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作成日時:2024.10.11
更新日時:2024.10.11

【インタビュー】結果の前に“人間性”。フットサル界のレジェンドが体現する「子どもたちの憧れ」になる選手の姿(若林エリ/アルコ神戸)

PHOTO BY伊藤千梅

人生最後のホーム戦で、2ゴール。競技をしていて、それだけの結果を残せる選手がどれだけいるだろうか。13年間アルコ神戸でプレーしてきた若林エリは、年に一度の神戸の舞台で、見事1000人の観客を沸かせてみせた。

ラストホームゲームとしてこれ以上ない結果を残した若林は、それでもフットサル選手に一番大切なことは、結果の前に“人間性”だと強調した。

「普段の立ち振る舞いや人間性が一番大切だということを、アルコの選手にはひたすら伝えています。その上で成績やいいプレーが求められる」

確かに、そうなのかもしれない。この試合、観客席には若林の横断幕やうちわを持つサポーターが駆けつけ、選手入場の際には、入り口で配られた「19」の紙を掲げて出迎えた。でもそれは「若林が点を決めたからみんなが応援した」わけではなく、「みんなが応援しているなかで若林が結果を残した」のだ。

試合後、観客席の子どもたちから「エリコーチ!」としきりに名前を呼ばれていた若林は「トップリーグでプレーする以上、子どもたちにとって憧れの存在になることは本当に大事」と話す。

今シーズンでの引退を発表している若林は、彼女の思う選手としての“あるべき姿”を、身をもって体現している。残り5カ月、私たちは彼女からどれだけのもの学ぶことができるだろうか。

取材・文=伊藤千梅



子どもたちに不甲斐ない試合を見せられない

──今日の試合を振り返っていかがですか?

結果で言えば、まず勝ち点3を取れました。(加藤)正美監督がいないなかでも選手たちがしっかりと戦って、2日間で勝ち点6を取れたことはすごく良かったかなと思います。ただ本音を言えば首位に立ちたかったので、点数を重ねられなかったところは反省点です。

──自身最後のホーム戦で2ゴールを挙げました。

ごっつぁんゴールでしたね(笑)。でも最近は相手をみて判断するトレーニングを多くしていたので、その成果が出せたと思います。

あそこで(後藤)茉耶がボールを奪った瞬間にパスが来ることは感じていて、相手が1枚残っていたので、もう一度パスをするか自分で運ぶかという状況で一度茉耶に返しました。スペースの空き方的に、もう一回自分にボールが戻ってくるイメージがあったのでシュートの準備をしていたら、狙い通り茉耶が自分に「決めてください」というパスを出してくれました。お互いに意思疎通がしっかりできていたと思います。

でも実は、あのシュート自体は足の変なところに当たったので、ちょっと失敗でした(笑)。でも入ったので良しとします。

──今日の試合は若林選手の応援に来ている方も多かったと思います。

私はホームゲームで得点を決める回数が多いんですよ(笑)。どちらかというと、人に見られると頑張れるタイプです。なので今日みたいな場面であまりプレッシャーを感じません。

なでしこリーガー時代は浦和レッズレディースでプレーしていましたが、正直、あの声援以外のところでサッカーはできないと思ったので、やめるなら浦和でと思っていました。そのくらい応援の声や雰囲気があると自分にはプラスになりますし、「やってやんぞ!」と勢いがつきますね。

──得点を決めた瞬間はどんな気持ちでしたか?

もちろんうれしかったです。教えているスクールの子たちも見に来てくれていたので、みんなに不甲斐ない試合を見せられないという思いもありました。普段子どもたちに「一生懸命やらなきゃいけないよ」と伝えているので、自分がそれを見せないといけないと思ってピッチに立ちました。特にトップリーグでプレーする以上、子どもたちにとって憧れの存在になることは本当に大事だと思うので、そこはすごく意識しています。

──ファイナルシーズンに向けてどんな準備をしていきますか?

優勝するために、まずは全員がシュートの精度を上げることが必須だと思っています。決定率が悪いことは明確ですし自分たちの課題なので、ファイナルシーズンまでの期間で練習していく必要があります。あとは、引いて守ってくる相手も出てくると思うので、そういった相手を崩すための対策ができたらと思います。アルコはみんな「勝ちたい」という気持ちをもっている選手たちなので、あとは技術の部分を上げていきたいです。

正美監督も自分もB級ライセンスを取りに行っていますし、自分たちが指導の現場でインプットしたことを、選手たちにどんどんアウトプットしていきたいです。より高みを目指すために自分たちは勉強しているので、そこもうまく使いながら、みんなでレベルアップして、最後に笑っていられたらと思っています。

お母様は“サポーター”のような存在

──引退セレモニーの際には、チームメイトの皆さんが泣いていました。

後ろに目がついていないのでちゃんと見られていないのですが、泣いているだろうなとは思っていました(笑)。人が泣いているのを見たら泣いちゃう子も多いし、とにかくうちのチームは泣き虫が多いんですよ(笑)。だから我慢できていないだろうなとは思っていましたが、そうやってチームメイトに泣いてもらえるような選手になれたことは、自分にとっては財産だと思います。

──今日の試合はお母様と一緒に入場されていました。若林選手にとってお母様はどんな存在ですか?

うちは幼い時から片親なので、母親であり父親でもありました。ずっと見守って応援してくれていて、本当にサポーターのような存在です。

学生の時は毎日お弁当を作ってくれましたし、中学で女子のサッカーを続ける環境が少ないなか練習する環境を与えてくれました。でも競技のことで文句を言われたことも注意されたことも、指示されたこともありません。ただ自分が決めたことに対して全力で応援してくれました。そういった環境でのびのび自由にプレーさせてもらえたから、今の自分があると思います。自分から見た母親は尊敬できる人ですし、こうして最後のホーム戦で一緒に入場したり、セレモニーができたことで、少しは親孝行できたかなと思います。

──チームメイトのみなさんとも仲が良さそうでしたね。

自分のチームメイトとも仲良くできることは能力だと思います(笑)。昨日もお母さんと(伊藤)沙世と(高橋)京花と一緒に4人でご飯にいきました。今日のセレモニーでもそうですが、みんなの輪に自然と入れるのは本当にすごいと思います。

普段の立ち居振る舞いで「憧れ」の選手に

──若林選手にとって神戸はどんな場所ですか?

高卒1年目は宝塚バニーズというサッカーチームに所属していました。サッカーを引退した後、代表の小村(美聡)に誘われてアルコに入った時に「縁があるな」と思いましたし、お母さんからも「あなたにとっていいところなんじゃないの」とは常に言われています。出身とは違う土地に縁があることはなかなかないと思いますし、住みやすくて人が温かい、故郷の一つだと思っています。

──今後フットサルを広めるために、なにが必要だと思いますか?

自分は今、日本フットサル連盟の理事もしているので、いろんなものを背負っている責任があります。今日のアルコのホーム戦でも伝わると思いますが、子どもたちのパワーはめちゃめちゃ大きいです。だからまずはフットサルを認知してもらうこともそうですし、子どもたちにとって憧れの選手が出てくることが大事だと思います。

そのためには普段の立ち振る舞いや人間性が一番大切だということを、アルコの選手にはひたすら伝えています。まずは“人として”という部分が必要ですし、その上で結果やいいプレーが求められると私は考えています。

あとはフットサルを地道に普及していく活動を、自分事として選手一人ひとりがやっていくこと。自分たちがフットサルの価値を上げるという意識があるかないかで、認知度は変わってくると思います。意識を変えることで立ち振る舞いも変わってくると思いますし、そういったところから、今のフットサル界にいる選手、スタッフ、サポーター、みんなで取り組んでいけたらと思います。



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