更新日時:2024.03.23
ミスター・バルドラール、現役最後の涙|浦安・加藤竜馬 #人生に刻むラストゲーム
PHOTO BY高橋学
ミスター・バルドラール、加藤竜馬が現役引退を決めた。13年間第一線で活躍し、昨年9月にはFリーグ通算300試合出場を達成。リーグを代表する、大ベテランだ。
けれども私は、彼のプレーをほとんどみたことがなかった。
だからこそ全日本選手権では、その姿を胸に刻むために、誰よりも加藤のことを目で追った。スライディングで相手のシュートを阻止する闘志も、監督と同じくらい身を乗り出してチームを鼓舞する姿も。私の目に飛び込んできた加藤は、どの瞬間も全力だった。
準決勝で名古屋に敗れた後、試合が終了した瞬間に思ったことを尋ねた。
「『これでもう、このピッチで戦えない』という思いとか、今までやってきたことが一気にあふれてきました」
その日彼を追い続けていた私が最後に見たものは、彼の目に浮かぶ涙だった。
取材・文=伊藤千梅
現役13年間のラストマッチ
それまで常に体を動かしていた加藤が、ついに椅子に座った。
負けたら終わりの全日本選手権大会。試合終盤、今シーズン5回目の対戦となる名古屋を相手に2点差をつけられていた浦安は、パワープレーに踏み切った。
チームメイトが果敢に攻撃を繰り返すなか、微動だにせずピッチを見つめる加藤の姿があった。
「その時間は、常にピッチの中を見ていました。みんなが点を取ってくれる可能性を信じていましたが……もしかしたら『終わっちゃうのか』と思う部分もありました」
揺れ動く心を抑え、加藤はピッチから目を離さずに得点の瞬間を待ち続けた。それでも、時間は過ぎるばかり。無情にも試合終了のブザーが鳴ると、加藤は顔を覆った。
試合を終えた選手、スタッフとハイタッチを交わす際、皆が荒っぽく加藤の頭を抱き寄せる。遠目からでも、加藤の涙が見えた。
「最後、チームを勝たせられる力があればよかったんですけど。そこまでの力は僕にはなかったので」
10番を背負ってきた加藤は、最後まで自分に厳しい言葉を投げかける。それでも試合終了後には、浦安のサポーターから、そして名古屋のサポーターからも“加藤竜馬”コールが送られ、その引退を惜しまれた。
結果的に加藤の引退試合となったが、彼にとってはこの日の試合が特別だったわけではない。いつもと変わらず臨んだ。でも、そのいつも通りは誰よりも熱かった。
「勝つために、チームのためにやるというのは、いつでも心がけてやっていました。来シーズンもクラブに残るチームメイトにも、ディフェンスでハードワークするところは、背中でしっかりと見せられたかなと思います」
チームの一員として、そしてチームを去るベテランとして、自分ができることを全うした。
加藤が託す仲間への思い
加藤は試合後に「コンディションはあまり良くなかった」と明かしたように、選手権1、2回戦での出場はなく、仲間の力を借りて準決勝の舞台まで勝ち上がってきた。
「苦しい試合を勝ち上がってきてくれ、最後にこうやって駒沢でプレーさせてくれたチームメイトに、本当に感謝しています」
加藤がチームメイトに感謝の思いを表したように、彼らもまた、加藤に感謝の言葉を残した。ラストマッチでも得点した東出は、その存在の大きさを語る。
「特別指定で上がった時から同じセットでした。そこから丸々2年間一緒に試合に出て、フットサルを一から全部教えてもらいました。競技のことを何もわからずに飛び込んだ自分のミスも、全部カバーしてくれて。これまで試合で点を取ることができたのは、僕がプレーしやすいようにしてくれた竜馬くんがいたからです」
悔しさを糧に戦うこれからの浦安に、加藤はいない。
けれど、“思い”は残り続ける。
「ギリギリの試合に勝てるようなチームになってきているから、僕がいなくても変わらず強いチームになっていくと思います。やってきたことは間違っていないと思うので、これからの選手がやってくれる。頑張ってほしいなと思います」
そう締めた加藤の目は、ずっと赤いまま。それでも、最後まで背中で語り続けた“ミスターバルドラール”は、仲間に思いを託すとピッチを後にした。
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