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作成日時:2024.11.25
更新日時:2024.11.25

“奇跡のF1残留”から3年。ボアルース長野が直面する極限の重圧と、記者が現地で感じた緊張感|F2で紡がれる戦闘記

PHOTO BY伊藤千梅

「この試合は、どうしても現地で取材したい」

11月17日に行われる、ボアルース長野とアグレミーナ浜松の一戦を前に、そんな感情が沸き出てきた。

今シーズンのF2リーグも終盤に差し掛かり、首位・長野と2位・エスポラーダ北海道によるF1昇格争いはクライマックスを迎えていた。

長野は開幕から12連勝という破竹の勢いを見せてきたなかで、第13節のリガーレヴィア葛飾戦で引き分けて連勝記録が途絶えた。そして、続く第14節、北海道との直接対決でも残り35秒で失点し、2試合連続ドローに。勝ち点6差だったライバルとのポイント差は「4」に縮まった。

首位を走り続けたチームが足踏みしている。リーグ戦は残り4試合。長野は2年ぶりの「F1復帰」へ逃げ切れるのか、それとも……。

2試合で勝ち点「6」を積むはずが「2」しか得られなかった彼らにはおそらく、追われる立場として相当なプレッシャーがかかっているのではないか。

過去、何度も“奇跡のF1残留”を果たした長野は今、どんなチームになっているのか。その目で確かめ、ホームの空気を感じ、リアルな選手の言葉を伝えたい衝動にかられた。

朝7時、東京駅を出発する新幹線に乗り込んで、試合会場へと向かった。

取材・文=青木ひかる

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今季最大のピンチで響いた主将から味方への“喝”

正念場になるだろうという予感は的中。先制を許し、長野は今シーズン初めてビハインドを負った状態で第1ピリオドを終えた。このまま0-1で敗れてしまうと、北海道に首位を奪われかねない。選手たちの表情には明らかに焦りが見えた。

「ここまで自分たちが築き上げてきたものを、手放していいのか。今のままでは手放すことになる」

ハーフタイムに山蔦一弘監督から熱い言葉をかけられ、第2ピリオドで3ゴールを重ねて、3-1で終盤を迎える。しかしパワープレーから1点を返され、北海道戦と同様に、いつ同点にされてもおかしくない状況に追い込まれていた。

集中したディフェンスでゴール前を固める長野だったが、39分、プレスをかけてボール奪取を試みたもののうまくかわされてしまい、浜松のエースにシュートを打たれた。

この一撃を、GK橋野司が弾いた次の瞬間、キャプテンの三笠貴史が味方に向かって激昂した。これまで何試合もFリーグの取材をしてきたが、ここまで仲間に対して怒りを露わにする選手の姿を見たのは初めてだ。

昨シーズン、勝てた試合を引き分けてしまった「勝ち点2差」で昇格のチャンスを逃したチームの、“勝利への執念”が垣間見えた瞬間だった。

続くセットプレーのピンチも凌ぎ、3-2のまま試合は終了。勝ち点3はつかんだものの選手たちに笑顔は少なく、ビリビリとした空気がしばらくその場に漂っていた。



1年ぶりに再確認した、長野の魅力

2023年に長野に加入して以来、人一倍の“ボアルース愛”をたぎらせる三笠は、「このクラブがどれだけ素晴らしいかは、ホームゲームに来ればわかる」とインタビューの度に同じ話を繰り返してきた。

かくいう私は、昨年9月に初めて訪れた「ことぶきアリーナ千曲」で、その言葉が大袈裟ではないと知った一人でもある。

試合の緊張感とは裏腹に、約1年ぶりに訪れた会場で過ごす時間は相変わらず楽しかった。

2018年に建て替えたばかりのきれいなアリーナの廊下に、アリーナグルメがずらりと並ぶ。その多くが県内でお店を営む方たちで、「試食をどうぞ!」「オマケするね!」と、サービス精神旺盛だ。なかでも『須坂煎餅堂』さんのお煎餅には選手の特徴を捉えた似顔絵が1枚1枚ていねいに描かれており、「ボアルースの選手たちを応援したい」という店員さんの心意気が感じられた。

また、公式グッズの種類も豊富で、“推しグッズ”の定番でもある選手のアクリルスタンドは、「通常バージョン」と「ゴールパフォーマンスバージョン」の2種類が用意されていた。その他にも、新年から使えるカレンダーや、寒さ対策の防寒グッズも充実。商品を吟味するファン・サポーターのウキウキしている様子を見ると、こちらまで高揚感が増してくる。

特筆したいのは、メディアへのホスピタリティも抜け目がない点だ。記者室の机に、メンバー表とともに一人1本ずつ飲み物が用意されていたことにも感動した。そうした些細な心遣いは「このクラブのことを伝えてほしい」という、クラブの思いを強く感じることができる。



タイトルを持ち帰り、ホーム最終戦へ

「また、この会場に来たい」

そう思える観戦体験を提供することができる長野は、地元の人々や企業からも愛される“地元密着クラブ”として、さらなる成長を遂げる可能性を秘めている。

だからこそ選手も「ボアルースを“いるべき場所”に戻す」と口をそろえる。

1年でのF1復帰を逃した昨シーズン、長野はリーグ戦で1敗しかしなかった。

「昇格するには、たった一つの負けも許されない」

その厳しさを思い知った長野は、チームの特徴でもある守備の堅さに磨きをかけた。今シーズンは15節終了時点でリーグ最少の20失点に抑え、無敗を継続している。

「去年も失点数はリーグ最少に抑えたのは同じですが、あっさりと決められてしまうシーンも多く、1試合で集中し続けるという点で課題感がありました。なので今シーズンは、簡単な失点を減らすことにこだわってきました。それは僕一人ではなく、全員で共通意識をもてていることが、今の結果につながっていると思います」

堅守の要を担う守護神・橋野は「まだなにもつかんでいない」と前置きしつつも、昨シーズンから成長したポイントを語った。

また、チーム最古参の松永翔は「これまでとは、チームを見る周りの目が違う」と、この1年での変化を感じていると言う。

「アウェイの北海道戦は、個人的にはもてる力を出し切った結果、引き分けで終わったという印象でした。でも、長野に帰ってきたら『勝てなくて残念だったね』と言われたり、引き分けが続いていることを心配する声も多かったりして、改めて『勝ちが求められるチームになったんだな』と実感しました。だからこそ、このあとズルズルと崩れるわけにはいかないと、今日は強い気持ちで臨みました」

2019-2020シーズンからF1でリーグ最下位が続いた4年間、しながわシティとの死闘の末に残留をもぎ取った2021-2022シーズンの入替戦、そしてF2降格が決まった、2022-2023シーズンの入替戦……。

そのすべてを知り、「降格させてしまった責任」を背負う松永は、この浜松戦で反撃のきっかけとなる同点弾を決めた。

今シーズンは入替戦がないため、リーグ優勝と同時にF1への自動昇格が決まる。2年越しの「目標達成」は目の前に迫っている。

「シーズン終盤のプレッシャーがかかる試合で、『自分がヒーローになる』というプライドをかけて戦う姿勢が、このチームにはまだ足りない。いいプレーができなかったのはなぜなのか、練習中になにをするべきか。もっと突き詰めて、自分と向き合ってほしい」

この日、1ゴール1アシストのキャプテンは試合後、今度は冷静な口調でチームに向けて、あるいは自分自身に向けて厳しい言葉を投げかけた。

長野での現地取材を終えた1週間後、11月24日の第16節、長野はマルバ水戸FCに2-1で勝利を収めた。同日に行われた北海道も勝利したため勝ち点4差は変わらないものの、残りは2試合。11月30日の第17節、デウソン神戸戦に勝利すればF2優勝が確定する。

“奇跡のF1残留”から3年。

「負けない自信」と「勝ち続ける強さ」を身につけたチームで、もう一度、あの舞台に立つために──。

12月8日、長野は悲願を決めて、ホーム最終戦に“凱旋”できるか。

もし、その時を迎えたのならばきっと、私が見たあの千曲のホームは、選手もスタッフも、ファン・サポーターもみんな、緊張から解き放たれた歓喜に満ちているに違いない。

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