットサルの練習が憂鬱で仕方なかった(苦笑)。難しい、なんだよこれって(笑)。
でも、生まれ育った小田原にクラブがある。地元の方が本当に応援してくれて、今でも気にしてくれている。そんな方々にプレーで恩返しできたら最高だと思ったので、フットサル選手になろうと決意しました。小田原はいいところですから、その良さを伝えたいですし、その意味で「小田原遠足」もやりました。フットサル選手はクリニックなどでフットサルを一緒にやるイベントをしますけど、みんながプレーしたいばかりではないでしょうし、人前で蹴るのは恥ずかしいという人もいます。それでは応援してくださるみなさん全員と触れ合えない、交流できないと思ったので、小田原で体験するイベントであれば一緒に、老若男女楽しめるだろうなと。小田原への恩返しの気持ちがすごくあります。
ただプレーで、結果で恩返したい。タイトルを小田原に持ち帰れていないので、最後それをできるように頑張りたいです。
──そんなサッカーもフットサルも両方プレーしてきた佐藤選手が思う、フットサルの魅力は?
いっぱいあるんですけど、難しいですね。なんでしょうね。フットサルって、知らない人からするとテクニックとか華麗なプレーのイメージもあると思います。でもそうではないところで、特にサッカーよりもコートが狭く、密集しているのでぶつかり合いもあります。僕はそこが魅力的かなと。日々の努力の部分です。ぶつかり合いは日々の体幹、食事が良くなければ勝つことはできません。体の芯の強さが必要です。体ののぶつかり合いは、怖いと言われると思う人もいるけど、僕は魅力かなと。それが自分のプレースタイルでもあるので、魅力だと思っています。
▼ 関連リンク ▼
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