甲斐・前田・石渡・難波田…かつての同志・ライバルが町田のベンチに。なぜ?
PHOTO BY本田好伸、北健一郎
半年後に死にますって時に満足できるか(石渡)
──本業があるなか、自分の時間を削ってでも関わるというモチベーションはどこからくるんですか?
石渡 そもそも修さんにお世話になっていて、自分が現役を終えたチームだっていうのもあるし、モチベーションはありまくりですよ。僕、引退が急だったんです。親父が病気になって死にそうだから「会社を継いでくれ」って。それを2010シーズンの終わり、全日本選手権の一週間前に言われて、もう引退するしかないって。だから未練というか、いずれなにかしらの形で恩返ししたいという気持ちはずっとあったんです。そのなかで、ヨシから「GKコーチをやってください」って言われて。
前田 忙しそうだったからダメモトで聞いたんですけど、全然ダメじゃなかった。快くね。
石渡 人生ってお金も大事だと思います。でもやっぱり、誰と関わるのか、誰と一緒に過ごす時間を取るのかってめちゃめちゃ大事じゃないですか。例えば、「半年後に末期癌で死にます」ってなった時にどんだけ満足した人生を送れたのか、僕はそういうことを基準にしているので、ぜひと。
前田 GKコーチだったら石渡くんだろうって。日本代表や府中で一緒にやってきたし、町田では一緒ではないですけど、教え方だったりそういうのを見ていたので。
──前田さんが引退したのは町田でしたが、その間、府中や名古屋と、甲斐さんとは離れていたというか、同じチームじゃなかった時期もありましたが、なぜまた?
前田 やっぱりカスカヴェウが一番強いです。修さんも会うたびにカスカヴェウの関係性で接してくれていましたし。これは修さんにも言ったんですけど、修さんが監督じゃなかったらやってなかった。修さんに監督をやってほしいという気持ちがずっとあって。絶対、向いてると思っていたんで。
石渡 そうだよね。僕もヨシから声をかけられたけど、修さんが監督じゃなかったら受けてなかった。
勝負に対する考え方で、治とは合うと思っていた(甲斐)
──難波田さんは15年ぶりぐらいにFリーグの現場に戻ってきて、今の自分の役割みたいなものをどう考えていますか?
難波田 まだ、これは現実じゃないんじゃないかと思う時がありますよね。ただ、甲斐さんの迷惑にならないように、それだけなので。選手と甲斐さんのプラスにならないといる意味がないので、なんでしょうね、審判にぶち当たるしかないか(笑)。
一同 (笑)。
難波田 いや、冗談です。選手が若い世代なので、そこに合った伝え方でモチベーションを上げられるように。いくつかしかない大事なところは絶対にブレないでやるしかない。それだけですね。
──難波田さんは堅守で試合巧者なファイルフォックスの象徴でした。今シーズンの町田は失点が少なくて、イメージが被るところがある。「難波田効果」ではないかと思うんですが、甲斐さんどうです?
難波田 ちょっ、甲斐さん!それは断固として「違う」って言わないと。甲斐さん、本当に選手もかわいそう。本当のことを言わないと、勝手に一人歩きしちゃうから。それは全然違いますって!
甲斐 おっしゃるとおり「難波田効果」です。
難波田 本当に違う!甲斐さん!
一同 (笑)。
甲斐 治とは今シーズンが始まる前にかなり話したんだよね。「甲斐さん、どういうふうに考えていますか?」って。まさにファイルとカスカヴェウだから、チームづくりとか、選手をどうするとか、試合をする上でのベースの考え方を治は聞きたかったんだと思う。カスカヴェウとファイルって全く逆に思えるじゃない、内容的にも。
──華麗で攻撃的なカスカヴェウと、勝負強く堅守のファイルフォックスみたいな。
甲斐 でも実は、チームをつくる時、自分が一番なにを優先するかというとディフェンスなんです。そのディフェンスに対しての考え方とか、そもそもの勝負に対しての考え方で絶対、治とは合うと思っていたから、そんな話を最初にした。そしたら「合格です」って(笑)。「もし、カスカヴェウの表面的な、攻撃的な考え方でいるんだったら嫌です」ってね。
難波田 言ってないですよ、そんなこと(笑)。僕は毎回、言うんですけど、育成から甲斐さんが積み重ねてきた、本当にその賜物でしかないと思っています。去年の始めに、選手が抜けて、甲斐さんが監督になった時に「町田は大丈夫かな?」って勝手に、一般人ながら思っていたんです。
──一般人ながら(笑)。
難波田 はい、選手が抜けても、勝っていたじゃないですか。いろいろなチームを見て、戦術だなんだももちろん大事なんだけど、もっと大事なものがあるんじゃないかなと。で、甲斐さんと話したら、今の町田がやれることをすごく整理していて「チームとしてこれだけは絶対に頑張ろうというのがディフェンスだ」と。それはすごいなって。たぶんもっとやりたいことはあるんだろうけど、今のメンバーがいてこそのベースを常にチョイスしている。僕はライセンスを取る予定はないですけど、すごく勉強になります。何度も言いますが育成からの積み重ねだし、根本には甲斐さんの人心掌握術があるな、と。
試合中に選手が迷わずプレーできるという効果は、相当ある(甲斐)
──甲斐さんには(甲斐)稜人選手という息子さんもますし、自分の子どもでもおかしくないような年齢の若い選手たちとのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
石渡 僕は東急Sレイエスで中学生と高校生を教えているので感覚としては近いですけど、やっぱり信頼関係を築くことだと思います。
甲斐 良太のすごかった話をしていい?良太が来てくれた当時、若いGK2人、石井(遥斗)と土岡(優晟)は、まあまあ太っていた(苦笑)。それを良太が、栄養管理の方法もレクチャーして、数カ月の計画を立てて絞ってくれた。しかも「お前らにやらせるんだから、俺もやる」って一緒にね。
石渡 僕自身めちゃめちゃ痩せましたよ。95kgから78kgまで落として、今は80kg台ですけど。そういう成功体験を一緒にして信頼関係を築けると、その後はよりこちらの言葉に耳を傾けてくれるようになりますからね。
甲斐 選手だって「石渡さんも一緒に食事制限してるのに、食ってらんねぇ」となる。実際やれるかというと、良太は見る見るうちにゲッソリしていったからすごいよ(笑)。
石渡 でも、修さんはダントツで人心掌握術がすごいですよ。どれだけの選手を町田のトップにユースから育てあげたんですか。代表にも選ばれていますからね。
甲斐 それは、クラブの財政難の時期と若手にシフトチェンジする時期が重なったのが大きかったかな。例えば、クラブに潤沢な資金がある状況だったら、補強したり、中堅やベテランを抱える期間がもっと長かったりしたかもしれない。
──ユースで甲斐さんが育てた“甲斐チルドレン”がトップに上がって、レジェンドコーチ陣から経験を注入されているというのが今ですね。
甲斐 3人とも導入のところからフットサルをやってきたから、若い選手たちが今、なにが必要で、どういう声かけをしたらいいかを熟知していて、アドバイスの効果は相当大きいと思います。
──試合中、前田さんは選手にかなり話をしていますよね?
前田 押し込まれている時とか、失点のところとかでちょっとした……たいしたことは言ってないんだよなぁ。言ったら全部忘れちゃうし(笑)。でも、僕たちスタッフ陣も勝ちたいんで、そうなれるようにっていう話をしてると思います。
甲斐 勝負の別れ目とか、選手のメンタリティが今どうあるとかをまず見た上で、勝っていて、ディフェンスで選手が集中しているつもりでも「全然足りていない」っていうところを指摘してくれています。試合中、選手たちが迷わずにプレーできるという効果は相当あるんじゃないかな。
──試合中、甲斐さんは冷静で、コーチのみなさんは情熱的という印象があります。
甲斐 ヨシも基本的には優しいけど、仮に、ちょっとでも気を抜いた選手がいたらめちゃくちゃ怒るからね。本当に勝ちにいくチームの、勝ちにいく雰囲気やメンタリティって、若い選手はまだ構築されていなかったりするなかで、この3人がそういった声かけを常にしてくれる。俺はさ、立って見ているだけでいいから、角でこうやって(笑)。
──でも、住み分けがされているというか、甲斐さんだけでは目が届かないところを、ある意味、目となり、口となり。
甲斐 そうだね。俺は本当に表面的に今、一番早く伝えないといけないことを最優先で話すけれど、それ以外も、例えば一人ひとりに声をかけないといけないことももちろんある。そこは、このお3人に非常に助けられています。
難波田 それをやるだけなんで。甲斐さんの動きは僕らも見ていますし、大前提として甲斐さんの意図したゲームプランがあった上で、戻ってきた選手の顔とかを見ながら声をかけていく。
石渡 一歩引いて考えると、どのチームも試合によっては選手が少しキレていたり「納得いかねぇ」って顔をしていたり、という場面があると思うんですけど、町田はそれがないかもしれないですね。全員でうまくそれを吸収して、解決できている。ヨシと治が率先して現場のいろんなものを回収して、というのは大きいかもしれない。
【次ページ】「誰が監督やってると思ってんだ!」キツく檄を飛ばした(前田)
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