更新日時:2025.02.20
トップレベルのGKになるために必要な技術・戦術“だけじゃない”資質とは?|ブラジル代表×日本代表、世界最高峰のGK指導対談
PHOTO BY伊藤千梅、内山慶太郎氏提供
昨年、FIFAフットサルワールドカップで世界一に輝いた現役ブラジル代表GKコーチ、フレッジ・アントゥネス氏が1月に来日。日本全国を周りながら、各地で選手と指導者を対象としたGKクリニックを開催した。今回、来日の依頼をしたのはフットサル日本代表GKコーチである内山慶太郎氏だった。
前編に続き、世界最高峰のGK指導対談をお届けする。現代フットサルにおいて、トップレベルのGKになるために必要な技術・戦術だけではない資質とは何か──。
<前編はこちら>
GK指導を始めてすぐに“もっと知りたい!”と思った
──改めてフレッジさんがGKコーチになられたきっかけを教えてください。
フレッジ 私は大学を卒業してから、一度は体育の先生になりました。しばらく教員として働いていたのですが、ある時に自分の友人がフットサルのクラブチームを立ち上げることになって。「フレッジ、俺のクラブで一緒に働かないか?」と誘われて、GK(ゴールキーパー)コーチを担当することになったんです。本当にイチからGKの勉強を始めたのですが、GK指導を知れば知るほど好きになってのめり込んでしまって、気づけば30年も続けて今に至ります。
──その当時からすでにプレーするよりも指導する方がお好きだったのですね。
フレッジ 元々は自分自身もアマチュアレベルでGKとしてプレーしていました。でも、どちらかというと指導のほうがより熱中できたんです。いざGK指導の勉強を始めてみたらどんどん興味を惹かれていって、「もっと知りたい!もっと知りたい!」と思って。それで自然とGKコーチの道へ進んでいきました。
──内山さんは逆にFリーグやスペインなどで選手としてもプレーされて、現役引退後にGK指導の道に進まれました。指導者になったきっかけを教えていただけますか?
内山 僕の場合は日本代表選手としてもプレーさせていただいたなかで、常に「世界」を意識してプレーしていました。キャリア終盤にスペインに挑戦する機会をいただいたのですが、その時に世界の壁というものを自分のプレーを通じて痛感したんです。そのチャレンジがうまくいかなかったことで、ここから自分がプレーヤーとして世界に通用する選手になることを目指すよりも、世界に通用する選手を育てたい……と言ったら少し大袈裟になりますけど、そういったかたちで世界に近づきたいなと思いまして。自分のプレーヤーとしての能力から逆算した時に、GKコーチとして世界に通用する選手を育てるほうが近いかなと感じたんです。16、7年前のことになりますけど、今よりもっとフットサルのGKの環境が整っていなかった時代にそう思いました。
──自分自身が選手としてプレーするよりも、GKコーチとしての方がやりがいを感じた、より貢献できるのではないかと思ったという点では、お二人とも似ているのでしょうかね。
内山 フレッジのほうが僕の倍の年数のキャリアをもっているので、深みという意味では今の段階では全然違うかもしれないですけど。でも、GK指導に対する興味というか、楽しさを感じたポイントは一緒だったのかもしれないですね。選手自身が気づいて変化していく様とか、そこに対して自分自身も指導者としてもっと勉強して、「選手により良いトレーニングを提供してあげたい!」と思う部分であったりとか。そういう意味では、もしかしたら似ていたのではないかと思います。
──フレッジさんはGK指導を始めてすぐにプロのGKコーチになられたのですか?
フレッジ そうです。友人に誘われてからGK指導の勉強をして、その最初のクラブでプロのGKコーチになりました。はじめはアンダーカテゴリー(育成年代)のGKコーチを7年ほど務めて、その後はずっとトップカテゴリーを指導しています。
──育成年代とトップカテゴリーでは選手への接し方なども含めて異なる部分もあると思うのですが、その辺りの移行は違和感なく行えたのですか?
フレッジ それはそこまで難しくありませんでした。と言うのも、アンダーカテゴリーを担当した7年間のうちに自分の指導メソッドをある程度は体系化できていたので、それをそのままプロ選手にも伝えるだけでした。大人も子どもも、GKをプレーする上での本質的な部分は同じだと思っています。
もちろん、体のサイズやボールの大きさの違いはありますし、大人と子どもの扱い方は異なりますから、そこは注意が必要です。でも、それらの点を除けばあまり違和感なく移行できたように思います。年齢やカテゴリーを問わず、GK指導の基本は常に変わらないと感じています。
現代GKに求められる“トップアスリート級の身体能力”
──現代フットサルのGKは、求められる能力が非常に多岐に渡っていますよね。対シュートはもちろんのこと、キックやスローといったディストリビューションの部分、戦術的な幅も含めてあらゆる局面に対応する能力が求められます。GKそれぞれのスタイルの違いもあるなかで、代表選手にはなるにはどういった資質が必要となるのでしょうか?
内山 確かに、フットサルのGKに足元の技術がより求められるようになってきているのは明らかだと思います。
ただ、いま本当に自分が思っているのは、それ以前に「トップアスリートとしての身体能力」が求められるようになったなということです。選手としてのキャラクターはもちろんそれぞれ違って然るべきだと思うんですけど、それ以前に現代のGKは走る距離も増えていますからね。僕らの代表チームでも1試合5kmとか平気で走ってしまいますし、スプリントの回数もすごい数になります。
そのなかで爆発的なシュートストップ、走りながら正確なボールを蹴る、といったことが最後までできなければいけないので、アスリートとして本当に優れているかという点については、当たり前のようでやはり目を背けてはいけないなと思います。全員がアスリートとして一定のレベルを超えていて、その上でのプレースタイル、性格的なキャラクターがどうか?という話になるのかなと。そこの優先順位が逆になることはないですね。メンタルも含めたアスリートとしての総合的なタフネスをもっている必要がある。
昨年のワールドカップを観ても、あの舞台でベスト8以上にいきたければ、アスリートレベルが本当に高い選手じゃないと、技術・戦術の前に厳しいだろうなというのが率直な印象なので。キャラ云々の前に、本当にそこの水準が高いエリートの選手たちがいなければいけないと思っています。
──確かに、先ほど名前が出たブラジル代表のウィリアンも、決勝で常人離れしたセーブを連発していましたよね。
フレッジ 現代のGKの役割はゴールを守ることだけではありません。攻撃に関するタスクもすごく増えています。例えばですが、1980年代のフットサルはそうではありませんでした。当時のGKは基本的にはシュートを止めるだけでOKでしたが、その点はかなり変わりました。
そして内山さんも話した通り、フィジカルの要素もとても重要です。以前のフットサルのGKは今ほど長い距離を走ることもありませんでしたが、今は走る距離が格段に増えました。以前は技術的な部分の重要度のほうが上回っていましたが、現在は身体能力と技術の重要度は五分五分くらいになった印象です。非常に高いレベルで前後半40分を戦い抜かなければなりませんし、過密日程の大会でもその強度を保ち続ける必要があります。現代のフットサルの強度は非常に高い。だから、身体能力と技術は五分五分なのです。
試合によってはチームの何人かのFPよりもGKのほうがより長い距離を走る場合もあります。なぜなら攻撃と守備の両方をこなすことを求められているからです。シュートストップ以外にも、足元の技術が必要で、攻撃参加する機会も増えています。前からのプレッシングが主流ななかで、DFラインの裏のスペースにも飛び出していってカバーリングしなければいけません。前に行ったり後ろに行ったり、攻撃したり守備をしたりしなければならない。だからこそ、普段の練習からそういった最高強度の試合で戦えるように準備しておく必要があります。
フットサルが変化しているからこそ、自分たちGKコーチも常に学び続けて、現代フットサルに合わせてアップデートして、日々の練習に取り入れていかなければなりません。それができなければ、おそらく成功はあり得ないでしょう。本当に大切なことだと思っています。
──なるほど。それこそW杯決勝の終盤で見せたウィリアンの神懸かり的な活躍は、精神的にも体力的にもあの大会で最も厳しい局面でのものでした。質の高いシュートストップ技術をもっていたとしても、前提としてフィジカルとメンタル両面でのタフネスがなければ、タイトルが懸かった一番重要なあの時間帯にそれを発揮することすらもできない。だから自ずと、GKのトレーニングは厳しいものになると。
内山 そうなんですよ。だからこそそういった厳しい状況を想定してトレーニングをつくらなければいけないんですけど、(フィジカル面だけでなく)精神的な負荷というのも個人的にもやはり重要かなと思っていて。もちろん、トレーニングで試合と完全に同じ状況をつくるのは難しいですけど、それに近づける、要求するということは、免疫を高めていくようなイメージで練習から厳しくやっていかないと。
ああいったステージで、精神的にも体力的にも一番苦しい時に最高のパフォーマンスを出すのは難しいですよね。そこからの逆算を、我々GKコーチは常にしていかなければならない。もちろん、フレッジさんはそれをされていたからこそ、W杯で優勝したのだと思います。
──最後に、フレッジさんから日本のGKたちにメッセージをいただいてもよろしいでしょうか。
フレッジ まず、こういう機会をつくってくださった内山さんに心から感謝しています。今回の企画は私が足を運ぶことで日本のフットサルのGKのみなさんに対して何か貢献できたらと思い、日本中のいろんな場所でトレーニングをさせていただきました。
GKのみなさんにまず言いたいのは、GKコーチの言うことを信じて、練習に本気で取り組んでほしいということです。今よりも良いGKになりたければ、とにかく練習するしかないですから。プロか、アマチュアか、それとも育成年代の選手なのかといったカテゴリーに関係なく、とにかく練習をたくさんすること。それを忘れずに取り組み続ければ絶対に成長するし、自分の夢にも手が届くようになります。そのためにはとにかく練習しかないんだよということを強く言いたいです。そして、自分の夢を信じ続けてください。
私は本当に、心から日本が大好きです。内山さんと初めて会った時も、その人柄に一目惚れしました。だから今回、内山さんから誘ってもらった時に、すぐに「日本に行こう!」と決めたんです。自分にとってもとても充実した時間になりましたし、たくさんのGK、たくさんの素敵な人々とお会いできて本当にうれしかった。またぜひ日本に来たいと思います。ありがとう。
フレッジ・アントゥネス
(フットサルブラジル代表、ジャラグア・フットサルGKコーチ)
1969年8月16日生まれ。ブラジル・リオデジャネイロ州出身。30年以上のキャリアを持つ、ブラジルの名GKコーチ。現在はジャラグア・フットサル(ブラジル1部)とブラジル代表のGKコーチを兼務している。クラブレベルではこれまでジャラグアのほか、ジョインビレ、JEC/クローナなどでも指導。昨年ウズベキスタンで開催されたFIFAフットサルワールドカップで大会最優秀GK(アディダスゴールデングローブ賞)に選ばれたブラジル代表GKウィリアンも、フレッジ氏からクラブチーム・代表チームの両方で指導を受けた選手の1人。
内山慶太郎(フットサル日本代表GKコーチ)
1981年12月23日生まれ。千葉県成田市出身。現役時代はフウガドールすみだの前身であるボツワナの絶対的守護神として活躍。関東リーグ昇格に大きく貢献すると、2005年以降は度々日本代表候補にも選出された。2007年、Fリーグ開幕に合わせてステラミーゴいわて花巻へ移籍。その後はスペインのタラベラ等でプレーし、2009-2010シーズンを最後に現役を引退した。翌シーズンからフウガ東京(当時)のGKコーチに就任し、2016年は日本代表GKコーチも兼任。2017年からはJFAのナショナルコーチングスタッフとなり、全カテゴリーの日本代表GKコーチを担当するようになった。以来トップカテゴリーのみならず、小学生からプロ選手まで、幅広い年代への指導を行っている。
守田マルコス(通訳。アグレミーナ浜松GKコーチ)
1976年1月31日生まれ。ブラジル・パラナ州出身。母国ブラジルのサッカークラブ、フィルドプレ・アトレチコ・パラナエンセで15歳までプレーし、その後18歳で来日。以来現在まで日本在住。2004年、田原FCのゴレイロとして東海リーグ無敗優勝に貢献し、その後の地域チャンピオンズリーグでは内山氏とも対戦した。2015年にアグレミーナ浜松のGKコーチに就任。その傍ら、静岡県選抜、U-18静岡県選抜、女子静岡県選抜等のGKコーチ等も歴任し、昨年からはオイスカ浜松国際高校サッカー部のGKコーチも務める。今回のフレッジ氏の来日に際しては、アテンダーと通訳を担当した。
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