瀕死の町田を再生させた関野淳太社長が目指すアリーナスポーツの頂
PHOTO BY大西浩太郎、本田好伸
ホームゲーム観客動員数No.1の秘訣
──その他の自社事業、ホームゲームなどの興行収入、グッズなどの物販収入、ファンクラブ収入などについては?
関野 ホームゲームで毎回掲げているのは、「徹底したホスピタリティとエンターテイメント性の両立」です。来てくださったお客さまに非日常を味わってもらい、「ホームゲームに来ると、選手もスタッフも気持ちいい接し方をしてくれるよね」と、また来たくなる興行を常に心がけています。
──徹底したホスピタリティの入り口として、挨拶は重要ですか?
関野 そう思います。でも、たとえば下部組織の中学生の選手たちに「ホスピタリティを持ちましょう」と言っても、ちょっと難しかったりするじゃないですか。だから「ホームゲームは興行で、キミたちは主催者側なんだよ。ここが劇場ならスタッフは『いらっしゃいませ』と言うでしょ。でもキミたちは選手だから『いらっしゃいませ』の代わりに『こんにちは』と挨拶しましょう」と伝えたりしています。
ここだけの話ですが、実は「グッドーラ」というシールをスタッフに持たせて「なにかあったら渡してね」と。たとえば、来場してくれた小さなお子さまが大きな声で「こんにちは!」と返してくれたら「すごいね、よくできたね」とシールをあげています。
──ディズニーランドみたいですね。
関野 まさに。ディズニーランド化ですね。それを目指すには、まずこちらがしっかり挨拶できないといけませんよね。興行や接客業における“当たり前”ですが、まずその基準をレベルアップすることで興行自体の価値を上げる。そこに演出などでエンターテイメント性を加えていく。バズーカーやスモーク、エプソンさんの協力を得てプロジェクションマッピングを行ったりしています。ホスピタリティとエンターテイメント性は、どちらか片方だけではダメで、両立していくことが大切だと考えています。
──ただし、演出には費用がかかります。
関野 たしかにそうです。でも、2022-2023シーズンは、攻めの姿勢でチャレンジさせてもらいました。クラブ史上最もお金がないシーズンでしたが、入場口のバルーンや、選手のバナーを2階に並べたりして、お客さまの目に見えるような変化に取り組みました。取締役の増山が予算の調整や交渉をしてくれて、なんとか実現できました。増山からするといい迷惑だと思うんですよ、僕が打ち出す方針に予算などの根拠はないので。でもそれに対して増山はあまり「No」と言わずにやってくれた。増山を筆頭についてきてくれたみんなが、僕にとってとても大きな存在です。
──繰り返しになりますが「瀕死状態」のなか、それでも攻めようという発想になったのはなぜですか?
関野 変えないといけないと思ったからです。収益バランスを変える、そのために自社事業の収益を上げる。それにはスクールだけではなく、やはりホームゲームにお客さまをたくさん集めないといけない。それが、スポンサー収入、グッズ収入やファンクラブ収入にもつながっていきますから、魅力的なホームゲーム、興行を開催することはとても重要だと思ったからです。
──結果的に2022-2023シーズンはホームゲーム観客動員数でリーグ1位でしたが、お話いただいた演出などは参考にしたものがあったりしますか?
関野 Bリーグですね。そこから受けた影響は大きいです。Bリーグ(バスケ)やDリーグ(ダンス)といった他のアリーナスポーツをいろいろ見させてもらって、いいところは絶対に取り入れたいと思っています。我々が目指すべきはJリーグでは無く、Bリーグだと考えています。
──Jリーグではなく、他のアリーナスポーツを参考にするのは規模感が近いから?
関野 同じアリーナスポーツだからです。アリーナの中で行なう演出、取り組みなどは、アリーナスポーツの最高峰を目指すべきです。それが現在の日本においてはバスケットボールだと思っています。Bリーグは間違いなくお手本にすべきです。たとえば観客席にTシャツを撃ち放つバズーカも、千葉ジェッツがやっていた取り組みの丸パクリです(笑)。でも、いいところは真似したほうが絶対にいい。それに、当時Fリーグでやっているチームはなかったので、我々が最初にやろうと。でもまだまだ、やりたいことはたくさんあります。
スポンサーとの新しい関係性「共創パートナー」
──ホームゲームの集客は自社事業の収益に直結しますし、間接的にはスポンサー獲得にもつながるのではないでしょうか?
関野 その通りです。「ペスカドーラ町田のホームゲームは、エンターテイメント性があってお客さんがたくさん来る。携わっているスタッフはみんなしっかり挨拶ができて非常に気持ちがいい」。もし自分がお金を出すなら、こんなクラブをスポンサードしたいじゃないですか。
──自社事業を拡大しつつも当然、新たなスポンサー獲得も狙っているんですよね?
関野 はい。だだし依存し過ぎるのはよくないと思っています。すべてのスポンサーではないですが、コロナ禍以前とは関係性を変える必要があると思っています。我々は今年から「スポンサー」という呼び方をやめて「パートナー」と呼ぶようにしました。一緒に作り上げていく存在として、お互いにwin-winになる目的で出資してもらう。企業価値が少しでも上がるような状況を、我々の価値として提供していく。そうしたパートナーシップを築き上げないといけないと思っています。
──その一つがエプソン販売とのパートナーシップですね。
関野 そうです。エプソン販売さんからは実際かなりの出資をいただいていますが、エプソン販売さんにとってのそれは「宣伝広告費」ではなく「事業費」という位置付けです。ペスカドーラ町田というスポーツチームと一緒に事業を行なうために、エプソン販売さんが捻出して下さった予算です。だから、一緒に取り組んでいる事業自体は掲出していますが、広告としての『EPSON』のロゴはどこにも掲載していないんです。
──ユニフォームにも、ホームゲームの看板にも、ホームページにすら、掲載はないですね。まさに新しい形の関係性だと思います。
関野 「共創パートナー」という言い方をしていますが、ありがたいことに本当にいい関係性を築けていると思いますし、感謝しかありません。
5000人規模のアリーナを満員にしたい
──関野さんの社長就任と同時に、こちらもコロナ禍の影響から甲斐さんがトップチームの監督に就任しました。チームの強化など、関野社長から現場への要望などはありますか?
関野 正直、ないです。強化に関しては甲斐監督に完全に一任しています。逆に、会長でもある甲斐からは「フロントは淳太に任せるから」と就任時に言って貰えたのは、本当にありがたかったです。できるだけ、甲斐が監督として現場で100%の仕事をできるように、フロントのことで負担や心配をかけないようにしたかったので。
──実際にトップチームは結果を出していますが、甲斐さんの監督手腕には確信が?
関野 正直、確信はありました。でも甲斐が監督として戦術面などが優れているのかどうかとか、そういう言うのは自分が現場にいた頃とは全然違うのでわかりません。でも「甲斐修侍」という人には、間違いなく人を惹きつける魅力があります。そういう人が話す言葉って、刺さるじゃないですか。「よっしゃ、やってやろう!」と思えてしまう。単純に話し方がうまいというより、言葉に重みを持たせられる人だと思いますね。それは甲斐監督の人間性、人間的な魅力がそうさせているんじゃないかと。そしてそれは間違いなくチームに推進力をもたらします。
──長い間、苦楽を共にしてきた関野さんが言うと説得力があります。
関野 いやいや、腐れ縁です(笑)。甲斐は会長でもありますし、現場に居た時は、ぶつかることもあったし、フロント入りしてからは、めっちゃ怒られることもありましたよ(笑)。でも今は本当に、僕は心地良くやらせてもらっています。うまく言えないですし、責任は重いですけど、現場に甲斐がいるから安心してやれています。
──ここ何年か、Fリーグのクラブも自分たちの事業収支やバランスなどを可視化して、クラブ内・スポンサーと共有して、一緒に進んでいこうという流れがあります。関東圏では、フウガドールすみだ、立川アスレティックFC、湘南ベルマーレなどは、「何年までにこれを達成します」と明確な目標と数字を示して歩みを進めています。関東圏に限らず今、Fリーグにおいて一際勢いのある町田は、今後どのように進んでいくのでしょうか?
関野 まずは本当の意味で「2030年までの完全プロ化」を考えています。そこに向かうプロセスとして、先ほどから話してきた「収益バランスで自社事業の収入がスポンサー収入を上回る」ということをミッションとして掲げています。その過程で少しずつ現場の環境も良くしていきたい。あとは、クラブの夢でもある「アリーナ構想」ですね。我々が5000人収容規模のアリーナを持って、そこを満員にしたい。「ここを目指さなきゃいけないよね」というモデルケースを作って、これからフットサル選手を目指す子供たちに夢を与えたい。
──ペスカドーラ町田がFリーグを引っ張っていく、と。
関野 いえいえ、そんな引っ張っていくということではなくて、「チャレンジし続けたい」という心境です。ずっと上を見ていきたいし、見ていかなくちゃいけない。同じアリーナスポーツで日本最高峰のBリーグを目標にして、フットサルのチームとして、アリーナスポーツの頂点を目指したいです。ペスカドーラ町田はコロナ禍の苦しい状況下でも挑戦を続けてきましたし、これから先ももっと高いハードルに挑戦していきたい。それが結果として、Fリーグや、他のクラブを引っ張ることになるならうれしいですね。
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