更新日時:2022.05.02
「お祭り男」「鉄人」そして「選手兼GM」。水上玄太の新しい挑戦に心躍る|しょうこの心情系人物コラム
PHOTO BY高橋学
3月11日、エスポラーダ北海道が水上玄太のゼネラルマネージャー(GM)就任を発表した。昨シーズン、Fリーグ最速で400試合出場を達成した水上は、その後もピッチに立ち続け、411試合に出場。これはもちろんリーグ最多であり、通算360得点もリーグ3位という、言わずと知れた「鉄人」だ。そんな彼が、選手とGMを兼任するという。
個人的には、選手と選手以外の立場を兼任することに反対のスタンスだ。GM、監督、コーチ、選手、フロントスタッフ、それぞれに役割があり、一つの役割に力を注げることが好ましいと考えている。それでも私は、この発表を聞いて期待する気持ちが大きかった。
そう思うのはきっと、これまでに触れてきた水上の人間性や、私の家族も含めた北海道との関わりがあるからだろう。
鉄人でありお祭り男であり“助かる”男
水上は開幕戦の得点率が高く、2007年のFリーグ開幕当時に所属していたステラミーゴいわて花巻では、チームの初ゴールを記録し、2008シーズンも開幕ゴールを挙げ、北海道に移籍した初年度には開幕2得点。翌年にはブザービーターで名古屋オーシャンズとの開幕戦を引き分けに持ち込むなど、15シーズン中10シーズンで開幕戦でのゴールを決めている。そんなわけで彼は、「鉄人」だけでなく「お祭り男」と称されることもある。
おそらく、水上に対する私の最初の印象も「お祭り男」だったと思うが、初対面がいつだったか覚えていないほど当たり前に、なにかしらのコメントを求めるときには水上がチームの顔として現れて、自然と話をするようになった。いつも快く答えてくれ、しっかりとしたコメントをもらえるので、クラブスタッフとしても“すごく助かる選手”なのだと思う。
特にここ数年はキャプテンを務めていたので、会見で話を聞くことも多かった。監督や選手はいろいろで、勝っても負けてもあまりテンションや言葉数が変わらないタイプもいれば、敗戦後は「見てのとおり完敗です」「相手が素晴らしかった」「力が及ばなかった、それだけです」と極端に言葉少なになるタイプもいる。後者も人間らしくて好きだし、それでもきちんと真意を掘り下げることができるかどうかが取材者としての力量だと思うので、そのピリピリ感すら刺激になる。でも、前者タイプの水上にかなり助けられているのも事実。たとえ大敗した試合でも、連敗の状況でも、ていねいに答えを返してくれるからだ。
実は「答えづらい」と困っていなかっただろうか?
以前、昨シーズンまで北海道のGMを務めていた小野寺隆彦さんと話した際に、冗談交じりに監督時代の気持ちを教えてくれたことがある。
「北海道のメディアは地元のチームを応援する、盛り上げるという意味合いをメインに取材をしてくれます。でも、関東の記者さんは戦術について細かく質問してくるから、どんなことを聞かれるかと怖かったんですよ(笑)」
それを聞いて私もだいぶ“答えづらい質問”をしてしまったかもしれないと心配になった。なぜなら私は、金井一哉監督がFリーグ選抜の監督を務めていたシーズンに、「初めての監督、初めての会見で緊張する」と話す監督に対し、「これから毎試合、総括の後に必ず質問をする」と宣言してこれを続けてきたからだ。
私にとっても試合を細かく見る目を養うトレーニングになるので、北海道の会見では特に、今でもいろいろなことを聞く。だからこそ心配になったのだけれど、実は水上も「答えづらい質問をしてくるなあ」と思っていたりして。
昨年9月には、水上が「Fリーグ通算400試合出場達成をみんなにお祝いしてほしい」というクラウドファンディングに挑戦していた。チームや選手のクラファンは気づいたときには支援をすることもあるけれど、リターンをいただくことを申し訳なく思ってしまうのでなかなか手が出せずにいる。でも、水上の偉業は「ぜひお祝いしたい!」と思い、ワールドカップ取材先のリトアニア滞在中にすぐにカードを切った。そして、リターンを辞退すると伝えるのを忘れた。しばらくしてリターンのメッセージ動画が届き、時間を割かせてしまって申し訳ないと思いながらファイルを開いた。
冒頭で「エスポラーダ北海道の17番、キャプテンの水上玄太です」ときちんと名乗っていて、メッセージの定型文だとは思いながらも「知ってる、知ってる」と笑ってしまった。やっぱり律儀だなあ。取材で話すことはあっても、こうやって改めてメッセージをいただくとなんだか気恥ずかしい。ニヤニヤしながら動画を見た。
いつまでも「水上頼り」ではいられない
私の夫は北海道の道都大学出身で、鈴木裕太郎の先輩に当たる。水上も夫のことを大学在籍当時から知ってくれていたそうで、メッセージのなかで「裕太郎の先輩で道都大のビッグネームが、まさかしょうこさんの旦那さんだったとは」と、触れてくれていた。それを聞いた夫も「ビッグネームだって」とニヤニヤしていた。
W杯中断明けの試合会見後にも、金井監督と3人でその話をした。金井監督は夫の桐光学園時代の先輩でもあって、そう思うと北海道とは縁が深い。タイミングが合わずお蔵入りしてしまったけど、数年前に「戦績が振るわなくても、代表選手を輩出していなくても、ホームゲームの観客数のアベレージが高いのはなぜか?」をフロントスタッフに取材したことがある。道民の人間性や絆の強さがあることは分かるのだけど、それだけではないなにかがあるはずだ、と思って。そこには足で稼ぐ営業や、観客の属性を分析してまだ足を運んでいない層にアプローチをする戦略があった。小野寺前GMを中心に積み上げてきた信頼は、しっかり地域に根づいているのだと思う。
水上は、GM就任時のリリースで「今後は『育成』にもさらに力を入れていきたいと考えている」「トップチームだけでなく、下部組織からも日本を代表するようなスーパースターを育て、エスポラーダ北海道のフットサルを楽しんでもらえるような強いチーム作りを目指す」と中長期的な目標に触れていた。たとえば昨シーズンのチーム全体の得点は41得点。チームのトップスコアラーである水上のゴールは10得点なので、ベテランのキャプテンが1人で4分の1のゴールをマークしている計算になる。でも、今後はGMとの兼任で水上の負担が増えるだろうし、いくら鉄人とはいえ、いつ負傷に見舞われるかは誰にも分からない。いつまでも「水上頼り」ではいられないだろう。
これからの水上には、苦しいときにプレーでチームを助けるだけでなく、彼のようにチームを背負って戦える選手を育てていく役割を期待したい。開幕から16シーズン目を迎える選手は少なくなってきた。そのなかで、まだ記録を伸ばせる可能性が十分にあり、リーグ最多出場を誇る水上だからこそ語ることができる言葉や、示せる道筋がきっとあるはずだ。
北海道から水上の育てた「スーパースター」が生まれたら、そのときはたくさん話を聞かせてもらおう。それまでに私も、もっと取材のスキルを磨かなくては。
選手兼GM・水上玄太の新しい挑戦。また、フットサル界に楽しみが増えた。
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