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作成日時:2025.02.07
更新日時:2025.02.07

染野伸也はベンチで吠え、ピッチでも吠える。「試合に出ても出なくても、できることはある」3年前に刻んだセグンドでの教え【コメント記事】

PHOTO BY伊藤千梅

「すげー!取材受けてる」「さすが!」「かっこいい!」

取材エリアで話をする染野伸也にチームメイトが次々と声をかけていく。先輩も後輩も関係なく軽口を叩かれながら、染野は「すぐ茶化してくるんすよ」と照れたような笑みを浮かべた。

その様子からも、チーム内での愛されぶりが伝わってくる。それはきっと、染野がどんな立場でも浦安のために戦い続けてきたからだ。

試合に出ていても、出ていなくても、チームの勝利のためにできることはある。そう信じてピッチの内外で積み上げてきたものが、北九州ラウンドで形になった。

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セグンドで実感した“ピッチ外”の重要性

思い返せば、毎試合ベンチで身を乗り出してチームに声をかける選手の1人が、染野だった。

今シーズンのスタートの時点では、そこまで多くの出場機会を得られていたわけではない。第15節の立川戦で今シーズン初得点を挙げ、出場時間を伸ばしたが、その後は再びベンチを温める時期が続いた。

コンスタントに試合に出ている選手ではないけれど、彼のベンチでの振る舞いは目を引く。味方の得点は全力で喜び、ファウルには小宮山友祐監督と並んで意思表示をする。ベンチに戻ってきた選手には笑顔で接し、チームが劣勢の時は手を叩き、声を張り上げて鼓舞していた。

なぜ、そこまでチームのために動けるのか──。

その原点は、下部組織での経験にあった。

染野は2016年から6年間、浦安の下部組織に所属。2018年にトップ昇格を果たすも、1年でセグンドへ。その後、2021年にバサジィ大分のサテライトを経て、2022年に再び浦安セグンドへ戻ってきた。

3年前、チームを率いていた冨成弘之監督の言葉が、今も胸に刻まれている。

「ピッチの中が悪くても、外がしっかりしていればチームは立て直せる」

その言葉を体現し、ピッチ外の行動を大切にした結果、当時のチームは関東リーグで優勝。選手権でも予選を勝ち上がり、全国大会に出場した。

「振る舞いを変えれば、成績も上がる。だから、トップに上がってもそれは続けたほうがいいと思って、今でもベンチの雰囲気づくりはすごく意識しています」

言葉だけでなく、結果としての実感がある。だからこそ、昨シーズンのトップ昇格後も、染野はセグンドで培った“ベンチが勝たせる”姿勢を貫いている。



どんな立場でも変わらない、優勝への思い

もちろん、ベンチを盛り上げるからといって、試合に出られない悔しさが消えるわけではない。それでも、試合に出られるかどうかという現実を、染野は冷静に受け止めていた。

「気持ちが落ちることも当然ありますが、自分が足りていないから出られないことはわかっています。トップでは、基準に達していなければ試合に出られないし、そこを超えないといけないことも理解している。今シーズンも、立川戦で機会をつかんでも、調子が悪くなれば出場時間が減ることも経験しました。でも、できることを増やせば、いずれチャンスは巡ってくる。自分が成長するだけです」

矢印は常に自分に向け、課題と向き合う。そして、ベンチではチームの勝利のためにできることを選ぶ。そんな染野が、ファイナルシーズン北九州ラウンドで躍動した。

1月25日の湘南戦、染野は第1ピリオドではほとんど出場機会がなかった。しかし、第2ピリオドに入り、1点を追う展開になると、ピッチに立つ時間が増えていった。

待望の同点弾が生まれたのは、34分。左サイドでロドリゴからパスを受けると、トラップからワンステップで右足一閃。強烈なシュートがゴール右上へ突き刺さった。

「ゴールの瞬間は決まった感覚があまりなく、外れたかと思いました。でも(吉田)圭吾が向こうからバーっと走ってきたので『あれ?入った?』と(笑)。ゴールを見たら決まっていたので、『よっしゃー!』と少し遅れて喜びました」

しかし、その後カウンターから失点。浦安はこの試合で勝ち点を落とした。それでも、染野はこの2日間、自分の価値をしっかりと示した。

翌日の立川アスレティックFC戦、第2ピリオド25分。ロドリゴのヘディングの落としにダイレクトで合わせると、低い弾道のシュートをゴール左隅へ放った。これが自身シーズン3得点目。浦安はこの試合に6-1で快勝した。

「試合に出ていない時でも、チームのためにできることはある。ベンチの雰囲気をつくりながら、どこかで必ずチャンスは来ると信じて、いつでも結果を出せるように備えていました」

1年間、どんな時もブレずに準備を続けてきた。その努力が、ついに実を結んだ瞬間だった。

浦安が首位を走る理由は、単に強い選手が揃っているからではない。チーム全員がそれぞれの役割を理解し、チームのために動いているからだ。

染野もその一員として、試合に出ているかどうかにかかわらず、常に優勝を目指して戦ってきた。

「試合にずっと出ている選手たちが頑張っているということは、俺も頑張らないといけない」

「出ているタイミングで自分に何ができるのか、出ていないタイミングで何ができるのかはわかっている。チームはそういうものだと思っているし、それを続けているから浦安は今の順位にいると思います」

泣いても笑っても、残り3試合。浦安が最後に笑うために、染野は自らの役割を貫く。


取材・文=伊藤千梅
1999年2月22日生まれ。東京都出身。元なでしこリーガー。スフィーダ世田谷FCやFC十文字VENTUSでプレー。2021年に引退後、FCふじざくら山梨オフィシャルライターに就任。なでしこリーグでのプレー経験を活かした女子サッカー記事や、スポーツ関連企業の求人サイトでのインタビュー記事などを執筆する。現在フットサル取材歴は約1年。シーズン中は毎週末Fリーグや女子Fリーグの取材をしている。2024年4月からは撮影も始め、選手たちのカッコイイ写真を撮れるよう奮闘中。

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