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2022.09.21

フットサルを通して“最適化”したヴィッセル神戸。元Fリーグ監督・谷本俊介コーチが携わり「バーモントカップ準優勝」した意味と価値

PHOTO BY高橋学

V神戸のベンチに座った元Fリーグ監督・谷本俊介

ヴィッセル神戸U-12が、準優勝に輝いた。8月5日〜7日に行われたJFA バーモントカップ 第32回全日本U-12フットサル選手権大会で、2009年大会以来13年ぶりの優勝を争ったのだ。

この大会は、「小学生のフットサル日本一を決める大会」だが、全国に勝ち進むチームの半数以上が“サッカー系チーム”である。Jリーグ育成組織も当然、頂点に立ってきた。ただしV神戸は2009年大会以外で4強入りしたことはなかった。ではなぜ、彼らは今大会で強さを示せたのか。

答えは、ベンチにあった。フットサルファンには馴染み深い人物、立川・府中アスレティックFC(現:立川アスレティックFC)の元監督・谷本俊介氏がコーチとして座っていたのだ。

谷本氏は、Fリーグのなかでも“異色の経歴”の持ち主だ。クラブスタッフとして働きながら、突如、白羽の矢が立って監督に抜擢されると、2013-2014シーズンから2018-2019シーズンまで6年間もトップチームで指揮を執った。元選手でもなく、フットサル経験ゼロの指導者が通算200試合以上もFリーグで戦い、100勝以上を収めたその才覚に疑いはなかった。

2016年には、日本代表チームのコーチとして帯同した経験もある。監督退任後もクラブのテクニカルダイレクターを務めるなど、理論派指導者の地位を確立していた。そんな最中に谷本氏は、一つの決断を下したのだ。それは「フットサル界から離れること」だった。

フットサルからサッカーへ。谷本氏は2021年4月、ヴィッセル神戸アカデミー部・最適化グループへと転身を遂げた。現在の肩書きは「ヘッド・オブ・最適化」。本稿で詳細な記述は割愛するが、「最適化」とは、2019年にV神戸が始めたクラブの“バルサ化”から始まった取り組みがベースとなっている。FCバルセロナの育成部門で長く統括責任者に就いていた人物を招聘し、アンドレス・イニエスタも獲得。クラブはアジアナンバーワンを目指して舵を切った。

その過程で生み出されたのが「最適化グループ」であり、アカデミー全体のメソッドの管轄や現場の練習・試合の分析、コーチングスタッフや選手へのアプローチなど、アカデミーのあらゆる事象・課題などを“最適化”するための部署である。谷本氏は、その責任者なのだ。

「V神戸がなぜ準優勝できたのか」を紐解くために前段が長くなったが、つまりV神戸のベンチに座っていたのは、 “元Fリーグ監督”ではなく、“クラブのアカデミーを構築する重要人物”である。ただ単に“フットサル大会に出るから、フットサルのスパイスを取り入れて戦おう”ということではないことは、非常に重要なポイントのはずだ。

では、V神戸アカデミー所属・谷本氏は子どもたちに何を伝えたのか。

取材・文=舞野隼大

キャプテンがピッチで体感した「フットサルの価値」

V神戸アカデミーは、日頃からフットサルを取り入れているわけではないため、当然「本格的に練習を行ったのは大会直前だった」という。これは、多くのサッカー系チームと同じだ(なかには、全くフットサルの練習をしないまま大会に出場するチームもいるようだが……)。

しかしながら、V神戸の選手たちはフットサルに適応していた。

「日頃から“フットボールがうまくなるよう”に取り組んでいますし、普段のトレーニングに肉づけして、狭いスペースの4対4で連係して相手を崩す攻撃や、守備のディテールを詰めた」

もちろん、ピッチで体現するのは簡単ではない。

「ヴィッセル神戸のスカウトやスタッフによって発掘された素晴らしいタレントを持った選手がうちには集まっています。ジュニアの坪内(秀介)監督たちの充実した指導という土台があるおかげで、普段とは異なるフットサルの競技環境のなかでも大会期間中、驚くほどのスピードで日々学習しながら成長してくれている」(谷本氏)ことも大きかっただろう。ただし全7試合で大量42得点を挙げたその中身を見る限り、味方同士が狭い局面を打開するシーンも多く、いわゆる“サッカースタイル”だけで勝ち上がったわけでないことは明白だった。

結果としては、決勝でブリンカールFCに敗れたものの、選手たちが「フットサル」を意識してプレーし、選手としての“新たな可能性”を見出したことは間違いない。それを証明するかのように、キャプテンの花元誉絆がこんなコメントを残している。

「瞬間、瞬間で仲間のことを見て判断・予測して、チームが連動して動かなければいけない難しさはあります。でも、こういうプレーをすれば時間が生まれて、仲間を助けることができるし、自分がやりたいことをしやすくなるんだなということがわかりました」

花元の言葉はきっと、自身の今後のプレーによってさらに深みを増していくに違いない。

V神戸が示した「フットサルはサッカーに生きる」こと

V神戸がバーモントカップを通じて示したのは「フットサルの価値」である。10数年以上前から言われてきた「フットサルはサッカーに生きる」ということだ。これには2つの意味がある。

一つは、その言葉通り、フットボールプレーヤーとしてのスキルアップだ。

フットサルとサッカーの橋渡しはこの10年で少しずつ進んできた。その過程の一つとして、日本サッカー協会(JFA)は8月に、U-12年代の選手がフットサルとサッカー、双方のプレーを経験することができる交流試合を開催し、鹿島アントラーズつくばなど4チームが参加した。

このプロジェクトに携わったJFAフットサル普及担当コーチの稲葉洸太郎氏は、JFAの報告レポート内で次のようにコメントしている。

「普段8人制に慣れているチームが集まったなかで、フットサルもプレーしてもらい、とてもポジティブな意見を多くいただきました。自分が見ていても、フットサルはたくさんボールに関われるのでボールを蹴る楽しさを感じやすく、成功体験や失敗体験の経験を多く積むこともできるので、フットボールの普及という観点において向いていると感じましたし、フットサルとサッカーを両方することで、サッカーを細かく切り取った3〜4人の局面がフットサルピッチの中で展開され、止めやすいボールでプレーすることができ、個人だけではなくグループでの関わりや、同じ絵を描いてプレーしていくためにとても良い機会になると感じました。やはり、週に1回でも2回でもフットサルをプレーし、それをまたサッカーに生かしていくようなことは大事だと実感できたので、このような取り組みをどんどん普及していきたいと思います」

“フットサル側”の視点で言えば周知の事実だが、いまだにその価値を知らない、触れていないサッカー指導者、選手が多い現実があるなかで、谷本氏が関わった上で示したV神戸の躍進やJFAのこうした取り組みを通して、今一度「フットサル」を広めていく必要があるだろう。

V神戸の選手にこの先、歩んでほしい未来

そして、フットサルのもう一つの価値とは「新しい選択肢になる」ということだ。

JFAフットサルナショナルチーム、育成ダイレクターの小森隆弘氏はこう話している。

「フットサルで輝いていた子がサッカーではそれほど目立たず、フットサルではあまり目立たなかった子がサッカーで光っていたというケースがありました。異なるタイプのフットボールに触れる機会が広い楽しみの受け皿になる可能性も示唆しているのかもしれません」

競技によって適正が異なることも、Fリーグではすでに証明され始めている事実だ。例えば現在、日本代表として戦うバルドラール浦安の石田健太郎と長坂拓海は、サッカーで全国大会に出場した帝京長岡高校出身選手である。彼らは全日本U-18フットサル大会に出場し、よりハイレベルなフットサルを体感したなかで、その後の進路にフットサルを選んだ。

他にも、大学までサッカーを続けた後にフットサルを選び、日本代表に選出された選手、高校時代にサッカーでプロになる道を諦めてからフットサルに進み、日本代表に駆け上がった選手、さらに中学や小学生時代にフットサルに触れた経験から、しばらくしてフットサル選手として歩む道を選んだ選手……本当に多くの選手が、自らに“フットサル適性”を見出している。

先に登場したV神戸のキャプテン・花元は、目を輝かせながら目標を教えてくれた。

「ヴィッセルのエンブレムをつけて、ノエビアスタジアム神戸のピッチに立ちたい」

もちろん、彼らが目指す“今”の目的地はそこだ。ただ仮に、この先どこかで立ち止まったとき、“フットサルを経験している”ことは彼らにとって大きな転機となる可能性を秘めている。

「サッカーでプロの選手になれなかったとしても、その子たちにとって最適な、素晴らしい人生が拓けてくるようにしてあげたい。たとえば、サッカー選手になれなかったけれどフットサル選手になれたら、それはそれで素晴らしいことですし、もちろんサッカー、フットサルやスポーツでなくとも自分が夢中になれること、好きなことが見つかってそれを仕事とし生きていけるのもいいと思います。フットボール界で仕事ができなかったとしても、趣味でもいいので社会人サッカーや社会人フットサル、または指導者としてなど、なんらかの形でフットボールに一生関わり続けてくれる子たちを育てたいですね」(谷本氏)

サッカーに行き詰まっても、そこは“やめどき”ではない。フットサルもある。それがフットサルのもう一つの価値なのだ。これは谷本氏が伝えたい、重要なメッセージに他ならない。

V神戸として初の決勝に臨む試合前、谷本氏はこう話していた。

「長くフットサルに関わってきた自分の最大限の力を発揮して、ヴィッセル神戸のクラブの価値を高めたい。そして、サッカーの現場に来た身として、フットサルの価値を証明したい」

決勝で敗れたものの、V神戸の戦いは、谷本氏が証明したかった“2つの価値”を示していたように感じる。それは大会を取材し、選手の戦いを目撃した者として感じた実感だ。さらに後日、「バルサを破って決勝進出」のニュースを聞いて、さらに納得感を深めた。

V神戸は、バーモントカップの2週間後に行われたU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ(ワーチャレ)でも存在感を放った。準決勝でFCバルセロナを倒して決勝に勝ち進み、最後はPK戦の末に準優勝となったものの、彼らは“フットサルとサッカー”の両方で結果を残した。

普段は8人制サッカーだが、ワーチャレは11人制で行われる。しかも、バーモントカップに向けて“5人制”に取り組んでいたV神戸は、11人制で練習する時間はほとんどなかったという。

しかしV神戸は、バルセロナと対等以上の戦いを示した(なお、バルセロナの選手たちも普段は7人制に取り組み、ちょうど今大会が行われる頃から11人制サッカーに移行していくという)。

試合映像を見てもわかるように、例えば、立ち位置で優位性をつくってボールを保持することや、フリーランニングを使ってスペースを空ける動き、マークの外し方、相手を引きつけてから出すパス、守備のライン間を“カット”するドリブルなど、V神戸のスタイルをきっちりとピッチで示せていた。

競技人数が変わっても同じように結果を残せているのは「フットボール」という枠組みで選手を育成できているから。谷本氏が「本質がブレることなく、全部をつなげられるように取り組めている」というように、選手は“フットボールの原理原則”を身につけ始めているのだろう。

V神戸が、2つの大会で“フットボールの価値”を示したことは間違いない。ただし、さらに広く、深く、その価値が証明されるには、もう少し時間がかかるかもしれない。谷本氏が進める“最適化”と、V神戸の選手たちがこれから歩む道中で、真の価値が証明されていく──。

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