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作成日時:2024.06.06
更新日時:2024.06.13

【リアルインタビュー】39歳で衝撃の現役復帰、星翔太はFリーグでやれるのか?|STAR is BACK

PHOTO BY高橋学

Fリーグに“スター”が帰還した。

2024年4月、日本代表の元キャプテン・星翔太が、現役を引退してから2年ぶりに復帰を発表し、フットサル界を驚かせた。

2009年にフットサル日本代表に初選出された星は、12年間日本代表として活躍。2021年に自身2度目のワールドカップに出場すると、決勝ラウンドのブラジル戦では先制ゴールを挙げ、人々の記憶にその名を刻んだ。

華々しくピッチから去った星はなぜ、もう一度Fリーグの舞台に戻ってきたのか。引退当時も、「まだやれる」と言われてきた男だ。当然、期待はある。ただし、今年で39歳を迎える彼がその“ブランク”を経て、本当にピッチで存在感を示せるのだろうか。

栄光は過去のものなのか。それとも、新しい伝説を生むのか──。

リーグ戦開幕を数週間後に控えたある日の練習を訪ね、星に話を聞いた。

取材=本田好伸
撮影・編集=伊藤千梅

※取材は5月11日に実施

復帰の理由は「タイミング」と「ストーリー」

──単刀直入に伺います。星さんはなぜピッチに戻ってきたのでしょうか?

本当に、タイミングですね。それと、全部の状況がうまい具合に重なったから。

──チームからオファーをもらった?

そうですね。自分から話をしたことはなくて、クラブからオファーをもらいました。

最初は、岡山(孝介)さんがしながわシティの監督を辞めた後にお会いする機会があって、「ストーリーがあればFリーグに戻ることもあるかも」と話していただけです。

──そこから具体的な話をもらった。

そうですね。実際に話をもらったのは今年に入ってからで、元すみだで現在はクラブのフロントで働いている大黒章太郎から「選手をやれないか」という話がありました。その時は、「家族と話してから」という返事をしました。

──大黒さんから話があると聞いて、“予感”をしていたんですか?

連絡が来た時点で、なにかしらクラブに関わってほしいという話ではあると思っていました。オファーを聞いた時は、驚きはありませんでした。ただ、言い方は良くないかもしれないですが、率直な感覚としては、引退して2年経った僕に声をかけたいと思うようなチーム状態なのか、とは思いました。

でも、そういう状態であることと、章太郎がフロントに入っていること、それに、岡山さんが監督に就任して、(星)龍太もいる。なおかつ、古巣のすみだというところで、まさにタイミングと状況がすべてそろったストーリーだと思って復帰しました。

これが一つでも欠けていたら、復帰していなかったですね。例えば、岡山さんが他のクラブの監督に就任したとか、龍太がいなかったら戻っていなかったと思います。

──弟の龍太さんの存在は大きい?

大きいですね。ようするに「すみだで兄弟でプレーすること」に価値があって、そこに、昔一緒に仕事をしていた岡山さんや章太郎がいて。全日本選手権で優勝した時のフウガらしさみたいなものを知っているのは僕と龍太しかいない。原点回帰というか、クラブに根付いているいいものを改めてやろうという時期であることも、復帰を決めた理由です。

──ご家族とはどんな話をしましたか?

家族にはこういう話があって、自分としてはやりたいと思っていることを伝えました。奥さんは、子どもたちも見に行けるかもしれないし、やってみればいいんじゃないという感じでしたね。あとは、子どもの中学受験が終わったことも大きいですね。そうしたタイミングを含めて全部ぴったりでした。

──お子さんとはどんな話を?

週末も練習や試合が入るかもしれないから、「手伝いをしてほしい」とは伝えました。奥さんに負担がかかったりもするので、協力してほしいという話をしました。子どもたちも「ちゃんと手伝うからね」と言ってくれました。



こんなやり方もあるよと、PRで示したかった

──チームに合流した時、岡山監督からの要望などはありましたか?

特別、言葉をかけてもらったわけではないですが、経験などを伝えてほしいとは思っているかな、と。あと、「得点を取ってほしい」とは言われました。

──発表してから周りのリアクションはどうですか?

情報は広まっているように感じますけど、そこまでかもしれません……。ただ、お客さんにとってサプライズになったかもしれないですね。

──復帰をほのめかすシルエットの動画、かっこよかったです

クラブと話し合って、こちらで準備して調整して出しました。作成したのは直前で、発表する1週間前くらいにつくりました。

──これまでも、いろいろとサプライズを仕掛けてきましたよね。楽しめる要素を考えていることが星さんぽいと思いました。

僕はチームに注目を集めることがすごく重要だと思っています。普通であれば、昨シーズン10位だったチームにはあまり注目は集まらないですよね。ですからどうしたら注目が集まるかを考えると、その一つはすごく補強したチームになるかなと思います。

ただ、僕の復帰は業界にとってはサプライズかもしれないですが、本来は引退して2年が経った選手が戻ってきても戦力として計算することは厳しいし、そうあるべきです。

じゃあそれを盛り上げにつなげるにはどうしたらいいかと言ったら、まずはあのような映像があって、最後に顔が出るような形でプロモーションするのがいいのかなと。どのようにしてユーザーに刺していくかを考えたら、事前の情報は大事じゃないですか。情報が漏れ過ぎてしまってもダメですし。

──すごく考えて作成されているんですね。

そうですね。今回こういったプロモーションにしたのは、フットサル界でも十分できるということや「もっと工夫できるんじゃない?」といった問いかけの意味も込めています。

選手がクラブに提案してもいいと思いますし、事例としてこんなやり方もあるよと伝えるつもりで、クラブに提案しました。どうせなら徹底的にやろうと思ってやり切りました。



「プロ」と「二足のわらじ」の両方を経験する

──引退されてからは株式会社MIXIで働かれていました。今も変わらないですか?

今も働いていますよ。フットサルの活動は「副業」にあたるので副業申請をしています。いろいろと細かい経理上の計算はありますが、それ以外は特に問題ないです。

──すみだは朝の時間帯で練習しているなか、どのような働き方を?

会社がフレックス制度を取り入れているので、僕は12時くらいから働き始め、夜の9時まで働くことを基本スケジュールにしています。成果をきちんと出せていれば問題ありません。

──とはいえ、午前中の仕事の時間には支障は出ないのでしょうか?

幸いにも、今のところは大丈夫です。電車で練習に行っているんですけど、家から1時間くらいかかるので、そこでメールを返すなど、作業の時間にしています。

練習会場に着いたら集中して、終わったらまたすぐに仕事へ。午前中のミーティングなどは出られないですが、リモートで働くこともできるのでけっこう柔軟にやれています。12時から打ち合わせが入っても、練習場の近くで対応もできますからね。

──名古屋時代はプロでしたが、今は仕事と選手の二軸です。どうですか?

もちろん今もプロのマインドはもっています。チームからお金をもらっているかは関係なく、お客さんがお金を払ってくれている以上、僕のなかではプロだという認識です。お客さんに対して失礼がないよう、最大限努力している姿を出すのが仕事だと思っています。

一方でFリーグの現状を考えると、プロよりも仕事をしながらプレーしている選手のほうが多いです。そこにどんな大変さがあるかを知ることも大事だと思っています。仕事と両立している状況で練習をすると、その疲労度はどうなのか、などもそうですね。例えば、39歳の僕が復帰できるんだったらみんなできるでしょとなるのかは、まだわかりません。

──たしかに、経験しないとわからないことですよね。

若い選手が引退した時に「引退するほどやりきってないのでは?」と、心のどこかで思っていました。ただ、その子たちの心境が一切わからないので、やってみたらきついのかもしれないな、と。自分が今後フットサルを外から盛り上げようとした時に、そういう選手たちのマインドを知っているのといないのでは大きく違うと思っています。

それを知った上で出てくる意見であれば、一定の説得力があるじゃないですか。プロしかやってない人も、仕事をしながらしかプレーしたことない人も、片方の立場からの発信だけでは伝わりづらいと思うので。両方の立場を経験しておくことで思考的にももう少しクリアになると思いますし、この状況を楽しもうという心境のほうが強いですかね。



体だけでない“思考の強度”を上げる

──ここ数年、すみだは思うように強度を上げられていなかった印象があります。結果的にも、それが順位に反映されてしまった。実際の練習でどのように感じていますか?

その点で言うと、ポジティブでした。もっと悪いかもしれないと思っていたので。

──強度はそこまで低くなかった?

強度もそうですが、選手の能力値がどうかは気にしていました。もちろん、名古屋と比較すれば足りないピースはありますけど、全くそろっていないわけではない。

でも、自分なりの「強度」という点で感じることはあります。例えば、ただ全力で練習するのは誰でもできますけど、頭も体もフル回転させてやりきることが大事です。

──どういうことですか?

ノーファウルでプレーできることが理想で、練習では、「ぶつかる直前で止まるように対応できること」が、僕は本当の強度だと思っています。

その強度でプレーするには、いつもより頭を使わなきゃいけない。そういった意味でのやりきる力は、まだ低いと感じます。止まったり、考えたり、工夫したりが絶対に必要だと思うので、強度の意味を考えながら、チームのベースを上げていきたいですね。

──岡山監督は「プレーにこだわる選手が多い」と話していていました。星さんが入ったことで全体の基準が上がっているように思いますが、どう感じていますか?

どうでしょう。成長を感じますけど、期待を込めて、もっとできるとも思っています。

──その“もっとできる”とは?

例えば、ディフェンスの時に僕が後ろから「出ろ」と声をかけるとします。その一言には、ポジショニングを修正してほしいのか、相手との距離を詰めてほしいのか、さまざまなパターンがある。普段から自分の頭を動かしていたら、敵の状況を見て「絞ったほうがいいから一歩調整してほしいという意味かな」などとわかるはずです。

でも、複数の選択肢をもたないまま、「出ろ」と言われたから前に出ただけでは思考がない。こっちがわざわざ「ポジション調整して!」と言うのと、「出ろ!」の一言で済むのとでは全然違いますし、そこの基準を上げていくことは重要だなと思います。

──そのためにはどんなことが必要ですか?

主体性ですね。自分がチームを勝たせるためには、仲間とのコミュニケーションをもっと取らないといけないし、いろんなものに新しく取り組む姿勢も大事だと思います。



星翔太は、Fリーグでやれるのか?

──星選手がFリーグの舞台に戻ってきて「やれるのか?」という声もあります。

やれないんじゃないですかね(笑)。

誤解してほしくないのは、僕はめちゃくちゃFリーグの選手たちをリスペクトしているということです。今の時代は強度も高くなっていて、経験があってもそれだけで勝てる世界ではありません。だから僕は、自分ができるなんて口が裂けても言えません。これが若い時であれば違うかもしれないですけど、今年で39歳ですよ。

常識的に考えたらけっこうきついじゃないですか(笑)。

──でも「星翔太ならいけるだろう」みたいな雰囲気もたしかにあって。実際に練習を見させてもらっても感じますけど、やっぱりいけるじゃん、と。

どうでしょう。練習だから、それはわからないです。

──当然、どこまでやれるかはピッチに立ってみないとわからない状況だと思いますが、自分自身とどのように向き合って復帰を決めたのでしょうか。

正直、戦術理解については、チームのなかでも上のほうだと思っています。そこは過信ではなく、経験値を考えてもそうなります。ただ、それをピッチで表現できる体であるかはまた別の問題で、そこがおそらく一番ギャップがある部分です。

なので、最初に話をもらった時から体づくりを始めて、以前からサポートしていただいてきた森永製菓さんのトレーニングラボでもメニューの相談をしました。朝起きて会社に行く前の時間に、週3回、2時間から2時間半のトレーニングをやっていましたね。

途中からボリュームを増やして、いいコンディションにするというよりは、負荷がかかっている状態で合流することを目的に準備をしてからチームに入りました。

──星さんには「元日本代表キャプテン」や名古屋などで獲得した数々のタイトルという実績があります。うまくいかなかった時に、その経歴が上書きされてしまう怖さは?

それは全くないですね。実績は過去のことですから。期待されているのはもちろんわかりますけど、さっきお話ししたリスペクトに通じていて、Fリーグはそんなに甘くない。もちろん僕も抗いますけど、一人でなにかをできるなんて思っていません。

自分がやりたくて復帰しているだけなので、仮にマイナスな反応をもらっても、「簡単じゃないよね、だからおもしろい」と。挑戦することに意味はあるとは思います。

結果的にチームが良くなることが最大目的なので、僕が活躍するかは正直どっちでも。僕自身は仕事をしながらでも言い訳しないでやれると示すことが大事で、チームとしては勝つためにやり抜く力が身についている選手たちが増えていくことが重要です。

──そこにチャレンジできるのはシンプルにすごい。

でも、おもしろいじゃないですか。

──そこで「おもしろい」とやってしまうのが星さんらしい。

ゴールを決めても、チームが勝てなかったら意味がありません。逆に言えば、僕自身の結果がパッとしなくてもチームが勝っていることのほうに価値がある。見えない部分でなにかしら影響があったのかもしれないし、それは中の人がわかっていればいいことです。

もちろん結果が出れば最高ですし、期待してもらうのはいいですが、人生一度きりしかなくて、おもしろそうだからやってみようと自分で決断して今ここにいるので、他人の評価がどうであれ、自分としてはもう成功していると思っています。



“フウガらしさ”を取り戻すチャレンジ

──星さんのそのチャレンジはいったい、どこに向かっていて、現時点ではどのくらいまで続けようと思っていますか?

まず考えていることは、チームの順位と選手の向上です。好循環を生み出すこと。その一方で、心の底から結果を求めていますけど、その過程でうまくいかなくなった時に生み出されたものが、ポジティブなものであればいいなと思っています。

やはりなにかしらの変化がある状況で終えたい。その意味では、「フウガらしさ」という言葉がどういうものなのかを、みんなが定義できている状態で終われたら理想的だなと。

──なるほど。今で言えば、その「フウガらしさ」とは?

元々のフウガらしさとは、「ピッチ内も、ピッチ外も、本当に全力でやること」でした。それが「切り替えゼロ秒」というように言語化されてきて。もっと細かく言えば、みんな勝ちたいからすごく主張して、ぶつかり合う。そのなかで昇華されていくことがある。

フィジカルで解決するようなやり抜く力ではなく「思考でやり抜く力」がぶつかり、個々に高め合って成長していくことが、本来のフウガらしさかなと。それを僕らは「ヒューマンパワー」と言ってきましたが、そこが高い選手が強いと、今も思っています。

──今、その言語化ができる選手がチームに戻ってきた意味を感じています。ちなみに、星さん自身の目標などはありますか?

競技としては、2ケタ得点を目指しましょう(笑)。あとは、2年間、社会人をやったおじさんの挑戦を見て、くすぶっている人たちのスイッチになったらいいなと思います。

そういう無謀なチャレンジをすることがダサいわけでも、かっこいいわけでもなくて、出た結果にどう立ち向かっていくのか。それがいい結果だろうが悪い結果だろうが、こういう人生もあるよね、と。だから俺も頑張ろうとか、私も頑張ろうってなってくれればいいのかなと思います。

──星さんの挑戦は、誰かにとっての踏み出すきっかけになるような気がします。

僕の人生のテーマに「感情を共有する」というのがあって、良くても、悪くても、感情は共有するものだと思っています。試合を通して感情を共有して、どれだけ人を揺れ動かせるかが大事ですし、それを伝えられるシーズンにできればなと思います。

それが、ゴールで言えば“2ケタ”決めていれば、そういうものを感じてもらいやすいかな、と。でもやっぱり、チームの勝利が大事。自分自身がどれだけチームを押し上げられるか、引っ張れるか。そんなチャレンジをやっていきたいと思います。



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