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作成日時:2024.10.30
更新日時:2024.10.31

F1昇格できなければチーム解散?がけっぷちに追い込まれたフットサルクラブ「エスポラーダ北海道」の今

PHOTO BYエスポラーダ北海道

1年でF1リーグに復帰できなければ、廃部を検討する──。クラブの存続危機に立たされているエスポラーダ北海道。F2ではリーグの2/3を終えて2位、優勝のためには1試合も負けられない試合が続く。果たして、最北のFクラブを待っているのは、どんな結末なのか。

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1シーズンで戻れなければ……

「チームの存続を求める署名活動を行っています!ご協力をお願いします!」

10月27日、札幌駅から程近い、北ガスアリーナ札幌46。F2リーグ・エスポラーダ北海道vsアグレミーナ浜松の試合会場の入り口付近に水色のユニフォームを着た数名のサポーターが立っていた。

「さっきも、エスポのスクール生たちが署名してくれました。いつかトップでプレーしたいとフットサルを頑張っています。このクラブがなくなれば、憧れの場所がなくなってしまう。絶対になくしちゃいけないんです」

15年間ずっと応援し続けてきたサポーターは訴えた。

【エスポラーダ北海道サポーター有志による署名活動】

2023-2024シーズン、F1リーグで最下位の北海道はF2で優勝したヴォスクオーレ仙台との入替戦に回った。結果は2戦2敗。Fリーグ昇格以来15年間留まっていたF1の舞台から降格することが決まった。

F2で戦うことになったチームに衝撃が走ったのは、入替戦からちょうど1カ月後のこと。地元で最大のシェアを誇る「北海道新聞」のスクープだった。朝方に配信された記事は、瞬く間にフットサルファンに広がった。

「エスポラーダ、来季廃部検討 1部復帰が存続条件」

北海道をメインスポンサーとして支えてきた「明日佳グループ」が長年の成績低迷や、F2降格に伴う遠征費の増加などを理由に、1シーズンでF1に復帰できなければ廃部を検討しているという。

F1復帰とは、つまりF2王者になるということ。ただし、元F1クラブだからといってF2で簡単に勝てる保証はない。事実、F2に降格したクラブが、1年ですぐに復帰できたことはただの一度もないのだ。どれほど困難なミッションであるかは容易に想像がついた。

前半戦で2敗。がけっぷちに

F2降格による影響は決して小さいものではなかった。

日本代表でワールドカップ出場経験のある守護神・関口優志はシュライカー大阪へ、自衛隊出身ストライカーの“ジエイ”こと福田亮はフウガドールすみだへ、パワフル系フィクソの本郷輝はバサジィ大分へ戦いの場を移した。

F1とF2ではリーグのレベルに大きな開きがある。競争力の高い環境でのプレーを望む選手たちがチームを離れるのは当然だ。大幅な戦力ダウンは避けられないという予想に反し、結果的にはそうはならなかった。

すでに引退を発表していた元日本代表のエース・室田祐希はクラブ存続危機のニュースを知って「悩みに悩んで」現役復帰を決断。さらに、他クラブでプレーしていたOBの三浦憂、宮原勇哉などF1級の実力をもった選手たちも戻ってきた。

菅野大祐新監督は「選手の覚悟は本当にすさまじいものがある。苦しさを乗り越えて結果を出す」と就任会見で決意を述べた。

自分たちの未来をかけた、特別なシーズンが始まった。

開幕戦ではリガーレヴィア葛飾に2-1で辛勝。その後は開幕4連勝を飾るも、第5節でボアルース長野に0-1で初黒星を喫する。第9節ではヴィンセドール白山に3-9で敗れて、今シーズン2敗目。

10チームによる2回戦総当たりで行われるF2リーグは1試合の結果が与える影響が大きい。前半戦で2敗をしたことによって、首位の長野に勝ち点差6をつけられ、追いかける展開となった。

菅野監督が振り返る。

「前半戦は勝たなければいけないというプレッシャーにつぶされそうになったのは事実です。危機感をしっかりもっているのは良いことですが、失点すると焦ってしまって、バタバタすることが多かった」

1年でのF1復帰という目標に向けて、まさしく“がけっぷち”に追い込まれた。



元北海道監督が仕掛けた“奇策”

約1カ月半の中断期間を経て、9月16日にリーグが再開された。ここから先は一つも落とせない。水上玄太が選手たちの思いを代弁する。

「あの2敗がなければ……とは思いますが、時間を巻き戻すことはできません。みんなで言っていたのは、気持ちを切り替えて、後半戦で全勝しようと。長野と勝ち点差も、得失点差も開いている。正直厳しいのはわかっています。ただ、直接対決はまだ残っているし、勝ち続けてプレッシャーを与えるしかない」

2試合連続でのホーム戦となった浜松戦は、楽な試合ではなかった。浜松を率いるのは北海道で選手、コーチ、監督として長年関わっていた金井一哉監督だ。北海道を知り尽くす金井監督は“奇策”を準備していた。

浜松はキックオフと同時に、FPをGKに代えるパワープレーを仕掛けてきた。通常、パワープレーは試合の終盤に負けているチームが追い上げるために行うことが多い。だが、浜松の目的は数的優位を生かしてボールを保持して、北海道の勢いを削ぐことにあった。

「北海道銀行マッチデー、北ガスアリーナ札幌46というシチュエーションで、どんなゲームをしなければいけないか、北海道の視点に立つと、最初からどんどんプレスをかけたいだろうと。どうやってリズムを崩していくかと考えて、パワープレーを行いました」(金井監督)

浜松に立ち上がりでペースをにぎられると、3分に先制されてしまう。一度は同点に追いつくものの、前半終了間際の残り14秒で失点して1-2でリードされてハーフタイムへ。最悪な時間帯の失点による、最悪な終わり方といってよかった。

だが、北海道は崩れなかった。

24分、40歳の大ベテラン・鈴木裕太郎がバックパスを受けた浜松GKミヤモト・ギレルメにプレッシャーをかける。ミヤモトが出したパスに足を伸ばしてカットすると、そのままゴールに吸い込まれ、同点に追いつく。

ここから北海道のゴールラッシュが始まる。27分に宮原がGKの頭上を抜く技ありのループシュートで勝ち越し、29分には室田のファーサイドへのパスをキャプテンの小原風輝が合わせて4点目。

北海道の勢いは止まらない。39分、怪我から復帰3戦目となる水上が鈴木のパスからシュート、GKに弾かれたものの素早く反応して押し込んだ。5-2。超満員のアリーナの盛り上がりは最高潮に達した。

道産子の夢を乗せて

北海道がつかんだのは勝ち点3だけではない。

浜松戦の観客数は1648人だった。これは週末に行われたF1・F2を含めたFリーグのどの試合よりも多い数字だ。2週間前に同会場で開催したホームゲームは1424人。集客力は日本トップクラスと言っていい。

北海道のサポーター有志による署名活動は、試合前後で167人を集めたという。ネット署名ではすでに350人を超えており、直筆・ネットを合わせて、すでに500人以上の賛同者を得ている。

大観衆の前で勝ったこと、クラブが必要とされていることを、目に見える形で示せたことは大きいだろう。

「道産子の夢を乗せて」

エスポラーダ北海道のスローガンだ。

2008年のクラブ設立以来、「道産子」にこだわって戦い続けてきた。トップリーグで、地元出身選手だけで構成するチームは極めて異例だ。「北海道のチーム」が全国の強豪に立ち向かう姿は、地元の人々に感動を与え、子どもたちの誇りとなった。

浜松戦でピッチに立った22歳の近藤一哉は、エスポラーダのスクール出身選手だ。この日の1648人の中には、かつての近藤のように、いつか水色のユニフォームをまとって、たくさんの観客の中で戦いたいと目を輝かせる子どもがいたはずだ。

首位・長野との勝ち点差は6のまま。11月10日にはホームの小樽総合体育館で長野と1位・2位の直接対決という大一番を控えている。クラブの未来をかけた戦いは続く。

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