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2022.09.12

湘南はなぜ“小田原”で愛されるのか? 「ベルマーレフットサルクラブ」に魅せられた元GMでクラブの新社長・佐藤伸也氏がリアルに体感してきた景色

PHOTO BY本田好伸/高橋学

今シーズン開幕直前、小田原駅前の道路を封鎖して開催したパレードは、さながら“優勝セレモニー”のようでもあった。これまでもホームタウンと連携した取り組みやホームゲームの様々な演出など、ピッチ内外で大きな盛り上がりを見せてきた湘南ベルマーレ。

コロナ禍の影響を大きく受け、苦しむスポーツチームが多いなか、その取り組みは失速どころか加速する一方であり、Fリーグを代表する地域密着型クラブとして際立っている。加えて、昨シーズンはクラブ史上最高の2位になるなど、実力も右肩上がりだ。

今年4月、そんなクラブの代表取締役社長に就任したのが、佐藤伸也氏である。

2007年のFリーグ開幕初年度からGMを務めた佐藤氏は、湘南ベルマーレ“フットサルクラブ”を小田原に根付かせるため、長い間、裏方として奮闘してきた人物だ。

蒔いた種がようやく実り始めているこの時期、新たなリーダーに推された佐藤社長とはいったい、何者なのか。そしてどんなビジョンを描いているのか。

インタビュー=本田好伸
編集=舞野隼大

他とは違う目線を持っていたベルマーレに惹かれた

──今年の4月から代表取締役社長に就任された佐藤さんが思い描くビジョンに迫っていきたいです。まず、いつから佐藤さんは湘南ベルマーレに関わっているのでしょうか?

Fリーグが開幕した2007年にGMとして関わり始めました。きっかけは、監督の伊久間(洋輔)さんとリクルートダイレクターの阿久津(貴志)さんが、大学の2つ先輩だったことです。当時、湘南ベルマーレとしてFリーグに参画することが決まったときに、伊久間さんや阿久津さんが「プロじゃないから飯を食えない。自分たちが得意なことで生業を作っていきたいからフットサル場を作りたい」と、僕が呼ばれました。

──なぜ、佐藤さんだったのでしょう?

僕はそのとき、医療や福祉関係の不動産コンサルタントをしていました。余っている土地に対して、いかに有効な不動産資産を建てて事業を回していくかという仕事をしていて、「同じことをフットサル場でできないか?」と声をかけてもらったんです。

──それが後のZUCC FUTSAL BASEに。

そうですね。先輩から強引にお願いされる形で完成しました(笑)。リーグの開幕前、小田原アリーナでのプレマッチにお邪魔する機会があったのですが、競技フットサルを見るのはそのときが始めてでした。「サッカーと全然違うな」と魅力を感じましたね。それまで、お金を払ってJリーグを観に行ったことがなかったので「うまい選手が集まって競技だけをする」という偏った見方しかしていなかったのですが、ベルマーレの話を聞いているとそうではありませんでした。チームが社会に溶け込んでいて、他とは違う目線を持っていたことに惹かれていきました。

──Fリーグの開幕当初は「湘南ベルマーレ」という名前を借りながらクラブの運営していったのでしょうか?

名前を借りるというよりは、サッカーチームが持つノウハウや理念の共有が大きかったです。2009年くらいまでは、ホームゲームにJのスタッフが来て回していただいたこともありました。当時は事務所もなかったので、(サッカーチームの事務所がある)馬入のクラブハウスに人がいないときに机を勝手に持ち込んで居候するところから始まりました。

──そういうところから一つずつ積み上げていった。

はい。ただ、育成選手が育つまではキツかったですね……。毎シーズン、入れ替わり立ち替わりで、選手がごっそり抜けてごっそり入って、という循環をしながらやらざるを得ない状況でした。ですが、小学生の頃から教えていた植松晃都や上原拓也らがトップチームに関われるような年齢になってからは、“種蒔き”が実を結んできました。その辺りから急に状況は変わってきましたね。

──元々、育成をしっかり取り組んでクラブの土台を作っていくという考えだった?

そうですね。なにもわからずスポーツビジネスの業界に入ったので、いろいろなケースや事業を研究していました。そこで、自分の育成組織で選手を育てるということが強化につながると信じて、一生懸命やってはいましたけど、半信半疑ではありました。チームカテゴリーを新たに作ることは勇気のいることですけど、阿久津さんなんかは頭のネジが3本くらい外れているので(笑)、小学生や中学生、高校生、女子と抜かりなくチームを作っていきましたね。

──湘南は、育成や競技面だけでなく、ピッチ外の部分にも力を入れている印象が強いです。

今シーズンは社会性が高く、個性を発信するお手伝いをクラブ事業として取り組んでいます。選手たちには、どういう目的を持っていて、どんな効果や課題があるか伝えて、(クラブ事業への参加を)立候補させています。目標としているアジアチャンピオンになったとき、クラブはどういう状態になっているか選手のみんなに考えさせたら、「地域の人に愛されている」とか「何かがしっかりと事業化されていて、チケット収入以外の財源がある」という答えが出てきました。競技という枠に留まらず、身近な社会現場にいて、しかもそのクラブがアジアチャンピオンならば、かなりすごいことですよね。

──そうした佐藤さんのノウハウは、一から勉強して積み上げていったのでしょうか?

そうですね。成功事例やサッカーのやり方を見ています。例えば、Jリーグは「シャレン!」といって、社会連携を強めようとしているのですが、その本質的なことがなんなのかを見るようにしています。他にはTリーグの琉球アスティーダさんのように野心的に事業を組み立てていくという見方が好きで、実際に代表取締役の早川周作さんにお話を聞くこともありました。

──様々なケースを見聞きするなかで、どういった答えにたどり着きましたか?

「一般企業と同じだな」と思いましたが、メリットはスポーツのほうが大きいと感じます。例えば、僕が一般企業を立ち上げて、シーズンの新体制発表会をしたとしても、町長さんは来ないですよね。そこはスポーツならではという強みです。ですが社員に不平不満が出ないようにしたり、取引先の方と本音で話す環境を設けたりする部分は、一般企業と同じです。

今では「小田原にベルマーレがある」という認識に

──元々は「NPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブ」から始まり、「株式会社小田原スポーツマーケティング」と名称を変え、今年の4月から「株式会社湘南ベルマーレフットサルクラブ」として活動していますが、その狙いは?

2007年に僕がこのクラブで営業を始めたとき、湘南ベルマーレという名前はすでに知られていましたけど、小田原市からすれば、“平塚市のサッカークラブ”という認識でした。そこで「名前を変えて、小田原市に拠点を置いたほうがやりたいことがやりやすくなる」というアドバイスをいただいて、やり始めました。それが今では「小田原にベルマーレがある」という認識になってきて、むしろ「(小田原スポーツマーケティングでは)分かりにくいから名前を変えたら?」と言われるくらいになってきたんです(笑)。

──湘南ベルマーレという名前はすでに地域に定着していますが、サッカークラブのイメージが強いと思います。フットサルクラブからすると、ある意味で認知されづらい状況になっていた面もあるのではないでしょうか?

「スポンサーやサポーターの取り合いになるんじゃないか?」と思う時期がありましたけど、それは僕の実力が足りなかっただけでした。本気でいいものを提案すれば、両方スポンサードしてもらえます。サポーターに関しても同じことです。

──たしかに、フットサルとサッカーの両方を応援しているサポーターは多いですよね。

はい。昨シーズン、サッカーチームでプレーしていた島村(毅)くんが現役復帰してFリーグにチャレンジする取り組みがありましたが、ファミリー感がより増したと感じています。実際にプレーしてもらったところ、彼に刺さるものがあって、今シーズンからは社長補佐に就任することになりました。すでに営業でユニフォームスポンサーを取ってきてくれましたし、早くもチームに貢献してくれています。

ピッチ外での取り組みが競技面での強さにつながる

──後援会「FAO(ファオ)」の存在は、このクラブにとって大きなものだと思います。FAOの設立はクラブからお願いをして設立されたのでしょうか?

勝てないシーズンが続いたとき、クラブと同じ目線で戦ってくれる団体になってくれないかと思って、こちらからお願いをしました。設立の目的はベルマーレの応援ではなく、“フットサルを通じた明るい街づくり”です。FAOはホームゲームの設営を手伝ってくれますし、会場には担当ブースもある。行政絡みで困りごとがあれば、市長や町長との橋渡しをしてくれることもあります。去年の新体制発表会では花火を打ち上げて、今年は小田原駅前の道路を封鎖してパレードをしてくれました。FAOこそが、スポーツを通じた街づくりの先駆けだと思っています。

──元々は、どういった方たちの集まりだったのでしょうか?

ベルマーレが好きな町の人たちですね。経済界や法人会、商工会でメンバーになっているような方々がクラブに代わって、クラブ目線でいろいろな方に声をかけてくださって、メンバーが集まっていきました。

──2007年から蒔いてきたいろいろな種が育ってきた時期のようにも思いますが、佐藤さん自身はどのように感じていますか?

15年かかりましたけど、そうですね。コロナ禍になってからは、アリーナ競技の必要性を本当に考えさせられました。「場合によっては(事業の規模を)縮小してもいいのでは?」という深い議論を1年間かけて話して、「やっぱりやろう!」という結論にいたり、今はこのコロナ禍の最中に地盤を固めなければいけないと思っています。安全を最優先に自粛ばかりをしていては、他のエンタメには勝てないので、ギリギリのラインを攻めていきたいです。なので、動くべきは今なのかなと。

──選手を歌手デビューさせたこともありましたよね。

はい(笑)。ただ、本末転倒にならないように、競技と両輪で追いかけなければいけません。ピッチ外での取り組みが競技面での強さにつながると僕は信じていると選手にも伝えています。僕は「アマチュア」という呼び方が好きじゃなくて、「ベンチャープレーヤー」とか「ベンチャスポーツ」と言い換えたほうがいいと思っています。アマチュアというのは、「稼げないスポーツ」と言われているようで、ネガティブな印象を受けますけど、ベンチャーならば野心的で可能性のあるようなイメージになりますよね。おもしろそうなことや最先端なことをやりながらも、競技では高い順位に到達していたいです。

──湘南が突き抜けていけば、フットサル界のいい先導役にもなれそうですね。

新体制発表会で「競技性」、「事業性」、「社会性」という3つの柱を掲げました。「競技性」に関してはシェアできないですが、「事業性」と「社会性」のところは、ガンガン攻め込んで、他のチームにもシェアしていきたいと思っています。そうすれば、リーグが全体的に盛り上がっていくはずです。

──佐藤さんが代表取締役社長になられて、クラブはもちろんのこと、フットサル界をどのように発展させていきたいと考えていますか?

クラブの在り方がリーグにもそのままスライドしてほしいです。日本はアジアチャンピオンを輩出している国なので、世界に手が届くビジョンを発信してほしい。お金に関してはスポンサーだけでなく、Jリーグがやっているような取り組みや、デジタルを活用した収益モデルにチャレンジしてほしいですね。

──そうやって、日本におけるフットサルがこれまで以上に確立されていく。

今、一番必要なものは「風度」だと思っています。「Fリーグ全体の風度は何か?」となったときに、「お金はないけどめちゃくちゃ前向きですよね」でもいいと思っています。今は「風度」が見当たらないので、何か統一したものを作っていきたいですね。

それに関しても自分たちが発信すべきだと思うので、今やるべきことは、自分たちにどれだけの本気度があるか示すこと。今はコロナの影響が大きいと思いますけど、ちょっとでも油断してしまうと、ずっとマイナスになってしまう。何が悪い、何が足りないという議論に時間をかけず、やるべきことをみんなでやっていきたいと考えています。

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