更新日時:2024.12.28
今季5度のハットトリックで16試合・26得点。怪物級スコアラー・山桐正護は、なぜそんなにゴールを奪えるのか?|F2で紡がれる戦闘記
PHOTO BY高橋学、伊藤千梅
味方からのパスを受ければ、瞬く間にゴールを奪う。
アグレミーナ浜松のエースストライカー・山桐正護の勢いが止まらない。
キャリア最多の27得点で、リーグMVPと得点王の“W受賞”を果たした昨シーズンに続き、ここまでリーグ戦16試合で26得点をマーク。そのうち5度のハットトリックを記録する決定力の高さは、「わかっていても止められない」恐るべき存在だ。
「試合に勝つというミッションに対して、自分はピヴォとして点を取るという仕事を任されている。毎試合、その役割をしっかりとこなすだけだと思ってプレーしています」
特別なことをしているわけではない、と言わんばかりに淡々と答える山桐だが、その胸の内には誰よりも熱い、競技への愛を秘めている。
「なんでそんなに決められるのか、監督の僕も聞きたいくらい(笑)。でも、彼を絵で表すと半分以上がフットサルを占めている。それくらい大好きなんだなというのは、確かです」
指揮官・金井一哉監督も太鼓判を押す、“F2の怪物”の素顔とは──。
取材・文=青木ひかる
得意技は「ずる賢いプレー」
「今節は、何点決めただろうか」
前日までに終わった試合の結果記事を書くために、リーグの公式記録のサイトを開くと「山桐正護」の文字がずらりと並ぶ。2点くらいかなと予想すると、たいてい3点か、多い時には4点決めており、期待を裏切らない選手だなと毎回驚かされるのが、毎週月曜日のお決まりだ。
「フットサルは展開が速く、たくさん点が動く」ところが魅力の一つではあるものの、警戒されれば当然のことながらマークは厳しくなり、コートが小さい分カバーリングも早いため1人の選手が1試合で複数得点を挙げるのは容易なことではない。
ではなぜ、山桐は一人だけ突出して得点を量産できるのか。もちろん、チームメートから信頼されボールが集まりやすいというのも一つだが、最大の強みとして手数をかけずに決め切る能力の高さが挙げられる。
「自分は、足元の技術が高い選手ではないし、フィジカルで戦うのも昔から好きではないんですよ。フェイクでマークを外すようなずる賢いプレーをしたり、ボールを受ける立ち位置を意識しています」
今シーズン決めた26得点のうち、約半分に当たる14得点をワンタッチで決めていることからも、いかにボディコンタクトを少なくゴールを奪うことを意識しているかが伺える。それゆえに、「簡単に決めているように見えてしまう」のが山桐の特徴だ。
浜松生まれ、フットサル育ち
その驚くべき得点能力は、幼少期から培われた“フットサルIQ”の高さにある。
浜松生まれの山桐にとって、フットサルはサッカーよりも身近なスポーツだった。
物心ついた頃から、日系ブラジル人選手と日本人選手が凌ぎを削り合う民間のリーグ戦「リーガ天竜」を毎週のように観戦し、「自分もあんなプレーがしてみたい」と、気づけば夢中になっていたという。
「3歳から中学生までは、一応サッカーと両立していました。でも、あくまでフットサルで活躍する選手になるために、フィジカルを強化しようと思ってやっていた側面が強かったです。結局、やっぱり自分は身体の強さで勝負する選手じゃないなと思って、高校生になったタイミングでフットサル一本に絞りました」
ただ、フットサルも盛んな地域とはいえ圧倒的にサッカープレーヤーが多く、所属していたチームは所属人数も少なく、練習も週2回の活動に留まった。
限られた戦力のなか「やるしかない」と、徐々にスコアラーとしての意識が育まれていった。
プレッシャーを楽しみ、自分らしさを生かす
今でこそ“不動のエース”という印象が強い山桐だが、2ケタ得点を取れるようになったのは、昨シーズンまで浜松を率いた高橋優介監督(現シュライカー大阪監督)の影響が大きいと、山桐は振り返る。
「もともと得点を取るのは好きだったんですが、やっぱり“ピヴォ”とはこういう選手だという意識や動きが染み付いたのは、ゲンさん(高橋監督の愛称)のおかげです。それまでは、チームメートに『ボールをくれ』と要求することができていませんでした。でも、それじゃあダメなんだ、と。自分はこういう局面でどういう動きをすることが多いのか、どういうプレーをするのが得意なのかをきちんと伝えるようになってから、より“自分らしさ”を生かして、ゴールを取れるようになってきています」
『パスを出してほしい』と求めるからには、しっかりと決め切らなければいけない。はじめはそのプレッシャーに負けそうになったこともあったが、今はその緊張感も楽しみながらのびのびとプレーできているという。
「最近は、ファーストシュートの感覚で『今日はいけるぞ』というのがわかるようになってきました。不思議なことに、そういう日はだいたい運も良くて、自分の前にルーズボールが転がってくることも多いんですよね(笑)。『これ、決めろってことかな?』って。面白いですよね」
生まれ育った街をフットサルで盛り上げたい
高校を卒業後すぐに浜松のトップチームに加入し、早くも在籍8年目。“中堅選手”として、着々と実力を伸ばす山桐は、この先の自身の選手キャリアをどう描いているのか。
「結果が出始めてから、一度は移籍を考えたこともありました。だけど、浜松は地元のクラブだし、生まれ育った街をフットサルで盛り上げたいという気持ちはやっぱり捨てきれません」
2017-2018シーズンにボアルース長野とのディビジョン1・2入替戦に敗れて以降、“F1復帰”はチームとしての悲願。そのためにはまだまだ自分の力が足りないと、山桐は自分に鞭を入れる。
「若い選手も増えてきたなか、失点を悔やむよりも、次に得点をどう取るかを考えています。どれだけ点を取られても、僕が取り返せば勝てるというマインドは、これからももっていきたい」
6月に開幕したリーグ戦も、残すところ1試合。
すでにボアルース長野の優勝が決まっているものの、山桐は個人として一つの目標を掲げている。
「もうリーグ優勝はできないですけど、去年の得点数を超えたいですね。この先の全日本選手権や
来シーズン以降より強いチーム、勝てるチームになるために、取れるだけ取りたいです」
自己記録更新までは、あと2点。
まだまだ成長途中のゴールゲッターは、12月28日のホーム最終戦で自らの壁を超えることができるか。
■アグレミーナ浜松 最終戦
12月28日(土)
時間 | カード | 会場 |
---|---|---|
14:00 | アグレミーナ浜松 vs ポルセイド浜田 | 浜松アリーナ |
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