更新日時:2025.02.08
「このチャンスを逃したら、もうない」。湘南の“ダークホース”籔内涼也、挫折を知る23歳が切り開いた新章【コメント記事】
PHOTO BY伊藤千梅
今シーズン6位で上位リーグに滑り込んだ湘南ベルマーレは、ファイナルシーズン初戦で首位・バルドラール浦安を撃破。“台風の目”として優勝争いに波乱を起こしている。
チームの好調とともに、その中心で存在感を放つのが、ボアルース長野への期限付き移籍を経て今シーズン復帰した籔内涼也だ。
一度は湘南を離れ、カテゴリーが異なる環境で1年間経験を重ねた。復帰後は試合に絡めない時期もあったが、限られたチャンスをものにし、気づけばチームの躍進に欠かせない存在となっている。
自らの実力を証明するかのように、持ち味のドリブルで果敢に仕掛ける籔内は、どのようにしてこのポジションをつかんだのか。そして、残り3試合にどんな思いで挑むのか。これまでの道のりと、現在の覚悟に迫る。
背水の覚悟で挑んだ一戦
きっかけは、第16節のフウガドールすみだ戦だった。
開幕戦から4試合には出場したものの、思うような結果を残せなかった籔内は、出場機会が安定しない時期が続いた。中断明けからの6試合は一度もピッチに立つことができず、チームの戦いを外から見守っていた。
すみだ戦の前日、籔内は監督から声をかけられたという。
「『明日は試合に出る。やってこい』と言われ、この機会を逃したらチャンスはもうないと感じました。試合前は緊張していましたが、ピッチに立ったら、絶対にゴールにつながるプレーをしようと決めていました」
今でこそ笑顔を見せながら話しているが、その時は相当なプレッシャーがあったはずだ。それでも籔内は、この試合で訪れたチャンスをしっかりものにした。
第2ピリオド35分に内村俊太からのパスを受けると、相手をブロックしながら巧みにボールをキープ。そして、相手ディフェンスの間を縫う絶妙な配球で勝ち越しゴールを演出した。
すみだ戦の限られた時間のなかで爪痕を残し、最も変わった部分は「気持ちのもち方」だと話す。
「試合に出ていない時は、ドリブルができる場面でもミスを怖がってパスを選択していました。でもあの試合の後からは、より自分の得意なプレーを出してチャレンジしようと思うようになりました」
持ち味を生かしながらゴールへと向かう積極的なプレーが増え、リーグ終盤には徐々に出場時間を確保。第22節のしながわシティ戦では、今シーズン初ゴールを含む2得点を挙げた。試合には敗れたものの、確かな手応えを得た籔内は、異彩を放ちながら自信を深めている。
長野での1年が支える、湘南での躍進
2022-2023シーズン、籔内はシーズン途中からピッチでプレーできないもどかしさを抱え続けた。ベンチ入りはしても、出場機会を得られない日々。そんな状況のなか、下部組織時代の監督・阿久津貴志氏から、長野への期限付き移籍を提案された。
「正直、カテゴリーが一つ下がるし、F1でやりたい気持ちはありました」
ある意味では、挫折とも捉えられる決断。それでも、籔内は現状の自分に満足していなかった。
「チームに残っても、試合に出られなかったら意味がありません。F2でプレーするほうが自分の成長につながると思いました。結果を残して、自分のプレーをしっかり出せるようになれば、いずれ湘南に戻ってチームに貢献できるはず。だからこそ、レンタルで長野に行って頑張ろうと決めました」
2023年、チーム最年少として長野に加入すると、リーグ戦全試合に出場。シーズン10得点をマークした。F1昇格には届かなかったが、その結果が評価され1年で湘南へ復帰した。
長野で過ごした時間は決して長くはなかった。それでも、この1年間の経験が、今シーズン、試合に出られない時の支えになっていた。
「長野のGM(土橋宏由樹氏)に『涼也だったら大丈夫。湘南ですぐに試合に出られなくても、長野にいた時のことを思い出してプレーすれば、出られるから』と言われました。うまくいかない時も、その言葉を思い出しながら練習していました」
贈られた言葉通り、現在はチームを引っ張る存在になった。
湘南は今シーズン、リーグ優勝の可能性こそ消えたものの、「目の前の試合を見ている」と、籔内の意識は揺るがない。
「一番は『自分のゴールで勝ちたい』という気持ちです。チームのために戦って、一つでも上の順位にいきたい」
最後に「上位リーグを荒らせるように」と笑った籔内。これまで幾度もの逆境を乗り越えてきた23歳が、ファイナルシーズンの主役になる準備はできている。
取材・文=伊藤千梅
1999年2月22日生まれ。東京都出身。元なでしこリーガー。スフィーダ世田谷FCやFC十文字VENTUSでプレー。2021年に引退後、FCふじざくら山梨オフィシャルライターに就任。なでしこリーグでのプレー経験を活かした女子サッカー記事や、スポーツ関連企業の求人サイトでのインタビュー記事などを執筆する。現在フットサル取材歴は約1年。シーズン中は毎週末Fリーグや女子Fリーグの取材をしている。2024年4月からは撮影も始め、選手たちのカッコイイ写真を撮れるよう奮闘中。
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