更新日時:2023.03.03
【渡邉知晃コラム】名古屋一強時代に終わりは訪れるのか?リーグ優勝に不可欠なものとは|Fリーグプレーオフ決勝第3戦
PHOTO BY髙橋学
2月24日に、Fリーグ2022-2023プレーオフ決勝、名古屋オーシャンズ vs立川アスレティックFCの第3戦が行われた。第1戦を5-1、第2戦を5-2で名古屋が2連勝し、リーグ優勝に王手をかけて迎えた第3戦。パロマ瑞穂アリーナで行われたこの試合に3-0で勝利した名古屋が、リーグ6連覇を達成した。第1戦、第2戦と同様に強さを見せつけた名古屋が通算15回目となるタイトルを獲得し、今シーズンのFリーグは幕を閉じた。
Fリーグ優勝、プレーオフ出場の経験を持ち、名古屋と立川の両チームでプレーしてきた元日本代表・渡邉知晃が、試合のポイントを振り返る。
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最高の時間帯に奪った名古屋の先制点
第3戦も、磐石の試合運びだった。“駒沢ラウンド”で2連勝し、ホーム・パロマ瑞穂アリーナに帰ってきた名古屋は、いつもと変わらない強さを見せつけて完封勝利を収めた。
この試合は、2連敗で窮地に立たされた立川が、チームの強みであるディフェンス面で集中力を発揮し、名古屋に得点を許すことなく第1ピリオド終盤を迎えていた。このまま0-0でハーフタイムを迎えることができれば、立川にとっては理想的な展開だったはずだ。
しかし、残り時間3分12秒に試合が動いた。
名古屋が右サイドの高い位置でのキックインを得ると、フエンテス監督がタイムアウトを取ってプランを確認する。ゴール前の安藤良平が、マークする金澤空にブロックからフリーになる「ブロック&コンティニュー」の動きで前に出ると、そのタイミングを見逃さなかったキッカーの八木聖人がインサイドキックで速いボールを送る。すると、ワンテンポ遅れて走り出した金澤がスライディングでクリアしようとして触ったボールがゴールに吸い込まれた。仮に金澤が触らなかったとしても、安藤が詰めていたため、致し方ないオウンゴールだった。
一瞬空いたスペースを見逃さなかた八木と、どこがチャンスになるかを見極めて走り込んだ安藤の2人の好判断が生んだ重要なゴールだった。さらに、後方ではダルランがボーレーシュートを狙っていたこともあり、そこに立川の選手が少し気を取られたことも、このゴールにつながっている。
セットプレーにおいて、脅威となるシューターの選手がいることの重要性、そして、緊迫した試合の時こそセットプレーからゴールを奪うことがいかに大切かということを示した名古屋の先制点だった。
第3戦におけるこの1点の意味は大きかった。
リーグでどのチームよりも試合運びがうまい名古屋が、当然のようにゲームをコントロールしていった。
得点を挙げた時間帯も最高だった。第1ピリオド終盤であり、立川としては、なんとしても0-0でハーフタイムを迎えたいと思っていたはずだ。あと少しだったからこそ、精神的なダメージもあっただろう。
大事な時間帯や重要な局面を読む力、そこで最大級の集中力とパワーを発揮できることが名古屋の強さの理由の一つなのだ。
リーグ優勝に不可欠だった“ゴールの奪い方”
名古屋が奪った3得点の内訳は「セットプレー」「カウンター」「直接フリーキック」である。
近年のFリーグは、ディフェンスの強度が向上した。前からのプレッシング強度や、ゴール前の体を張った守備により、セットした状態、いわゆる定位置攻撃で相手を崩すことがこれまで以上に難しくなっているのだ。
だからこそ、得点の奪い方が重要になってくる。今シーズンの立川は「守備力」が最大のストロングポイントであり、実際、この試合で奪われた3点のいずれも、定位置攻撃で崩されたことによるものではなかった。
逆に言えば、名古屋が3点を奪えたのは、セットプレーとカウンターの精度が高かったからに他ならない。1点目は前述した通りであり、2点目は、第2ピリオドが10分を経過しようとしていた時に生まれたカウンターからの得点だった。
名古屋が自陣でボールを奪うと、ダルランが中央を持ち上がり、安藤と八木が両サイドを駆け上がる。ダルランから安藤にボールが渡ると、ワントラップでシュートを放つ。これをスライディングでブロックしようとした新井裕生に当たり、コースが変わってゴールへと吸い込まれた。
1点目も2点目も、結果的にデュフェンスに当たってのゴールだったが、どちらも確実にシュートまで持っていたことにより生まれている。ここぞというカウンターの時にしっかりと人数をかけることと、シュートを打つ回数を増やすことで確実に得点を重ねていくという、王道の戦いぶりだ。
3点目は、ペナルティエリア付近で吉川智貴がファウルを受けて獲得したフリーキックのチャンスを、アンドレシートが得意の左足で直接決めてみせた。このゴールは、アンドレシートの個人の力で奪い切ったものだ。
セットプレーやカウンターといったチャンスを生かすことに加え、ゴールを奪うための重要な要素は”個の力”である。この点において、現在のFリーグで名古屋に追随できるチームはなく、個で打開できる選手、ゴールを奪えるタレントは、疑いようのない彼らのストロングポイントなのだ。
プレーオフ決勝の3試合で挙げた13点のうち、得点者の人数は8人だ。誰かに依存するのではなく、どこからでも得点を奪える。すなわち、相手チームからすると守備の際にマトを絞りづらくなり、どこかで必ずズレを生んでしまうのだ。
シュートパターン、得点パターン、そしてフィニッシャー。これこそが、リーグ優勝に不可欠な要素かもしれない。
名古屋一強時代に終わりは来るのか?
今シーズンの優勝により、名古屋はリーグ6連覇と通算15回目の優勝を果たした。2016-2017シーズンに唯一、シュライカー大阪が優勝した以外は、全てのシーズンで名古屋がFリーグの頂点に君臨してきたのだ。
この現状に対しては、賛否両論あるだろう。
一つ言えることは、日本のフットサル界をけん引し、レベルを引き上げてきたのは、紛れもなく名古屋であるという事実だ。
毎年のようにワールドクラスの選手を獲得し、常にレベルの高いフットサルを披露することで、日本の”フットサル水準”を引き上げてきた。Fリーグに所属する名古屋以外の全チームが「打倒・名古屋」を掲げて切磋琢磨することで、日本フットサルはレベルアップしてきたのだ。
名古屋一強の現状に、ネガティブな意見があることも確かだが、それ以上に、名古屋が果たしてきた日本フットサルへの貢献を忘れてはいけない。
ここから、日本フットサルは次のフェーズに進む必要がある。つまり、完全プロチームを増やす、ということだ。
今シーズンのプレーオフ決勝は、一発勝負ではなく最大5試合を行い、3戦先勝制にしたことで、名古屋の強さ、引いては環境面の差が明確に現れたとも言える。プロとして生活し、フットサルに専念できている名古屋に対して、3勝するのは並大抵のことではない。
環境面で追随できない限りは、“1回か2回は勝てるけど”という現状からは抜け出せない。逆に言えば、名古屋と競える環境面をそろえるチームが出てくることで、日本のフットサルはもう一段、レベルアップできるだろう。
その意味では、悲願のF1昇格を果たしたしながわシティへの期待が高まる。全選手がクラブとプロ契約を結び、能力の高い外国籍選手が所属していることからも、昇格初年度からいきなり名古屋の対抗馬となる可能性を秘めている。
実際、2021年には、しながわシティの前身であるトルエーラ柏は、全日本フットサル選手権で名古屋を破ってトーナメントを勝ち進み、優勝を遂げた。その時点ですでに、実力的にはF1でも上位争いができるチームだと言われていたのだ。
今シーズンはプレーオフがあることで、シーズン終盤まで出場権をめぐる上位争いが熾烈を極め、最後まで見どころにあふれていた。来シーズンはしながわシティが加わり、F1に新しい風が吹くなかでどんな戦いが待っているのだろうか。今から楽しみである。
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