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作成日時:2022.09.09
更新日時:2023.03.11

29歳・堀内迪弥はなぜ移籍を決めたのか? なにわ男の決意と生き様「得点王を、湘南で取る」

PHOTO BY高橋学

まさに、挨拶代わりのゴールだった。「オレは、ベルマーレのホリウチだ!」と。

湘南ベルマーレの今シーズンは、ボルクバレット北九州とのアウェイゲームで幕を開けた。カップ戦はすでに戦っていたものの、リーグ戦では加入後初の試合。堀内迪弥にとって、新天地での成否を占うような、重要な一戦だったことは間違いないだろう。

第1ピリオド終盤、フィウーザからのロングスローを前線に走って“バックヘッド”で流し込んだ。スコアラーらしい、堀内らしい、見事なワンタッチフィニッシュだった。

両手でガッツポーズを作りながら向かった先は、仲間が待つベンチだった。歓喜で迎えられた後、ピッチに戻った堀内は、サポーター席へと向き直って、胸のエンブレムをつかんだ。その手を何度も胸に打ちつけて「湘南の堀内迪弥」を強くアピールした。

基本的に堀内は、気さくで、面白く、アツい人物だ。

大阪から決意を胸にヴォスクオーレ仙台に渡った時も、大阪に戻った時も、2度の大きなケガをした時も、そして湘南に加入してからも、常に前向きな言葉を発し続けてきた。

それでも、日本代表に定着できるかというタイミングでのケガは不運であったし、日本人選手のなかで最も得点を奪ったシーズンのようには、もう飛躍できないかもしれないと、見ているほうが諦めてしまいそうになることもあった。ただ、堀内自身は違った。

ケガでシーズンのほぼ半分を棒に振った大阪での昨年を経て、新天地に湘南を選んだ。きっと不安もあったはずだ。だが堀内は、そんな姿を微塵も見せない。

8試合を終えて7得点と、好調だ。ただし、その数字は“日本人選手のなかでトップタイ”であり、満足はしていない。「得点で貢献したいんです。得点王、いきますよ」。最後に彼は、やはりアツく、そう話してくれた。今年の堀内は何かやってくれそうだ。

移籍の真相、湘南がホームに愛されるワケ、自身の思い。ABEMAが選ぶ「アベマ序盤戦MVP」に選ばれた堀内迪弥のリアルな言葉に迫った。

※インタビューは8月10日に実施

インタビュー=本田好伸
編集=高田宗太郎

■今シーズン全7得点ゴール集! 堀内迪弥/湘南ベルマーレ

“伸び伸びやれる”湘南のチーム体制

──今シーズンから湘南に加入して、8試合で日本人トップタイの7得点。ABEMAによる序盤戦MVPにも輝きました。現状をどう評価していますか?

(7月24日の第6節までで)結果として負けていないというのはいいことでもあり、そうではない側面もあったと思います。やはり勝ち切らないと優勝は遠のいてしまうので。本当の意味で満足できていないですね。個人的にも、ここまでの得点数は日本人トップですが、あまり実感はないですし、まだまだ満足してないですね。

──ただ、はたから見ていると調子はよさそうに見えます。

そこは、そうですね。伸び伸びやらせてもらっています。自分のよさを引き出してもらっていますね、チームメイトにもスタッフにも。本当にやりたいように、いいところが出るようにやらせてもらっています。

──その「伸び伸び」というのを、もう少し具体的に教えてください。

なんですかね、「細かすぎない」というか「ゴール」をより強く意識できているというのはあります。チームのフットサルのコンセプトが「何回でもゴールを目指し続ける」とか、「リスクを恐れずに果敢に攻めていく」といったものなので。

──そこはシンプルに、ですね。

もちろん組織的ではあるんですけど、なんかこう、「フットサルフットサルしていない」というか「考えて、考えて、チームで回して」みたいなことではなく、ゴールという目的が全員はっきりしていて、取られたら取り返すやし。なんかシンプルに、頭の中がクリアになっているというか、ミスしても思いっきりやるんだっていう感じになっています。

──ミスしても怒られない?

怒られないというか、「こうしろ、ああしろ」というような押し付けはないですね。

──お互いに要求して高め合うことも大事だと思う一方で、「伸び伸びやる」というのもものすごく重要な気がするのですが?

いや、めちゃくちゃ重要だと思いますね。まさに湘南のスタッフは個人の力を引き出すということをほんまにやってくれていて。「この形をやってくれ」というよりは、自分たち一人ひとりの得意な形が生きるようにやってくれる。あとは「個人の能力が上がることでチーム力が上がる」という考え方なので自分に集中できるし、チームのために自分が伸びないといけないとか、自分が頑張らなあかんっていうふうに思えているのがいいのかもしれないですね。

──今年の湘南は、バラエティ豊かなスタッフ陣が加わりました。例えば、ハイパフォーマンスディレクターの小畑江至さんは、どんなアプローチを?

小畑さんは、ベルマーレのラグビーチーム「セブンズ」のGMをされている方で、主にボディコンタクトやステップ、重心のかけ方などを教えてもらっています。すごく勉強になって小学校の頃からやっときたかったなって思うくらい。ダッシュのスタートの時にどうしたら走り出しが速くなるかとか、細かいことを週に2回から3回。

──それによってパフォーマンスは上がった?

と、信じています。ラグビーとつながっている部分、同じようなものはあると思うので、生かせるものなど、いろいろ試してみて発見もあるだろうなと。

──Fリーグ初の女性コーチである藤田安澄さんはどんなことを?

主にセットプレーですね。細かい戦術的な部分を指示してくれるんですけど、選手が「いやこっちのほうがいい」って言ったら、それを尊重してくれますね。

──セットプレーは湘南の昨シーズンの課題ですよね。女性である部分は?

考えたこともなかったですね。全然、違和感がないというか。試合前、着替える時にロッカールームに「もう入って大丈夫?」とか、そういう気遣いはありますが(笑)。

──スペインから来たコーチのアルベル・サバテアルメンゴルさんや、他のスタッフを含めて適材適所というか、充実したチーム体制が整っている印象ですね。

みんなで一つの目標に向かっていることをほんまに感じますね。環境をもっとよくしようとか、ファンを増やそうとか、みんなで次のフェーズへ行こうみたいなことをクラブ全体で。社長もほんまに熱心な人ですし。湘南に来て、一つ感じていることがあって。

──なんですか?

湘南に来る前まではプロでやらせてもらっていて、ヴォスクオーレ仙台の時は「プロ」へのこだわりがあったんです。もちろん、自分の時間を使えてトレーニングに集中できる環境はいいと思うんですけど、今は今で、充実しているなって。午前中にトレーニングして、午後はスポンサー企業で働いていますけど、それが「クラブのためにもなってるんやろうなぁ」とか「いや自分のためにもなってるなぁ」って思いながらできているんで。

──社会とつながりを持ち、経験を積むことで得られるものがある、と。今のお仕事は?

障がい者の生活支援です。スポンサー企業の「一燈会」で、中度から高度の障がいを持つ成人男性のお手伝いをしています。買い物に行ったり、トイレやお風呂の介助をしたり、火曜から金曜の正午から夜7時の時間帯でいろいろとやっています。

互いにわかり合えている。湘南はもっとよくなる

──以前から「雰囲気がいい」と話していましたが、連係面や信頼関係を早く築けたからフィットできて、結果も出ているのかなと。コミュニケーションは取りやすかった?

みんな、ほんまにいい子ばっかりでやりやすいようにしてくれるんですよね。気遣ってくれているのかわかんないですけど(笑)。コミュニケーションは自然と取っています。湘南の文化なのかもしれないですけど、選手同士で話すことが自然とできている。伊久間洋輔監督もそれが大事だと思っているのかなと。必ず試合の後は全員でフィードバックするようにもしていますし、コミュニケーションはすごくよく取れていると思います。

──プレー面では誰とやりやすいとかありますか?

攻撃面では(林田)フェリペ(良孝)ですね。知ってます? アイツ、縦にめっちゃ速いんですよ。

──はい、わかります(笑)。

めっちゃ速いですよね。なので僕は、逆サイドにいて、フェリペの相手が縦切るか中切るかで、同サイドに流れるか、中に入るかを決めてというのが形になっていて。(高橋)広大もパスうまいし、(牧野)謙心もすごいディフェンス頑張るしバランス取れるし、それぞれの特徴がはっきりしているので、やっていてわかりやすいですね。

──個々の力を引き出し、その足し算がチーム力ということですね。

そうですね。もちろん、もっと一人ひとりの精度を上げないといけませんが、やろうとすることはお互いにわかり合えている気がします。

──前線に張る堀内選手の役割もはっきりしていますし、すごくボールが集まっています。仙台で25得点を挙げて日本人得点王になった2018シーズンを彷彿とさせます。

みんなが自分を見てくれている感じはありますね。でも、まだよくなります。まだまだチームとしても個人としても上がっていけるはずというか、そんな感覚ですね。

移籍の決め手はビジョン、熱意、最後は直感

──堀内選手のキャリアを振り返ると、ケガに苦しんできた印象があります。

そうですね。ケガはもう、したくないですね(苦笑)。

──長期離脱となるケガを2回経験していますよね。

いちばん大きいのがシュライカー大阪時代ですね。右膝外側半月板で手術して、半年の離脱でした。昨シーズンは練習で鼻の骨を折って、それが治ってすぐに足首を靭帯断裂する手前までいって、それがかなりひどい状態だったので、合わせて半年ほど。結局、昨シーズンは半分くらいしか出場できませんでした。

──2019シーズン途中に仙台から古巣・大阪へ移籍し、その後の2年半はケガもあって思うような活躍ができませんでした。

やはりケガは大きかったですね。なんか、空回っていたんでしょうね。

──空回っていた?

シーズン途中での移籍でしたし、他のチームでも活躍できることを証明したいとか、2020年のワールドカップのメンバーにもなんとか入りたいと思っていて、練習しすぎたっていうのがたぶん、影響していると思いますね。

──体に負荷をかけ過ぎた。

そうですね、かなり負荷をかけていましたね。

──今振り返ってみると、オーバートレーニングだったと。

今になると、そう思いますね。偶然起きてしまったケガではなかったと思います。

──そして大阪を離れることに。契約満了ですか?

そうです。

──それを告げられた時の心境は?

なんとなく、もうわかっていたんですよね。出場時間もそうやし、立ち位置的なものでも。いろいろ考えて、自分を必要としてくれるクラブがあればそこでプレーしたいなと。それで湘南に声をかけてもらいました。

──お子さんが生まれたばかりでしたし、ご家族のリアクションは……?

理解してくれましたね、すぐに。「頑張ろう」みたいな感じで。ただ「田舎すぎる場所はやめてほしい。子育てできる環境だったらいいよ」っていう話をしてくれて(笑)。

──なるほど、湘南以外にもオファーがあった?

一応、ありました。

──では、湘南に決めた理由は?

(奥村)敬人さんが監督だった頃も、なんとなく気にかけてもらっていて。今回もかなりマメに連絡をくださって、伊久間監督からも、強化担当の方からもすごく熱意を感じました。クラブのビジョンも明確で、いろんな思いを伝えてもらって。勤め先の企業のこともそうですし、受け入れ体制を整えていただき、迎え入れてくれているなぁと。あとは自分のスタイルとも合ってるんちゃうかなって、直感ですけど思ったのが決め手ですね。

──実際に入ってみてどうでした?

これは正直な話、外から見ていた時は「ワーワーやっとんな」みたいなところもあって(笑)。湘南の人らで盛り上がっているなとも思っていたんですけど。実際はその、すごい。すごいですよね、街全体が、チーム全員が、みんなが、クラブに対して愛がある。誰もクラブの悪口とか、仲間の悪口とか言わへんし、なんかいいなぁって思いました。

──5月に実施した小田原駅前のパレードは本当にすごかったです。今、お話されたような「湘南の在り方」みたいなものが詰まっていました。

いやほんまに、すごすぎましたよね(笑)。

得点王を、湘南で取ります

──では最後に、選手としての今後を聞かせてください。現在29歳、ここまで通算149試合・72得点の堀内迪弥は、湘南でどうしていきたい?

個人では、もうやっぱ「得点」っていうところで貢献したいし、現役中に得点王を取ります。何歳になるかわかんないですけど、これは取ります。

──今シーズンはかなりチャンスがありそうですね?

いきますよ。正直、昨シーズンから考えると、代表とかは全然、頭になかったんです。「Fリーグで活躍している選手を選ぶ」と木暮賢一郎監督も話していますよね。選手として上を目指すなら、Fリーグの先にはアジアとか世界とかがあって、そう考えるとやっぱり、「日本代表」が自分の中で少しちらつき始めています。でもまずは得点王。その上でMVP、ベスト5というタイトルを取るってことを、湘南でやりたいですね。

──おお、アツいです。

あと、大勢のサポーターがいますから、ベルマーレには。アツいファン・サポーターに愛してもらえるような選手になりたいですね(笑)。

──文字にするとわからないですけど、最後は照れながら、なんかうまいことまとめようとしましたよね(笑)?

いやいや。でもちょっと、いやらしさが出ちゃいましたね(笑)。本心ですよ、選手として活躍して、そのうえさらに愛される選手になってなんぼですから。

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