更新日時:2025.09.02
【引退発表会見/全文掲載】名古屋・吉川智貴が今季限りでの引退を決めた理由「自分のプレーに納得がいかないところが出てきた。この状態で続けるのは良くない」
PHOTO BY本田好伸
8月31日、名古屋オーシャンズの吉川智貴が今シーズン限りでの現役引退を発表。メットライフ生命Fリーグ2025-26シーズン ディビジョン1の第12節、Y.S.C.C.横浜戦の試合後、日頃からトレーニングを重ねるオーシャンズフィールドに移動して記者会見が開かれた。
その後、同会場にはファン・サポーターも詰めかけ、自身の口から引退の意思を報告。チームメイトが見守るなかで行われたそのセレモニーでは、感極まって涙を浮かべるシーンもあった。
2009年にFリーグでデビューし、16年のキャリアを歩んできた吉川は今、何を思うのか。引退を決めた理由、今シーズンのタイトル獲得に懸ける思い、等身大の胸の内を明かした。記者会見で質疑応答そのままに全文掲載する。
なんでもできる選手になりたいと、今もその思いは変わりません
まずは、お集まりいただきありがとうございます。こういう場を設けていただいたクラブに感謝していますし、ここまでやっていただけるとは思っていなかったので、めちゃくちゃうれしくて、ここまでプレーしてきて良かったなと思える一つです。
本題ですが、今シーズンをもって現役を引退することにしました。理由はいくつかあります。
自分のプレーに納得がいかないところが出てきたり、気持ちと体、心と体のバランスが崩れているところがあったり、理由は一つではないのですが、この状態で現役を続けているのは良くないな、と。チームのためにも、自分自身のためにも良くないなと、現役を引退する決断をしました。
ただ、残りシーズン半分あります。早めに発表させていただいたのも、直接みなさんにご挨拶をしっかりしたい思いが強かったからです。残りのシーズンでみなさんに感謝を伝えて、終わりたいと思います。できればというか、勝たないといけないですから、勝って終わりたいと思います。
引き続き最後までみなさんに応援していただけたらと思います。今日は本当にありがとうございます。
──引退を決めた具体的な時期は?
正直なことを言うと、今シーズンもプレーしようか迷っていました。昨シーズンに優勝を逃して、その1年間の自分のプレーは本当に、過去一番ひどかった。何もできなくて、チームの力になれなかった。それもあって、気持ち的にもバランスを取れなくなってきていました。
迷ってはいましたが、優勝を逃したこともあり、もう1年やろうと決めました。その時点で(今シーズン限りでの)引退を確実なものとして決めていたわけではないのですが、優勝に向かってもう1年、頑張ろうと。シーズンが始まり、プレーシーズンなどは引退を考えることなくプレーしてきていました。
続けることもありかなとちょっと思うこともありました。
最終的には、今シーズンのすみだ戦で自分がゲームを壊してしまいました。自分のせいで負けたと思っています。それに納得がいかなかった。この2、3年は、前までは起きなかったミスが起きている。それを受け入れつつもやっていましたけど、やっぱり、もうダメかな、と。自分のなかで納得がいかない。
その納得感がきっかけと言えばそうですね。試合が終わった時に、これは確実に引退だなと思った瞬間ではありました。
──2021年のリトアニアワールドカップ後に「また3年後もW杯を目指したい」と話していた2024年は、アジアカップで敗れてW杯の出場権を逃し、クラブもFリーグの優勝を逃してしまいました。優勝して終わることは大きな目標だと思いますが、仮にタイトルを獲得できなくても未練や後悔はないですか?
ないですね。ないようにやっていますし、できなかったらそれは自分の運命だと思っています。本当に未練はありません。(去年の)W杯に行けなかったこと、Fリーグで優勝できなかった悔しさはめちゃくちゃあります。
今は優勝しか考えていないですけど、たとえ逃したとしても、未練はないですし、それを自分の実力だと受け止めなければいけません。そんな運命にならないように抗いたいと思います。
──引退を決めた要因には今後のご自身のキャリアを考えた部分もありますか?
引退を決めるにあたり、今後のことが要因になったかというと、それは全く関係ありません。まだ何も決まっていないですし、これからのことはここからです。「心が限界だった」と言ったら大袈裟に聞こえてしまいますよね(苦笑)。心と体のバランスを保てなくなってきた、ということです。
──年齢的な衰えも感じていますか?
いえ、正直、体はめちゃくちゃ元気です。あと5年くらいはいけるんじゃないかと思っているくらいです。めちゃくちゃ体は調子良くて、自分でもこの体の状態でやめるのはもったいないと思うことがあるくらい、元気なんです(笑)。実際のプレーがどうかと言われたら、それは見ていただいている方に評価してもらうのがいいですし、自分のプレー自体は納得いっていないところが出てきています。
──喜びと悔しさで言えば、どちらが多いですか?
正直、パッと思いつくのは悔しい時しか出てこないですね。うれしいことは、こうして会見を開いていただけることなども本当にうれしいです。引退することを近しい人たちに先に知らせた際に返ってきた温かい言葉なんかも本当にうれしくて、自分がプレーしてきて、誰かのためになったことがうれしい。
でも、あまり浮かばない。優勝してきたこともめちゃくちゃうれしいですけど、悔しさが一番。それがやっぱり頭に残っていますね。
──うれしかった言葉とはどんな?
恥ずかしいですね(笑)。素直に「ありがとう」とか「プレーを見ていて自分のモチベーションになったよ」とか、「元気や勇気を与えてもらった」といった言葉ですね。ありふれているかもしれないですけど、自分はそういうものに無頓着で、そうした人たちの力になれることを一番に考えられてはいなかったので、そうやって言ってもらえて、良かったなと初めて思えました。
──ご家族はどんな反応でしたか?
家族は正直、何もなくて(笑)。本当に何もなくて。これからじゃないですかね。残り半分あるので。やめたら、これまでの2週間に一度の頻度で週末にホームゲームがある生活に関して、「吉川家のイベントの一つがなくなっちゃうのは寂しいね」ということ以外、ほとんどしゃべっていないんです。
もちろん、「おつかれさまでした」とかも言われていません。あまり家族にはフットサルのことやチームのことを話さないので、返ってくる言葉がないのかもしれません。現時点ではそんな感じです(笑)。
──わかった、みたいな。
そんな感じですね。昨シーズンが終わって、今シーズン続けるかどうか迷っていることは話をしていたので、そこである程度、自分の覚悟を知ってくれていましたし、そうした僕の気持ちを「知ってくれていたらいいな」くらいの感覚ではあるので、これから温かい言葉が返ってくることを待っています(笑)。
──プレーに納得がいかないというのはどこか吉川選手らしいな、と。今日の試合中もパスがズレて自分に怒りを向けているシーンがありました。現時点で納得のいかないプレーもあるなかで、引退までの間、そうした部分とはどのように向き合っていくのでしょうか?
難しいですね。ずっと向き合ってきているので、向き合い方を変えるつもりはありません。もともと、「なんでこれができないんだ」「なんでこういうミスをするんだ」というものをエネルギーにして自分は成長してきたと思っているので、今後、引退までに何かを変えることは考えていないですね。
──心の部分は特に、W杯出場権を逃したことが大きく影響したのではないでしょうか。
自分は2016年のアジアカップでもW杯の出場を逃して、やっとの思いでいけたリトアニアではまさかのコロナに罹ってしまい、最後までピッチにいられませんでした。それでまた、去年ああやって負けてしまい、今でも悔しさしかありません。その時は本当に、これはちょっと表現が難しいですけど、病んでしまったというか。本当にきつかった。それでも、なんとか前を向いてやっていたというところです。ですから、それは一つの大きな要因ではあります。
──今シーズンのキャプテンは「自分がやらなきゃいけないと思った」と決めたそうですね。自ら立候補して、「もう一度やろう」となった。
今シーズンを迎えるにあたり、中途半端な覚悟でやることが何事においても一番良くない。自分にとっても、チームにとっても。だからこそ、優勝を逃して、それだったら今年、自分がキャプテンをやって取り返さないといけないなという覚悟を決めた感じですね。それがチーム、クラブへのケジメかもしれません。負けたままここでやるなら、負けたことをもう一度、自分で背負いたい。そういう気持ちでした。
──監督にも引退のことは伝えていた?
まずは櫻井(嘉人)GMにお話しさせてもらって、その後に、監督にも伝えました。監督とはその時だけではなく、いろんなことを話しています。引退を決めてから伝えましたけど、その前から、最後になるかもしれないことは事前に伝えてはいました。そこで「悔いなく終わってほしい」と言ってもらいました。
グレさんとはオーシャンズでも一緒にプレーしましたし、いろいろとお世話になった方の一人でもあるので、こうやってまた最後に一緒にできること、(木暮監督が指揮を執っていた)代表で(アジアの)タイトルを逃して、W杯を逃して、そこからこのクラブで一緒にできることは、そういう運命だったのかもしれないですから、そういうところも含めて優勝したいと思っています。
──自分にも周囲にも厳しくあって、でも最近は「だいぶ丸くなりました」と話していました。闘争本能と、丸くなることとのバランスも難しいのかな、と。自分で自分に鞭を打つことへの疲れのようなものもあるのでしょうか。
疲れてきたと言えばそうかもしれないですね、こうなっているので(笑)。みなさんわかると思いますけど、本当に丸くなったので。それと同時に闘争本能も昔ほどなくなったのかもしれないですね。そこの自己分析はできていないのでなんとも言えないですけどね。試合に向かうところも、昔よりも自分で気持ちをつくっていかないと試合に入れなくなってきたことは正直ありますね。
──昨シーズンは結果が思うように出ていないなかで鬼気迫る部分もあったと思います。
丸くなってないですね(笑)。
──引退を決めた今、改めて優勝への思いや、吉川選手にとってのフットサル、名古屋オーシャンズへの思いとはどういったものでしょうか。
フットサルは、自分の人生そのものですし、それ以外の言葉がない。趣味ではないですし。自分からそれがなくなったらどうなるんだというくらい、本当に大きいものだと思います。
名古屋オーシャンズについては、感謝しかありません。自分が一番成長させていただいたクラブですし、櫻井GMから声がかかっていなければ本当に今の自分はありません。言葉にしちゃったら軽いものになってしまいそうなので難しいですけど、本当に感謝しかありません。やっぱりこのチームが好きで、このクラブが好きで、スペインにもいましたけど、だからこそ、最後、勝ちたい。勝って、恩返ししたい。
──これからのことは今後とのことですが、フットサルには関わっていきたい?
こればかりはまだわからないですけど、自分の希望としてはそうですね。関わっていきたいですし、自分の人生そのものですから、なんらかの形で関わりたいなという思いはめちゃくちゃあります。
──それは指導者も含めてですか?以前は「指導者はやりたくない」なんてことも話していたので(笑)。
どうですかね(笑)。指導者は、あまりというか……何が起こるかはわからないですけどね。
──ライセンスなどは?
現時点では取りに行ったりはしていません。
──名古屋で受け継いできたものがあると思います。吉川選手自身の思いも含め、それを託せる選手、“吉川イズム”を伝えたい選手はいますか?
自分の思いは話すようにはしていますけど、めちゃくちゃ自分の思いを背負ってプレーしてほしいとかは思っていません。みんな応援していますし、みんながこれからつくっていくことでもあると思います。
オーシャンズのいいところは受け継いでいかないといけないですけど、押し付けるのは違うかなとは思うので、思いは伝えますけど、引き継いでほしいとは考えていません。
選手たちに残るものがあるなら引き継いでほしいですけど、違う思いがあればそれでもいいと思うので、本当に、みんな頑張ってほしいなと思っています。
──彼らに示していきたいものなどは?
あまり、ないですね(笑)。自分のそういう姿やプレーを見て、ここいいなと思ったら勝手に盗んでくれたらいいですし、「違うな」と思えば捨ててもらってもいいですし。自分は自分らしく最後までいきたいと思っているので、それを活用するのも、しないのもいいと、本当に思っています。
──10年ほど前に話していた「オールAの選手になりたい」という言葉が印象に残っています。「どんなプレーでも高い水準を目指したい」と。実際に、アジアの中で他に並ぶ者がいない選手になったと感じています。「オールA」あるいは「オールS」に届いたのかなとも感じます。キャリアの最後にまた伺いたいことではありますが、己を突き詰めてきた先にたどり着けた場所があるというか。
いやー、難しいですね(笑)。
周りに評価してもらえればそれでいいかなとは思います。オールAを目指してきましたし、なんでもできる選手になりたいと、今もその思いは変わりません。なんでもできる選手でいたいと思っています。それがどこまできたのか。自分の限界点は自分自身には見えているので、オールSではやっぱりないですし、オールAというか、Bのところもあると思います(苦笑)。
自己評価としてはそんな感じです。オールAもしくはBも入っている。あとはみなさんに評価してもらえたらいいかなと思います。