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作成日時:2024.12.27
更新日時:2024.12.27

大学日本一から一転、不遇の3年間。“拾われたエース”石井宗人がポルセイド浜田で描く逆転劇「このクラブでF1に上がったら、面白い」|F2で紡がれる戦闘記

PHOTO BYポルセイド浜田、高橋学

2024年、ポルセイド浜田が躍進を遂げた。2020-2021シーズンからFリーグに参入した浜田が、4年間で獲得した勝ち点は「18」。勝利したのはたったの4回と、4年連続最下位から抜け出せずにいた。

しかし今シーズンは17試合のうち9勝を挙げ、勝ち点は「30」と4年間で積み上げてきた記録を大幅に更新。リーグ戦1節を残し、5位につけている。

そんな浜田で現在12得点とチーム内得点王の活躍を見せているのが、加入2年目の石井宗人だ。

高校卒業後に多摩大学に進学してフットサルを始めた石井は、大学3年生の時に日本一を経験。卒業後はバサジィ大分のサテライトに加入し、特別指定選手としてトップチームに登録された。

しかし、大分では思うように出場時間を得ることができず不遇の3年間を過ごした。昨シーズンから浜田に移籍すると、1年目にして16試合出場、14ゴールを挙げる活躍を見せた。今シーズンは石井自身の結果が、チームとしての結果にも結びついている。

個人として上のカテゴリーに再挑戦する選択肢も考えられるなかで、石井は少し考えながらこんな言葉を口にした。

「このクラブでF1に上がったら、面白い」

シーズン2年目で「チームを勝たせたい」という責任感が生まれたという石井。自分を拾ってくれたクラブへの恩返しを一番に考え、置かれた場所から上を目指す浜田のエースが、これまで歩んできた道のりに迫る。

取材・文=伊藤千梅

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「ボールをたくさん触れる」フットサルの道へ

──石井選手がフットサルを始めたきっかけを教えてください。

フットサルを始めたのは、高校3年生の時に全日本ユースフットサル大会に出場したことがきっかけです。そこから徐々にフットサルにハマっていきました。

大会はベスト8で終わったので、悔しい思いもありましたが、楽しかったです。対戦はしなかったのですが、多摩大学のフットサル部で一緒にプレーした、当時フットボーズの南雲(颯太)や帝京長岡の安井(嶺芽)は配信を見て上手いなと思っていました。

──フットサルをしたのは大会が最初ですか?

全日本ユースに出る前から、部活後にチームメイトと体育館でボールを蹴ることはあって、その時から「フットサルのほうが合ってるかな?」とは感じていました。

僕は元々ボールに触るのがすごく好きなのですが、サッカーだと歩いている時間やオフザボールの時間が長いじゃないですか。でもフットサルは常に駆け引きがありますし、ゴールとゴールの距離が近くて展開が早いので、そういう部分が面白いと感じました。

──本格的に競技を転向しようと思った決め手はありましたか?

大学の体育会サッカー部の練習参加もしていましたが、後ろから前線に長いボールを蹴るスタイルのチームが多く「これだとあまり面白くないな」と思っていました。大学サッカー自体が全体的にフィジカル重視のイメージだったので、自分には合わないなとは感じていました。

そんな時にフットサルの大会に出て「ボールにいっぱい触れるし、面白い」と感じたので、こっちの道に進んでみようかなと思いました。実際にうまくいくか不安もありましたが、多摩大学は強いという話を聞いてたのでまずは挑戦してみよう、と。もし多摩大学に落ちていたら、就職していました(笑)。

守備から“ピヴォ”への抜擢で開花した才能

──大学4年間はいかがでしたか?

一言で言えば、楽しかったです。フットサルの練習や試合ももちろん充実していましたが、大学にフットサル専用アリーナがあったので、練習後に学年関係なくみんなで残ってボールを蹴って、ワイワイしていた思い出があります。

──大学3年生の時に日本一を経験していますが、印象に残っていることはありますか?

僕らが3年生になる時に、練習メニューを選手たちで考えるようになりました。曜日ごとに担当を決めて、選手が組んだ練習メニューに監督がサポートで入る形で取り組んだことが印象に残っています。

例えば、守備の練習をする時にはフィクソの選手を中心にメニューを考えて、うちの弱点とか強みを自分たちなりに分析しながら練習を作成していました。そのお陰で、判断力や考える力が身についたと思います。

──それは全国制覇という結果にも結びついたと思いますか?

そうですね。それまでは監督がガチガチに指示を出すことが多かったのですが、選手たちで考えるようになってからは「相手の特徴がこうだから、うちはこうしよう」といった試合中の判断が自然とできるようになったと思います。

初めから監督の意見を待つのと、まず自主的に考えて判断するのでは、大きな差が出るのかなと思います。試合中に劣勢になった時、監督が外から見ていて気がつくことももちろんありますが、ピッチ内でプレーしている選手のほうが気づくことは多いです。そこで自ら判断できる選手であることは大切だと思います。

──そのほかに、個人的として大学4年間で変化したことはありますか?

僕は、高校までは守備的な選手で、フットサルを始めた時も実はアラとフィクソでした。ただ先輩に「ピヴォやってみ」と言われて、やってみたら攻撃が楽しくなってハマりました(笑)。点を取るのって楽しいんやな、意外と自分も攻撃できるんやなというのは気づきでしたね。

──攻撃の選手になったのはフットサルからなのですね!

そうなんです。元々中学の時のチームが相手との駆け引きを大事にしていて、ボールのもらい方や相手の逆を突くプレーを、ずっと叩き込まれてきました。ピヴォをした時にも、他の選手に比べて、いろいろな受け方をできたことが強みになったと思います。

──高校の時にうまいと感じていた南雲選手や安井選手と一緒のチームになっていかがでしたか?

やっぱりうまかったですね。同じセットで一緒に出ることが多かったので、攻撃の時はマークを外せば絶対にボールがくる。そのあとのサポートもめちゃめちゃうまかったですし、彼らから学んだことは多いです。

南雲が今年初めて代表に選出されたこともすごくうれしいです。でも、自分も負けられないなと思います。



大分での葛藤「何しにここに来てるんやろ」

──多摩大学から大分のサテライトには、どのような経緯で入団しましたか?

大学卒業後の進路を探していた時に、同学年で僕だけチームが決まっていない状況になりました。どうしようかなと思っていた時に、大分からうちの大学の監督に「ピヴォはいないか」と連絡が来て、行ってみるか?と声をかけてもらったことがきっかけです。遠い地に行くという、安易に逃げ出せない選択をしたほうがいいかなと思って決断しました。

──そこからトップ昇格までの道のりを振り返っていかがですか?

苦しかったことのほうが多かったです。1年目は大分で特別指定の登録をしてもらいましたが、ベンチ入りしたのは2試合だけで、出場時間も5分あるかないか。当然トップ昇格はその時はありませんでした。

もう1年、サテライトで、特別指定を目指しながらやっていましたが、2年目は同じポジションの別の選手が特別指定で入り、僕はサテライト1本でやっていました。「何しに大分に来てるんやろ」という気持ちになりましたね。でもそこで腐らずやれたことは良かったと思います。

──サテライトの練習でしっかり取り組んでいたのですね。

当時、小曽戸(允哉)選手などがいたので、練習はすごく楽しくやれていました。小曽戸選手は、プレーはもちろん、人間性を尊敬しています。練習前は、誰よりも先に着いて、1時間半前からストレッチをしたり、準備したりしていました。だから自然とみんながそれについていくような形で取り組んでいました。

──2年目をサテライトで過ごし、トップに昇格した3年目はいかがでしたか?

正直、2年目より苦しかった印象しかありません。開幕戦に少し出場して、そこからはずっとベンチ外という状況だったので、全然楽しくなかったです。どうやったら試合に出られるのか、どこを直せばいいのか、どこが評価されてないのかとたくさん悩みました。今思うと、それによってどんどんマイナスな考え方をしていたと思います。

──浜田への移籍は、どのように決めましたか?

試合に出られずクビを切られたタイミングで、浜田の田之上(龍道)コーチから話をもらいました。大分に残れないことはその時には決まっていたので、迷うことなく「いきます」と答えました。

──一昨年に浜田に加入するまでは、F2で最下位でしたが、そこに対するためらいはありましたか?

最下位だから、という気持ちは特にありませんでした。移籍する前に大分と浜田で練習試合をする機会があったのですが、そこでいい試合をしていたことを覚えています。ちょうど監督も村松さんになっていた時だったので、あの人も熱いですし、チームに一体感があったのがいいなと思いました。



拾ってもらった浜田からF1を目指す

──浜田に来てからは、どんな思いでピッチに立っていますか?

フットサルはお客さんがいてこそなので、まずは観客のみなさんに楽しんでもらえたらという思いでピッチに立っています。そのためには自分が楽しまないと意味がないですし、全力でフットサルを楽しむことを大事にしています。

──昨シーズンは1年間で14ゴールを挙げましたが、チームは最下位でした。どんな1年でしたか?

正直、こんな負けるつもりはありませんでした。なんで最下位なんやろなという思いと、結局チームの勝ちに直結するようなゴールが取れていなかったので、それはずっと悔しい思いがあります。

──昨シーズンと比べて、現在はチームとしてどんな変化を感じますか?

今シーズンは村松さんが就任して2年目で、選手の入れ替わりも少なかったですし、監督の意図をみんなが理解してやれていることが、今の結果につながっていると思います。

あとは、みんなが意見を言うようになったかなと思います。昨シーズンは僕や三浦(祐人)といった試合に出ているメンバーが発言することが多かったですが、今シーズンはみんなが意見を出し合うようになりました。年齢も関係なくしっかりと言い合うことができているので、それがいい方向に進んでいると思います。

──なぜ、意見を言い合えるようになったのでしょうか?

村松さんのチームの雰囲気づくりかなと思います。今シーズンは村松さんもけっこう思っていることを伝えてくれますし、逆にみんなが監督に話しやすいような雰囲気もつくってくれているので、それがいい変化だと思います。

あとは、勝負強くなりました。昨シーズンは1点取られたら2点、3点と失点することが多かったのですが、今はそこで踏ん張って取り返して、一点差でも勝つことができています。今シーズンも先制される試合がほとんどですが、そこで耐えて巻き返せていますし、忍耐強くなったなと思います。

──石井選手個人としての目標はありますか?

今シーズンの残りの試合でも、自分が点を取ってチームが勝てればいいなというのは、一つ目標としてあります。来シーズン以降も、毎試合点を取ることを目標にしています。

あとは、責任感も強くなりました。昨シーズンは何も考えずにプレーしていましたが、今はチームを勝たせられる選手にならないといけないと思いながらピッチに立っています。

そのために、ピヴォとしてまずはゴールに蹴り込むことを考えています。今はどちらかというとアラで出場することが多いですが、毎試合チームで一番多くシュートを打っています。打たないと入らないですし、僕が相手にされて嫌なことは何かを考えた時に、ドリブルとそこからのシュートだと思っているので、そこを出していきたいです。

──F1へ行きたいという思いはありますか?

F1のほうがレベルは高いですし、実際スピード感も違うので、そういう気持ちは確かにあります。でも、浜田でF1に上がったほうが面白いかなと思っています。すぐにできるかと言われたらわからないですが、僕のことを拾ってくれたクラブで、F2を優勝して、F1に上がるのがいいなと思っています。

──今シーズンの浜田の躍進を考えると、可能性があると感じます。

そうですね。ただぶっちゃけ今シーズンは、他のチームに浜田が今までずっと最下位だった印象があったと思います。だから勝てていた部分も少なからずあると個人的には思っているので、来シーズン以降も勝ち続けることができたら、本物になってくるんじゃないですかね。ここからが勝負になってくると思います。

■ポルセイド浜田 最終戦

12月28日(土)

時間 カード 会場
14:00 アグレミーナ浜松 vs ポルセイド浜田 浜松アリーナ

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