更新日時:2021.02.19
「試合で1%でも勝率を高めるために、カウンターで勝負する軸を作った」【Fの主役は俺だ!全チームインタビュー|永井義文監督|シュライカー大阪】
PHOTO BY高橋学
Fリーグ ディビジョン1、12チームの監督&注目選手を対象にした全チームインタビュー。題して「Fの主役は俺だ!」。コロナ禍を乗り越えてきた各チーム、各選手に、終盤戦への意気込みを聞く。
毎年のようにプレーオフで優勝争いを演じたチームが、下位に沈んでしまった。シュライカー大阪は今シーズン、最も新型コロナウイルスの“脅威”にさらされてしまったチームの一つだろう。11月にチームでクラスターが発生し、2週間の活動休止。選手は自宅待機となり、練習すらできない日々を過ごした。
11月は3試合が延期となり、そのうち2試合が12月に代替で開催されたため、活動再開後のコンディションが整わないうちに連戦を戦うことになった。永井義文監督が初めて指揮を執ったシーズン、クラブとして初めて外国人選手が所属しないなかでの戦い、そもそもチャレンジングな1年になるはずだったが、大阪は不測の事態に直面し、なかなか浮上のきっかけをつかめないでいた。
しかし、永井監督の目は曇っていない。
選手時代には明かされることの少なかった戦術眼や分析力、チームマネージメント。新米監督とは思えない堂々とした采配は、どんなビジョンに基づいているのか。永井監督に、大阪のリアルを聞いた。
取材・文=舞野隼大、本田好伸
※インタビューは1月7日に実施しました
シュライカー大阪|加藤翼選手のインタビューはこちら
その他、全チームの監督、注目選手のインタビューはこちら
カウンター主体のオプションは開幕前から準備していた
──今シーズンのこれまでの戦いを振り返っていかがですか?
数字としては、自分たちが最初に掲げた目標には達していません。その背景にはいろいろな要因がありますが、言い訳にはできません。自分たちは、今の状況のなかで最善を尽くすだけ。そこに向かう途中です。
──取材時点で9位。例年からすると低いですよね……。
それが自分たちの力だと受け止めています。選手もスタッフもそのことを理解していますし、でも逆に、「それは仕方がないね」ではなく、「まだまだできる」と信じています。
──外国人選手が初めて1人もいないシーズンでした。開幕前から「名前でフットサルをしていない」と話していましたが、日本人の良さを出すために、どんなフットサルを目指していますか?
まずは「日本人の良さ」とは何かですよね。どのチームもそうですが、ボールに対して献身的にプレッシャーを掛け、はがされたらカバーリングしていく。もちろんゲームモデルは試合ごとに異なりますが、基本的に、守備では人が人を助けながら相手にボールを進めない、運ばせないこと。攻撃では、もともと強みとしている(「ボランチ」といった戦術のように)ラインを下りる動きを軸に使いながらボールを前に進める。ピヴォに良い選手がいますし、左利きもいるので、そこを生かしていくこと。総じて、できるだけ長い時間、相手コートでプレーすることを理想に掲げています。
──その理想は、木暮賢一郎監督が築いたベースともリンクしますよね。
まさしくそうです。自分は選手としてその戦いで優勝を経験しました。フットサルはゴールにボールを入れる競技なので、相手コートに長い時間いれば、それだけ勝つ確率が上がりますよね。ですから、そのために今のタレントのなかで、どのようにプレーするのかということ。4-0で運ぶとか、左利きの選手と右利きのピヴォを組み合わせるとか、縦パスを刺せるフィクソとか、1vs1ができるアラとか、成長著しい若手もいますし、さまざまな局面で数的優位を作って前に運ぶというスタイルはグレさんが残してくれたもの。自分はそれをクラブのアイデンティティだと思っていますから、そういう大阪を見てほしいですね。
──ただし、今シーズンは引いて守る“らしくない”大阪の戦いがありました。
コロナの陽性判定が出たことで活動休止となり、コンディションを上げられませんでした。2週間自宅待機していた選手が、復帰1週間練習して試合に臨み、そこから中2日で試合があり、12月だけで6試合。その状態で、自分が掲げていたフットサルを体現するのは難しい。勝つ確率が下がってしまいますから。だからこそ、試合で1%でも勝率を高めるために、カウンターで勝負するという軸を作りました。
──想定外に直面したことで見出した戦いですか?
いえ、実はカウンターについては、プレシーズンからオプションとして準備していました。自分たちは前からアグレッシブにボールを奪い、ボールがアタッキングサード(コートを3分割した際に、より相手ゴールに近いエリアのこと)に入れて優位に進めようと考えているなかで、相手とのタレントの噛み合わせなどでうまくいかないこともあります。攻撃のタレントが減り、守備でも上回れず押し込まれたときに、なす術なく負けるわけにはいかない。勝てる可能性を上げるためのオプションとして準備していました。
──では、オプションをメインに据えた戦いに切り替えたと。
コロナ禍で本格的に練習を始めたのは6月で、カウンターのオプションは7月くらいから取り組んでいました。ですから、11月末からの試合で使っていく時にも、選手に驚きはなかったようです。本来はボールが相手陣地にある状態で進めたいけど、今のコンディションでは40分間走れない。アウェイの試合に連れていけるメンバーの人数制限なども考えながら、いくつかある自分たちのプレーモデルの中から、勝つ確率が高いものを選んだということです。結果は出ていないですが、狙いをもって取り組めていました。
──緊急事態宣言中の自粛や、活動休止の影響は大きかったですよね。
メンタル的にはみんな辛抱強くやっていましたし、自宅で毎日トレーニングをして、自分たちのプレーモデルを忘れないように映像を見せていたので、精神的な落ち込みは感じなかったのですが、フィジカルは落ちてしまう。以前は4分間プレーイングで出られたけど、1分で息が上がってしまうとか、足が踏ん張れないとか。復帰2試合くらいではっきりしました。実際、2週間、長い選手では3週間の休みは、もはやシーズンオフですからね。しかも、自宅で外出すらできない。一般的な方より運動量が低いわけですから。
選手の頃からいずれ監督になりたい想いがあった
──Fリーグで1年目の指揮を取ってみてどうですか?
もちろん難しい局面もありますし、結果が伴っていない面はありますが、そこまで難しさを感じているわけではありません。Fリーグでは初めてですが、サテライトでの監督や大阪成蹊大学のコーチ経験が生きています。ただ、コロナの難しさはありますよね。シーズンが始まっているのに、動けないプレシーズン期間が何度もやってくる感じでしたし、そのなかでも試合がありますから……。
──Fリーグの舞台に戻ってきた感慨深さはありますか?
いろいろな感情はありますね。それに、選手時代には見えなかったところが見えるようになりました。チームの整理されている部分とか、隙とか、相手選手の良い部分とか。
──永井監督は33歳。まだ現役でもやれそうですが、なぜ指導者を目指したのでしょうか?
いろんな理由がありました。足の状態が良くないとか。でも一番は、メンタルですね。ケガで離脱していたので、そこからもう一度日本代表を目指す、リーグ制覇を目指すという大きな目標を、その当時は立てられませんでした。そう考える背景には、足のケガや、(2016シーズンに)リーグ優勝を達成できたこと、日本代表としても10数試合経験できたことがあったからかもしれません。W杯には出られなかったですし、ビックグループのリストには入っていても、キャンプに選ばれるメンバーには入れませんでしたし、4年後のW杯を目指すモチベーションを作れませんでした。でも、ポジティブな決断もありました。
──どういうところですか?
監督への憧れですね。自分は、子どもの頃から弟に教えるのが好きだったんです(サンフレッチェ広島でプレーする永井龍)。どういうふうに相手に伝えるべきか、強くするにはどんなシステムがいいのか、その人にあったコーチングは何か。選手時代から、他の選手に伝えたり、自分で映像を切って編集して分析したりすることが好きでしたし、Fリーグで戦いながらも、いずれ監督になりたい想いがありました。
──一緒にプレーしてきた選手もいますが、監督と選手の立場の難しさはありますか?
それはあまりないですね。選手には「素直であること」を求めています。学び続けるためには、その価値観が大事だと思っているので。だから僕は、ダメなことはダメだと、厳しいことも言います。相手がベテラン選手であっても、戦友であっても、若手であっても。学び続ける。それを毎日遂行するだけです。
──では、終盤戦の注目選手を1人教えてください。
1人か……1人……加藤翼でいきましょう!
──その理由は?
攻撃の選手ですし、点を決めてほしいですからね。得点数は特に満足のいく数字を出せていないですし、僕自身がピヴォだったこともあるので、結果を出してほしいなと。相井忍だけではなく、翼もスコアラーとして、ゴールという数字で示してもらいたいと思っています。
──では、終盤戦への意気込みを聞かせてください。
1月に入って、ようやくコンディションが戻ってきました。年末はまだ受け身でしたし、お話ししたように、勝つ確率が高いものを選んできました。ただこれからはさらに言い訳をできません。できるだけ相手コートでプレーして、ボールを前に運ぶ。ピヴォを使い、アイソレーションをして、ボランチで相手を質と量で混乱させ、前からアグレッシブな守備をする。やっと戻ってきました。まだまだですけど、ようやくもう一度、アグレッシブさを出せるようになってきたので、その戦いを見てもらいたいですね。
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