更新日時:2024.04.17
【木暮ジャパン応援対談|西谷良介×渡邉知晃】「想定外が起きた時に、本来の自分の力が出る」#アジアカップに臨む後輩たちへ
PHOTO BY軍記ひろし、高橋学、本田好伸
2022年10月、クウェートでの優勝から約1年半。
4月18日から、フットサル日本代表が約12年ぶりの「自力でのワールドカップ出場」、そして「大会連覇」を目指す戦いが幕を開ける。
2021年の木暮賢一郎監督就任以来、“木暮ジャパン”は細やかなチーム戦術と個の技術を高めながら、ヨーロッパや南米の強豪国とも善戦を重ねてきた。
一方「アジアには、世界とは違う難しさがある」と語るのは、元フットサル日本代表の渡邉知晃と西谷良介だ。
2014年大会の栄光、2016年大会の屈辱、起死回生を誓った2018年大会──。
過去3度大会出場し、酸いも甘いも経験した“先輩”が、過去大会の裏側と今大会に臨む“後輩”たちへの想いを語る。
取材・文=青木ひかる
編集=本田好伸
※インタビューは2024年4月8日に実施(4月15日に追加招集について加筆)
↓日本代表の全てがここにある↓
アジアカップは短期スパンの集大成
──いよいよ始まるAFCアジアカップ2024を前に、2014年、2016年、2018年の3大会に出場した2人から「アジアカップ」のお話を聞かせていただきます。
西谷 3回も出たんでしたっけ?2014年のアジアカップって?
渡邉 ベトナムで優勝した時だよ。
西谷 そっか。ちょっと何年とかまでは覚えてないですね(苦笑)。
──話しながら思い出していただきます(笑)。日本代表にとって重要な大会であるアジアカップにはどんな気持ちで臨んでいましたか?
渡邉 W杯は4年に1回で、アジアカップは2年に1回。大きな公式大会はこの2つで、アジアカップは「短期スパンにおけるチームの集大成」という位置付けですね。
西谷 そうだね。自分たちがどの立ち位置にいるかとか、自分たちが歩んでいる道のりは間違ってないかを確認するための目安になる重要な大会だと思って戦っていました。
──初めて2人が出場した2014年大会は、現役でプレーされていた木暮賢一郎監督や小宮山友祐さん(バルドラール浦安監督)が代表から離れた世代交代のタイミングでした。「俺たちの時代だ!」といったギラギラした雰囲気もあったのでは?
渡邉 2012年のW杯で一区切りがつきましたけど、ミゲル・ロドリゴ監督が継続して、メンバーが大幅に変わりました。2012年は経験できませんでしたが、アジアインドアゲームズでは同じようなメンバーでアジアの国と対等にやれていたので特に不安はなかったですね。ギラギラというよりかは、若いメンバーでどこまでいけるんだろうというワクワクのほうが強かったかな、と。
西谷 トモが言うように、自分たちに大きく期待した初めての大会だったよね。優勝したとはいえ難しさを感じましたし、アジアで日本はリスペクトされているんだという新たな発見もありました。
──当時のお互いの印象は?
渡邉 パッシャンは代表の軸になれる力があるのに、最初の頃はクラブでのパフォーマンスを代表で出しきれていない印象があったのたので、いつ定着するんだろうなって(笑)。
西谷 いつも俺のほうがテンパりながらやっていたよね(笑)。トモはどんだけ落ち着いてんねん、と。漂う雰囲気というか、私生活もそうだけど常に落ち着いていて堂々としている。年齢は一つ下だけど頼もしかったですね。落ち着きは当時のチームで一番だったんじゃないかな。
──ちなみにこの大会では、2人ともゴールを決めています。
渡邉 俺のは決勝戦ですね。でも、オウンゴールだった(笑)。やべっちFCでは俺のゴールになっていたけど、自分でもあれはオウンゴールだと思っています。
西谷 俺のはたしか、キックインから?(皆本)晃のパスだったと思う。
渡邉 たしか、負けた試合だよね。
──戦いながら「優勝できそう」という感覚はありましたか?
渡邉 優勝できる力はあると感じたところでウズベキスタンに負けたので、少し焦りました。まさか予選で負けるとは思っていなかったので。
西谷 負けたことの危機感は覚えてる。そこで自分たちが国を背負っている重さや、「こんなところでつまづいちゃいけない」という緊張感を感じられた一戦でしたね。
渡邉 あそこから「もう負けられない」って、優勝までいけた気がします。
──優勝した時の気持ちは?
西谷 素直にうれしかったし、簡単に優勝したわけじゃないから、若い世代で接戦を制してタイトルを取れた安心感もあって、二重の喜びでしたね。思い出に残る優勝だった。
渡邉 どん底から上がったこともそうだし、若手に切り替わって初めて優勝できた達成感はすごくあったよね。あとは「初めてイランに勝って優勝した大会」でもある。長年のライバルに勝って優勝できたのはうれしかったですね。ただ……自分は食中毒になって半分それどころじゃなかった(苦笑)。もう時効だろうけど、選手の8割くらいが体調を崩していて、まさに満身創痍。みんなドクターから薬をもらってたからね。
西谷 そうだったっけ?その記憶がない(笑)。
渡邉 パッシャンは生き残った数人だったんだね。俺は準々決勝から帰国後まで全く治らなくて、5分おきにトイレに行ってたくらいだから……。
西谷 マジか!決勝もめちゃくちゃ落ち着いてたけど(笑)。
歴代最強が転落した地獄のロッカールーム
──2016年は、前回大会でイランを破って優勝した経験もあり、選手たちの士気もそれまで以上に高まって「いけるぞ!」という自信があったのでは?
西谷 他の選手はわからないですけど、俺はなかったですね。いつも緊張しながらやっていたので、「いけるぞ」という感覚は正直なかった。
渡邉 メンバーもほぼ固まってきていたし、海外遠征や直前に国内で戦った親善試合でも、2012年のW杯でベスト4に入ったコロンビアに連勝したこともあったから自信はあったかな。でも、2014年も優勝できたけど余裕はなかったから、この時も「いけるぞ」っていう感覚もなかったし、おごりもなかったと思います。
──当時のメンバーはメディアでも「歴代最強」と取り上げられていました。
渡邉 結果論から言えば、最低でしょ(苦笑)。
西谷 名古屋組も多かったし、“1敗の怖さ”を知っているから「俺たち最強」と思っていた選手はいないと思う。だから結果を残せなかったあの時は……ねえ、トモさん。
渡邉 振り返りたくない。
西谷 振り返りたくないですね。
渡邉 当時は、「過信があったんじゃないか?」と周囲からも言われました。でもパッシャンが言ったとおりで、「いけるぞ」という気持ちはなかった。一つ挙げるなら、「W杯出場権獲得」より「連覇してW杯に出る」という目標設定だったからかもしれない。W杯出場にフォーカスできていなくて足元をすくわれたとは考えられます。
──「W杯出場」が大前提の目標だったわけですね。
渡邉 そうそう。あとは、世界と戦えるクオリティと自信はみんながもっていた。「たられば」だからわからないですけど、W杯に出ていたらやれていたかもしれない。でも、「対世界」と「対アジア」との戦い方が違った。それまで、アジアの対戦相手ではなく、ヨーロッパや南米との強化試合でレベルアップを図ってきたので、アジアの国に対する慣れという部分では薄かったかもしれないですね。
西谷 それはチーム全体にあったように思う。だから、敗れたベトナム戦も2-0とリードしたところから、追い上げられて、終盤に失点を重ねるという想定外の事態に備えられていなかった。ミスを気にしすぎてドツボにハマって、みんな普段のプレーができなくなってしまいました。
──翌日のキルギスとのプレーオフも気持ちを切り替えられなかった?
西谷 どうにか切り替えようとはしたけど、短時間で回復するにはえぐられた傷が深すぎた。
渡邉 でも俺なんて、この時も体調不良でプレーオフを欠場しているからね。だからみんながどうやって負けたのかも、その後どうなったかもわからない。
──吉川智貴選手に先日話を聞いた際にも当時は「日本に帰りたくなかった」と。家族にさえも会いたくなかったと話していたのですが、2人はどんな心境でしたか?
西谷 無力感とか、虚無感しかない。体も心もめちゃくちゃ重たかったし、やってしまったというのがずっと乗っかっている感じがして。本当にきつかったですね。
渡邉 ダブルの意味でしんどかった。ベトナム戦を終えて、地獄のような空気感のロッカーを最後にチームと行動できなかったので、キルギス戦に負けるにしても、同じ空間で共有したかった。そのまま帰国したので、何も考えられなかったですね。これからどうしようという感じでした。
──試合後、監督からはどんな言葉が?
渡邉 ベトナム戦後は、泣いている選手もいるし、うなだれていて、とても次の日に試合できる雰囲気じゃなかった。その時のミゲル監督の言葉はよく覚えていて。「こういうどん底に突き落とされた時に人として試される。そういう時に力を発揮できるのが本当の良い選手だぞ」って。
西谷 うん。でもキルギス戦後は、ベトナム戦の時よりも地獄のようだったよ。選手だけじゃなくて、スタッフも全員。監督も相当なダメージだったと思うし、一人ひとりに一言ずつ声をかけるくらいだったように思う。もはや記憶もあいまいだね。
2016年の経験があったからその先がある
──2016年大会の敗戦は今、どんな糧になっていますか?
西谷 今だから言えますけど、「どんな試合も最悪な状況への準備をしないといけない」ことを学んだ大会でした。2016年はみんな「最高の想定」はできていたけど「最悪の想定」はできていなかった。想定外が起きた時に本来の自分の力が出るので、そこでなにができるか。あの大会を終えて名古屋に戻ってからは心の持ちようがすごく変わったし、その後のメンタルの強化につながったと思います。
渡邉 あの経験がその後の「選手キャリア」のプラスに働いたかと言われると、正直わからない。ただ、選手としてではなく、「人生経験」としては大きかった。おそらく10回やったら8、9回は勝てるだろうという相手に負けて、「スポーツの世界に絶対はない」ことを痛感しました。きっとこれ以上の辛い経験をこの先の人生ですることはないだろうと思えた。だからあの敗戦は、生きる糧になったと思っています。この先、どれほど辛いことがあっても全部乗り越えていけると感じられるような、そんな出来事でした。
──2018年のアジアカップは、その経験値も生きた。
西谷 それは間違いないですね。あの経験があったからこそ、2018年は地に足を着けてプレーできました。それまでアジアでは日本とイランが頭抜けていて、他の国との試合で0-2で折り返すことなんて考えてもいなかったですけど、「もしかしたら」という心持ち。だからたとえ失点しても、40分が終わった時に勝っていればいいというメンタル。振り返りたくもない大会でしたけど、2016年は「いい経験」でもあったと思います。
渡邉 たしかに、気持ちは切り替えられていたかもね。あとは監督によってスタイルの違いもある。2018年はブルーノ・ガルシア監督に代わって、もともと「試合開始1秒から最後まで気を抜くな」というタイプだったので、より一瞬の隙や緩みがなかったかも。
アジアカップへ臨む後輩たちへ
──ここまで3大会を振り返ってきましたが、改めて、国を背負って戦う日本代表にはどんな気持ちで臨んでいましたか?
西谷 1試合の重み、というか。結果を残さないといけない責任を背負っている。勝てればすごくうれしいし安心するけど、負けた時には重くのしかかってくる。一言で言うのは難しいですね。
渡邉 もちろん責任は感じつつも、まずは選んでもらえていることに自信をもってプレーすることを考えてたかな。でも、試合に入場して国歌斉唱を聴く時は「国を背負って戦っているんだ」という感覚になりましたね。プレッシャーはありつつも、その場にいられる幸せのほうが大きかったです。
西谷 ほんと、トモは落ち着いてるな〜。
渡邉 そんなこともないけどね(笑)。
──アジア連覇とW杯出場が懸かった今大会は、2016年を戦った自分たちに重ねてしまうことも?
西谷 スタイルも選手も全く違うので、それはないですね。
渡邉 俺も重ねることはないかな。メディアにも出ているように、自力でW杯に出場したのは2012年が最後。木暮監督のインタビューを見ていると、「世界とアジアの戦いは別物」と言っていますし、それをしっかりと理解している監督が指揮を執って対策もしているので、2016年のことは、智貴にニブ(仁部屋和弘)に背負ってもらった上で、自分たちで出場権を勝ち取らないといけないプレッシャーに打ち勝ってほしいです。
西谷 そうだね。でも、W杯が懸かった大会の怖さを知っている選手がいるのといないとでは、全然違うよね。
渡邉 そうそう。一番の勝負どころは準々決勝。勝てばW杯が決まるし、負ければプレーオフの可能性という瀬戸際で、智貴たちが伝えられることはたくさんあると思うので、その存在は大きいと思います。
──木暮監督が積み上げてきたチームについてはどう見ていますか?
西谷 あまり細かくは見れてないですけど、親善試合などを見る限り、世界の強豪を相手にボールを保持できる時間も長く、戦えている感覚を得られていると思います。
渡邉 本当に理にかなっているな、と。
──どんなところですか?
渡邉 特にシステムの使い分けですね。今でも覚えていますけど、自分は一度、ブラジルと試合をした時にフィクソに突っ込まれて、吹き飛ばされたんですよ。でも、さすがにファウルでしょと思ったらノーファウルで(笑)。
身体能力の差を超えられない壁があるなかで、ピヴォとして前で張り続けるのは現実的ではないからこそ、4-0でプレス回避できればそのほうが効率的に前進できる。逆にアジアでは、3-1で長い時間張る可能性もあると思うので、臨機応変にやれているな、と。
──注目している選手はいますか?
西谷 全員に注目していますけど、一人挙げたいのは、このタイミングで入ってきた甲斐(稜人)選手です。彼は僕が引退する少し前に名古屋に加入したのですが、その時に自分の将来について教えてもらって、「そこまで描いてるんだ」と感じたことを覚えています。そしてそれが着々と現実になってきたのはうれしいサプライズですね。あとはやっぱり、吉川選手と仁部屋選手には期待しています。思う存分、暴れてほしいし、W杯への気持ちは誰よりも強いはずですからね。
渡邉 智貴たちには言わずもがな頑張ってほしいよね。あとは、アスレで一緒にプレーした選手も楽しみですね。黒本(ギレルメ)、堤(優太)、新井(裕生)、(金澤)空ですね。若手の頃から見てきた彼らが活躍する姿にも期待したいと思います。
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